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髑髏の石版

奥上 紫蘇

第八章 ~到達~

桜子の事件と絵里の事件はよく似ている。
どちらもそれぞれ連れ去った後、我々を彼女らのいる方へと誘導している。
今回の絵里の事件後、超能力者からの手紙に書かれていたように、警察及び坂田探偵らは高尾駅へと向かった。
日がだんだんと高く昇り暑くなりはじめた頃、坂田探偵らは高尾駅に到着した。とはいっても、高尾駅に来ただけでは何のヒントもない。
だが、高尾駅に到着してから1分くらい経ったあとに坂田探偵が駅のロータリーに止まっている一台の黒い車を指さしてこういった。
「あの車...もしかしたら関係あるかもですね。」
坂田探偵とその車の距離としては50メートルあるかないかくらいの距離だが、果たしてなぜその車を怪しいと坂田探偵は言ったのだろうか。
とりあえず、栗森警部は坂田探偵に言われるがままにその車へと近づいた。そして、栗森警部が声をあげた。
「こ、これは...」
栗森警部の後ろで坂田探偵が微笑む。
「分かりましたよね。」
栗森警部が気づいたのは黒い車のナンバーだった。
「さ  21-41」のナンバー。これは、桜子が誘拐されたときに、桜子を誘拐した車のナンバーと同じである。
あの桜子を誘拐した車と同じ車ではないが、ナンバーが同じというのは、一万通りもの中でナンバーが合致するという偶然はそうそうない。ゆえに、その車が超能力者事件に関係している可能性が高いと考えるのは極めて自然だろう。
栗森警部は、坂田探偵を見つめてこう言った。
「坂田探偵、車の中に誰かいると思うか?」
坂田探偵は少しの間沈黙のあと、こう答えた。
「あの桜子さんの事件と同じと考えるならば...」
一呼吸おいて、話を続けた。
「おそらく車の中には誰もいないでしょうね。ましてや超能力者がこんなところにいるなんて思いもよらないですから。」
栗森警部は低い声で唸った。その後、坂田探偵に向かってこう言った。
「なら、覗いてみるか?」
と言ったとき、坂田探偵のそばにいた木崎助手が反応した。
「じゃあ、私が行きます。」
木崎助手は、こういうところで超能力者事件に貢献したいと思っていた。その思いの強さゆえ、全く考えもせずに木崎助手が勝手に反応した。
「うむ。じゃあ、行ってくれるか?」
坂田探偵が微笑みながら、木崎助手に言った。
栗森警部視点からは、まるでこの二人の関係が、一親子のような...そんな関係のようにみえた。

木崎助手がそっと黒い車へと近づく。身をかがめながら、黒い車のちょうど真後ろへと向かい、到達した。
特になにも起こらないのを確認して、木崎助手は車の右側にそって、そっと歩いていった。
後部座席には誰もいない。そして、前の座席にも何もなかった。やはり、坂田探偵の推理は当たっていた。
もしかしたら爆弾などが仕掛けられているかもしれない。木崎助手は石橋を叩いて渡るかのように慎重になっている。というのも、木崎助手は坂田探偵から厳重に言われていた言葉がある。
「どんな時でも最悪なケースを考え、それに対応できるように動きなさい。」
そのため、自分の考えられる限りの最悪のケースを今木崎助手は考えている。 

