生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。

RAI

砂中 美海 ②


あれはいつだっただろうか。

たしか小5の時だったかな?

学校が終わって夜の7時くらい。

昔、母さんにねだってやっと買ってもらった犬の散歩さんぽにでかけたときだった。

いつも散歩道さんぽみちに小さな公園こうえんがあってそこでブラブラと歩いていた。

すべり台のてっぺんに寝ている人影ひとかげが見えた。

なんとなく気になって見に行くとそこにはあらたがいた。

「あ、美海みうな。」

私に気づいてすぐに反応してきた。

「何してるの?こんな所で。」

すべり台の階段かいだんの手すりにつかまりながら私はきいた。

「うーん…。なんだろうね。」

笑いながら答えた。

・・・。

「星…見てた。」

私が何も言わずにいると悲しそうな声であらたがいった。

「星?」

「うん。」

「…明瑠あらる喧嘩けんかしたの?」

「うん。まあね。」

フフっと笑って答える。

あらたがこうなっている時はだいたい明瑠あらる喧嘩けんかしている。

「はやく帰ってあげないと、明瑠あらるたち心配するよ。」

「そうだね。」

やっぱり笑う。

でも、どこが悲しい声。


その後は2人とも何もしゃべらなかった。

静かな中、私が帰ろうかなやんでいると、

「ねぇ、美海みうな。」

あらたがきいた。

「何?」

美海みうなはさー。✕✕✕✕✕✕✕✕……」

                                  




「私ね…あらた自殺願望じさつがんぼうがあるってしってたの。」

明瑠あらるたちは今どんな顔をしてるだろう。

自殺願望じさつがんぼうっていっても本気だったのか、うそだったのかよくわからないんだけどね。」

心に少し残る恐怖きょうふを落ちかせるようにつけくわえる。

あらた…死にたいって思ったことがあるって。」

あの日…あらたはそういったんだ。

                                   




美海みうなはさー、死にたいって思ったことある?」

「え…急になにいってるの?」

「俺はあるよ。」

ほんとに急だった。

「死にたいって思ったこと…何度も。」

急すぎて何も反応ができなかった。

「考えてたんだ。死んだらどこに行くのかな?って。そしたらね。星になるんじゃないかって。あんな綺麗きれいな…輝く星に。」

そうつぶやあらたの目は輝いてみえた。
でもどこか悲しげで何かを隠すようにもみえた。

「なにいってるの?」

なんかを言わなきゃいけない気がした。

「あ、俺は綺麗きれいなほしになんてなれないかな?なれて…そうだな、目立たない小さな星かな?」

あらたが笑う。

「1番綺麗きれいに光る一番星の横で必死ひっしで輝こうとする目立てない星かな……」

そして、悲しそうな顔もする。

「バカ言わないでよ。」

「ふふ…そーだね。ばかだよね。ごめん。」

また静かになる。

「飛び降りってさ。」

「え?」

あらた真剣しんけんな顔になって話し始める。

「1番楽な死に方なんだって。周りから見てるとすごくいたそうなのにね。」

「やめてよ」

「俺弱虫よわむしだからさ、屋上おくじょうからはさすがに無理だけどここからなら行ける気がする。」

「やめてよ!」

さっきよりも大きな声で叫んだ。

「あ、ここからじゃしねないかな?」

なのにあらたは笑って話す。

「やめてっていってるじゃん!あらた!」

今まで出したことのないくらい大きな声がでて、自分でもびっくりした。

「ごめん、美海みうなうそだよ…。冗談じょうだんだよ、冗談じょうだん。ほんとにごめん。ちょっとやりすぎた。」

さっきまでのあらたの声はうそには聞こえなかった。

「じゃあ、俺帰るね。明瑠あらるに謝んなきゃ。」

それで解散かいさんした。

                                 




あらた冗談じょうだんだっていった。うそだって。でも、私にはうそになんて聞こえなかった。」

海流かいる達はすごく驚いた顔をしていた。

「自殺…だったってこと?」

「…それは、わからない。でも、あらたの心の中に死にたいって気持ちはあった…と思う…。」

部屋の中に冷たい緊張感きんちょうかんが流れる。

「でも、このことは誰にもいうなって。
心配かけたくないからって。あの日の次の日もたまたまあらたと会って話したの。」

                                  




