話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

髑髏の石版

奥上 紫蘇

第九章 ~別離~

誰かが踏み出さなければ始まらない。場の雰囲気や周りに合わせたがる日本人特有の性格ともいえよう。だが、今回の場合はただそのような特有の性格だけではない別の要因が入り混じっている。
静まり返る雰囲気の中、ついに坂田探偵が口を開いた。
「こうしてても仕方なくないですか。」
しかし、言葉は返ってこなかった。
「行きましょう。」
坂田探偵がそういうも、なかなか行動を起こしてくれない。仕方なく坂田探偵が一歩前に踏み出すと、まるで坂田探偵を盾にするかのごとく木崎助手、栗森警部、その部下と続々と続いていった。
非常に暗闇な空間であったため、栗森警部含めその部下たちは、携帯していた懐中電灯をつけた。
坂田探偵や木崎助手も懐中電灯を携帯していたのだが、電池の問題や既に明るい状態になっているというのもあり、特に明かりはつけなかった。
まず、家の中に入ると大きな玄関が見えた。しかし、その玄関には靴が一足もなかった。玄関から先にはフローリングの床が数十メートル、ただただ直線に続いていた。その廊下を挟むのはコンクリートの壁。壁が続いているだけであり、ドアなどはなかった。
その廊下の突き当たりにようやく木のドアが見えた。
坂田探偵らはおそるおそる進んでいったため、このドアに車でも二分ほどの時間を費やした。もしかしたら、罠が仕掛けられているかもしれないという危惧を抱えたままの行動であるがゆえだ。
ドアの前にたどり着くと、坂田探偵は躊躇いもなく木のドアを開けた。
なぜ、入口であれだけ躊躇っていたにもかかわらず、ここで躊躇いがないのだろうか。
木崎助手は不思議に思いつつも特に声には出さずに坂田探偵の後をついてきた。或いは、そんなことを考える余裕が彼になかったのかもしれない。
木のドアの先には、木の階段が真正面に見えた。ここから上に上がっていくのだろう。
不動産屋のチラシを見る限り、この物件にはそんな間取りであるはずがないのだが、恐らく超能力者が改造したのだろう。坂田探偵でさえ気づかないほど妙に納得してしまう部分があった。それほどまでに、超能力者の細工がうまいのを物語っている。
階段を登った先に見えたのは四つの扉だった。ちょうど階段を登った先が、とある八畳ほどの部屋のど真ん中であった。そして、東西南北にそれぞれ一つずつドアがある。
「いったいどれが正解なんだ?」
栗森警部は、その扉を東西南北の順でキョロキョロと見回した。だが、ノーヒントだ。
坂田探偵は警戒しながらも、それぞれの扉へと近づいていった。
だが暗号文らしきものは見当たらないし、どの扉も特に違いはないように見えた。これまでの超能力者の手口からしてなにか残していてもおかしくないのだが。
「どうしましょうかね。」
坂田探偵が一通り扉を調べ終わったあと、栗森警部の方を振り向きながら言った。
「どうするって言われてもな...何か見つかったかい?」
「いいえ。何も。」
二人とも特に何も見つけることが出来ずに、半分お手上げのような状態だった。
「全ての扉に一通り行ってみますか?」
坂田探偵がここで案を出した。
「一通り行くってどういうことだ?」
まだ栗森警部は坂田探偵の案を理解していなかった。
「手分けして四つの扉それぞれ行くということですよ。」
「なるほど。」
栗森警部はそう返事したが、軽く反論した。
「だが、その中のドアのどれかに罠が仕掛けられていたとしたら、どうかね?手分けするということは、それだけ誰かがそういうリスクを背負う可能性が高いということになるぞ?」