木崎助手が坂田探偵らに向かって手招く。
坂田探偵らはその合図を汲み取って、ゆっくりと木崎助手のもとへと駆け寄っていった。
そして、坂田探偵らが木崎助手のもとに到着するや否や木崎助手が栗森警部に向かって囁いた。
「もしかしたら、爆弾が仕掛けられてるかもしれませんけど、ドア開けてみますか?」
栗森警部は少し唸って返答した。
「まず、そもそもドアが開くかどうかだな。中に誰もいないというのは少し不気味なのだが...坂田探偵、まずは確認してみるということでいいかね?」
その返答というのは、返答というよりかは坂田探偵に対する確認だった。
「いいんじゃないですかね。」
坂田探偵はニコニコしながら答えた。
「多分、爆弾とか仕掛けられてないと思いますし、ドアも開くと思いますよ。」
木崎助手は、坂田探偵がそう言うのを聞いて少し不思議に思った。自分に対しては、「最悪の可能性を考えて行動しなさい。」と言っているのに対し、とても楽観的である。
ともかく、木崎助手は緊張で手を震わしながら、運転席のドアの取っ手に手をかけた。この時期であるがゆえ静電気の心配はいるまい。手をかけた瞬間、一瞬まるで電気が体の中に走ったかのように震えた。だが、それは極度の不安と心配からなるものであり、なんら体に影響はなく、そのドア自体に仕掛けは一切施されていなかった。
続いて木崎助手は、手に力を入れてドアを開けようとする。鍵がかかっていれば、鍵の力によって人間の力など無力に等しくなるのであるが、特に抗力は働かなかった。ドアがゆっくりと開いていく。ここでも特に仕掛けはなく、ここまではいたって普通の車と同じである。
爆弾が仕掛けられていないかどうかあたりを見回してみたがそれらしきものは見られなかった。
だが、それとは別にあるものが見つかった。
後部座席の椅子の下に、髑髏の石板で押さえられた一枚のチラシである。髑髏の石板のほうは、前と同じく「超能力者」の漢字が刻まれている。チラシのほうはどうやら不動屋さんのチラシらしく、その不動屋さんは駅前から歩いて徒歩五分くらいの近いところらしい。
それ以外にめぼしいものはなにもなかった。くまなくチェックしたがヒントになりそうなのはこれだけ。桜子の事件のときのように車内にある何かが、次の私たちの行く道しるべをさしているのだろうか。
とりあえずヒントがこれだけであるため、まずは不動屋さんに行くのがいいと坂田探偵らは判断した。

不動屋さんに着いた。そこまで大規模なほどの店ではなかったが、店の前には旗が並んでいたり、店の前でチラシを配っている人がいたりと非常に商売熱心なのが伺えるようなところであった。
とりあえず、不動屋さんの中に入っていく。
「すみません。」
栗森警部が先陣を切って、まずは中に入った。中の雰囲気は思っていたよりもきれいできちんと整頓されている印象だ。
「どうされましたか?」
中にいたのは一人の青年だった。年齢こそ三十代前半あたりにみえたが、どこかに風格をもっているような、そんな感じにみえた。
「実はこのチラシを見ましてですね...」
栗森警部が軍手をはめたまま、チラシを不動屋さんの人に差し出した。チラシの内容はとある物件。普通の一軒家二つぶん位の大きな家であった。
すると、不動屋さんが残念そうにこう言った。
「あー、この物件は先日売れてしまったんですよね。」
「その物件を購入した人は誰だか教えてくれませんかね?」
栗森警部がこう言ったが、何しろ私服刑事であるため、不動屋さんが栗森警部たちの正体に気づくはずもなく、個人情報を保護するという意味で不動屋さんが拒否するのは想像し易かった。
「流石にそれは...ちょっと...」
もちろん、こういう返答も想定済みであるため、栗森警部は次なる用意として警察手帳を見せた。
まるで、この警察手帳が印籠であるかのように不動屋さんの態度は簡単に翻った。
「あ、刑事さんでしたか。一体、何の用で?」
やはり、まだ不動屋さんにとって刑事がここに来るということは予想さえできないであろう。
「実はですね、我々は超能力者の事件を追ってまして、この物件を買った人が超能力者である可能性が浮上してるんですよ。」
栗森警部のこの一言は、不動屋さんにとっては衝撃の言葉であった。
「どういうことですか?」
混乱するのも無理はない。
「まあ、とりあえずそういうわけだ。物件を買った人の名前だけでも教えてくれるかな?」
不動屋さんはしぶしぶ答えた。
「えっと、買ったのは游江木険という人です。」
不動屋さんのこの言葉を聞き、一同はハッとした。
そう、游江木険は超能力者の本名である。
「やはりな...」
坂田探偵がボソボソとつぶやく。その声がどうやら不動屋さんにも聞こえたらしく、またこの変わった空気に不動屋さんは戸惑いを感じた。
「ど、どうしたんですか?」
「その游江木険って人はですね、超能力者の本名なんですよ。」
栗森警部が真実を伝える。
「え?本当ですか?」
考え難かった。無理もないだろう。
「まあ、大丈夫ですよ。あなたに危害が及ぶことはまずないかと。」
坂田探偵が不動屋さんに向かってそう励ました。
しかし、これといいあの車の時といい、坂田探偵が事態を楽観的に見ているのは何らかの確信があってのことなのかは木崎助手にとっては分からなかった。
「私が今回のことについて法に触れるってことはないですよね?」
不動屋さんの不安が次々と声に出る。今度は栗森警部がこの質問に答えた。
「別に扶助とかしてるわけじゃないので、大丈夫ですよ。」
不動屋さんは警察にそう言われたので安心はしたが、決して満足はしていない。大変な事件に巻き込まれたという焦りの気持ちで一杯であった。
「とりあえず、そこの物件に寄っていいですかね?」
坂田探偵が早口で不動屋さんに聞いた。早く現場に駆け込みたい気持ちがあるのだろう。
「え、ええ。」
不動屋さんに全ての権利があるわけではないので、この質問は無意味ではあるのだが、確認をとっておかないと、不法侵入。即ち、住居侵入罪で訴えられかねないので、確認をとらずにはいられなかったのだろう。
ただ、不動屋さんにとってそんなことを聞かれてもどうしようもない話ではあるのだが...

