魔法創作師見習いの恋魔法

ノベルバユーザー99898

いよいよ異世界へ♪

「マリーナさん!聞いてますか!?…マリーナさんってば!!」

「………。ん?ああ、すまないソータ。ついいつもの癖で集中してしまったよ。え〜と何の話だったかな… そうだ、確かソータには魔法創作師としての才能があると言う話だったな。」

何度も呼び掛けて、やっと僕に気付いてくれたマリーナさんは再び話の続きを再開するのだった。

「これは私の世界にある魔法の創作書だ。
これに考え付いた魔法を書き込む事で、その魔法が使えるようになるんだ。」

またもや彼女は胸の谷間から一冊の古びた書物を取り出したが、もう慣れたもので、僕は冷めた眼をしながら当たり前のように会話を続ける。

「ただ書くだけ?そんな簡単に魔法が創れるんですか?」

「うむ、良い質問だ。ただ単に書き込むだけでは魔法は発動しない。創作したい魔法の威力または効力と同等かそれ以上の代価、または条件も書く必要があるのだ。例えば、初歩の魔法ファイヤーボールを書くとする。この魔法は威力も弱いので、代価は魔力だけで済む。魔力とは、この世界には存在しないが、私の世界では空気と同じように大気中に存在する魔素というものがある。魔法使いは、この魔素を体内で魔力に変換する能力を持っているのだ。魔法を創作するうえで重要な事は、この代価、あるいは条件をどれだけ少なく発動させれるかに掛かっている。初歩魔法ファイヤーボールを、その者の死と引き替えに発動するのでは割りが合わないであろう?つまりはそう言う事だ。」

「何となく理解出来ました。それで僕が魔法創作師に向いているのは何故ですか?」

「ソータはな、魔法を考えるセンスは勿論のこと、その代価、条件の適正値を感覚で分かる能力を生まれながらに持っているところが素晴らしいのだ!」

「はぁ… そんなの、当てずっぽで書いているだけですよ…」

「ならば一つ問題を出してやろう。そうだな…魔力量100の魔法使いがファイヤーボールを放つ時に使用する魔力量は幾つだと思う?」

「う〜ん。そうですねぇ…ファイヤーボールは初級魔法みたいだから…10かな?」

「正解だ! やはりソータは素晴らしい!まぁ、これは既に解析された数値なので、勉強して覚えれば誰でも分かる問題なのだが、何も知らないソータが正解を導き出せると言うことはだな、新しく創作した魔法の数値も感覚で分かるという事だ!こんなことは、熟練の魔法創作師でも出来るきることではないのだよ。それこそ何年、何十年と研究しなければならないのだ!」

普段ここまで褒められることなんて絶対にない。一学期の中間試験に数学で97点とった時だって、父親に多少褒められたくらいだった。マリーナさんに絶賛され嬉しくなった僕は、右手で後頭部分をさすりながら、照れ臭そうに感激していた。

「だからソータ!私の婿として、あちらの世界で一緒に魔法創作の研究をしてくれないか?」

「いや〜そんなに褒められると照れるな〜…ってマリーナさんの婿ーー!?」

「何だ、私では不服か?これでも魔法創作の研究ばかりしていたので、男性との経験は愚か、付き合った事だってないのだぞ?正真正銘生娘なのだ!!どうだ!お買い得だろ?」

「いやいや、そんな爆弾発言されても困るんですけど。そもそも最初は弟子って言ってましたよね?  ね?」

何もしなくても美人のマリーナさんが目を〝ウルウル〟させながら祈るように懇願すると、とても可愛らしかったのだが、僕には全く通じなかった。

「何故だ〜!自慢ではないが、これでも王宮の大臣や貴族達から毎日のように言い寄られたり、求婚されるのだぞ〜!そんなに私が嫌いなのか〜!なぁソータ〜。」

「嫌いだなんて思ってもいませんよ!優しく慰めてくれたり、大絶賛で褒めてもらえて、凄く感謝しています。」

「ではどうしてなのだぁ〜!」

「それとこれとは別です!第一、僕はまだ15歳になったばかりなんです!結婚何て、まだ考えたこともありませんから。いい加減、諦めて下さい!」

「ふんっ!しょ〜か、しょ〜か!もういいもん!ソータのバーカ!バーカ!!」

こらこら。マリーナさんキャラが変わってますよ!
涙目で僕を罵倒しているマリーナさんはほっといて、こうして僕はマリーナさんの『養子』と言う設定で、一緒に彼女の世界に行くことを決めたのだった。

