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髑髏の石版

奥上 紫蘇

第二章 ~観察~

8時30分頃、一台の黒いタクシーが坂田探偵事務所の目の前で停車した。そして、一人の中年男性がタクシーから降りた。 
その男性は、身長が180cmを超える高身長でかつ、サングラスをかけている。年齢は三十代から四十代半ばあたりだろう。こんな夜にもかかわらず、サングラスをかけていることから、彼がカッコつけのように見える。ただ、その一方で彼を引きつけるような何かのオーラをまとっているようにも見える。
その彼がカツカツと、革靴と地面が接する音を立てながら、ゆっくり坂田探偵事務所入口への階段を一段ずつ上っていった。
そして、入口のドアの前についたところで、一回彼は立ち止まった。彼は、ポケットから鍵を取り出して、入口のドアを開けた。
どうやら、彼は坂田探偵事務所の関係者のようだ。
というよりも、彼こそが坂田探偵である。
坂田探偵。本名、坂田純一は私立探偵を十年以上も続けており、腕もかなり立つ。
五年ほど前に警察が解けなかった密室殺人事件を難なく解決させ、そこから警察の信頼も厚く、警察との繋がりも増えた。
彼は、理工学分野において博士号を取得しており、そこから彼の天才性が垣間みえる。
また、その理工学に長けた彼が自分の長所を活かし、"科学捜査"というものを根本にしている。
科学捜査というのは、いわゆる警察が指紋を調べたりDNAがどうのこうのとかを調べたりすることであり、鑑識における作業を自分たちでやりのけてしまうというのが、この坂田探偵である。
彼の探偵事務所に研究室というものがあるのだが、初見でこの研究室を見ると、まるでどこかの一流大学の研究室かと錯覚してしまうほどであり、様々な薬品や研究に必要な道具などが完備されている。
ここまで科学捜査を独自に行える探偵事務所などここ以外にあるだろうか。
さて、その坂田探偵が探偵事務所の中へと入ると、真っ先に彼は客間へと向かった。
「風間君!」
彼はそう叫びながら、客間に足を踏み入れると、そこには救急隊員の姿、私服警官の姿、木崎助手の姿が見えた。
また、客間にあるソファはバスタオル二枚で覆われている。
「先生!すみません...」
木崎助手がいち早く坂田探偵の存在に気づき、坂田探偵に声をかけた。だが、木崎助手は風間助手を救えなかったやるせない気持ちが声として、言葉として、完全に現れていた。
「うむ...」
坂田探偵は、現場を見て状況を察した。
彼は木崎助手から、「風間が毒によってやられたので、急いで事務所に戻ってきてください。」とだけ伝えられていたため、まだ風間助手が死んでいることは分からなかった。だが、この状況を見れば...木崎助手の表情を見れば...
私服警官が、救急隊員に話しかける。
「すみません、坂田探偵にも遺体を見せてもらっていいですかね。」
「ええ。構いません。」
救急隊員に許可をえることができたので、すぐさま私服警官は坂田探偵にこう言った。
「坂田探偵、風間の遺体を見てみてください。」
坂田探偵は、こっくりと頷き、ソファにかけられていたバスタオルをそっとめくった。
ソファに横たわる風間助手の遺体。見るに耐えない光景であった。
普段なら何度も殺人現場を見慣れているはずの自分が、いざ知人の、しかも自分と接点の深い助手の遺体を見ると複雑な感情を抱いてしまう。
ひとつとしては、これ以上遺体を見たくないという気持ち。
普段なら事件解決に向けて、遺体に何か変な傷跡がないかどうかや遺体の死亡推定時刻などを調べるなどするため、そのような感情はうまれない。
だが、知り合いの遺体。もっといえば、自分の助手の遺体。これを見ると、可哀想で可哀想で仕方なくなる。ましてや、自分よりも遥かに若い、今後の将来がまだ沢山残されていたはずの人が、命を絶たれたのである。悲しいと言えば悲しいのだが、当然いつもと比べてその悲しみは格段に増す。
ふたつめは、現実を受け入れ難い気持ち。
考えてみれば分かるが、もし今一番自分にとって身近な人が急に死んだとしたらどうだろうか。誰しもが思うのは、"現実を受け入れられない"ということである。
その感情を今、坂田探偵は抱いている。明日から、急に助手が一人いなくなるなど、寂しいの一言だけでは済まされないだろう。
色々な複雑な気持ち。坂田探偵は、その気持ちを整理させようとしていた。
ゆえに、しばらくの間、坂田探偵は身動きひとつしなかった。
「坂田探偵、そろそろ。」
救急隊員が、動かない坂田探偵の肩をポンポンと叩いて言った。外からみると、悲しさに明け暮れている坂田探偵を励ましているかのような図である。
「ああ...すまないね。ありがとう。」
まもなくあの遺体はどこかへと搬送される。坂田探偵事務所のビルの裏口には、パトカーと救急車が止まっていた。ゆえに、あの裏口から遺体が搬送されるのだろう。

