生まれながらにして凶運の持ち主の俺はファンタジー異世界への転生ボーナスがガチャだった時の絶望感を忘れない。
500円返せや
「……最悪だ」
スーパーへと向かう道を地面を見ながら進む大学生が居た。
なぜ、地面を見ているのだろうか。
それは、そいつが家を出るときにはお気に入りの靴の靴ひもが切れたし、ようやく紐を取り換えてアパートを出た…と思ったら次の瞬間には犬の糞を踏んでいた。そして同時に鳥の糞も落ちてきたのだ。
洗うのにかなり時間がかかったし、そのせいで出発が20分も遅れてしまったうえ、特売品も買うことができなかった。
だが、これくらいではそいつは落ち込まないはずなのだ。
なぜならそいつは…不幸に慣れていたから。
友人たちと遊んでいれば自分だけ怖いおじさんがいる家の窓ガラスを割ってしまったり、学校のものが無くなれば真っ先に自分が疑われたり…他にも、悪いことをしているはずがないのにもかかわらず疑われたりしてきたのだ。
そう…およそ『幸運』と呼ばれるものから見放された生活をそいつは送っていたのだ。
だが、慣れとは恐ろしいものだ。
どんなに不遇な環境でも、公園で寝泊まりすることがあっても…慣れてしまえば、どこにいても生きていることに変わりはないことにそいつは気付いてしまった。
そんな不幸に慣れたそいつが、珍しく落ち込み。地面を見ながら歩いている。
何があったかというと…
「はぁ…白井め…借りた金を返さずに行方不明だと…?ふざけんじゃねぇ…」
そう。
そいつの友人の一人…というか、唯一の友人である白井源示郎という古風な名の男が、つい先日雲隠れしたのだ。
そいつが貸した500円を返さぬままに。
「…くっそ…原因も分からんし…探しようがないな…連絡ももちろんつかないし…」
そいつはブツブツと独り言をつぶやき、友人の身を案じて…というより、明日生きるための金の工面などの考え事をしていたせいで気付かなかった。
――ツルッ
地面に落ちていたバナナに。
「うぉわっ!?」
――ガツン!!
盛大な音を立てて頭を打ったそいつは気絶し…
――ブォン!
――グチャ!!
運悪く通りがかりのトラックに突っ込まれ、ひき肉にされて死んでしまった。
―――――――
俺の意識が覚醒する。
道端を歩いていて、何かのせいで滑って転んだ俺はきっと気絶か何かしてしまったのだろう。
後頭部が痛みを訴えてきている。
「いつつ…」
さすりながら起き、周りの状況を確認する。
きっと病院か、通りがかりの人の家に拉致されたか、最悪まだ道路の上か…などなど考えていた俺は周りを見てぎょっとした。
「どこだ…?ここ…?白いな…」
周りに広がっていたのは、まさに白。
一色しかない空間に俺は言いようのない不安を覚える。
夢かとも思ったが、後頭部の痛みが現実だとこれでもないくらいに主張しているのだ。
「やば…ついに俺、拉致監禁されたパターンか?できれば美人に監禁されたいっていう要望があるんだけどなぁ…どうせ俺のことだから、キモイおっさんにでも拉致されたんだろうな。」
こんなふざけたことを抜かしていないと頭がどうにかしてしまいそうだ。
周りは真っ白。入口もない。天井どころかふすま一つない。
「なんだ?来客かい…?」
「誰だっ!?」
唐突に声が聞こえてきた…と思って振り向いてみるとそこには…。
「お前…!白井じゃないか!?」
そう。行方不明になっていた白井がそこに居た。
白井はこちらを向いて驚きに目を見開く。
「お前……なんでここに居るんだ?ここは俺専用…最高神専用のプライベートエリアだぞ?」
「は?訳わからんこと言ってないで…貸した500円返せ」
「いやいや、訳分かんないのはお前だよ…。」
「いいから早く500円返せよ。それとどこ行ってたんだよ今まで?」
「え?どこって…異世界で嫁作って神様ぶっ殺して最高神になってたんだけど…」
「は?」
こいつは流石にやり過ぎだろうと思った。
俺を騙すにしてももう少しましな嘘があるだろうに。
良いから早く500円返してほしかった。
「ちょっとまて、今【コール】が入った」
「…あ?携帯なんて鳴ってねぇだろ………え?」
愕然とした。
白井がおもむろに右手を胸の前にかざすと四角い枠のようなものが出現したからだ。
「どどど、どういう仕掛けなんだ!?それ!?」
「うるさい…。ちょっと黙れ」
瞬間、俺の体が硬直した。
たった一睨みされただけで…だ。
あまりの恐怖に情けない声を上げてしまう。
「ひぃっ!!」
「あ。すまんすまん…常人じゃ俺の威圧には耐えられないよな…」
腰が抜けて座り込んでしまった俺を、白井は助け起こしてくれた。
「…話が進んでないぞ。白井。それはなんだ。そしてここはなんなんだよ?」
「あ…そういうことか…なるほど、なるほど…」
「お前は昔っからそうだよな…人の話は聞かないし、エロいし、変態だし…神様とか妄言言ってないでさっさと500円返せよ」
「おい…いろいろと好き勝手言ってくれてるところ申し訳ないが…お前、死んだんだぞ?」
「あ?」
「あ?…じゃねぇだろ…いいか?死因はこうだ。道端のバナナの皮に引っ掛かって転んだ挙句、通りがかりのトラックに体をミンチにされた…って書いてあるぞ?」
「おい、何を意味不明なことを言ってんだよ白井……って…え?」
死んだ?俺が?
