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髑髏の石版

奥上 紫蘇

第一章 ~発端~

東京都千代田区に、ある一軒のビルがある。
そのビルはすっかり日が暮れ、月が雲に隠れて見えない今でも、ネオンがあたりに光っており、そのビルも光に照らされている。
実際、そのビルが光っているわけではない。ビル自体は、はっきりと言うとオンボロ。だけど、狭いわけではない。とそういった感じである。
大都会のビルが立ち並ぶ千代田区の中では、そのビルの廃れている姿は、ただそのビルがあるだけでも、ある意味目立つであろう。
さて、その廃れたビルへと一人の男が駆け込んでいくのが見えた。
年齢は三十代、いやもっと若い。二十代くらいだろう。奇妙なことに、まだ梅雨にすら入っていない時期であるがその男は汗をびっしょりかいている。そして、手には何か重要らしい書類の入ったような封筒を抱えている。
ビルの階段を駆け上がると、二階にビルのドアが見えた。このビルは二階からしか入れないようだ。
その男がドアの前に辿り着くと、激しくドアをノックした。
「先生!先生!先生はいませんか?」
そして、大声で叫ぶ。
だが、しばらく経っても返事がない。
「ハアハア...先生!先生!」
ところどころ息苦しさからか、ハアハア言いながら先生を呼んでいる。
三回目に先生を呼んだところで、やっとドアの鍵が開く音が聞こえた。
その音を聞いた男は、すぐさま壁によりかかった。ドアが開くときに、そのままの位置で立っていたら邪魔だからである。
ドアが開くと、中から出てきたのは一人の男性。なんと、白衣姿をしている。年齢は三十代前後といったところだろうか。
「風間君、どうしたんだ?そんなところで。」
白衣姿の男は、息苦しそうにしている男に問いかけた。どうやら、息苦しそうにしている男は"風間かざま"と言うらしい。
「ハアハア...と、とりあえず中に入れてください。話はそれからです。ハアハア...」
白衣姿の男は、とても心配そうに風間を見つめていたが、風間が非常に体調が悪そうなのもあり、すぐさまビルの中に入れてあげた。
ビルの見た目とは裏腹に、中はきちんとしていた。
風間が通された部屋は、このビルの客間だった。雰囲気は落ち着いており、きちんと掃除されている印象だった。広さは、十六畳くらいと客間の割には広めではあった。
風間は、客間に入るや否やすぐさまソファに腰掛けた。
「一体、どうしたんだ?」
風間がソファに座ったあと、白衣の男が風間に話しかけた。
「や、やられたんだ...あ、あいつに...ハアハア。」
「や、やられただと?一体、何があったんだ?」
白衣の男は驚きを隠せなかった。
「木崎君なら恐らく知っているだろうけど、あの川坂氏の事件だよ...ハアハア...」
どうやら、あの白衣の男の名前は木崎というようだ。
「ああ...知ってるには知ってるけど...」
「せっかく、その事件の重要な証拠を握ったというのに...ハアハア...」
「重要な証拠?」
「ああ...この封筒の中に入っているよ...」
木崎は、手に持っていた封筒を風間の元へ差し出した。
「開けていいか?」
「もちろん...」
木崎は風間に許可をとった後、白衣のポケットから白色の手袋を取り出し、自分の手にはめた。
そして、封筒の口を閉じていたセロテープをゆっくり慎重にはがしていった。
封筒の中には、書類が入っているものだと木崎は思い込んでいた。
だが、封筒の中をのぞいてみると、書類ではなく四枚の石版。
「ん?なんだ、石版か?」
と、その時、急に風間が苦しみだした。
「くっ...み、水をくれ...」
木崎は慌てて台所の方へ駆け込んだ。
木崎が風間にコップ一杯の水を届けると、風間はその水を一気飲みした。
「ハアハア...もう無理だ...あいつと関わった時点で俺は...」
とうとう風間は、座ってもいられなくなり、ソファに寝転がってしまった。
「もう既に救急車と、それと先生には連絡しておいたから。もう少しの辛抱だ。頑張ってくれ。」
木崎は風間にそう言った。
だが、その言葉を発した時、風間の記憶はすでにほとんどなくなっていた。
木崎の目からも、風間が神経毒によってやられたということを察するのは容易なことだった。
ここは、「坂田探偵事務所」
二人が、「先生」と呼んでいたが、それは坂田探偵のことだ。
つまり、二人は坂田探偵の弟子。いや、助手と言った方がより正確だろうか。
木崎助手があわてて応急処置を施すも、時すでに遅し。
僅か二十七の若い青年が、短い生涯を終えてしまった。
「風間!風間!返事してくれ!風間!」
木崎が風間の肩を揺さぶっても、当然風間は目を覚ますはずがない。
木崎の目からは涙が溢れていた。もっと、早く応急処置を施していれば...もしかしたら、風間の命は救えたかもしれない...と、後悔の念。木崎は、風間の死に対して自分にも責任はあると感じた。ただ、悲しみの涙ではなく、後悔の涙も含まれていた。
ビルの中にある古い時計の鐘の音が八つ。木崎には、その低音が深い絶望のような音となって聞こえた。

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