最弱魔術士が召喚した使い魔は最強の吸血鬼でした ~さて、世界を征服しに行こう~

蒼凍 柊一

第零話 地獄の只中で

「これが――最後だっ!!」


天上から降り注ぐ無数の隕石を超強化し、地獄全域に降り注がせる。
当然、奴も対抗してすべての隕石を粉微塵に吹き飛ばす。


だが、読み通り。
伊達に4999万回もアイツを殺していない。


質量だけでいうなれば天文学的な数値であろう、巨大なドラゴンに姿を変えていた奴は、豆粒みたいに見えるだろう俺を見据える。


『最後? ……クハッ、クハハハ』


笑い声だけで地獄が揺れ、地割れが起きる。
俺も形態変化し、剣を持った巨人へと変貌を遂げた。


――そこからは、まさしく神の戦いであっただろう。


奴が爪で剣を受け止め、俺の肌を切り裂く。
しかしそれと同時に、俺の業火の魔術が奴の体を包み込む。


一秒の間に数万の剣戟を交わし、からめ手はすべて防がれていく。
奴も本気だ。自然と笑いがあふれてくる。


だが、すべては俺の読み通り――大魔術を使ったことで生まれる、コンマ0.000000001ミリ秒の隙を俺は見逃さなかった。


魔力消費の大きい時間停止魔術を行使し、『彼』という概念ごと消し去るため、最後の攻撃の行使に移る。






そして、総てを置き去りにした渾身の一撃が、ついにドラゴンの心臓を貫いた。






何かが砕ける音と共に、俺と奴は人の姿へと戻る。
倒れこむ男を支えてやると、笑みを絶やさず、奴は言う。


「クハハ……」


知らない間に、俺の頬を生ぬるいものが伝う。
それは、意味のない血の涙。


「名前、教えてくれ」


だが、それには万感の思いが込められている。


「オレの名は……『ヴラド』。貴様にこの名を、与える。呪いと共に」


「……ああ」


「真の化け物は人間に殺された時のみ、浄化される……。お前もまた、その摂理を受け入れなければならぬ。せいぜい、足掻くがいい――」






男の体が灰になり、跡形もなく消え去った。






ヴラド。


その名には聞き覚えがある。
遠い昔の――日本の記憶。
いまでもハッキリと、鮮明に思い出せる。


その時に聞いた名前だ。


「お前か。伯爵……」




――――――――――




「始まりの時は来たれり」


地獄の只中、一人で佇んでいたら後ろから声がした。
気配でわかる。


「神、か」


「そうじゃよ。いやぁ、立派になったのう」


言葉が紡がれている途中に三万は切りつけたが、そのどれもが手ごたえがなかった。


「おぬしに勝てるわけないからの。そこにあるのは映像だけじゃ」


「……神が負けを認めるのか」


「当たり前じゃろ。ワシ弱いもん」


どうやら俺は長生きしすぎて頭がイカれちまったらしい。
なんだよ。長いもんって。うざいわ。


「今更何の用だ」


「なんと、約束を忘れたのかの? お前ともあろう奴がモウロクしたもんじゃ。10万年強も生きればそうなるのかのぉ。まぁワシの足元にも及ばんがの」


「……もうそんなに経っていたのか」


びっくりだ。
なんと今の俺は10万歳を超えているらしい。
……いろいろと落ち着いているのは理解しているが、アイツとの戦いに夢中で時間の概念を忘れていた。


「さてさて、お待ちかねの異世界召喚タイムじゃ。『人間の暮らしと化け物の暮らしを両方楽しみたいZE☆』というおぬしの願いを叶えてやるぞい!! ぷりんぷりんの、ぱーぷりんっ!!」


「なんだその変な呪文は。そんな大昔の約束、すでに興味は失せている――」


俺は映像の神をにらみつける。
だが、すぐにそんな余裕はなくなった。


「なっ!?」


全身に拘束具がつけられ、棺桶のようなものが突如として現れて俺を閉じ込めたのだ。


『万全のおぬしの魔力では、召喚できる奴はおらんからの! 神規則を誤魔化す為の方策じゃ! 安心せい!』


「こんなところに閉じ込められて安心しろってのかよ……クソ、どうにでもなれ」


神の言葉に反抗する気力も湧かず、俺は体の力を抜いた。




すると、『渇き』を感じた。




そこでなるほど、と納得する。
化け物での大分類では、俺は吸血鬼に属している。


今までは膨大な魔力と異常なまでの体力で原動力を賄えていたが、この神お手製の拘束具には活動能力を抑える力があるようだ。


よって、今は外部魔力を操る力と筋力がヤバイ普通の人間――という扱いになっているのだろう。
その気になれば一瞬で外せるが、地獄にいたところで何一つやることがないので俺は身を任せることにした。



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