生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。

RAI

居場所


あの日からあらたの姿を見ることが少なくなった。

前はずっと家にいたのに1日のうち数回すうかいしか姿を見なくなった。

あらたいつもどこ行ってるの?」と問うと「散歩さんぽ。」と笑って返された。

美海みうなたちに聞いても全然見ないと言われた。

「ねぇ、なんかあらた…最近元気なくない?」

昨日久しぶりにあらたに会ったらしい美海みうなが学校で聞いてくる。

「そう?」

一応毎日あっているので違和感いわかんはあまりなかった。

「うーん。気のせいかな…。」

みんなに全てを打ち明けてから美海みうなは前よりも明るくなった気がする。

美海みうなだけじゃない。
千崎ちさきつむぐともよく連絡れんらくを取るようになった。

海流かいるとも気まづい空気が流れることはあるが前よりもよくしゃべるようになった。

「ねぇ、また集まろうよ。」

その美海みうなの一言で今週末こんしゅうまつに集まることになった。

       
                                  




「ねぇ…」

くだらない話で盛り上がってた中、千崎ちさき深刻しんこくそうな顔をする。

「この前、あーくんに会ったんだけどね…。体がね。なんだろう…。けてた…っていうか。」

オブラートに言おうとしてくれているのかとまりとまりになる。

けてた…?」

海流かいるが聞き返すとこくんとうなずく。

「それ…俺も見た。昨日…完全かんぜんに全身けた感じでさ。体もすごいつらそうで…話しかけるにもかけれなくてさ。」

つむぐも気まずそうな顔をする。

「え?」

つい反応してしまった。

家では全然そんなことなかった。

海流かいるけわしい顔になる。

「あーくん…消えちゃうんじゃないよね…?」

千崎ちさきつぶやきにドキッとする。

少しずつ気づき始めていたことだ。
でも考えないようにしていた。

「大丈夫だよ…。あいつなら。」

海流かいるつぶやく。

部屋がまた静かになりいやな空気が流れる。

机の上の物の下に何か書かれているのが分かった。

そっと物をどかす。

「これ…。」

私の言葉にみんながつくえに書かれた文字を見る。

「…あ。」

みんなが言葉を失う。

『おれたちはさいきょう。ありがとう。また会う日まで…。』

小学生のようなまだ安定しない字でそう書かれていた。

「探そう。」

最初に言ったのはやっぱり海流かいるだった。

それにみんなうなずく。

秘密基地ひみつきちを出てみんな走り回った。

でもあらたは全然見つからなかった。

「まさか…もう…」

美海みうなが不安な表情ひょうじょうを見せる。

その言葉で全員の顔をが不安な表情に変わる。

「…どこにいるの。」

不安な心情を打ち消すようにつぶやく。

もう一度考える。

あらたが行きそうな場所。

家、公園、学校、秘密基地、森の中……全部探した。

まさか、もう…。

また不安がよぎる。

ふいに1つの場所が浮かぶ。

「あ。」

5人の声がそろう。

顔を見合わせうなずきあう。

「行こう。」

海流かいるの声にまたみんなが続く。

歩きでは遠いのでタクシーを呼ぶ。

目的地もくてきちには30分ほどで着いた。

「久しぶりだね。」

「うん。」

その場所は5年ぶりだった。

あらたが死んだから1度も訪れなかった。

みんなこの場所をけてきた。

ピンポーン

ベルを鳴らすと「はーい。」という声が聞こえ、5年ぶりのつむぐのおばあちゃんに会う。

「よくきたね。」

突然とつぜんなのに温かくむかえてくれた。

でもすぐに家を出る。

あらた〜。」

いつの間にか森の中であらたの名前を必死ひっしさけんでいた。

いるかどうかも分からないあらたの名前を。

そして、がけのところでとまる。

「…あらた。」

みんなの少し安心したような声が森にひびく。

あらたは驚いた顔でこちらを見る。

体はまだはっきり見えた。

でも手は少しけているように見えた。

すごく辛そうで木にもたれて座っていた。

「みんな。何で…。」

あきれたようにクスッと笑う。

「何でじゃねーよ。バカ。」

海流かいるもあきれたように笑う。

「ゆっくり1人で行こうと思ったのに…。」

自分の手を見て悲しそうな声でいう。

「何言ってんだよ。お前。」

冗談じょうだんまぎらわせるように海流かいるがいう。

「…あらた。やだよ。」

あらたを見ていると本当に消えてしまいそうな気がした。

「やだよ。またいなくなるの?」

私は静かにあらたに問う。

「…そーだよ。」

悲しそうな顔をしてうなずく。

「やだよ…」


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