魔法創作師見習いの恋魔法
グランデル魔法学園♪
グランデル魔法学園
その敷地は、何とグランデルの約4分の1を占めるという程の大きな学園である。
だが、その殆どが魔法演習場や剣術闘技場などの訓練施設となっており、講義や実験施設は普通の学校と同じ程度の広さであった。
即ち、それは魔法というものが如何に大規模な範囲攻撃なのかを示しているに他ならない。
マリーナ曰く、たった一回の大規模魔法で、街一つを焼け野原にする事も出来るのだと言う。何ともスケールの大きな話である。
僕達3人は、学園の話で盛り上がりながら、徒歩で魔法学園へとやって来た。
ローズベルト家の屋敷から学園の敷地までは、徒歩で約15分程度といったところか、元々学園の土地はローズベルト家の土地であったのだが、学園を建設する為にマリーナが私財を投じて設立したのだという。
なので屋敷から学園までは目と鼻の先にあった。因みに女子寮もまた、ローズベルト邸を一部改築して建設してある。
「それではソータ様、私は先に教室の方へ向かいます。また、後ほどお会いしましょう!」
「うん。サターニャまた後でね!」
門の前でサターニャと別れた僕達は、学園長であるマリーナの部屋へと向かった。
一旦、僕の担任となる先生と顔合わせをし、学園での注意事項を聞く為である。
先に学園長室に入った僕とマリーナは、部屋の中にあるソファーへ隣り同士で腰掛けた。
「どうだ、ソータ。この学園は?」
「うん、魔法学園っていうからもっと暗いイメージだったけど、思っていたのと違って明るくて良い雰囲気な所だね。」
某映画で有名な魔法学校は、どんよりと薄暗く、寮には幽霊が出るなど、あまり良いイメージではなかった。
しかし、このグランデル魔法学園は建物も綺麗で明るく清潔に保たれており、すれ違う生徒達の表情も生き生きとしていた。
「そうか!君が気に入ってくれたなら良かったよ。そもそもこの学園はだなぁ……」
『コンッコンッ!』
マリーナと学園の話で盛り上がっていると、部屋をノックする音が聞こえた。
これから何か言おうとしていたマリーナであったが、自分の話よりも部屋の前に居る人物を優先させ、〝入りたまえ〟と言って学園長室へと招き入れた。
「失礼しま〜す♪」
扉が開き、軽い挨拶と共に部屋の中に入ってきた人物は、黒を基調としたローブに白いラインがアクセントのマントを着ており、紫苑色の腰まで伸びた長い髪。細長の目で丸く大きなメガネを掛けている。一番印象的なのは〝胸〟である!ローブ越しからでも分かるくらい大きく、歩く度に〝プルンプルン〟と揺れている。それでいて色気は感じさせず、何だかほんわか、おっとりした大人の女性だった。
「キミがソータ・ローズベルト君ね!初めまして〜今日から貴方の担任になったエリーナ・ローズベルトで〜す♪」
軽い!魔法学園の先生と言うからには、もっと威厳のある傲慢な人を想像していたのだが、あまりにも軽過ぎる挨拶だった。
まぁ、学園長がマリーナだしなぁ…こんな先生が居てもおかしくはないか。
うん!? ローズベルト??はて?僕の聞き間違いかな?この先生は今、ローズベルトと名乗ったような…。
ローズベルト家といえば貴族の中でも名門中の名門である。
そんなローズベルトの苗字が、日本での田中などのように幾つも存在するはずがないのだ。
「あの〜。先生今、ローズベルトって言いましたか?」
「あらあら、早速気付いちゃいましたか!?ふふふ。実は、私はマリーナお姉様の妹なので〜す♪」
何と!エリーナ先生はマリーナの実の妹だった。正確には父親が同じで、母親は別々なのだとか。いわゆる異母姉妹と言うものらしい。
マリーナの父親キース・ローズベルト伯爵は、マリーナの母親が幼い頃に病で亡くなり、その後エリーナ先生の母親と再婚してからエリーナ先生を身篭ったのだという。
「そうなんだ。じゃぁ、エリーナ先生は僕の叔母さんになるわけか。」
「まぁまぁ、叔母さんだなんて失礼しちゃうわ〜!お姉様とは、見た目はそんなに変わらなくても、結構歳が離れているのよ!だから、学園の外ではエリーナお姉さんって呼んでね♪」
「おいおい!エリーナ、それでは私があまりにも年寄りみたいではないか!ソータは一応私の養子としているが、本当なら婿にしようと思っておったのだぞ!」
「あらあら、お姉様ったら又ご冗談を。ソータ君。騙されてはダメよ!お姉様の本当の年齢はね…… 」
『  ぎゃふんっ!!  』