坂田探偵は栗森警部のその言葉を頷きながら聞いていた。
「まあ、栗森警部がそうおっしゃるのも分かりますよ。ですが、だからこそ手分けするのがいいと思いますよ。」
坂田探偵は微笑みながら栗森警部に返した。ある意味、この坂田探偵の発言は残酷なものであった。
「どういうことですか?」
木崎助手も坂田探偵の言ってることがあまり理解できていないため、木崎助手は坂田探偵に聞いた。
「つまり、端的に言うと手分けして探した方がメリットが多いと考えているわけだ。」
ただ簡単に坂田探偵が説明したところで手分けして探すことにあまりメリットを感じていない栗森警部にとっては少し彼の考えを理解し難いというのには変わりなかった。それを汲み取った坂田探偵がその端的な説明をさらに掘り下げた。
「まあ、仮に全員が同じ罠にハマったら超能力者の元へは絶対に辿り着けないというのが一点。そして、手分けして探すことにより、沢山の情報を得ることが出来る。手分けして情報共有ができればの話ですけどね。また、仮に罠にハマったときに複数人いると他人を助けようとする気持ちが働く。これが良い方向に向かうこともありますけど、逆効果になるときもありますね。自分が助かるか他人を助けるか。その葛藤が一瞬の判断を鈍らせます。」
それほどまでに坂田探偵は超能力者の罠を警戒していた。一瞬の判断の鈍りの懸念までして、この提案を出しているのだ。
実を言うと、この案は穴がある。というか簡単に矛盾点を指摘できるのであるが、木崎助手や栗森警部の今の精神状態を見るに、人の提案に対して冷静かつ的確に突っ込むのは難しいことであろう。その場の雰囲気的に、坂田探偵の案を呑まざるをえない。という、そういう雰囲気が漂っていた。
納得したような腑に落ちないようなそんな微妙な心理を見事に顔に表しているかのような分かりにくい表情を見せながら栗森警部は返事した。
「まあ、坂田探偵にも考えがあるのならそれに従うか。」
坂田探偵の意見に完全に納得したというよりかは、どちらかと言うと栗森警部の意見に計画性というものがないという点で、彼の意見と栗森警部の意見を比較した結果だろう。故にそれ以降栗森警部は喋ることはなく、坂田探偵主導で進んでいく。
「それじゃ、グループ分けしますね。Aグループは私。Bグループは木崎助手と警官二人。Cグループは栗森警部。Dグループは残りの警官。」
特に反論は出なかった。
「Aグループは、北の扉。Bグループは東の扉。Cグループは、西の扉。Dグループは南の扉。各グループにはそれぞれトランシーバーを持たせて万が一何かがあったら情報共有をする。これで大丈夫ですか?栗森警部。」
栗森警部はただ首を縦に振ったのみで特に言葉を発することはなかった。
栗森警部は気分の沈んでる時には発言量が減り、気分の良い時には発言量が増えるという比例関係が著しく顕著に現れる質であるがため、坂田探偵もそれを知り尽くしており、栗森警部の心情をあらかた察することは容易であった。
そんな栗森警部の心情を知り尽くしているからこそ、坂田探偵は不安になり再度栗森警部に対して確認を促した。
「大丈夫ですね?」
すると、栗森警部はさほど表情を変えずにただ「ああ。」と言っただけで、あまり乗り気では無いという様子をありありとみせた。しかし、坂田探偵はいちいちそんなことを気にしてもいられないので、特にそんな栗森警部の様子を気にも留めず、栗森警部からトランシーバーを受け取り、彼らはギクシャクした雰囲気の中で探索を手分けして行うこととなった。

