生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
5人の再開
高2の夏休みのある日の夜。
プルルルルルル…プルルルルルル……
私の携帯に1つの電話が入った…。
見ると『砂中  美海』と書いてあった。
「美海かぁ…。」
ベットに寝転がっていた私はベットの近くにある小さなテーブルの上に置いてある携帯に手を伸ばす。
「もしもし…。」
『出る』のボタンを押し、眠気をおさえながら、電話に出る。
「も、もしもし…?明瑠…?」
気のせいか少し震えているように聞こえた。
「美海?どーしたの?」
起き上がりながら聞く。
「あ、あらたが……。」
聞き覚えのある名前で一気に眠気が飛んだ。
「え…?なんて?」
しばらくでていなかった、その名前が出てきて、聞き間違えだと思いもう一度聞き返す。
「新が…いるの…。」
今度ははっきり聞こえた。美海は震えた声で『新』とはっきりいった。
「え…。何…いってるの?」
ほんとに何を言ってるか分からなかった。
「新が…いるの。」
美海はもう一度くり返していった。
「……」
しばらく沈黙が起こった。美海の言葉に頭が追いつかなかった。
「…えっと。ごめん。美海。ちょっと意味が…わかんない…」
たぶんしばらく時間をおいて落ち着いたとしても答えは同じだったと思う。
「そー…だよね…。ごめんね。変なこと言って。きっと、見間違えたのかも…。」
電話からでも美海の怯えは伝わってきた。
「美海…、大丈夫…?」
普段、嘘はもちろん、冗談さえ言わない美海なのにこんなことを言われてどーしたらいいのかが分からなかった。
「…うん。大丈夫…。ごめんね。変なこと言って…。じゃあ、またね。」
本人は大丈夫といっているけど、声を聞く限りは大丈夫とは思えなかった。
「ま、まって。美海!」
後のことなど考えずこのまま切ったらダメだと思った私は電話をきろうとした美海を反射的に止めてしまった。
「え、えっと…。ごめん。特に言うことはないんだけど…。」
自分から止めたくせに美海も困らせてしまった。でも、緊張が和らいだのか電話の中から小さな笑い声が聞こえた。
「美海…。何があったの…?」
「あのね…。信じて貰えないかもしれないけどね。新がいたの。」
少し間があって、ゆっくり話し始めた。
震えてる…でも、さっきよりは少し落ち着いた声だった。
「体格も顔も大人になってて、最初はね、見間違えかと思ったの。でも……なんでか…なんでかわかんないけどね、新だ!っておもっちゃったの。」
美海の口から信じられない言葉がたくさんでてくる。
「でも、わかんないの。新はもう…し…いないから、ここにいるはずなんてない。なのに、あれはほんとに…たしかに…新だったの。」
「見間違えとか…ほんとになくて?」
美海のいうことは信じたい。
実際美海は嘘なんかついたことなかったし、冗談さえも言ったことがないから本当なんだろうけど、内容が内容だ。
「ずっと見てきた、新を見間違えるわけないよ…」
「…そーだよね。ずっと一緒だったもんね。私達。正直まだ信じ難いけど…美海のことは信じてる…。だから、信じる…。」
どういったらいいのか分からず言葉がたくさん出てきてしまう。自分でも何をいってるのか分からなくなってくる。
「…ねぇ、明瑠。明日…久しぶりに集まらない?私たち…。5人で…。全員集まるかはわかんないけどさ…。私…このままじゃダメな気がする…。」
美海の言いたいことが分かった。
新がいなくなって、5人はバラバラになった。ずっと一緒だったのに一気にバラバラになった。何の前触れもなく…。
気がついたら、それぞれが違う場所にいた。
「そーだね。集まろ…。」
「うん。千崎と紡には私から言っとくね。」
「じゃあ、海流に言っとくね。」
「うん。お願い。じゃあ、明日…いつもの場所で…」
「わかった。じゃあね。」
最後は静かに電話が終わった。
電話を切ると真っ先に隣の部屋に向かって行き、ノックをした。
「はい。」
中から声がする。
「海流?明瑠だけど…入っていい?」
久しぶりに会話をする気がする。
新がいなくなって、大きくなるにつれて、まともな会話が減っていた。
「どーぞー。」
中は綺麗に片付いていた。
「どーした?明瑠、」
昔と変わらない優しい声で少し安心した。
「うん…。なんかね、」
なんでか、少し緊張した。
「美海が明日久しぶりに集まらないかって…」
「…集まるって、誰と?」
少し間があり、真面目な声になって聞いてきた。
「…分かってるでしょ。」
こうなることはわかっていた。
みんな思い出したくないんだ。
あの時のことは。
みんなが、それぞれが、いろんな後悔を抱えてるから、みんなそれをうっすらとわかってるから誰も触れずバラバラになった。
でも、今集まって、どーなる?
