生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
相馬 海流 ①
明瑠が好きだ。
小さい頃からずっと一緒にいた、明瑠のことが好きだった。
でも、近くにはかなうはずのない新がいて…
俺は見守ることしか出来なくて、新が死んでチャンスかもなんて馬鹿なことを考えた自分がいて、そんな最低なことを考える自分が昔から嫌いで。
それに比べて新はかっこよくて。
でも、認めたくなくて、なんでもできる新が羨ましくて、明瑠にも好かれる新が憎くて…だんだん醜くなっていく自分が許せなかった。
はあああ
俺は大きく口を開けてあくびをしながら、1階に降りる。
「あ、おはよ。海流。」
母ちゃんがリビングから俺に気づきすぐに挨拶をしてくる。
「おはよ。」
ボソッと呟くと、奥からまた聞き覚えのある懐かしい声で「海流、おはよ。」といった。
その声に俺は咄嗟に振り向いた。
昔、何度も何度も聞いた声。
振り向いた先には新がいた。
あ、そっか。今はいるんだった。
「ん?どーしたの?海流。」
急に振り向く俺を見て母ちゃんが心配する。
「え…な、なんでもない。」
なぜか新は俺たち幼なじみの5人にしか見えないらしい。
最初はもちろん疑った。
こんなところに死んだはずの新がいるはずないって。
明瑠がいったことも納得できた。
でも、なぜかすぐに疑うことをやめた。
「母ちゃんなんか手伝おうか?」
洗面所にいって顔などを洗ってからリビングにもどった。
「うーん…。明瑠、起こしてきてくれる?」
「ん、わかった。」
「あ、俺もいくー。」
母ちゃんに頼まれて返事をすると新が反応してきた。
「お前は来んな。」
「え?」
新を睨みながら言うと先に母さんが反応した。
「あ、いや…なんでもない。」
新のことが見えない母さんは不思議そうな顔をしていた。
トントン…
「明瑠…もう朝だぞ。起きろ。」
ドアの前でいっても返事がなかった。
「入るぞ。」
そういって、ドアを開けて中に入る。
「明瑠。」
名前を呼びながらつつく。
ん…んん…。
少し動き、向こうをむいていた顔がこっちを向く。
え…。
明瑠の目から頬にかけて一筋の線ができていた。泣いていた。
「あ…た…。ご………ね……。」
ボソッと何かをいった。
でも、よくは聞き取れなかった。
顔を近づけてもう一度聞く。
「新…。ごめんね……。」
今度ははっきり聞こえた。
どうしたらいいかわからず胸が少し苦しくなった。
「…明瑠。」
もう一度名前を呼ぶとゆっくり目を開けた。
「……海流?」
俺を見てそー呟くと状況をつかむのに時間がかかったらしく、しばらくじーっと見てから、いきなり起き上がった。
「な、なんで海流がここにいるの!」
目から零れた涙を隠しながら拭い叫んだ。
「母ちゃんに起こしてこいっていわれたんだよ。」
「変態!」
「はぁ?なんでそーなんだよ。つーか、昔は一緒に寝てたじゃねーかよ!」
「昔と今は違うでしょ!」
顔を真っ赤にしながら明瑠が叫ぶ。
新が死んでから明瑠はみんなの前ではあまりなかなかったが家に帰って俺と2人になるとよく泣くようになった。
寝る時もよく泣くため一緒に寝ていることがあった。
「はぁぁー、まあ、いいだろ。早く下来い。母ちゃんが待ってる。」
「え、うん、わかった。」
俺が冷静になるとそれがうつったように明瑠も冷静に静かになった。
「ね、ねぇ、海流…。」
「ん?」
部屋を出ていこうとドアを開けた瞬間、明瑠に止められた。
「新…いる?」
俯きながら聞いてくる。
「うん、、、」
息をするようにうなづく。
「そっか…夢じゃなかったんだね。」