東の扉。木崎助手と警官二人が入っていったところだ。
扉に入ると、まるで玄関から続いたあの廊下のような長い廊下が見えており、突き当たりが見えない。
恐る恐る木崎助手を先頭に、懐中電灯片手に歩いていると、しばらくして一人の怪しい人が目の前に立っているのが見えた。
木崎助手の懐中電灯がその怪しい人を捉えたその瞬間、怪しい人は途端に逃げ出した。木崎助手もまるで反射反応が起きたかの如く駆け出した。少し遅れて木崎助手に付き添っている刑事たちもまた走り出した。
「待て!」
木崎助手が叫びながら怪しい人を追いかける。背の高さは180cmくらいと木崎助手よりかは10cm弱も高身長。懐中電灯で当たった一瞬の光で捉えたのは怪しい人の服の色だけ。黒ずくめだったという事実のみだった。木崎助手が怪しい男を追いかけている中、木崎助手の後ろをついてきている一人の刑事がトランシーバーを用いて栗森警部に連絡した。栗森警部からは、「十分注意してくれ。」と言葉を発した後、まだ何かを話している最中であったが急に何か衝撃音がしたかと思うと、栗森警部のトランシーバーからは音が何も聞こえなくなった。
そのトランシーバーで連絡した刑事は栗森警部の安否について思案していており、気が気ではなかった。だが、たとえ栗森警部のことを気にかけたところで今の自分に出来ることは無い。そう自分の心に言い聞かせつつ、刑事は木崎助手の後を追って怪しい人を追跡した。
怪しい人の足はそこまで速くなく、時間が経つにつれて木崎助手との差は縮まっていくばかりであった。
しかし、ここで怪しい人は新たな手を打った。
怪しい人は何かを床に落として走り続けた。木崎助手はその何かに気を取られてしまった。その何かというのは空っぽの財布であった。その財布の黒皮には「超能力者」と刻まれている。木崎助手は超能力者に対してやられたという敗北感はそこまで感じなかった。ただ酷く後悔した。いや後悔というよりかは自分のした行動が許せないと言った方が正しいだろうか。木崎助手は空っぽの財布を見つめたまま自分の犯したミスについて振り返っていた。このままなら恐らくずっとここに佇んでいただろう。もし、付き添いの刑事が次のようなことを言ってくれなかったとしたら。
「木崎さん。急がないと撒かれちゃいますよ。」
幸いにも、付き添いの刑事がその言葉をかけてくれたおかけで、木崎助手はまた一歩踏み出すことが出来た。
ただ、木崎助手が再び歩み出した時、超能力者の姿はなかった。それはある意味において木崎助手の"終わり"というのを暗示していたと言われても否定はできないだろう。
ついに超能力者に出会うことなく突き当たりの扉へと到達した。扉はあの一階の突き当たりの扉と似ても似つかぬものであった。この突き当たり以外に入れるような部屋が存在しないため、間違いなく超能力者はこの扉の先を進んでいったのは確かだ。
木崎助手が扉を恐る恐る開けると、そこには一人の男性の姿が見えた。坂田探偵だ。
「ん?木崎君。無事だったか。」
その一人の男性の姿とは坂田探偵のことだ。
「坂田探偵。どうしてここに?」
坂田探偵は、木崎助手の不思議な質問に対しても特に表情を変えることなくごく自然な形で答えた。
「北の扉から入ったらここにたどり着いたんだ。ほら見てみろ。」
坂田探偵の指さす先は机の下。この部屋は、東西南北四つのドアと木の机が置いてあるだけで、他には窓さえもない随分と殺風景な部屋であった。
木崎助手は坂田探偵の指さす先を見ると、そこに見えたのは絵里の遺体であった。
「え、絵里さん!?」
坂田探偵は首を二、三回横に振った。つまり、これは絵里がもう生きてないということを表現しているのである。
どうやら見た限りだと、死因は窒息死。首に索条痕があることから恐らく絞殺されたものと思われる。死亡推定時刻はよく分からないものの、少なくとも死後三時間余りは経過していると思われるという結論を木崎助手は下した。更に川坂絵里の服のポケットの中には、あの例の四枚の石版が入っていた。それを見て、木崎助手はこの事件の犯人が超能力者であることを断定した。
そのとき、南のドアから栗森警部がこの部屋にやって来た。
栗森警部は息を切らしていて、頭に落ち葉がついていたりと何らかの大変な罠に巻き込まれたものとみる。
「栗森警部。机の下。」
坂田探偵はまるで感情を持たないロボットのような口調で坂田探偵は栗森警部に向けて言った。
栗森警部の視線の先に見えたのは川坂絵里の遺体。栗森警部は声こそあげなかったが、川坂絵里の遺体がここにあるということに驚きを持った。無論、超能力者からの道標でここにたどり着いたわけであるから、このような結果になる可能性は濃厚であると考えてはいた。
「死んでるようだな。」
栗森警部は、川坂絵里の遺体の手首に手を当てて脈を測った結果、絵里の死を悟った。
「やっぱり、これを見せつけるために超能力者は我々をここに招いたんだろうね。」
坂田探偵が栗森警部に言った。ある程度こうなることは分かっていつつも、実際にそうと分かったときの落胆ぶりがみえる。
「ええ。まあ、思いたくはなかったんですけどね。坂田探偵も同じでしょう?」
「まあ、超能力者の手紙に書いてあることは基本的には嘘つかないからね。」
と、ここで木崎助手が二人の会話を遮った。
「そ、それより、坂田探偵。」
木崎助手の声は酷く震えていた。
「どうしたんだ?」
「この部屋に他に誰か入ってきませんでしたか?」
「ん?特に誰も...」
「そ、そんな...」
木崎助手は呆気にとられていた。あの木崎助手が追跡した怪しい人は一体どこに行ったのだろうか。
唯一可能性があるとすれば、この部屋のもう一つのドアに行ったということであるが、その可能性は簡単に否定された。
そのもう一つのドアから、栗森警部の部下たちがやって来たのである。
その部下たちは息を切らしながらも栗森警部たちと合流出来たことに安心感でみたされていた。
「どうしたんだ?そんなに息を切らして。」
栗森警部が気になって彼らに尋ねると、警官らのうち警部補にあたる一人の刑事がこう言った。
「ベルトコンベアの罠が仕掛けられてて...ハアハア...走らないと奈落の底へ...」
その言葉を聞いて、栗森警部は大体状況を察した。
「まあ、とりあえず全員無事でよかった。だが、川坂絵里が遺体で発見されてしまったがな。」
栗森警部のその言葉を聞き、ベルトコンベアを逆走してきた刑事たちはやっとこの部屋で起きた状況を呑み込むことが出来た。

