話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

髑髏の石版

奥上 紫蘇

十二章 ~恐怖~

私が老夫婦と暮らし始めて一日が経過した。

初日は、私が人見知りなこともあってあまり会話が弾まなかった。まあ、初日は簡単な自己紹介程度に留めるのが吉だろうか。

食事は三食しっかりと提供される。家の近くに畑があり、究極の地産地消ともいうべくほとんどの野菜などの食べ物はその畑から収穫されている。
風呂も三番風呂であることを条件とするのだが入ることができ、環境は悪くなかった。
八畳の畳の部屋も貸して下さり、その部屋には机や本棚があったため、暇な時はそこにある本を漁ったりした。(ただ、本は"将棋入門"だったりという私の興味からはそれているものであることは否めない。)
部屋にテレビなどはなかったが、逆に情報に振り回されないとプラスに考えることもできるだろう。いわば完全に隔離されたようなそんな気分に浸らしてくれる。

こうして一日目は矢のように過ぎていった。
寝床もあまり期待はしていなかったのだが、どうやら不眠に陥るといったことはなさそうで安心した。
少しだけストレスが軽減したようなそんな心持ちがした。

そして、二日目を迎えた訳だが、老夫婦の方から早朝声をかけられた。
「鎌田君、起きなさい。」
優しく声をかけたのは、おばあちゃんの方だった。
ふと腕時計を見ると、まだ朝六時前だった。こんなに早く起こされるのか...と思いつつも、おばあちゃんに従って起きることにした。
そして、庭に出て農業の手伝いをした。
私にとって全くの無縁であった農業という二文字だが、この第一次産業に携わるというのも悪くない経験だなと感じた。
農業の作業を三十分ほどおばあちゃんと共に行った後、家に戻り朝食の時間となった。

そんな生活が三日ほど続いた。特に何も事件は起こらない。
ただ、油断は禁物である。超能力者が血眼になって私を探しているに違いない。もし、見つけられたとしたら、ほぼ無防備な状態であるがゆえ致し方ないのが本音である。
そのため、見つからないように見つからないようにとただひたすら怯え、苦しむしかなかった。
これこそ、魔物に取り憑かれたようなものである。
見えない敵に相対することがどれほど恐ろしいものかというのを感じた。

ついに、ある異変が起きた。
気温が激しく冷え込み、北風が強く吹きつけている。
そのため、今日の夕食は鍋となった。
箸を鍋の中に入れたとき、何か硬いものにぶちあたった。
その瞬間、ふと不思議に思った。歯のない老夫婦たちにとって、こんな硬いものを料理の中に入れるのか。と。
その硬いものは四角い形をしていた。そして、厚みがあった。重みもあった。
箸を使ってそれを上げてみたところ、なんとそれが石版であることがわかった。
石版から垂れる鍋の汁。一瞬驚き、私はつい箸を滑らせてしまった。
石版は三十センチほどの高さから鍋の中へと落下し、汁が大きくはねた。
私は身震いした。もちろんのこと、老夫婦も開いた口が塞がらないような様子であった。
これまで多少の怯えはありつつも、なんとか平静を保っていた私であったが、この出来事は私の心を一気に突き落とした。
私の記憶している内では、恐らくこのまま暫く微動だにしなかったと思われる。まるで、あの石版のように固まってしまったのだ。
老夫婦が慌てふためく中、老夫婦から「大丈夫か?」と声を掛けられても、もう何もその時は聞こえていなかった。
僅か三メートルもない距離からの呼び掛けでさえ、別世界からの声、しかも悪魔の声に聞こえてしまう。
私はついに別世界へと行ってしまった。と同時に手先の力が抜けて、箸を地面に落とした。
しかし、取り憑かれてしまった私は落としてしまった箸に目もくれない。
その様子を心配したおじいちゃんが私のことを揺さぶった。
「大丈夫か?おめぇ。」
いつもニコニコしていたおじいちゃんが、このときは、慌てていたのもあるのだろうが、非常に顔が強ばっていた。
だが、その呼び掛けに対して、それだけの理由ではなく、私は下を俯いていた。
呼び掛けにも当然答えられなかった。
ようやく平常を取り戻すのに丸一日かかったかのように感じた。
実際には、あのときから十分ほどしかたっておらず、鍋はテーブルから姿を既に消していた。

あの石版に刻まれていた文字は「死」だった。
ただ、私が初見で石版を見た時は、その刻まれている「死」の文字の裏側だったため、改めてその「死」の文字か刻まれている石版を見た時にその不安と絶望は計り知れないものだった。

そのときに詳しく確認はしなかったのだが、(もはや確認する気にもならなかったのだが、)それは髑髏の石版であることに間違いはなかった。
超能力者はついにこの隠れ家を突き止めてしまった。
このとき、私に待ち受ける運命というのは容易に想像できた。
電話も繋がらない中、ただ一つの望みとして手紙を送るしか術がなかった。

「坂田探偵へ

    ついに超能力者がこの家を突き止めまし
    た。髑髏の石版がこの家に現れたのです
    もう不安を通り越している状態です。
    この手紙が坂田探偵のもとへ届く時には
    既に私の命は絶たれているかもしれません
    もし、私が運良く生き延びることが出来た
    としたら、坂田探偵に再び助言を受ける
    とを望みます。                                        」

こう手紙を書いた。だが、もう既に日が暮れていたのもあり、この手紙は翌日送ることにした。もはや、この手紙を送れるかさえ不明瞭ではあるのだが。
その手紙を自分の寝室にある長机の上に置いた。一応、切手を用意してもらい、翌朝その手紙を出してもらうように老夫婦に頼んだ。


その日の夜のことだった。
その日は障子つきのふすまをしっかりと閉めていたと記憶している。施錠されているわけではないため、気休め程度に過ぎないが、こうでもしないと気が気でない。
ふと、ふすまが開いた。優しくふすまが開いたため、老夫婦のどちらかが私のことを心配して確認してきてくれたのだろうと思ったが、違った。見えたのは、全く見た事のない女の人であった。
不敵な笑みを浮かべていた。その笑顔と格好に私は冷凍された。
「私が誰か分かるかしら?」
冷凍された私の体。だが、尻もちをつきながら、右腕だけ手が震えていた。
女にそう言われても、私は何も答えられなかった。あの時以上の恐怖が襲ってくる。
と、さらにもう一人の男がやってきた。あの男が超能力者に違いない。
「まあ、覚えていなくとも無理はない。」
女よりも10センチほど身長が高く、ハンサムな顔立ちをしている。体型は痩せ型。非常に格好良い顔とスタイルを兼ね備えていた。超能力者(男)はさらに言葉を続ける。
「なにしろ、君と彼女との接点は何一つないのだからね。」
私は視線が固まり、その男に当たってしまった。私がその男と目があった瞬間、まるで雷に当たったかのような衝動が頭の中を駆け巡った。

超能力者と私との接点。

それは、少年期から既に存在していた。

「髑髏の石版」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く