エリーナ先生が僕にマリーナの実年齢を教えようとした途端、マリーナの拳骨が先生の頭部に炸裂し、彼女は甲高い悲鳴と共にその場に倒れ込んでしまった。
「余計な事は言わんでよろしい!!ソータも今のは聞かなかったし見なかった。よいな!?」
「あ、はい。そ、そうします……  」
「……以上が、この学園での主な注意事項となっている。大体の事は把握してくれたかなソータ。」
「うん、わかったよ!マリーナ。」
未だ倒れて気絶しているエリーナ先生はほっておいて、僕はマリーナから学園での注意事項を聞き終えていた。
「こら!さっき学園では園長先生と呼べと言ったばかりであろう!もう忘れたのか?」
「あ、ゴメンなさい。園長先生!」
「うむ、それで宜しい。では、エリーナ先生に教室へ案内してもらいなさい。」
マリーナは気絶しているエリーナ先生を無理矢理叩き起こし僕を教室へ案内するように言った。
頬を往復ビンタされてようやく目を覚ましたエリーナ先生はマリーナに文句を言うかと思ったが、全く気にした様子はなく何事もなかったかのように振舞っていた。
「  ルンルン♪のルルン♪♪  今日も良い天気よね〜ソータ君 ♪」
「エリーナ先生はさっきの事怒ってないの?」
「ん〜〜??何かあったかな〜……あんまり憶えてないから気にしな〜い♪」
天然か…天然なのか!僕の中でエリーナ先生は、おっとり天然さんと位置ずける事にした。これでもう色々と驚かなくてよくなった。
エリーナ先生と教室へ向かう途中、彼女は窓から誤って進入してきた蝶々を追い掛けて何処かへ行こうとするのを止めながら、何とか目的の教室へとたどり着いた。
先ずは先に先生が教室に入り、僕が転園して来た事をクラスメイト達に伝えると言って、エリーナ先生は1ーCと表札に書かれた教室へと入っていった。
それから約10分程度待ったが、中々僕の名前を呼ぶ声が聞こえてこない。
教室の中からは時折生徒達の笑い声が聞こえてくる。
僕はいつ入ればいいのか分からず、ヤキモキしていた。次第に教室の様子が静かになり中から出席を取るエリーナ先生の声が聞こえてきた。
『クーネル君。 はい! え〜 ケトラちゃん。 はい! それから〜 コラール君。 はいはい!
コラ♪ はいは一回でいいの〜♪  へへへっゴメンよ先生!あはははーー!!!』
「ってエリーナ先生僕の事完全に忘れてるでしょ!!!」
僕は教室の扉を勢いよく開け、のほほんと出席をとるエリーナ先生に思わず大きな声でツッコミを入れてしまった!
エリーナ先生の天然を悟り、もう驚く事はないだろうとタカをくくっていたが、まだまだ甘かったようである。
「あらまぁ!そういえばソータ君の事、私すっかり忘れていたわぁ♪」
「皆さ〜ん!♪  今日から新しいお友達が転園して来たのぉ〜仲良くして下さいね〜♪」
クラスの生徒達は、突然教室に入ってきた見知らぬ転園生に戸惑いながらも。皆、僕に注目の眼差しを送っていた。
とても気まずい雰囲気の中、僕は自己紹介を余儀なくされる結果となってしまった。
「い、いきなりビックリさせちゃってゴメンなさい。き、今日からこの学園に転園して来た、ソータ・ローズベルトと言います。皆さん宜しくお願いします!」
あ〜恥ずかしい!普通に挨拶するだけでも緊張するのに、変な形で注目を浴びてしまった。
急な紹介でビックリしたのか、僕が自己紹介をしてペコリと頭を下げても教室の中はシーンと静まりかえってしまっている。
『パチパチパチッ』
だが、一人だけ席から立ち上がり拍手をしている生徒がいた。
その生徒をよく見ると、何と女子寮で僕をサターニャの魔の手から匿ってくれた人物であった。その子は、どうしても可愛い女の子にしか見えない自称男の子シャルロット・エッジソンであった。
「さすがアニキでやんす!登場の仕方もっぱないでゲス!!あっしは惚れちゃいそうでやんすー!」
おいおい!シャルがそう言うと色々と誤解を招くからやめて!
最初は戸惑い様子を伺っていた他のクラスメート達も、シャルの拍手に同調し、〝おおぉ〜〟という歓声と共に拍手喝采で迎えてくれた。
しかし、一部シャルの発言に不満を抱えている生徒が2名程存在していた。
それは、少し俯き加減で負のオーラを放出しているサターニャと横を向き何故か膨れ面のソフィーであった。
まぁ、何にせよクラスに知り合いが居てくれて良かった。これからの学園生活も楽しく過ごせそうな予感がして来たぞ!