「さて、問題はどう脱出するかだが。」
栗森警部があまりここに長くとどまっているのは得策ではないと判断したのだろう。のちにやってくる警官に任せるのがいいと判断した。
「一応、私の通ったところは何にも罠がない一本道でしたけどね。栗森警部のところと、木崎助手のところはどうでしたか?」
坂田探偵が彼らに対して尋ねた。
「んと、僕のところも特に何も。ただ、怪しい男が立ってて追跡して、この部屋に入ったのは間違いないはずなんですけど。いないんですよね。その怪しい男が。」
木崎助手は、彼ら目線でしか分からない不思議な出来事を坂田探偵に言った。
「それは確かに謎だな。まさかその男って超能力者か?」
「ええ。途中で拾った財布なんですけど、超能力者と刻まれているので恐らくそうかと。」
「だとしたら、超能力者は超能力を使って消失したとでもいうのか?何か抜け道があるんじゃないか?」
「いや、特にそんなものは...」
「ふむ。ところで栗森警部、あなたの所はどうでしたか?」
「色々と大変だったよ。急にトランシーバーの電波が消えたと思ったら、落とし穴が仕掛けられていてね。」
「なるほど。」
坂田探偵が何か分かったかのような表情を浮かべながら、更に言葉を続けた。
「じゃあ、木崎君たちの通った場所から抜けようか。抜け道があるかの確認も踏まえてできるし。」
「ええ。」
栗森警部は、この案に対しては素直に賛成した。