「そう。お前は死んだんだよ…しっかし間抜けだなぁ…ぷくくっ…バナナの皮って…コントかよっ…」
「いいから700円返せ」
「さっきより高くなってんじゃねぇかっ!というかいい加減にしろよお前!?死んだんだって言ってんだろうが!もっと驚くなりなんなりしろやっ!」
「うるせぇ!利子がついたんだよっ!利子が!!500円返さないくせにしまいには俺が死んだ…だと?あまつさえバナナの皮に滑って……」
ヒートアップして白井に怒鳴っているところで俺は気付いた。
「うぉおおおおおおおわあああああ!?なんで俺の体半透明なの!?ゴーストなの!?死ぬのはいやだあああああああああああああああああ!」
そう、体が全体的に半透明なのだ。
これにはさすがの俺も黙っちゃいられない。
端的に言うと…なんじゃこりゃあ!?って感じである。
俺があたふたしていると白井がずいと俺に近づいて、両肩をつかんだ。
「どんまい☆」
「…どんまいじゃねぇええええええええええええええ!!」
俺の叫びがむなしく白い空間に響き渡った。
スーパーへと向かう道を地面を見ながら進む大学生が居た。
なぜ、地面を見ているのだろうか。
それは、そいつが家を出るときにはお気に入りの靴の靴ひもが切れたし、ようやく紐を取り換えてアパートを出た…と思ったら次の瞬間には犬の糞を踏んでいた。そして同時に鳥の糞も落ちてきたのだ。
洗うのにかなり時間がかかったし、そのせいで出発が20分も遅れてしまったうえ、特売品も買うことができなかった。
だが、これくらいではそいつは落ち込まないはずなのだ。
なぜならそいつは…不幸に慣れていたから。
友人たちと遊んでいれば自分だけ怖いおじさんがいる家の窓ガラスを割ってしまったり、学校のものが無くなれば真っ先に自分が疑われたり…他にも、悪いことをしているはずがないのにもかかわらず疑われたりしてきたのだ。
そう…およそ『幸運』と呼ばれるものから見放された生活をそいつは送っていたのだ。
だが、慣れとは恐ろしいものだ。
どんなに不遇な環境でも、公園で寝泊まりすることがあっても…慣れてしまえば、どこにいても生きていることに変わりはないことにそいつは気付いてしまった。
そんな不幸に慣れたそいつが、珍しく落ち込み。地面を見ながら歩いている。
何があったかというと…
「はぁ…白井め…借りた金を返さずに行方不明だと…?ふざけんじゃねぇ…」
そう。
そいつの友人の一人…というか、唯一の友人である白井源示郎という古風な名の男が、つい先日雲隠れしたのだ。
そいつが貸した500円を返さぬままに。
「…くっそ…原因も分からんし…探しようがないな…連絡ももちろんつかないし…」
そいつはブツブツと独り言をつぶやき、友人の身を案じて…というより、明日生きるための金の工面などの考え事をしていたせいで気付かなかった。
――ツルッ
地面に落ちていたバナナに。
「うぉわっ!?」
――ガツン!!
盛大な音を立てて頭を打ったそいつは気絶し…
――ブォン!
――グチャ!!