「はい! ソータ君の自己紹介も無事終了という事で〜。え〜と、ソータ君は一番後ろの空いている席に座って頂戴ね♪ 」
エリーナ先生にそう言われ、僕は空いている一番後ろの席へと向かった。
その席は、窓際から2番目にあり、右隣にサターニャ、左の窓側にソフィー、前にはシャルといった席順となっていた。
「アニキの近くになって、あっしは幸せでやんす ♪ 何か分からない事があったらいつでも聞いて下さいでゲス!」
「ああ、よろしくシャル!」
シャルと軽く挨拶を交わして席に着き、続いて窓から外を眺めているソフィーにも挨拶をしようと声を掛けるが、彼女はそれに応えることはなかった。
いつも中庭で声を掛けると気さくに返事を返してくれるのだが、どうやら今日は機嫌が悪いようだ。
そのうち機嫌も治るだろうと思い、その場は
何も言わずに済ませる事にした。
一方サターニャは、今もなお全身から禍々しオーラを放ちながら何やら呪文のようにブツブツと何かを呟いており、話し掛ける雰囲気ではない。
こちらも放って置いた方が良さそうだ。
その後、授業が始まり大した問題もなく一限目が終了し、休み時間になった途端に右隣りに居るサターニャが僕の机の上に両手を強く叩きつけながら怒りの表情を露わにしてきた。
『  バンッ!!  』
「ソータ様!!これは一体どういう事なのですか!?」
「どうって何の事だよ?」
「私が…ソータ様の妻にも等しいこの私というものがありながら、こんな男女と仲良くなされていたなんて!私は聞いてませんよ!!」
「男女って…あっしはれっきとした男でやんすよ!!」
サターニャの言葉を聞いて、すかさずシャルが納得がいかないとばかりに食いかかるが、サターニャは〝キッ〟っとシャルを睨みつけ威嚇する。
その威圧に気圧され、たじろぐシャルを庇うように僕が二人の間に割って入る。
「何をそんなに怒っているのか分からないけど、元はと言えばサターニャがそもそもの原因なんだよ!君があんな事しなければ、シャルとだって知り合う事はなかったんだ。」
「そ、それはそうですけど……。」
友達のシャルに酷い事を言ったサターニャに対し、少しキツく当たり過ぎたか?
彼女は目頭に涙を溜めて黙りこんでしまった。サターニャに好意を抱いて貰うのは嫌ではない、嫌ではないが、ちょっと彼女のソレは度が過ぎているように感じる。
帰ったらマリーナに相談してみるか…。
結局その場はサターニャが折れる形で事は治ったが、今の出来事でクラス中が気まずい雰囲気になってしまった。
相変わらずソフィーは素知らぬ顔で窓の外を眺めていたのだが、こちらも何か訳ありみたいだ。夕方の鍛錬の時にでも聞いてみる事にしよう。
「はぁ〜い ♪ それじゃ皆さん魔力玉の準備はいいかしらぁ〜?」
3限目は体育という事で、皆動き易い格好に着替えて魔法演習場へとやってきた。
今日の体育は、魔力玉を使ってのキャッチボールということらしい。
魔力玉とは、手の平に魔力を集中させ、ソフトボール大の大きさに生成した玉のことを言う。
それを二人ないし三人のペアまたはチームを作くり投げ合うのだ。
僕の場合、自分の体内で魔力の精製が出来ないため、マリーナに貰った右手の甲にある魔法陣から大気中の魔素を取り込み、同時に魔力へと変換させるのだが、急遽用意した不完全な魔法陣の為、魔力の精製にかなり時間を要してしまう。
「う〜ん、なかなか魔力玉が出来ない…」
「アニキどうしたでやんすか?」
玉の生成に苦難する僕を心配して、シャルが声を掛けてくれる。
今回は、彼女…もとい彼とペアを組んでいる。他のクラスメート達は既に魔力玉を投げ合っているにもかかわらず、僕達はまだ玉の生成すら出来ない状態であった。
「もう少し待ってくれるかなシャル。こんなの作るの初めてだから、上手く出来ないんだよね。」
「はぁ……それは構わないでやんすけど…。」
彼からしたら、僕はローズベルト家の養子として迎えられたのだから、それなりの才能に恵まれた逸材だと思っているに違いない。
魔力玉など、魔法使いならば誰だって直ぐに作れるはず、シャルの頭の中ではこう思っているのだろう。
もし彼に本当の事を告げれば、がっかりするかも知れない…そして愛想をつかして僕から離れて行ってしまうのでは…
マリーナからも、なるべく他人に僕が魔力を精製出来ない事実を悟られぬなと念を押されている。
やはりシャルにも事実を話さない方が良いのか…。
気さくな彼なら笑って受け入れてくれるのではないか?
僕の頭の中を、そんな葛藤が入り混じっていた。
そうこうしてる間にようやく僕の手の平の上に魔力玉が完成した。
「ふぅ〜やっと出来た。それじゃぁ投げるよ!」
「はい!了解ですやんす!」
あ、これってどうやって飛ばすんだ?普通のボールのように力任せに投げれば良いのか?
それとも、飛行魔術の要領で魔力をコントロールして飛ばすのか?
もし力任せに投げてシャルが受け損なうと怪我をしてしまうかも知れないな。
取り敢えず後者の方法で投げてみるか!
そして僕は力を入れずに魔力のコントロールのみに集中して軽く魔力玉をシャルに向けて放り投げた。
しかし、自分が思っていたよりも勢いよく魔力玉はシャル目掛けて飛んでいってしまった!!