それはみんなが思ってる。
もちろん、美海だって思ってるはずだ。
「…はぁ、なんで今さら…」
ため息をつかれた。
「……美海が…新を見たって……。」
呟いた瞬間海流の表情が変わったのがわかった。
「……は?」
怒りと恐怖が混ざったようなそんな顔をした。
「何のじょーだん?」
全く信じない感情のない声だった。
当たり前だ。こんなの簡単に信じるほうがどーかしてる。
「冗談じゃないよ…」
目をそらすように私はいう。
「ついに美海もお前も狂ったか?」
海流が話をながすように冗談交じりでいう。
「狂ってない。」
「で?明日行くの?」
私は逃げるように話を戻す。
「んー、紡来んだろ?」
「うん。美海が呼ぶって言ってた。」
「んー、じゃあ行く。」
「いつもの場所だって。」
「りょーかい。…つーか千崎は来んのかよ。」
「……美海が呼ぶって…。来るかは…わかんない。」
「ふーん。まあ、いいや。」
「じゃあ、また明日ね。おやすみ。」
「んー、おやすみ〜」
あくびをしながらいう。
私はそのまま海流の部屋をでて、隣にある自分の部屋に戻ってベッドに寝転がった。
次、目を開けると朝になっていた。
伸びをして、部屋のカーテンを開ける。
太陽の光が部屋を照らす。
1階に降りていき、海流の母の凪海に挨拶をして、洗面所へ向かう。
「明瑠、今日はどっか行くの?」
洗面所から戻って来た私に凪海が聞く。
「うん。ちょっと、遊んでくる。」
「そう、行ってらっしゃい。」
いつものように微笑んでいう。
ご飯を食べて部屋に戻る。準備をし終えると同時に家のチャイムがなった。
「はーい」
という凪海の声がして、少し話し声がしてから、
「明瑠ー!美海ちゃん来たよー、」
と下から呼ばれた。
「はーい」
と返事をして、まっすぐ玄関に向かわず、隣の部屋に寄り道をする。
「海流。いつでもいいから来てね。」
海流に一言だけいって、玄関に向かう。
「美海おまたせ!」
急いで、美海のもとへ行く。
「いってきまーす。」
と大きな声でいい、私は家を出た。
「海流…くる…?」
「うん。来るよ。」
心配そうに聞く美海に笑って答える。
「2人は?」
「うん。来る……と思う…。」
また美海が心配そうに答える。
そんな話をしながら、しばらく行くことも近づくこともなかった6人の秘密基地を目指して歩く。昔は通れた道も草が生い茂って通れなくなっていた。
______変わっていく。何もかもが変わっていく。あの日。新が死んだ日から全てが変わる。
やっとのことで秘密基地に着いた。
「わぁー、ここは変わってないね。」
少しボロくなって、今にも崩れてしまいそうで、中もほこりっぽかったけど、昔と全然変わっていなかった。
「明瑠〜。みて。」
美海が指を指した方を見ると、壁いっぱいに貼られた写真と文字がたくさんあった。
昔、新がいたころたくさん写真を撮って貼ったものだ。
「懐かしいね。」
そういうと、少しのあいだ沈黙が続いた。
昔が少し蘇って来たのだ。
それは全てがいい記憶。全員が笑っている記憶。
「掃除…しよっか。」
我にかえった美海がいう。
「……え?」
思ってもみなかった言葉に何もでてこなかった。
「ん?どーしたの?」
美海が当たり前でしょ!といっているような顔で聞いてくる。
「わ、私…関係ない…。」
知らん顔をして逃げようとすると、後ろから肩を捕まれ、動けなくなった。
結局、共に掃除をすることになった。
「んっっ!はぁぁぁあ、」
2人で大きく伸びをし、ため息をつく。
「あぁぁ、やっと終わった…」
1時間もかからないくらいだったがへとへとになった。
その後すぐ、海流がきて、私が睨みながら「遅い……」というと「すまんすまん。」
と軽くながされた。
中に入って待っていると2人も意外とすぐに来た。
「で?なんで集められたんだ?俺らは。」
全員集まると海流が美海に聞いた。
「あぁ、たまには集まりたいかなぁ…みたいな…?」
