生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。

RAI

風奈 新 ①


記憶きおく曖昧あいまいな時に俺の両親りょうしん明瑠あらる両親りょうしん海流かいる父親ちちおやが死んだ。

海外かいがい旅行りょこうへいった帰りに飛行機ひこうき墜落ついらくした。

乗っていた乗員乗客じょういんじょうきゃくは全員死に、荷物にもつなども見つからなかった。

それからは海流かいる母親ははおや凪海なみに引きとられ、今まで明瑠あらる海流かいると共に育ってきた。


俺は幸せだ。

親は死んだけど凪海なみがいたから。

ほんとの家族はいないけど明瑠あらる海流かいるもいたから。

嫌がらせをうけていたけど大好きな5人がいたから。

大丈夫。

俺は幸せだ。

苦しくない。

辛くない。

誰にも心配かけたくない。

だから、大丈夫。

俺は1人じゃない。

死にたくない。

死にたくない...。

『死にたい』

気づけば俺はそう思うようになった。

6人でいる時はほんとに楽しくて辛いことなんて忘れれた。

でも、クラスの奴らからはいじめられていた。

明瑠あらるたちに聞かれたこともあったけど大丈夫と笑った。

心配かけたくないから。

大丈夫。

大丈夫。


小6の夏。

毎年いっているつむぐのおばあちゃん家での夏合宿なつがっしゅくがあった。

前日、俺は明瑠あらるとけんかした。

そのときの最後に叫んだ一言が異常いじょうなまでに俺の心にさる。

いつもならすぐに仲直りするのに結局その時は一言も話せず、合宿がっしゅくになった。

ちらっと明瑠あらるをみると頭につけていた向日葵ひまわりがらのピンに目が入る。

それは俺が初めて明瑠あらるにプレゼントした少し思い出のあるピンだった。

その後たくさん遊んで、暗くなったので帰ろうってなった。

「あれ?」と明瑠あらるが頭をおさえながら驚いていた。

「どーした?」と海流かいるが聞くが、「あ...なんでもない。」と笑った。

手を離した頭にはさっきまでついていたはずのピンがなく、それで驚いたのかとすぐに察した。

その日の夜。

みんなが寝たのを確認して、外に出た。

目的もくてきの場所なんて別になくて、ピンを探すためにその日遊んでいた場所をひたすら探した。

がけの上にきて、そこからみる景色はきれいだった。

ここから落ちたら死ねるかなと思ったが、頭を振ってその考えを振り払った。

「あーくん」

と後ろで声がする。

「ちーちゃん...」

千崎ちさきだとわかって少し安心する。

千崎ちさきは俺の近くて、花の写真をったり眺めたりしていた。

「ちーちゃん落ちないように気をつけてね。」

といった瞬間、千崎ちさきの体が後ろに傾いたのがわかった。

それからはみょうにスローに見えた。

頭で考えるより先に体が動いた。

千崎ちさきうでをつかみ自分より後ろに引っ張る。

その反動はんどうで俺の体は前に傾く。

『死』

一瞬いっしゅんにして頭によぎる。

やっと...やっと死ねる。

そう思った瞬間しゅんかん5人の顔が出てくる。

...死にたくない。

そして、急に怖くなった。

やっぱり死にたくない。

怖い。

まだみんなと一緒にいたい。

全身に激痛げきつうがはしる。

意識が朦朧もうろうとし、目の前がゆれる。

右手を少し動かすとヌルッとした感触かんしょくがあった。

力が入らない中やっとのことで目に見えるところまで右手をあげる。

手が赤く染まっていた。

それが血だと理解するまでに数秒かかった。

あぁ、死ぬんだと思う。

「あーくん...!」

上から千崎ちさきの叫ぶ声がした。

その声に答えようとしたがもう声を出す力さえ残っていなかった。

千崎ちさき...頼みがある。明瑠あらるたちを呼んできて。みんなに伝えたいことがたくさんあるから。

と心の中で叫ぶ。

でも、だんだん目の前が真っ暗になった。


あらた...!」

海流かいる明瑠あらるの声が聞こえた。

あぁ、まだ生きてる。

そう思った。

でも、目を開けると想像そうぞうと違う光景こうけいがあった。

目の前でみんなが泣きながら誰かをかこんでいた。

あらた...」

みんなが俺の名前を呼ぶ。

「おい。何言ってんだよ。俺はここにいるよ。生きてるよ。」

すぐそばでさけんでいるのに誰も俺の言葉に反応しなかった。

「なぁ、海流かいる無視むしかよ。」

ふざけていると思い、海流かいるれた。

...いや、正しくはれれなかった。

海流かいるれようとした俺の手は海流かいるを通り過ぎた。

「...え。」

何が起きているか分からない中、俺は囲まれていたやつをみる。

...俺だった。

血だらけになってたおれている俺がいた。


夜が明けてからも俺はみんなのそばでだまって見てることしかできなかった。

結局、俺の声が届く人はいなかった。

俺はいつも通りに生活した。

みんなと学校にいって、授業じゅぎょうをうけて、一緒に帰った。

夜は寝なくてもよかったのでまちをフラフラしていた。

小6から始まった幽霊ゆうれい暮らしは結構けっこう自由だった。

楽しいと思ったこともあった。

でも、それ以上に苦しかった。

誰にも見られない。れれない。
それ以上の苦しみはなかった。


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