ありえないことなのに、否定することすら俺らは出来なくなっていた。
俺はそのまま部屋をでて、下にいった。
「珍しいね、明瑠と喧嘩なんて。」
階段のすぐ下のところに、新がいた。
今は会いたくなかった。
明瑠がまたこいつのせいで泣いてるから。
新を睨みながらリビングに戻る。
「明瑠は?」
「起きたよ」
椅子に座った俺を見て、母ちゃんが聞く。
「そう…」
新に聞こえていたんだから母ちゃんにも聞こえていたであろう喧嘩の声に触れてくることはなかった。
「おはよ。凪海。」
「おはよ。」
すぐ明瑠が降りてきて、椅子に座った。
「いただきまーす。」
食べ終わってそれぞれが部屋に戻っていく。
新は「ちょっと街を見てくる」とかなんとかいってどっかにいってしまった。
トントン
「はい」
部屋のノックをすると中からすぐに返事がかえってきた。
「入っていいか?」
「どーぞ。」
ドアを開けるとベットの上で明瑠が本を読んでいた。
「どーしたの?」
「いや…なんか、どーしたらいいかわかんなくなって…」
別に用があったわけではなかった。
ただ、なんとなく1人でいる気分ではなかった。
「新のことだよね。」
なんとなくわかったような顔で聞いてくる明瑠に俺は頷く。
「どーなんだろうね。私も…よくわかんないの。」
「明日…集まるか…。」
俺はボソッと呟く。
「珍しい…海流からそんなこというなんて」
明瑠は耳がいい。
だから、俺がボソッと言った言葉にもすぐに反応した。
「だって…1人でいるといろいろ考えちゃって。」
「いろいろ…?」
「うん…」
不思議そうに最初、聞いてきたが、俺の顔をみて、何かを察したのか少し黙り、それ以上は何もきいてこなかった。
明瑠はいつもそうだ。
なんでもお見通しだ。
だから、嘘はつけない。
隠し事もできない。
俺のことを1番よく分かってる気がするから。だから…1番…信頼できる。
「美海たちに連絡してみるね」
明瑠はそういって携帯を手に持った。
「あぁ」
「美海、行けるって。」
返事はすぐ来たらしい。
その後、紡と千崎からも「行ける」という連絡がきた。
「…千崎、大丈夫かな?」
少し話したあと明瑠が呟いた。
「昨日も様子おかしかったもんな。」
「うん…。あの日のことも…結局あやふやだし…。」
あの日…新が死んだ日のことだ。
新を1番初めに見つけたのは千崎だった。
でも、なんで見つけたのか。とか、その時の様子とか震えるだけで何も言おうとはしなかった。
「俺達は…何に怯えてるんだろう。」
「え?」
明瑠に反応されて自分が無意識に何かを言ったとわかった。
「え?俺…何かいったよな。今。」
なんか恥ずかしいことを言った気がする。俺らしくない。新がいいそうな、言葉。
「き、気にすんな。」
顔が熱くなっていくのがわかった。
明瑠は俺をみて、ポカンとしている。
「なんか海流っぽくないね」
明瑠が笑う。
やっぱり何かいったらしい。
「でも、そーだよ。新に会えたのに。嬉しいのに喜べないの。」
「俺もそーだよ。たぶん、みんなそう。」
部屋の中が静かになる。
「なんかしんみりしちゃったね」
この静かな空間を紛らわすために明瑠が笑っていう。
また少し話してから自分の部屋に戻った。
トントン
「海流?起きてる?」
次の日の朝。
ちょうど目を覚ましたと同時に明瑠の声が聞こえた。
「あぁ」
「先に行ってるね。」
「新は?」
「下で寝てる」
「そっか。すぐ行くわ。」
「うん。」
小声でそんな話をしながら起き上がって準備にする。
「いってきまーす」
新に聞こえないようになるべく小さな声でいう。
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