時速に換算すると120キロ程度だろうか!?
「う、うわぁー!!」
彼も魔力玉の速さに気付き、咄嗟に身構えるが、その速さに圧倒され体勢を崩し、尻餅を付いて倒れ込んでしまった。
「危ない!!!」
僕は直ぐ様魔力玉をコントロールし、勢いを極限まで殺した!
すると魔力玉は尻餅を付いて座り込んでいるシャルの目の前で〝ピタリッ〟と止まり、両手でお椀型を作っている彼の手の平の上にフワフワと緩やかに吸い込まれ停止した。
「ふぅ〜危なかった。ゆっくり投げたつもりだったけど、結構スピードが出るもんなんだなぁ。ゴメンよシャル。驚かしちゃったね。」
「……はっ!!ア、ア、アニキー!!今のはもしかして魔力玉を操作したんでやんすかーー?」
暫く放心状態だったシャルは、ふと我に返えり、驚いた顔で質問してきた。
「え!? そうだけど何かまずかったかなぁ?」
そう言うと彼は魔力玉を両手で抱えながら立ち上がり、急いで僕の元へと走ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ… ち、違うでやんすよ。はぁ、はぁ… その逆で、アニキは凄い事をしたんでゲス!」
「凄いこと?魔力玉をコントロールしたことかい??」
シャルが言うには、学園生風情が魔力玉をコントロール出来るなんて有り得ない事なんだとか。それこそ、国家魔法師クラスの達人でさえ苦労に苦労を重ねた末に出来るかどうからしい。
「ほら、他の連中を見て下さいでやんす!誰一人として魔力玉をコントロールしている奴なんていないでげしょ?」
彼の言った通り、クラスの皆んなは力任せに魔力玉を投げているだけで誰もコントロールしている者はいなかった。
寧ろ、何処へ飛んでいくか分からず、追いかけた末に拾い損ねるといった者が殆どであった。
「最初に魔力玉を生成するのに時間が掛かっていたから心配したでやんすけど、やっぱりアニキは凄いお人でやんす!」
お!? この流れはもしかして彼に事実を説明しても大丈夫なのではないか?僕が魔力を精製出来ないと知ってもシャルなら理解して今まで通り友達でいてくれるのでは…
そう思った僕は、彼に事実を話す覚悟を決めたのだった。
「シャル。実はね…… 」
「何と!? その手の甲にある魔法陣で魔力を精製してるでやんすか!?ひょっとしてその魔法陣はアニキが作ったんでゲスか?」
彼は僕の事実をアッサリと受け入れてくれた。受け入れたというより、シャルは魔力精製魔法陣に興味深々で事実などどうでもいいのかも知れないが…
「これはマリーナ……園長先生が入学のお祝いとして僕にくれた物なんだ。」
「ああ、園長先生でやんすか…あの人なら納得でゲス。」
マリーナの名を出した途端、シャルの顔が少し曇ったようだが、マリーナが彼に強いている内容を考えれば当然の事だろう。
「シャルは、園長先生を見てどう思う?」
マリーナは僕にとって恩人であった。退屈だった世界から魔法が存在するこんなにも興味深い世界へと連れ出してくれたのだから。
色々と世話をしてくれ、何不充ない生活も保証してくれている。
彼女の性格からして良く思っていない人もいるかも知れないのは少し残念ではあるが、シャルにはマリーナをそんな風に思って欲しくない。
彼が望むなら、女装の強要の事もマリーナを説得して止めるように言おうと思っていたつもりだったのだが…。」
「園長先生は、人として、どうかと思うでゲスが、魔法創作師としては凄く尊敬出来るお人でやんすね!」
おっと!? 僕の心配は、どうやら杞憂に終わったみたいだ。
シャルは嫌そうにしているが、実のところ女装を気に入っているのではないだろうか?
