生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。

RAI

小崎 明瑠 ②


きっと誰もが1度は口にした事がある言葉。

『死』という言葉。

気持ちなんてこもってなくて、本気でなんて思ってなくて…。

それでも、死にたいと思っている人がずっと信じていた人に「死ね」と言われるとどんな気持ちになるのだろうか。

5年前から、『死』という言葉に敏感びんかんになった。

私は5年前…罪をおかした。






小6の時は3人で大きな部屋へやを使っていた。

「明日、何がいる?」

「トランプとか持ってこーぜ。」

余計よけいな物もっていくなよ?」

「わかってるよー」

いつもと同じくだらない会話。

「ちょっと凪海なみのとこいってくるー。」

明日の服の相談そうだんをするために部屋に出た。

話し終わって部屋に戻って来ると、2人の話し声が聞こえた。

あらた。去年みたいなこと…するなよ?」

海流かいるの少し怒ったような声に少しドキッとしてすぐにドアを開けれなかった。

「分かってるよ。」

「ほんとかよ。」

「ほんとだよ!」

2人で言い合いしそうになりそうだったのでそれをさえぎるようにドアを開ける。

明瑠あらる…。」

突然とつぜん現れた私に2人とも驚く。

「なんでもねぇーよ。」

これ以上話を続けまいと思ったのか準備じゅんび再開さいかいする。

「ねぇ、去年みたいなことって何?」

「何でもないって。」

「死のうとしたんだよ。こいつ。」

海流かいる!」

「…え?」

海流かいるの言葉が信じられなかった。

「…してないからな。」

あらたが否定する。

「どーゆーこと?」

「去年の夏、こいつが消えた時があっただろ?」

たしかにあった。去年の夏、急にあらたがいなくなったってみんなで探し回った。その時に1番最初に見つけたのは海流かいるだったんだ。

「その時、がけの上に座ってたんだよ。」

「そんなけだろ?」

「飛び降りようとしてただろ?」

「…してないって。」

少しあらたの声が弱気よわきになった。

「…あらた?」

すっとあらたと目があう。
だけどそのあとの言葉が出てこなかった。

「何だよ…死のうとしてたってお前らには関係ないだろ!」

その言葉で私の中の何かがプツンと切れた気がした。

「何それ…。関係ないわけないじゃん!」

「関係ないよ!俺が死のうがどうだっていいだろ?」

「バカなの?あんた。どうでもいいわけないじゃん。」

「バカじゃねぇーよ。」

「おい。やめろ2人とも。」

「私も海流かいるも、あらたがなにかなやんでるってきづいてるよ?」

「だから何だよ。」

「なやんでるなら相談くらいしてよ!」

「お前らには関係ない!」

「関係なくないよ!いつもそうじゃん!」

「しったような口きくなよ。」

「しってるもん! あらたはいつも1人でかかえこむじゃん!そうゆうのをやめてっていってるの!」

「だから…!よけいなおせわなんだよ!」

「私は…あらたにそうだんしてほしいからいってるんだよ!」

「やめろってそうゆうの。」

「ねぇ、あらた!」

「めいわくなんだよ!お前らふたりとも!うざいんだよ!」

「……っ!もういいよ…。」

頭が真っ白になって周りの声が消える。

あらたのバカ…!あらたなんて、死んじゃえ!!」

気づけば私はさけんでいて、そっと海流かいるかたをたたかれる。

あ。まただ。

私はいつも感情的かんじょうてきになるとわけもわからず何かれかまわずさけんでしまうくせがある。

あらたの顔を見る。

今まで見たことがないくらいおどろきにあふれた顔をしていた。

「…ごめん。」

目をそらしてつぶやく。

「死なないよ。俺は。」

静かにつぶやいて部屋をでていった。

あらたが出ていったあとの部屋はすごく静かだった。

海流かいる…。私…。」

「大丈夫。大丈夫だから…。」

また海流かいるに甘えてしまう。

海流かいるむねの中で静かになく。

海流かいるは何もいわずきしめていてくれた。








みんな静かに聞いていた。

海流かいるも悲しそうな顔をする。

「私…ひどいこといった。いうつもりなんてなかったのに…。」

あの日の光景こうけいが私の頭の中に流れる。

私の泣き叫ぶ光景こうけい

何度も何度も。まるで映画のワンシーンがバグを起こして繰り返し流れるように。

「分かってるよ。明瑠あらる。」

優しくて落ち着く声。涙が止まらなくなる。

「結局、仲直りできずに…ごめんもいえずに…あらたは死んだ。」

また静かになる。

「私のせいなんだよ。結局。…私があんなことを言わなければ…!あらたは…死ななかったかもしれない。」

何年も考えてた。

あらたが死んでからずっと。早く大部屋おおべやを離れたくて…あらたの悲しい記憶きおくを消したくて…。

でも、あの家にいる限り、このメンバーでいる限り絶対消えなかった。

だから、その記憶きおくだけ消そうとした。

逃げた。

「ちがうから…。」

海流かいるが否定する。

「その言葉だけじゃなくて、ピンもその原因げいいんだったら?」

写真の中にうつっていたピン。

あらた記憶きおくとともに忘れ去っていた。

でも、もし…あらたが…探していたものがピンだとしたら…?

それこそ私のせいだ。

あらたが探していたものが…もし…あの日…私が落としたピンだったら?…あらたは。事故じこじゃない。自殺でもない…。私が…殺したんだ。」

頭の中で『殺』という字が大きく浮かぶ。

「…私が、あらたを殺し…」

がしっと海流かいるきしめられる。

あばれだしそうだった心臓しんぞう一瞬いっしゅんで落ち着いた。

「ちがう。もし、あらたが探していたものがピンで、それであらたが死んだとしても、明瑠あらるのせいじゃない。絶対ちがう。絶対。」

海流かいるの「絶対ぜったい」という言葉が胸に響く。

ギィィィ…


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