生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
忘れたい思い出
小6の夏休み新が死んだ。
私と新には訳があって両親がいない。
だから、海流の家で小さい頃から暮らしていた。
紡のおばあちゃん家は森の中の緑に囲まれた所にある。私達6人は毎年夏休みにそこでお泊まり会をしていた。
その日もそうだった。
山の奥の崖の下で新は見つかった。
新はいつも元気でヤンチャでいつも私達の中心にいた。
                                 
小6の8月1日。
その日は私(明瑠)と新と海流と紡と美海と千崎の6人で毎年恒例の紡のおばあちゃん家でのお泊まり会だった。
午前中は川とかでたくさん遊んだ。
午後からは野菜を食べたりおばあちゃんの話し相手になったりと楽しかった。
夜になってみんなが寝て、静まりかえった頃…。
事件が起こった。
タッタッタッタタタ……。
まだ夜中なのに外で足音がした。
「ハァ…ハァ…みんな…!起きて…!」
その千崎の大きな声でみんなが目を覚ました。
「ん…。どーしたんだよ…。」
みんなゆっくりと起き上がる。
「あーくんが…。あーくんが…!」
泣き叫ぶ千崎にみんなビックリする。
「新?」
千崎に言われ、新の方を見ると寝ているはずの新はそこにはいなかった。
「き、来て!」
急なこと過ぎて全く状況が掴めなかったがとりあえず泣きながら言う千崎についていった。
「おい!千崎!どこいくんだよ!」
千崎は海流の声など聞かずただひたすらに目的地だけを目指して走っていた。
千崎がとまったのは崖の上だった。
「どうしたんだよ?こんな所に来て。」
海流が聞くと千崎は崖の下を指さした。
「え…?」
その光景を見た瞬間そこにいた全員が言葉を失った。
指さした先には傷だらけの新が倒れていた。みんな新の名前を必死に叫ぶ。
でも、反応はなかった。
1番最初に動き出したのは海流だった。
それを見て我に返ったようにみんな動き出す。
「新!しっかりしろ!」
海流が呼びかけたけど、もう返事はなかった。
その後すぐ、救急車やパトカーが来て大騒ぎになった。
新はすぐに病院に運ばれたがついた頃にはもう遅かったらしい…。
その年の夏休みは忙しかった。
取り調べを受けて、お葬式をやって、本当に忙しかった。
新は事故死とされた。 
たくさん泣いた。
もう涙なんか出ないんじゃないかってくらい…たくさん…。
この時の私達はまだ知らなかった。
それぞれが抱えていたいろんな後悔を…。
夏休みが終わろうとしていた頃、6人の秘密基地に5人が集まった。
「なあ、千崎。あの日何があったんだよ?」
「えっ…?」
急に喋り出す海流に驚く千崎。
「あの日のこと知ってんの、お前しかいないんだよ!何であの日、新を見つけた!」
海流が少し涙目になって言う。
それはここにいる全員が気になっていることだ。
「……っ!」
千崎が何かを言おうとしたが言うのをやめた。
「千崎?言いたい事があるなら言っていいんだよ?」
私がそう言うと千崎は一度私を見てから、下を向いて泣き始めた。
「…かん……の…。」
小さい声で千崎が言った。
「え?」
紡が不思議そうに聞く。
「…分かんないのっ!」
今度ははっきりとした声で言う。
「分かんない?じゃあ何でお前はあの時に新を見つけれたんだよ!」
腹を立てたのか海流が千崎に怒鳴る。
それにビックリしたのか千崎が大声で泣き出す。
「もうやめようよ。みんな。千崎を責めすぎだよ!」
黙っていた美海が千崎の背中をさすりながら言う。
「…。」
これには海流も対抗できなかった。
「そ、そうだね。今日はもう解散しようか。」
紡の言葉でその日は解散した。
でも、結局それから集まることも、連絡を取ることもなく夏休みが終わった。
始業式の日の朝。
「風奈   新くんが8月2日の朝方に亡くなりました。」