何故かそう思えて仕方がなかった。
「ここがこうなって…ふむふむ…で、こっちがこうで…成る程!!こんな使い方もあったでゲスかぁ!!」
「なになに、 シャルはこの魔法陣の仕組みが分かるの!?」
「はい!考えて作り上げる事は無理でゲスが、同じ物を作れと言われたら、そう難しくはないでやんす。」
さすが魔法技術士を目指しているだけの事はある。僕が同じ物を作れと言われても、一から勉強したとして一体どれだけの時間を要するだろう。シャルと一緒なら、この魔法陣も予想より早く完成させられそうだな。
今度その辺の相談を彼にしてみるか。
それはそれとして、シャルが僕の手を掴んで魔法陣をマジマジと観察している様子を他のクラスメート達に怪しい眼差しで見られている気がする…
この光景は男同士と分かってはいても、シャルの見た目からして色々と誤解を招きそうであった。
僕がそんな動揺をしている時、演習場の片隅で、何やら不穏な事態が起こっていた。
それは、魔力玉の精製が出来ず体育を見学しているソフィーに対し、1年B組の男子生徒数人が絡んでいるといったものであった。
その敷地は、何とグランデルの約4分の1を占めるという程の大きな学園である。
だが、その殆どが魔法演習場や剣術闘技場などの訓練施設となっており、講義や実験施設は普通の学校と同じ程度の広さであった。
即ち、それは魔法というものが如何に大規模な範囲攻撃なのかを示しているに他ならない。
マリーナ曰く、たった一回の大規模魔法で、街一つを焼け野原にする事も出来るのだと言う。何ともスケールの大きな話である。
僕達3人は、学園の話で盛り上がりながら、徒歩で魔法学園へとやって来た。
ローズベルト家の屋敷から学園の敷地までは、徒歩で約15分程度といったところか、元々学園の土地はローズベルト家の土地であったのだが、学園を建設する為にマリーナが私財を投じて設立したのだという。
なので屋敷から学園までは目と鼻の先にあった。因みに女子寮もまた、ローズベルト邸を一部改築して建設してある。
「それではソータ様、私は先に教室の方へ向かいます。また、後ほどお会いしましょう!」
「うん。サターニャまた後でね!」
門の前でサターニャと別れた僕達は、学園長であるマリーナの部屋へと向かった。
一旦、僕の担任となる先生と顔合わせをし、学園での注意事項を聞く為である。
先に学園長室に入った僕とマリーナは、部屋の中にあるソファーへ隣り同士で腰掛けた。
「どうだ、ソータ。この学園は?」
「うん、魔法学園っていうからもっと暗いイメージだったけど、思っていたのと違って明るくて良い雰囲気な所だね。」
某映画で有名な魔法学校は、どんよりと薄暗く、寮には幽霊が出るなど、あまり良いイメージではなかった。
しかし、このグランデル魔法学園は建物も綺麗で明るく清潔に保たれており、すれ違う生徒達の表情も生き生きとしていた。
「そうか!君が気に入ってくれたなら良かったよ。そもそもこの学園はだなぁ……」
『コンッコンッ!』
マリーナと学園の話で盛り上がっていると、部屋をノックする音が聞こえた。
これから何か言おうとしていたマリーナであったが、自分の話よりも部屋の前に居る人物を優先させ、〝入りたまえ〟と言って学園長室へと招き入れた。
「失礼しま〜す♪」
扉が開き、軽い挨拶と共に部屋の中に入ってきた人物は、黒を基調としたローブに白いラインがアクセントのマントを着ており、紫苑色の腰まで伸びた長い髪。細長の目で丸く大きなメガネを掛けている。一番印象的なのは〝胸〟である!ローブ越しからでも分かるくらい大きく、歩く度に〝プルンプルン〟と揺れている。それでいて色気は感じさせず、何だかほんわか、おっとりした大人の女性だった。
「キミがソータ・ローズベルト君ね!初めまして〜今日から貴方の担任になったエリーナ・ローズベルトで〜す♪」
軽い!魔法学園の先生と言うからには、もっと威厳のある傲慢な人を想像していたのだが、あまりにも軽過ぎる挨拶だった。
まぁ、学園長がマリーナだしなぁ…こんな先生が居てもおかしくはないか。
うん!? ローズベルト??はて?僕の聞き間違いかな?この先生は今、ローズベルトと名乗ったような…。
ローズベルト家といえば貴族の中でも名門中の名門である。
そんなローズベルトの苗字が、日本での田中などのように幾つも存在するはずがないのだ。
「あの〜。先生今、ローズベルトって言いましたか?」
「あらあら、早速気付いちゃいましたか!?ふふふ。実は、私はマリーナお姉様の妹なので〜す♪」
何と!エリーナ先生はマリーナの実の妹だった。正確には父親が同じで、母親は別々なのだとか。いわゆる異母姉妹と言うものらしい。
マリーナの父親キース・ローズベルト伯爵は、マリーナの母親が幼い頃に病で亡くなり、その後エリーナ先生の母親と再婚してからエリーナ先生を身篭ったのだという。
「そうなんだ。じゃぁ、エリーナ先生は僕の叔母さんになるわけか。」