あちらの世界に旅立つ際、両親に別れを告げたいと言ったが、マリーナさんの魔法で、僕に関する存在事態を全て消去するから心配しなくても大丈夫だと言われた。
僕自体、元の世界に興味がなかったので、然程気にはしていないが、もう戻れないと思うと、少しだけ寂しく思えた。

しかし新しい世界への期待の方が大きく、マリーナさんと新世界へ旅立つ前日は〝ワクワク〟して中々寝付けなかった。するとベットの下に布団を敷いて寝ていたマリーナさんが、夜中に突然〝夜這いだ〜〟と言いながら襲って来たのだが、咄嗟に反応した僕は、彼女の額に空手チョップをお見舞いして失神させてやった。そうすると何故か落ち着き、ぐっすりと眠ることが出来た。







「……うっ!?体が重い……金縛りなのか?
全く動けない…。」

朝目覚めると、金縛りにあったように体が重く動けなかった!僕は目を開いて部屋の様子を伺うと、マリーナさんが僕の上に覆い被さるように寝ていたのだ。

「う〜うふっ♡ ソータ大〜ちゅき♪…〝むにゃむにゃ〟 」

僕は、〝はぁ〜…〟っと溜息を吐いてマリーナさんを強引にベットから転げ落とした。

そして、軽くなった体を起こし〝ふわ〜〟と大きな欠伸をしながら朝8時にセットしておいた目覚まし時計を止めるのだった。

「〝あ、痛ぃたたっ〟ソータ!何をするのだ!!私をベットから落とすなんて酷いではないか。それから夜中もいきなり殴っただろう!」

「それは、マリーナさん…マリーナの自業自得だろぉ!ちゃんと布団を用意したんだから、そこで寝てよ!」

僕が彼女の世界へ行く事が決まってすぐマリーナさんは、私にさん付けや敬語を使うなと言ってきた。一応、師匠と弟子という関係なのだが、あちらの世界で僕が舐められないようにと、彼女なりの計らいらしい。

「少しくらい一緒に寝ても良いではないか!ソータとの結婚を諦め、養子にして親子になるのだから、一緒に寝るのは当然の権利であろう。」

僕を養子にするのもマリーナの提案であった。彼女にもしもの事があった場合、遺産を受け継いで魔法創作の研究を引き継いで貰いたいのだと。

「幾ら親子になるからって、一緒には寝ないからね!向こうに行っても部屋は別々にしてもらうから!」

「な、何だと〜!!既にメイドが二人で眠れるベットを用意しているのだぞ!それでは、あまりにも酷というものだ。なぁ、頼むソータ!それだけは勘弁してくれぬか?」

「ダメだね!絶〜対にダメ!!」

二人で一緒に寝るなんて考えられない。僕は頑としてマリーナの提案を断った。
この後、彼女は向こうの世界に行くまで、この世の終わりかのような顔をして落ち込んでいたが、僕は素知らぬ振りをし、旅路の準備をしていた。
もっとも、準備といっても身支度を整え、 ︎ノートと愛用の眼鏡を持っていくだけなのだが、必要な物はマリーナがあちらで全部用意してくれるとのことだった。







「デワソータ、ジュンビハヨイカ?」

「何故、棒読みなんだよ…まだ落ち込んでるの?」

「ダッテソータガイッショニネテクレナイッテイッタカラ。ソリャ、オチコミタクモナルッテモンダロ!」

「あーもぅ!!分かったよ。毎日は無理だけど、たまになら一緒に寝てあげるから!元気出してよマリーナ。」

「本当か、ソータ!?よし!そうと分かれば早速出発するとするか!!」

立ち直り早いな…。僕の一言で急に元気を取り戻した彼女は、魔法で異世界への門を出現させる。
マリーナが重厚で煌びやかな門の扉を開くと、眩ゆい光に包まれ、僕は思わず手で目を覆い隠した。
次第に光が消えていき、薄眼を開けて辺りを見回すと、そこには綺麗な植物や、見たこともない生き物が生息する森の中であった。

「ここがマリーナの世界なの?」

「そうだとも、ソータの世界と違って、まだ科学が進歩していないからな、街や村以外は何処も自然で溢れているのだ。」

「へ〜〜!それで、これから何処に向かうの?」

「うむ、異世界移動の魔法は皆に秘密にしてあるからな、いきなり街に出ると大騒ぎになる。それで街からかなり遠くの場所に戻って来たという事だ。ここからは徒歩で街まで向こうことにする。そうだな、約10キロといったところか。」