と先生から告げられた。みんなすごく驚いていた。泣いている子もいた。
その日5人が久しぶりに集まった。
でも、結局そんなに喋れなかった。
「なんか新いないと静かだね。」
紡が笑いながらいって、私達も静かに笑う。
「新いる時はうるさいとか思ってたのにな。」
「何で新なのかな…?」
「ちょっと!もうやめようよ。この話…。」
海流と私が言って少し涙目になった美海がとめに入る。
「ダメだね。新のことを考えると涙が出ちゃう。」
泣いている美海の背中をさすりながら私も必死で涙をこらえる。
あの日以来、千崎は私達を避けるようになった。
私達も何も言うことも出来ず、よく4人でいるようになった。
でも、みんなよくぼーっとしたり、悲しげな表情をしたりとそれぞれが何かを抱えている。
中学に上がってからもそれはそんなに変わらなかった。 
「海流ってやっぱり部活は陸上部?」
「え?あぁ。」
美海が聞くと海流の顔が少し暗くなった気がした。
「ふーん…。そっかぁ〜。明瑠は?」
「え?私は…。」
私と海流と新は小さい頃から地域の陸上クラブに入っていた。
みんなそこそこ足は速くていい所までは行っていた。
特に新は全国大会に出場するほどだった。
小6の新にとっての最後の大会も海流に勝ち、全国大会へ進んだ。
私は海流と新が2人で走っている姿を見るのが好きだった。
「私は…陸上部のマネージャーでもやろうかな…。」
新が死んでから私はクラブを止めた。
海流は続けたけど、前ほどの記録は出せないでいた。
「明瑠はもう走らないの?」
紡が悲しそうな声で聞いて来る。
「……うん。私は足遅いし…。」
「新がいないからだろ?」
「…え?」
海流が意地悪に言ってくる。
「ち、ちがうよ!」
とっさに言葉を返す。
「違うくないだろ?陸上始めたのだって、大会でいい記録だせてたのだって新がいたからだろ?」
「……っ。」
泣きそうな顔をして怒鳴る海流に何も言い返せなかった。
「何で…?…何で…そんなこというの…?」
いつも真面目であまり感情を表に出さない海流がまるで別人のようで少し怖かった。
「…ねぇ、海流。あんた今日変だよ!今日だけじゃない、あの時…陸上の大会のときから変だよ…。」
美海が何か分かっていて海流を探っているようにいう。
それを聞き、何か怯えたように海流が動揺する。
「あんたさ、あの日、新に何を言ったの…?」
私にはそれがどーゆー意味かが分からなかった。
確かに陸上の大会の後から新と海流の様子がおかしくて何かあったなとは思っていた。
新に聞いたこともあった。
「……!」
美海の言葉に対し、海流は何かを言いたそうだったけどうまく言葉が見つからない感じだった。
「もうやめよ。」
とめたのはまたも紡だった。
でも、そう言った紡の声はなぜか震えていた…。
中学生になると5人はもちろん4人で集まることも減っていった。
海流は家でもたまにしか話さなくなり、千崎は全く話さなかった。
私や美海が話しかけようとしても逃げていくようになった。
美海は相変わらずよく喋り、1番の親友だった。
紡も向こうからよく話しかけてくれた。
高校は紡と千崎は頭のいい学校に私と美海と海流は家から近い頭が悪くも良くもないごく普通の学校に入学した。
美海と話す回数は減ったけど登下校はいつも一緒だった。
あの日以来、新の話がでることは海流の前でも、美海の前でもなかった。
今は触れてはいけない気がしたから…。
今触れたら今度は本当に離れ離れになってしまう気がしたから…。
今のこの状況を新は許してくれるだろうか。
「俺がいねぇーとこんなに仲悪いのか?」と笑ってくれるだろうか。
でも、それ以前に私は…新に合わせる顔がない…。
新は私を…許してくれるだろうか…。
最低な私を…許してくれるだろうか。
そして、時は過ぎていき……。
高校2年生の夏、事件が起こったんだ……。
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