「まぁまぁ、叔母さんだなんて失礼しちゃうわ〜!お姉様とは、見た目はそんなに変わらなくても、結構歳が離れているのよ!だから、学園の外ではエリーナお姉さんって呼んでね♪」
「おいおい!エリーナ、それでは私があまりにも年寄りみたいではないか!ソータは一応私の養子としているが、本当なら婿にしようと思っておったのだぞ!」
「あらあら、お姉様ったら又ご冗談を。ソータ君。騙されてはダメよ!お姉様の本当の年齢はね…… 」
『  ぎゃふんっ!!  』
エリーナ先生が僕にマリーナの実年齢を教えようとした途端、マリーナの拳骨が先生の頭部に炸裂し、彼女は甲高い悲鳴と共にその場に倒れ込んでしまった。
「余計な事は言わんでよろしい!!ソータも今のは聞かなかったし見なかった。よいな!?」
「あ、はい。そ、そうします……  」
「……以上が、この学園での主な注意事項となっている。大体の事は把握してくれたかなソータ。」
「うん、わかったよ!マリーナ。」
未だ倒れて気絶しているエリーナ先生はほっておいて、僕はマリーナから学園での注意事項を聞き終えていた。
「こら!さっき学園では園長先生と呼べと言ったばかりであろう!もう忘れたのか?」
「あ、ゴメンなさい。園長先生!」
「うむ、それで宜しい。では、エリーナ先生に教室へ案内してもらいなさい。」
マリーナは気絶しているエリーナ先生を無理矢理叩き起こし僕を教室へ案内するように言った。
頬を往復ビンタされてようやく目を覚ましたエリーナ先生はマリーナに文句を言うかと思ったが、全く気にした様子はなく何事もなかったかのように振舞っていた。
「  ルンルン♪のルルン♪♪  今日も良い天気よね〜ソータ君 ♪」
「エリーナ先生はさっきの事怒ってないの?」
「ん〜〜??何かあったかな〜……あんまり憶えてないから気にしな〜い♪」
天然か…天然なのか!僕の中でエリーナ先生は、おっとり天然さんと位置ずける事にした。これでもう色々と驚かなくてよくなった。
エリーナ先生と教室へ向かう途中、彼女は窓から誤って進入してきた蝶々を追い掛けて何処かへ行こうとするのを止めながら、何とか目的の教室へとたどり着いた。
先ずは先に先生が教室に入り、僕が転園して来た事をクラスメイト達に伝えると言って、エリーナ先生は1ーCと表札に書かれた教室へと入っていった。
それから約10分程度待ったが、中々僕の名前を呼ぶ声が聞こえてこない。
教室の中からは時折生徒達の笑い声が聞こえてくる。
僕はいつ入ればいいのか分からず、ヤキモキしていた。次第に教室の様子が静かになり中から出席を取るエリーナ先生の声が聞こえてきた。
『クーネル君。 はい! え〜 ケトラちゃん。 はい! それから〜 コラール君。 はいはい!
コラ♪ はいは一回でいいの〜♪  へへへっゴメンよ先生!あはははーー!!!』
「ってエリーナ先生僕の事完全に忘れてるでしょ!!!」
僕は教室の扉を勢いよく開け、のほほんと出席をとるエリーナ先生に思わず大きな声でツッコミを入れてしまった!
エリーナ先生の天然を悟り、もう驚く事はないだろうとタカをくくっていたが、まだまだ甘かったようである。
「あらまぁ!そういえばソータ君の事、私すっかり忘れていたわぁ♪」
「皆さ〜ん!♪  今日から新しいお友達が転園して来たのぉ〜仲良くして下さいね〜♪」
クラスの生徒達は、突然教室に入ってきた見知らぬ転園生に戸惑いながらも。皆、僕に注目の眼差しを送っていた。
とても気まずい雰囲気の中、僕は自己紹介を余儀なくされる結果となってしまった。
「い、いきなりビックリさせちゃってゴメンなさい。き、今日からこの学園に転園して来た、ソータ・ローズベルトと言います。皆さん宜しくお願いします!」
あ〜恥ずかしい!普通に挨拶するだけでも緊張するのに、変な形で注目を浴びてしまった。
急な紹介でビックリしたのか、僕が自己紹介をしてペコリと頭を下げても教室の中はシーンと静まりかえってしまっている。
『パチパチパチッ』
だが、一人だけ席から立ち上がり拍手をしている生徒がいた。
その生徒をよく見ると、何と女子寮で僕をサターニャの魔の手から匿ってくれた人物であった。その子は、どうしても可愛い女の子にしか見えない自称男の子シャルロット・エッジソンであった。
「さすがアニキでやんす!登場の仕方もっぱないでゲス!!あっしは惚れちゃいそうでやんすー!」
おいおい!シャルがそう言うと色々と誤解を招くからやめて!
最初は戸惑い様子を伺っていた他のクラスメート達も、シャルの拍手に同調し、〝おおぉ〜〟という歓声と共に拍手喝采で迎えてくれた。
しかし、一部シャルの発言に不満を抱えている生徒が2名程存在していた。
それは、少し俯き加減で負のオーラを放出しているサターニャと横を向き何故か膨れ面のソフィーであった。
まぁ、何にせよクラスに知り合いが居てくれて良かった。これからの学園生活も楽しく過ごせそうな予感がして来たぞ!