現場は気まずい雰囲気。
話しにくそうにしながら、私服警官が坂田探偵に尋ねた。
「坂田探偵。何か気づかれたこととか、私に聞きたいこととかありますか?」
「うむ...ちょっと待ってくれ...」
坂田探偵は、気持ちを落ち着かせてから喋るようだ。
木崎助手は、坂田探偵の気持ちを察したからこそ、あえて何も多くを語らなかった。同じ想いを経験した同士であるから。
またしばらくして、彼が口を開いた。
「うん...あまり、風間君の遺体は見たくなかった...可哀想で、可哀想で。」
さらに言葉を続ける。
「一応、遺体を見てある程度のことは分かる。毒は神経毒。おそらく注射針程度の針で、右腕を刺されたんだろう。少し時間がたったら、毒が回るようになっているから、恐らく毒の種類は神経毒系統だと思う。」
坂田探偵がようやく私情抜きで、客観的に事件のことについて言葉を発してくれた。
これを聞いた木崎助手は、坂田探偵にこう言った。
「先生。机の上にある封筒を見てみてください。風間が最期に残してくれた、事件の重要な証拠です。」
坂田探偵は言われるままに、机の上にある封筒を、開け口を下にして、封筒の中身を全て取り出した。
入っていたのは、四枚の石版。と、それに加え、奥底の方に一枚の紙があった。A4サイズの紙である。その四枚の石版には、それぞれ「超」「能」「力」「者」と刻まれている。
つまり、これは殺人鬼超能力者による犯行であると示しているわけだ。
A4サイズの方にある紙は、千代田区内の白黒地図である。
なぜか千代田区内にある全ての公衆電話の場所にチェックがつけられている。
チェックの隣には番号が振られていた。
「これは、一体何の番号なんだろうか...」
坂田探偵は、少し考えたが結論はよく分からなかった。
それよりも、坂田探偵が気になるのはどうやら石版の方らしい。
「少し、石版について調べてみますね。いいですか?」
坂田探偵は、石版についてどうしても調べたいようだった。私服警官も、この探偵事務所の研究室がいかに素晴らしいかというのを噂で聞いていた。なので、指紋をつけたりしないという極々当たり前の条件をつけて、私服警官は石版を調べることを許可した。
「木崎君、君も手伝ってくれ。」
「はい、もちろん。」
木崎助手は、いつも白衣を着ているのだが、それはまさしく実験や研究用なのである。
坂田探偵には二人の助手、木崎助手と風間助手がいた。
その二人は役割を分担して、聞き込みなど現地調査専門を務めていたのが風間助手。科学捜査という根本に基づいて研究や科学捜査を担当していたのが木崎助手である。

