生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。

RAI

大内 紡 ①


生き物には必ず “弱者じゃくしゃ”と“強者きょうしゃ”が存在する。

例えば、動物の世界の中で、草食動物そうしょくどうぶつ肉食動物にくしょくどうぶつより弱い。

昔、何かのテレビでシマウマがライオンに食われるところを見た気がする。

弱者じゃくしゃ強者きょうしゃに食われるし、さからうことなんてできない。


生き物はみんなそうだ。

人間だって例外れいがいじゃない。

人間の中にだって強者きょうしゃは存在する。


人という生き物は他者たしゃきらい、他者たしゃと比べ、自分より弱者じゃくしゃの存在を見つけないと生きていけない。僕は思う。

人間は生き物の中で最も弱い生き物だ。

孤独こどくきらい、恐怖きょうふし、自分に絶望ぜつぼうする。

弱い生き物だ。

                                 




小さい頃から弱虫よわむしで泣き虫で人間がこわかった僕はいつも幼なじみの美海みうなの後ろにかくれていた。

女の子の後ろにかくれる男なんて、かっこ悪いかもしれないが、その時は何も思わなかった。

ただ、こわい。

それだけだった。


だから、誰にでも立ち向かっていく美海みうなはかっこよかったし、小さい頃の僕にとって唯一ゆいいつ信頼しんらいできる友達だった。

でも、美海みうなたたかれてる時も

「うみちゃん!」

さけぶだけで手も出せず、ふるえて、その場で立ちすくむだけだった。

そんなとき出会ったのが、『仲良なかよし3人ぐみ』と呼ばれていた、あらた明瑠あらる海流かいるだった。

その3人は他の子達とはちがった。

僕らを下に見ず、対等たいとうに接してくれた。

強者きょうしゃでも弱者じゃくしゃでもない。

だれとでも仲が良くて、僕にとってはヒーローのような存在だった。

かっこよかった。

それからはよく助けられた。

僕も強くなりたかった。

あらたみたいに。

美海みうなを守れるように。


ある日、僕がいじめられていたのをあらたが助けてくれた。

あらたがソイツらにおこって、僕に謝ってきた。

それを見ると、あらたはその場をはなれていった。

はなれたのをみて、そいつらがいった。

あらたってうぜぇよな。」

たまたま聞こえて、ぱっと顔をあげると1人と目が合った。

ニヤッと笑ってこっちによってきた。

「なぁ、つむぐも思わねぇの?調子にのってる。自分が1番えらいって思ってんじゃね?」

「・・・。」

反論はんろんする言葉なんてたくさんでてくる。

なのに声が出なかった。

それだけじゃなくて、「その通り」だとか、「ざまぁみろ」とか思う自分がいた。


それから俺はかげでこっそりと小さないたずらをし始めた。

消しゴムを隠した。

ノートの1ページに『バカ』と落書らくがきをした。

つくえ落書らくがきをした。

授業中じゅぎょうちゅうにくしゃくしゃにした紙くずを投げた。

教科書きょうかしょやぶった。

えんぴつを全て教室のゴミ箱にすてた。

他にも…いろいろした。

それでもあらたは誰にも言わなかった。

泣きもせず、おこりもせず。

犯人はんにんを見つけるわけでもない。


ある日、それが気に入らないヤツらが休み時間にあらた校舎横こうしゃよこに呼び出した。

匿名とくめいだったため、誰か分からないあらたは言われるがままに指定していされた場所にいった。

あらたがいることを確認するとすぐ上の教室のまどからバケツに入った水をかけた。

アイツらがここまでやるとは思わなかった。

授業じゅぎょうが始まる少し前に教室きょうしつに戻ってきたあらたかみの毛はビショビショで保健室ほけんしつで借りたであろう体操服たいそうふくを着ていた。

「どーしたんだよ。あらた。」

何も知らないクラスメイトがすぐにかけよってく。

あらたが何を言うのかと少しドキッとした。


「いやー。ボーッとしてたら池に落ちたわ。あそこってあぶねぇーよな。」

と笑っていった。

『かけられた』とか『いじめられた』とかそういえばいい。

なのにあらたは誰かに助けを求めるわけでもなく、泣くわけでもおこるわけでもなくただただ笑っていた。


そんなあらたに俺はかなわないと思った。

かなうわけがない。

ただの小さな嫉妬しっとに負けた俺がどんなことをされても誰にも言わず、泣くわけでもなくたった一人で戦ってるあらたに。

そう思うと急に激しい罪悪感さいあくかんおそわれた。

あらたはきっと俺がやっているとわかっている。

それでも明瑠あらるたちには何もいわなかったし、6人でいるときも何事なにごともないかのように接してくれた。


その後俺はあらたをいじめてたヤツらに勇気ゆうきを出して、「もうやめよ」といった。

予想よそうしていた通り聞いてはくれず、俺に対してのいじめもまた始まった。

そして、あらたへのいじめもどんどんエスカレートしていった。

上靴うわぐつがなくっなっていたらしい。

教科書きょうかしょが水にひたされびしょびしょになっていたらしい。

さすがにおかしいと思ったのか明瑠あらる海流かいるがクラスで何かないかと聞いてきた。

でも、俺は「知らない」とただ一言口にした。

すると2人は「そっか」とすぐに俺を信じた。






解散かいさんになった後、美海みうなたちと帰ろうと思い、外で待っていたが、中で3人で会話かいわが始まった。

美海みうながそんななやみをかかえているとは知らなかった。

全然気づかなかった。

美海みうなの言葉をきいて、どこか迷いのあった心になにかの決心がついた。

「...俺の話も聞いてくれない...かな。」

3人とも驚いた顔でこっちをみた。

静かに中に入り、さっき座っていた椅子いすに座った。

それをみて、3人も静かに座った。

なにから話していいのかわからず、少しの間何も話さず静かに座っていた。

俺は1度息を吸った。

そして、ゆっくりとはく。

目をつむって、ゆっくり話し出す。

「...俺さ。...」


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