「はい! ソータ君の自己紹介も無事終了という事で〜。え〜と、ソータ君は一番後ろの空いている席に座って頂戴ね♪ 」
エリーナ先生にそう言われ、僕は空いている一番後ろの席へと向かった。
その席は、窓際から2番目にあり、右隣にサターニャ、左の窓側にソフィー、前にはシャルといった席順となっていた。
「アニキの近くになって、あっしは幸せでやんす ♪ 何か分からない事があったらいつでも聞いて下さいでゲス!」
「ああ、よろしくシャル!」
シャルと軽く挨拶を交わして席に着き、続いて窓から外を眺めているソフィーにも挨拶をしようと声を掛けるが、彼女はそれに応えることはなかった。
いつも中庭で声を掛けると気さくに返事を返してくれるのだが、どうやら今日は機嫌が悪いようだ。
そのうち機嫌も治るだろうと思い、その場は
何も言わずに済ませる事にした。
一方サターニャは、今もなお全身から禍々しオーラを放ちながら何やら呪文のようにブツブツと何かを呟いており、話し掛ける雰囲気ではない。
こちらも放って置いた方が良さそうだ。
その後、授業が始まり大した問題もなく一限目が終了し、休み時間になった途端に右隣りに居るサターニャが僕の机の上に両手を強く叩きつけながら怒りの表情を露わにしてきた。
『  バンッ!!  』
「ソータ様!!これは一体どういう事なのですか!?」
「どうって何の事だよ?」
「私が…ソータ様の妻にも等しいこの私というものがありながら、こんな男女と仲良くなされていたなんて!私は聞いてませんよ!!」
「男女って…あっしはれっきとした男でやんすよ!!」
サターニャの言葉を聞いて、すかさずシャルが納得がいかないとばかりに食いかかるが、サターニャは〝キッ〟っとシャルを睨みつけ威嚇する。
その威圧に気圧され、たじろぐシャルを庇うように僕が二人の間に割って入る。
「何をそんなに怒っているのか分からないけど、元はと言えばサターニャがそもそもの原因なんだよ!君があんな事しなければ、シャルとだって知り合う事はなかったんだ。」
「そ、それはそうですけど……。」
友達のシャルに酷い事を言ったサターニャに対し、少しキツく当たり過ぎたか?
彼女は目頭に涙を溜めて黙りこんでしまった。サターニャに好意を抱いて貰うのは嫌ではない、嫌ではないが、ちょっと彼女のソレは度が過ぎているように感じる。
帰ったらマリーナに相談してみるか…。
結局その場はサターニャが折れる形で事は治ったが、今の出来事でクラス中が気まずい雰囲気になってしまった。
相変わらずソフィーは素知らぬ顔で窓の外を眺めていたのだが、こちらも何か訳ありみたいだ。夕方の鍛錬の時にでも聞いてみる事にしよう。
「はぁ〜い ♪ それじゃ皆さん魔力玉の準備はいいかしらぁ〜?」
3限目は体育という事で、皆動き易い格好に着替えて魔法演習場へとやってきた。
今日の体育は、魔力玉を使ってのキャッチボールということらしい。
魔力玉とは、手の平に魔力を集中させ、ソフトボール大の大きさに生成した玉のことを言う。
それを二人ないし三人のペアまたはチームを作くり投げ合うのだ。
僕の場合、自分の体内で魔力の精製が出来ないため、マリーナに貰った右手の甲にある魔法陣から大気中の魔素を取り込み、同時に魔力へと変換させるのだが、急遽用意した不完全な魔法陣の為、魔力の精製にかなり時間を要してしまう。
「う〜ん、なかなか魔力玉が出来ない…」
「アニキどうしたでやんすか?」
玉の生成に苦難する僕を心配して、シャルが声を掛けてくれる。
今回は、彼女…もとい彼とペアを組んでいる。他のクラスメート達は既に魔力玉を投げ合っているにもかかわらず、僕達はまだ玉の生成すら出来ない状態であった。
「もう少し待ってくれるかなシャル。こんなの作るの初めてだから、上手く出来ないんだよね。」
「はぁ……それは構わないでやんすけど…。」
彼からしたら、僕はローズベルト家の養子として迎えられたのだから、それなりの才能に恵まれた逸材だと思っているに違いない。
魔力玉など、魔法使いならば誰だって直ぐに作れるはず、シャルの頭の中ではこう思っているのだろう。
もし彼に本当の事を告げれば、がっかりするかも知れない…そして愛想をつかして僕から離れて行ってしまうのでは…
マリーナからも、なるべく他人に僕が魔力を精製出来ない事実を悟られぬなと念を押されている。
やはりシャルにも事実を話さない方が良いのか…。
気さくな彼なら笑って受け入れてくれるのではないか?
僕の頭の中を、そんな葛藤が入り混じっていた。
そうこうしてる間にようやく僕の手の平の上に魔力玉が完成した。
「ふぅ〜やっと出来た。それじゃぁ投げるよ!」
「はい!了解ですやんす!」
あ、これってどうやって飛ばすんだ?普通のボールのように力任せに投げれば良いのか?
それとも、飛行魔術の要領で魔力をコントロールして飛ばすのか?
もし力任せに投げてシャルが受け損なうと怪我をしてしまうかも知れないな。
取り敢えず後者の方法で投げてみるか!
そして僕は力を入れずに魔力のコントロールのみに集中して軽く魔力玉をシャルに向けて放り投げた。
しかし、自分が思っていたよりも勢いよく魔力玉はシャル目掛けて飛んでいってしまった!!