運悪く通りがかりのトラックに突っ込まれ、ひき肉にされて死んでしまった。
―――――――
俺の意識が覚醒する。
道端を歩いていて、何かのせいで滑って転んだ俺はきっと気絶か何かしてしまったのだろう。
後頭部が痛みを訴えてきている。
「いつつ…」
さすりながら起き、周りの状況を確認する。
きっと病院か、通りがかりの人の家に拉致されたか、最悪まだ道路の上か…などなど考えていた俺は周りを見てぎょっとした。
「どこだ…?ここ…?白いな…」
周りに広がっていたのは、まさに白。
一色しかない空間に俺は言いようのない不安を覚える。
夢かとも思ったが、後頭部の痛みが現実だとこれでもないくらいに主張しているのだ。
「やば…ついに俺、拉致監禁されたパターンか?できれば美人に監禁されたいっていう要望があるんだけどなぁ…どうせ俺のことだから、キモイおっさんにでも拉致されたんだろうな。」
こんなふざけたことを抜かしていないと頭がどうにかしてしまいそうだ。
周りは真っ白。入口もない。天井どころかふすま一つない。
「なんだ?来客かい…?」
「誰だっ!?」
唐突に声が聞こえてきた…と思って振り向いてみるとそこには…。
「お前…!白井じゃないか!?」
そう。行方不明になっていた白井がそこに居た。
白井はこちらを向いて驚きに目を見開く。
「お前……なんでここに居るんだ?ここは俺専用…最高神専用のプライベートエリアだぞ?」
「は?訳わからんこと言ってないで…貸した500円返せ」
「いやいや、訳分かんないのはお前だよ…。」
「いいから早く500円返せよ。それとどこ行ってたんだよ今まで?」
「え?どこって…異世界で嫁作って神様ぶっ殺して最高神になってたんだけど…」
「は?」
こいつは流石にやり過ぎだろうと思った。
俺を騙すにしてももう少しましな嘘があるだろうに。
良いから早く500円返してほしかった。
「ちょっとまて、今【コール】が入った」
「…あ?携帯なんて鳴ってねぇだろ………え?」
愕然とした。
白井がおもむろに右手を胸の前にかざすと四角い枠のようなものが出現したからだ。
「どどど、どういう仕掛けなんだ!?それ!?」
「うるさい…。ちょっと黙れ」
瞬間、俺の体が硬直した。
たった一睨みされただけで…だ。
あまりの恐怖に情けない声を上げてしまう。
「ひぃっ!!」
「あ。すまんすまん…常人じゃ俺の威圧には耐えられないよな…」
腰が抜けて座り込んでしまった俺を、白井は助け起こしてくれた。
「…話が進んでないぞ。白井。それはなんだ。そしてここはなんなんだよ?」
「あ…そういうことか…なるほど、なるほど…」
「お前は昔っからそうだよな…人の話は聞かないし、エロいし、変態だし…神様とか妄言言ってないでさっさと500円返せよ」
「おい…いろいろと好き勝手言ってくれてるところ申し訳ないが…お前、死んだんだぞ?」
「あ?」
「あ?…じゃねぇだろ…いいか?死因はこうだ。道端のバナナの皮に引っ掛かって転んだ挙句、通りがかりのトラックに体をミンチにされた…って書いてあるぞ?」
「おい、何を意味不明なことを言ってんだよ白井……って…え?」
死んだ?俺が?
「そう。お前は死んだんだよ…しっかし間抜けだなぁ…ぷくくっ…バナナの皮って…コントかよっ…」
「いいから700円返せ」
「さっきより高くなってんじゃねぇかっ!というかいい加減にしろよお前!?死んだんだって言ってんだろうが!もっと驚くなりなんなりしろやっ!」
「うるせぇ!利子がついたんだよっ!利子が!!500円返さないくせにしまいには俺が死んだ…だと?あまつさえバナナの皮に滑って……」
ヒートアップして白井に怒鳴っているところで俺は気付いた。
「うぉおおおおおおおわあああああ!?なんで俺の体半透明なの!?ゴーストなの!?死ぬのはいやだあああああああああああああああああ!」
そう、体が全体的に半透明なのだ。
これにはさすがの俺も黙っちゃいられない。
端的に言うと…なんじゃこりゃあ!?って感じである。
俺があたふたしていると白井がずいと俺に近づいて、両肩をつかんだ。
「どんまい☆」
「…どんまいじゃねぇええええええええええええええ!!」
俺の叫びがむなしく白い空間に響き渡った。
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