坂田探偵らは歩いてその物件へと向かった。
確かに他の住居よりも明らかに大きく、目立つ物件。なぜ、このような物件をあの小さな不動屋さんが所有しているのかは不思議ではあったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
玄関にたどり着くまでには、石段を二十段ほど登らなければならない。
普段あまり運動をしない栗森警部にとっては、この階段一つ登るだけでも息が切れるほどであったが、若い部下たちは特に何もなかったかのような様子を見せている。
「ふー、ようやく着いたな。」
栗森警部が坂田探偵に話しかける。
「さて、ここからですね。」
二人はインターホンの前で立ち止まった。その姿を後ろから見つめる木崎助手と、栗森警部の部下たち。
「インターホン押してみますか。」
坂田探偵が何か重大な決意をしたかのような感じで栗森警部に言った。栗森警部は、ただ一言も声を発さず、首を縦に振った。
「ピンポーン」
坂田探偵がインターホンを押すと、甲高い機械音がしたかと思うと、途端に低い機械音が出た。その機械音が発した言葉を聞くとこうだ。
「よくここまでたどり着いたね。歓迎しようじゃないか。」
その不気味な機械音が、特に怖い言葉を発していなくとも坂田探偵の背筋を凍らせるようなそんな特性を持っている。
無論、これが超能力者のしかけた罠であることに間違いはないのであるが、事件を解決させるためには絶対に通り過ぎなければいけない通過点。栗森警部の部下の中には、「もう怖くて逃げ帰りたい。」という人や「なんで、俺は警察なんかになったんだろう。」と思う人もいた。警察がこういう思いを抱くということは、それだけで超能力者が我々(坂田探偵ら)にとっていかに恐怖の存在であるかということが伺えるだろう。
機械音が鳴り止むと、茶色い大きな木の扉がギギーッと音を立てて自動で開いた。まるで、さあ飛び込んでごらん。と言わんばかりに。
扉の先に見えるのは暗闇。昼間なので、日が差し込んでもいいはずなのだが、それが全く見られない。まるで夜のように暗闇が続いている。昼間において、これだけ暗闇を作り出せるということは、この家には日射を遮る仕掛でも施されているのだろうか。 
一同はしばらく動かなかった。黙って扉の先に見える暗闇を見続けていた。

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