ほんとの目的を隠すように美海がぎこちなく笑う。
「……。」
誰も何もいわない。みんなわかっていたんだ。きっと。なんとなく。
「はぁぁ、」
美海がため息をつき、真剣な顔になる。
「昨日、新がいたの。」
嘘をつくのは無駄だと思ったのか、迷いもなく、躊躇わずいった。
・・・・・・。
さっきよりも長く沈黙が続いた。
「…え、は、ちょ、ちょっとまて。」
ようやく話の内容を理解したのか、海流が動揺する。昨日、私がいったことは私の冗談だと思っていたようだ。
「ど、どーゆーこと?」
紡も驚いた顔で反応する。
千崎も声は出してないけど、顔はすごく驚いていた。
「ごめん。美海。私もやっぱわかんない。」
美海は嘘が嫌いだ。だから、絶対嘘はつかない。絶対。だから信じたかった。でも…内容が内容だ。
「そーだよね。急にごめんね。」
やっぱりな…という顔に顔が緩み、微笑む。
「どこに…いたんだよ。」
少し落ち着いた海流がいう。
「家の前。昨日…夜の10時くらいだったかな?公園の前の道を成長した新がね、歩いてたの。」
「そんなの…!」
「信じれないよね。」
やっと声を出した千崎に、いうと思ってたよ、という顔ですぐさまかえす。
「成長してたの。新。だから、最初は疑った。新なわけがないって。でもね、わかんないけど、思っちゃったんだよ、あぁ、新だ!って。」
「なんで…そんな…」
美海の言葉にみんなどう反応していいかわからないでいた。
「そんなのあるわけないよ。第一!あーくんは…もういない。あーくんは死んだの!私たちの目の前で!こんなところにあーくんがいるわけないよ…!」
涙目になって千崎が必死で叫ぶ。
「…!…私…。帰る…。」
叫んだ後、はっ!っとした顔になって静かに呟いて、秘密基地を出ていった。
「え?千崎?」
とめる間もないくらい、さっさと帰ってしまった。
「みんなが信じれてないのは分かるよ。千崎がいうことも正論だ。でも、信じてほしい。」
千崎がいなくなって静まり返ったあと、美海がもう一度いった。
「いや…信じてって…いわれても…なぁ?」
紡と目を合わせ共感を求める。
「べつに…美海の言葉を疑ってるわけじゃないよ?でも…内容が内容だから…」
紡が気を使うようにいう。
「そー…だよね。」
シーン…とした部屋の中で外で吹く風の音が響く。
タッタッタッ…
そんな中外で何かが近づいてくる音がする。
「な、なんの音?」
どんどん近くなる音に美海が少し震えながら私の方に近づいてくる。
「誰か…くるな…。」
珍しく海流も震えた声を出した。
「ど、どうするの?」
私も美海の手を握る。
キィィ…と古くなったドアがあいた。
「千崎…」
ドアを開けたのは千崎だった。
ハァハァハァハァ…
相当走ったようですごく疲れていた。
「なんだよぉ。千崎かぁ。」
4人の力が一気にぬける。
「どうしたの?ちーちゃん。」
紡が安心したようにきく。
「あ、あーくんが…いるの……。」
その声はあの日のように震えた、怯えた声だった。その瞬間もう一度4人に緊張が走った。
「ど、どこに?」
「昔、みんなで遊んでた小さな池があったでしょ?あそこ。」
息を整わせながらゆっくりいう。
すぐに美海が走り出す。
「ま、まって、美海!私もいく!」
すぐにほかも動き出す。
昔、よく遊んだ、小さな池のようなところがあった。
小さな子供の膝くらいの高さの水が透き通るように綺麗な池。
魚がたくさんいて、魚釣りとか、つかみ取りとかたくさん遊んだ。夏は泳いで、冬は凍った水の上をスイスイ滑った。
あそこに新がいる。会える。嬉しい。なのに、怖い。会いたいのに会いたくないと思ってしまう。
私よりも先にいた美海が止まるのがみえた。
私もとまる。下を向いていた顔をゆっくりあげる。
「……新?」
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