才能ゼロのサキュバスは世界最強の弟子となりやがて魔王となる

蒼凍 柊一

第三話 思い返してみる

 私、シオン・グレイスは出来損ないだ。
 そう周囲から言われ今まで生きてきた。


 私の魔力は魔族だというのにまったく反応が無く、両親は私の事を出来損ないと呼び、王都に捨てたのだ。
 運良く教会の神父様が私を拾ってくれて育ててくれたが、通った小学院でも魔力がない魔族は私以外におらず、同級生はみんなこぞって私の事を馬鹿にした。


 それでも神父様は私を見捨てはしなかったので、心配させまいと学院に通い続けた。
 そんな六歳のころ、学院で私は初めて『彼』の事を知った。


 グレン・ラヴォスチナ。


 人間と魔族が敵対し争っていたころ、彼は二人の魔族の仲間とともに魔族と人間が共存できる理想を目指し、戦ったという。
 当然人間も魔族もそれに反発する者たちがいた。戦争にもなった。
 それでも彼は諦めずに人間・魔族の両方と戦った。ある時は話し合い、またある時は知恵と力を使って彼らを説得・排除していった。


 伝記ではこうある。


 『彼は不屈の精神と神の如き魔導で敵を葬り、今の魔族と人間が共存できる世の中を作った』と。


 彼の物語に一瞬で私は惹かれた。


 どんな窮地でも決してあきらめることもなく理想を追求し、確固たる信念をもってそれを成し遂げる強さを私も欲しいと思った。
 そして同時に、彼のような魔導戦士になりたいと強く願った。
 だけど、魔力がなく才能もない私はただの魔導師にすらなれない。


 すぐに私の夢は頓挫し、諦めた。
 いや――到底諦めきれる夢ではなかったが、周囲のいじめが私の心を蝕んでいった。
 サキュバスという種族の特性上、子供には効果は薄い。男の子はともかく女の子からの風当たりが特にひどかった。
 汚らわしい、とまで言われた。


 私は種族による差別までをも受けていたらしい。
 男を堕落させ、力を得なければ生きていけないサキュバスなのだが、魔力が他の魔族よりも高いおかげで差別の対象とはならなかったものの、私の場合は魔力も、才能も皆無だった。


 当然、人間や他の魔族は言葉通り、『出来損ない』の私をいじめた。


 やがて高齢だった神父様が他界。家と少額の財産だけが残ったが、驚いたことに受取人は私だった。
 一人で暮らすのは不安も大きく、なにより悲しかったがなんとか生きてきた。夢の事を考える暇もなく。


 そうして時が流れ――現在十三歳。王都であれば魔導学院か騎士学校を選択する分かれ道。
 小学院の卒業式が終わり、どちらの道に進むかは自分で決めて、自分で魔導学院か騎士学院への受験を決めなければいけなかった。


 悩みに悩んだ挙句決めきれずに、私は気分転換に街を歩いた。
 そこで……道を歩く魔導戦士のマント付きの鎧を着たかっこいいお姉さんを見た。
 その姿は凛々しく、何より誇り高いように見える。


 改めて私は自分の夢を再認識した。
 同時に涙があふれてきた。


 なぜ、私には魔力がないのだろう。
 どんなに頑張っても魔導が使えないのなら、私は何のために生まれてきたのだろう。


 そう思い、絶望したその時だった。


 道端に『彼』が倒れているのを見かけたのは。


 最初は目を疑った。
 なぜ道行く人はあの人を知らないふりしているのか良く分からなかった。
 あんなに澄んでいて莫大な魔力を持っているように見えるのに、助けないのか。


 間違いなくこの国で二人といない魔導戦士のはずだ。


 そんな身分の人を助けない理由がない。
 頭に疑問符を浮かべながらも、私はその人に近づいた。


 どうやらその人は寝ていたようで、うわ言で「腹減った……」と苦しそうにしていた。


 大急ぎでパンと牛乳を買ってきて彼に差し出すとせき込みながらも完食し、満足そうな笑みを浮かべた。
 そして驚きの言葉と魔導を私は目にした。




「ありがとう麗しき人。お礼にあなたの望みをなんでも叶えて差し上げよう」




 誓約の魔導が発動した事がはっきりと分かった。
 『誓約の魔導』とはその名の通り、誓いを交わす魔導だ。極めて重大な事項にしか使われず、王宮に仕えている大魔導士クラスでしかこの魔導は扱えない。


 王と王の誓いや、騎士の中世の証として使われる魔導だからだ。


 その魔導を彼は使った。
 驚くべきことだった。


 ――そんな人だったら、私を魔導戦士にしてくれるのかもしれない。


 淡い期待を胸に、私は言ってしまう。
 私の願いが叶わなかったら彼が死んでしまうことも知っていたのに。


「私、シオン・グレイスは魔導戦士になることを望みます」


 震える声で言うと、確かに魔導が発現し彼の魂にその誓いを刻み込んだ。


 やってしまった。と後悔した。
 魔力がない私がどう頑張っても魔導戦士になんてなることができないのに。


 一時の感情に流されて彼を殺してしまった。


 そう、考えていた。


 今日までは。






――――――――――








「浮かない顔をしてるな? どうしたんだ」


 魔導に必要な準備を街はずれの広場でしている最中、シオンちゃんの元気がないことに気づいた。


「……貴方はなんで、私を怒らないの?」


 怒らない? 不思議なことを聞く娘だな。


「何故そう思うんだ?」


「だって――魔力がないことを黙っていて、魔導戦士になりたいと誓約を交わした。できなかったら……貴方が死んでしまうのに」


 ああなんだそんなことで思い悩んでいたのか。
 かわいいな。


「それに関しちゃ全く心配はいらないぞ? あそこでパンをもらってなかったら俺は死んでたわけだし、それに比べりゃ君を魔導戦士にすることなんて楽だしな。あとその貴方っていうの止めてくれ。なんかこう……むずむずする」


 俺の言葉を聞いてシオンちゃんは驚いた様子だ。
 まぁ楽といっても俺が楽なだけで、シオンちゃんは少しばかり苦労するはずだ。
 それは言わない方がいいだろう。


「……貴方がそういうのなら、分かった。グレン、さん」


「お、久しぶりに自分の名前を聞いたぞ。だが呼び名は正しく行こうぜ? グレン師匠と呼ぶのだっ」


 少しいい気になってしまったのでそう言い放つと、シオンちゃんは改まって「ぐ、グレン師匠っ」と呼んでくれた。
 うん。かわいいなやっぱり。


「ふふふ……ならば準備はいいか?」


 俺は魔導の準備を終えたのでシオンちゃんの左手を取る。


「……何かするの?」


「ああ。ここじゃない場所に転移するからな。いくぞー」


「えっ、えっ? 詠唱はいらないの?」


 困惑した様子のシオンちゃんだったが、俺は有無を言わさず魔導を展開した。
 かなり魔力を使う魔導だし、国境も難なく超えられる転移魔導なので普段はプライドが許さず使わないが、今だけは別だ。


 なにせ今の俺には目的がある。
 シオンちゃんを大魔導戦士にするという目的がな。



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