時速に換算すると120キロ程度だろうか!?
「う、うわぁー!!」
彼も魔力玉の速さに気付き、咄嗟に身構えるが、その速さに圧倒され体勢を崩し、尻餅を付いて倒れ込んでしまった。
「危ない!!!」
僕は直ぐ様魔力玉をコントロールし、勢いを極限まで殺した!
すると魔力玉は尻餅を付いて座り込んでいるシャルの目の前で〝ピタリッ〟と止まり、両手でお椀型を作っている彼の手の平の上にフワフワと緩やかに吸い込まれ停止した。
「ふぅ〜危なかった。ゆっくり投げたつもりだったけど、結構スピードが出るもんなんだなぁ。ゴメンよシャル。驚かしちゃったね。」
「……はっ!!ア、ア、アニキー!!今のはもしかして魔力玉を操作したんでやんすかーー?」
暫く放心状態だったシャルは、ふと我に返えり、驚いた顔で質問してきた。
「え!? そうだけど何かまずかったかなぁ?」
そう言うと彼は魔力玉を両手で抱えながら立ち上がり、急いで僕の元へと走ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ… ち、違うでやんすよ。はぁ、はぁ… その逆で、アニキは凄い事をしたんでゲス!」
「凄いこと?魔力玉をコントロールしたことかい??」
シャルが言うには、学園生風情が魔力玉をコントロール出来るなんて有り得ない事なんだとか。それこそ、国家魔法師クラスの達人でさえ苦労に苦労を重ねた末に出来るかどうからしい。
「ほら、他の連中を見て下さいでやんす!誰一人として魔力玉をコントロールしている奴なんていないでげしょ?」
彼の言った通り、クラスの皆んなは力任せに魔力玉を投げているだけで誰もコントロールしている者はいなかった。
寧ろ、何処へ飛んでいくか分からず、追いかけた末に拾い損ねるといった者が殆どであった。
「最初に魔力玉を生成するのに時間が掛かっていたから心配したでやんすけど、やっぱりアニキは凄いお人でやんす!」
お!? この流れはもしかして彼に事実を説明しても大丈夫なのではないか?僕が魔力を精製出来ないと知ってもシャルなら理解して今まで通り友達でいてくれるのでは…
そう思った僕は、彼に事実を話す覚悟を決めたのだった。
「シャル。実はね…… 」
「何と!? その手の甲にある魔法陣で魔力を精製してるでやんすか!?ひょっとしてその魔法陣はアニキが作ったんでゲスか?」
彼は僕の事実をアッサリと受け入れてくれた。受け入れたというより、シャルは魔力精製魔法陣に興味深々で事実などどうでもいいのかも知れないが…
「これはマリーナ……園長先生が入学のお祝いとして僕にくれた物なんだ。」
「ああ、園長先生でやんすか…あの人なら納得でゲス。」
マリーナの名を出した途端、シャルの顔が少し曇ったようだが、マリーナが彼に強いている内容を考えれば当然の事だろう。
「シャルは、園長先生を見てどう思う?」
マリーナは僕にとって恩人であった。退屈だった世界から魔法が存在するこんなにも興味深い世界へと連れ出してくれたのだから。
色々と世話をしてくれ、何不充ない生活も保証してくれている。
彼女の性格からして良く思っていない人もいるかも知れないのは少し残念ではあるが、シャルにはマリーナをそんな風に思って欲しくない。
彼が望むなら、女装の強要の事もマリーナを説得して止めるように言おうと思っていたつもりだったのだが…。」
「園長先生は、人として、どうかと思うでゲスが、魔法創作師としては凄く尊敬出来るお人でやんすね!」
おっと!? 僕の心配は、どうやら杞憂に終わったみたいだ。
シャルは嫌そうにしているが、実のところ女装を気に入っているのではないだろうか?
何故かそう思えて仕方がなかった。
「ここがこうなって…ふむふむ…で、こっちがこうで…成る程!!こんな使い方もあったでゲスかぁ!!」
「なになに、 シャルはこの魔法陣の仕組みが分かるの!?」
「はい!考えて作り上げる事は無理でゲスが、同じ物を作れと言われたら、そう難しくはないでやんす。」
さすが魔法技術士を目指しているだけの事はある。僕が同じ物を作れと言われても、一から勉強したとして一体どれだけの時間を要するだろう。シャルと一緒なら、この魔法陣も予想より早く完成させられそうだな。
今度その辺の相談を彼にしてみるか。
それはそれとして、シャルが僕の手を掴んで魔法陣をマジマジと観察している様子を他のクラスメート達に怪しい眼差しで見られている気がする…
この光景は男同士と分かってはいても、シャルの見た目からして色々と誤解を招きそうであった。
僕がそんな動揺をしている時、演習場の片隅で、何やら不穏な事態が起こっていた。
それは、魔力玉の精製が出来ず体育を見学しているソフィーに対し、1年B組の男子生徒数人が絡んでいるといったものであった。
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