次の日の夜も同じようにあらたにあった。

「またいる。あらた。」

美海みうなこそ何しにきたの?」

「犬の散歩さんぽだよ。いつもこの公園通ってるの。」

「ふーん…」

興味きょうみのなさそうな適当てきとうな返事がかえってきた。

「また明瑠あらるとケンカ?」

「今日は違う。ちょっと星が見たくなって…。」

首を横にふりながらいう。

「また死にたいって考えてた?」

「だからうそだっていったじゃん。」

「ねえ、あらた。」

こうゆうときなんていったらいいかわからない。

「…私は…あらたが死んだら悲しいよ…?明瑠あらるだって。みんなだって。」

何を言っているんだと思った。

もし、あらたがほんとに死ぬ気だとしても私がいってもあらたの心には届かないのに。

「…大丈夫だよ。ありがと。」

そーゆーあらたは悲しい顔をしていた。

「…」

私は何も言えなかった。

「はぁー、フフッ。」

あらたは一度ため息をついてから笑っていった。

「…死にたいって…思うよ。たまにね。」

あらたがポツリと呟いた。

「俺なんかこの世界にいない方がいいんじゃないかって。泣きたくなる日もある。
みんなといる時はすごく楽しいし、つらいことも忘れれる。
でも、たまに距離きょりを感じる。
俺とみんなの間にさ1本の太いヒビが入ってて、割れるんだ。俺は1人で取り残されて。みんなは笑ってる。
俺だけ置いていかれて、助けをよんでも誰も気づかないんだ。そう考えるとほんとにこわい。」

私はなにをいったらいいのか分からなかった。

明瑠あらるなら?海流かいるなら?

なんて声をかけるだろう。
あらたを安心させてあげられる言葉はなんだろう。

「あ、でも、死のうと思ったことはないよ?」

私をみて、安心されるようにいう。

「ごめん。聞いてくれてありがと。」

あらたはそういってすべり台を滑り降りた。

「でも、明瑠あらるたちには内緒ないしょにしといてよ。いったら絶対心配するからさ。」

あらたは私の方を向いてニコッと笑った。

そして手を振りながら家に向かって走ってった。

結局私はなにも言うことはできなかった。






「つらいことがたくさんあって死にたいって思ったことはあるけど死のうと思ったことはないっていった。あらた…。」

ふっと出てきた言葉。

あの会話の中で少し安心した言葉。

「でも、あらたはしんだ。」

外の風が強く吹いた気がした。

「じゃあ…あらたは自殺だったっていうのかよ。」

海流が静かな声でいう。

「俺たちがあらたを傷つけたから…って。俺たちのせいであらたは死んだっていうのかよ。」

海流かいるが頭を抱えた。

「あの日…私じゃなかったら…。」

「え?」

海流かいるのいう言葉が心にさった。

あらたは自殺?

そんなこと聞かれてもわからない。

あらたの言葉がどこまでがうそでどこまでがほんとか。

そんなことわからない。

でも、何度もおもった。もしかしたら私が原因なんじゃないかって…。

「あの日あらたの話を聞いたのが私じゃなくて、明瑠あらるだったら…海流かいるだったら…って何度も思った。考えた。」

これが私のあらたに対する後悔こうかい

明瑠あらるだったらなんて声をかけてあげたんだろって。私じゃなかったらあらたなやみを少しでもなくしてあげれたんじゃないかって。」

何度も思った。

あらたが死んでからあらたの写真を見る度に昔を思い出す度にそのことが頭からはなれなかった。

「変わらないよ…。私もなんて声かければいいかわからない。きっと私も何もいえないよ…。」

明瑠あらるが気を使うようにいってくれる。

「私…ずっと思ってたの。なんで…あらたは私に…私だけにいったんだろうって。」

あらたが死んでから…ちがう。

死ぬ前からずっと思ってた。

なんで…あんなことを私にいったのかな?って。

「ずっと近くにいた明瑠あらるにも海流かいるにもいわなかったことをなんで私にいったのかなって。」

「ずっと…近くにいたからじゃないないかな?」

「え?」

「ほら。あるじゃん。近くにいすぎていえないこと。家族にとかいえないことってあるじゃん?」

明瑠あらるが無理やり笑っていう。

「きっとさ。あらたにとって近すぎず…だからといって遠すぎない…。そんな存在が美海みうなだったんじゃないかな?」

明瑠あらるの優しい声。

いつもいつもつよがりで人前だと力が入りすぎてしまう私に安心感をくれる。

私の親友しんゆうの声。

きっと私はそんな言葉をまってた。

今まで誰にもいえなくて、1人で抱えていたけど誰かに優しい言葉をかけてほしかった。

私のせいじゃない。

あらたが死んだのは私のせいじゃないって。

誰のせいでもない。

自殺でもないって。

誰かに否定してほしかった。

「つらかったね。ごめんね。1人にして。」

そういって明瑠あらるは包み込むように私を抱きしめる。

弱いところなんて見せたくないのに自然と目からしずくがおちる。

しずくと共に今までまっていたものもこぼれ落ちて少し楽になった気がした。

                               





少し落ち着き、解散かいさんしようとするとつむぐが入ってきた。

「...俺の話も聞いてくれない...かな...。」

悲しそうな顔をしていたがどこか決心けっしんがついたような目をしていた。


「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く