研究室は、客間よりも少し涼しかった。
坂田探偵によると、どうやらこの温度を保つことが重要らしい。恐らくカビなどを繁殖させたくないのであろう。
「木崎君、この石版の指紋採取よろしく。でこぼこなってるけど、多分いける。」
「はい。」
坂田探偵は、木崎助手に「超」と刻まれた石版の指紋を採らせた。その間、坂田探偵は顕微鏡で「能」と刻まれた石版を観察していた。
すると、普段研究室では命令以外で滅多に喋らないはずの坂田探偵が思わず声を出した。
坂田探偵が研究室で声を出すなどめずらしいので、木崎助手もすぐに反応し坂田探偵の元へと駆け寄った。
「ど、どうしたんですか!?先生。」
「君も見てみれば分かるよ。」
坂田探偵は、特製の顕微鏡を指さした。
木崎助手は言われるがままに、顕微鏡の接眼レンズに目をあてた。
「うわっ!!!」
目をあてた途端、すぐに接眼レンズから目を離してしまった。木崎助手も非常に驚いたようだ。
「先生。まさか...」
「うん。髑髏どくろだよ。」
超能力者と刻まれた四枚の石版。その石版の表面には、髑髏マークが無数に刻まれていた。
これを顕微鏡で、初見で見たら、誰一人として驚かない人はいないであろう。
顕微鏡で見なければ分からないほど、ここまで凝らしているのである。
ただ、二つ疑問が浮かび上がる。
まず、果たして、そんな芸当が可能なのかどうかだ。
人間は細かい手作業はできるが、それを顕微鏡レベルで、しかも細かい作業を施さなければならない無数の髑髏マーク。
これを、やり遂げるのは本当に可能なのだろうか。
第二に、なぜ「髑髏マーク」なのか。
超能力者は今までに、犯行予告を出しての犯行を行ってきたが、髑髏マークといった挑発はしてこなかった。
果たして、この髑髏マークに何の意味があるのだろうか。
このふたつの問いの答えはすぐには見つからない。だが、一つ分かるのは、髑髏マークが我々にとって不気味な印象を持たせている。もたらしているということである。これから、どのような事件が起こってくるのか...そう考えると、恐怖に呑み込まれそうな気がしてくる。
風間助手が殺された以上、自分に危害が及ぶかもしれない...
その懸念をする必要性も出てくる。
ゆえに、お先真っ暗。何か起こるか分からない。超能力者が何をしてくるか分からない。そんな状況であった。
尚、指紋採取だが、四枚の石版全てから超能力者の指紋が検出された。
超能力者の指紋は既に警察内で情報が共有されており、それがこの一私立探偵のところにも情報が来ている。
この指紋採取の結果より、超能力者がいよいよ本格的に動き出したとみていいであろう。

坂田探偵と木崎助手が研究室から客間へと戻ってきた。
と、その時、インターホンが部屋に鳴り響いた。
「出ますね、先生。」
木崎助手がこれに対応した。
どうやら、来客は栗森警部のようだ。
栗森雄一。年齢は40歳である。年齢とは裏腹に少し老け顔である。髪も半分くらいは白髪で、とても今年40とは思えない。その理由としては、やはり警察という激務をこなしていることが要因としてあげられるだろう。
彼は実を言うと東大卒のエリート。東大を卒業したあとは、警察に入って、今は警部を務めている。彼は頭が良いのは確かなのだが、判断力があまりないというか、少しおっちょこちょいなのである。
栗森警部は坂田探偵とも繋がりがあり、さらに赤坂探偵とも繋がりがある。栗森警部は、割と顔の広い刑事であるといえよう。
栗森警部が客間に入ると、まずお辞儀をしてそこから坂田探偵に言葉をかけた。
「申し訳ないです。坂田探偵。私が川坂氏の事件についてをもっと注意しておけば...あなたの助手を死なせずに済んだものを...」
栗森警部は、礼儀正しい人である。
きちんと帽子をとって、再び坂田探偵に向かって軽くお辞儀をした。
「いえいえ。栗森警部に非はありませんよ。私も、川坂氏の事件は甘く見ていたので...私の不注意ですね。この事件は。」
と、坂田探偵が言ったその時、事務所内にある古い時計の鐘の音が九つ鳴り響いた。まだあまり時間は経っていないはずなのに、彼らにとってはもう相当時間が経っているように感じた。だが当然、まだ鐘の音は今日あと三度鳴り響く。すなわち今日という日はまだ終わっていない。そして、まだ事件は始まったばかりだ。

さて、栗森警部や坂田探偵が言っていた川坂氏の事件とはなんなのだろうか。実は、この風間毒殺事件をはじめ、全てはここから始まったのである。次章では、この川坂氏の事件についての詳細を述べていく。

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