道中、特に抜け道のようなものは発見することができず、ついに階段の前まで戻ってくることが出来た。
と、その時だった。
急に床が抜け、坂田探偵と木崎助手だけが落下したのである。
何の予告もされていない、ほんの一瞬の出来事であったため、付き添っていた栗森警部は彼らが落ちた瞬間、何も反応することが出来なかった。栗森警部がようやくこの事実に気づいたかと思うと、ただ「坂田探偵!」と抜けた床の下へと向かって叫んでいた。

十メートル以上はゆうに落ちただろうか。物理学に基づき、落ちていけば落ちていくほど落下速度は増していくため、坂田探偵や木崎助手は何も考えられなかっただろう。あるいは、恐怖しか感じなかったのだろう。いずれにしろ、この僅かな時間において彼らの悟るべきものは死であるということは間違いない。
だが、彼らは幸運にも助かった。何故なら、床下にふかふかのマットが敷き詰められていたからである。多少の衝撃は受けたものの、殆どの衝撃は吸収されたため、どうにか九死に一生を得た。いや、この場合、マットが敷き詰められていたのも超能力者の仕業であると考えるならば、それは作為的な幸せであると言っても差し支えないだろう。
ただ、彼らの精神状態からいってこれが仕組まれたものであるということ。即ち、ここまで超能力者が計算しきっていたということに気づけるかどうかといえばなかなか難しい。なくなっていたはずの命が助かったという事実だけに気を取られ、自分たちは幸運だったと思うのが普通だろう。
「びっくりしました...」
木崎助手が坂田探偵に向かって言った。
「無事でよかった。怪我はないか?」
「ええ。大丈夫です。」
落ちた場所は、ひんやりとしていた。恐らく地下室か何かの部屋だろうが、到底地下室とは思えないほどの広い部屋となっている。いや、部屋というよりかは仕切りがない空間と言った方が正しいだろうか。あくまでこの場所は地下道の真ん中であるという方がより正確だろう。
「とりあえず、ここから脱出する方法を考えないとな。」
坂田探偵は木崎助手が不安に呑み込まれる前に、自分たちのすべきことを提示した。
「はい。」
「ここから東に続く道と西に続く道があるが、手分けして探すか。」
「はい。」
木崎助手は、坂田探偵がこんなことが起きた後に平然となっている姿を見て不可思議に思った。だが、よく見てみると坂田探偵の足は震えているし、表情も強ばっている。坂田探偵は、木崎助手に対して弱音を見せたくないというのが本音なのだろう。それを木崎助手に感ずかれている時点で、あまり坂田探偵の精神状態が正常でないということが伺えるだろう。
木崎助手が持っていた懐中電灯は、床が抜けて落ちた時に思わず木崎助手が手を離してしまい、どこにあるかは分からない。途中、どこかで引っかかってしまったのだろうか。
坂田探偵はポケットから小さいながらもLEDライトを使用した明るい懐中電灯を取り出し、それを木崎助手に渡した。
「それじゃあ、何か脱出方法を見つけたら直ぐに呼んでくれ。」
「はい。」
坂田探偵は特に深く考えていなかった。とりあえず脱出すること。これを第1に考えており、二手に分かれることのリスクを全く顧みずに脱出経路の捜索を開始してしまった。

坂田探偵は百メートル程歩いた後、一旦立ち止って大きく深呼吸をした。坂田探偵も坂田探偵で精神を安定させるために必死なのである。すると、叫び声がこの地下空間の中に響き渡って聞こえてきた。
「木崎君か?」
坂田探偵は一心不乱に元来た道を引き返した。東へと進んでいき、マットがあったところもまるでそこに何もなかったかのごとく猛進した。

木崎助手は、懐中電灯であたりを見回しながら脱出経路がないかどうかを探っていた。
すると、目の前に現れたのはある一人の怪しい人。さっきのシチュエーションと同じである。
だがさっきと違うところは逃げないところである。それどころかその怪しい男はいきなり木崎助手に襲いかかってきた。
ほぼ無防備といってもいい状態の木崎助手は、あっという間に倒されてしまった。
だが、やっとの思いで、木崎助手はポケットに忍び込ませていたカッターナイフでその怪しい男の右手中指を切り裂いた。これにより怪しい男が少し怯んだ隙に逃げ出した。だが、すぐさま追いかけてくる怪しい男。その怪しい男が超能力者であることは木崎助手にとってはもう明らかであった。
追いかけてくる最中、木崎助手は思わず声をあげた。

そして、ついに木崎助手は超能力者に追いつかれてしまった。超能力者の手には出刃包丁。刺される前、一瞬の間。木崎助手はこの事件の真実を悟った。その驚きと殺されるという恐怖から声をあげることは全くもってできなかった。
出刃包丁で三度木崎助手の背中を刺した超能力者は出刃包丁を床に置き、更に「超能力者」と血文字を書き残して現場をあとにした。
木崎助手はまだ生きていたが、もうほぼ絶命状態に近かった。坂田探偵には到底届かなかったが、とある一人の若者の遺言とも言うべき最期の言葉がこれであった。
「...坂探偵...す、すみま...せん...」

坂田探偵が声を聞いて木崎助手のもとに駆け寄った時には既に死んでいた。これまで、川坂氏の事件で遺体を見てきた坂田探偵はどうにか平静を保っていたものの、この場合に関してはどうしてもそうはいかなかった。
坂田探偵は目に涙を浮かべながら、こう言った。
「すまない...私は何もしてやれなかった...」
そう言いながら坂田探偵は、うつ伏せになって死んでいる木崎助手の遺体の背中を何回もさすった。
坂田探偵の右手は赤く染まった。

「髑髏の石版」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く