「うわぁ!かなり歩くんだね…。」

「そうか?そこまで遠くないと思うのだが?」

都会で暮らしていると10キロは結構な距離だろう。しかし、この世界では至って普通の距離のようだ。普段どれだけ便利な生活をしていたかがよくわかる。

僕とマリーナは物見がてら、ゆっくりと街まで歩き始めた。途中、小鳥のさえずりや、川のせせらぎなどを聴きながら歩いていると、穏やかに時間が過ぎていくのを感じた。こういう長閑な生活も悪くはない、やはりこちらの世界に来て良かったと僕は改めて思うのだった。

「こうやって、ゆっくり歩くのも気持ちが良くていいねぇ、マリーナ!」

「そうか? こちらの世界では、こうしてゆっくりと歩く事はあまりないのだがな、たまには良いものだな。」

「え!?そうなの?」

彼女はそう言うと〝ニマニマ〟と不気味な笑みを浮かべていた。あの顔は何か良からぬ事を考えている顔だ!一体何を企んでいるんだ?

そう思っていると、脇道にある茂みの中から〝ゾロゾロ〟と剣を持った、如何にも悪そうな5、6人の男達が現れた!!

「へへへっ!こんな所を呑気に歩いてるたぁ、お前らバカなのか?」

「マリーナ!!ど、どうしようアイツらきっと盗賊だよ…」

「ああ、どうやらそのようだな。」

マリーナは盗賊を見ても驚きもせず、寧ろ待ってましたとばかりに腕を組んで余裕の表情であった。

すると、マリーナの存在に気付いた盗賊の一人が、後ろで控えている一際体の大きな男に話し掛けている声が聞こえてきた。話している内容から察するに、そいつが親玉のようである。

「お頭、あの女かなりの上物ですぜ!」

「おう!あの女は生かして捕らえろ!たっぷりと楽しんだあと奴隷商人に売り飛ばす。
ガキの方は見るからにひ弱そうだから殺して構わねぇ。」

「へへへっ。了解しやした。」

大変な事になった!!マリーナがアイツらに捕まって、奴隷にされちゃう。
僕は…奴隷ですら使い物にならないほど貧弱で殺されるのか…情けない。

「逃げなくちゃ!今すぐ逃げようマリーナ!」

「逃げる?ソータ、お前はそれで良いのか?この世界ではアイツらのような輩は、それこそ五万といるのだぞ!この先、こんな事態に遭遇する事は幾らでもあるだろう。ソータはその度に逃げ出すのか?」

マリーナの言う事も最もだった。ここは、元いた世界ではないのだ!いつまでも他人に甘えてばかりではいられない。
ひょっとして、彼女はワザと街から遠いこの場所を選んだのではないだろうか?
それなら先程の不快な笑みにも納得がいく。

クソッ!こうなったら何が何でも、僕がこの状況を打開してやる!!
奴らに腕っ節で勝てるとは到底思はない。
その為に僕が出来る事は考えることだ!

そうして僕は一つのアイデアを思い付いた。
早速思い付いたアイデアを実行に移す事にした僕は、マリーナに協力を仰いだのだった。

「分かったよ!僕がこの盗賊供を何とかしてやるから、マリーナも少しは協力してよね。」

「うむ、直接私が手をくださなければ、協力してやる。ソータの思う通りにしてみるがいい。」

「じゃぁさ!〝ゴニョゴニョ〟で〝ゴニョゴニョ〟…。」

「おい!お前ら!!さっきから何ゴチャゴチャ話してんだ!」

僕達の作戦会議に痺れを切らした盗賊の男が、怒鳴りつけてきたのを見計らい、僕は眼鏡を茂みの中へほうり投げ、ほんの少し鋭くなった顔で盗賊達を睨み付ける。

「ふふふっ。ふあっははは!!」

「な、何を笑っいやがるんだコイツは…恐怖で頭がおかしくなったのか?」

「お前ら、この俺が誰だか分からないのか?」

「何でぃ!?お前が誰だって言うんだ!そんなの知るわけねぇだろぉ!」

「まぁいい。これから死ぬ者共に話してもしょうがない。」

『『『     な!?      』』』

始めは兎に角盗賊達をビビらせる!!ブラフでも何でもいいから、少しでも不安にさせれればこっちのもんだ!

「お前らは俺のことをバカだと言ったな。確かに街道を馬車や護衛もなしで歩いていたらバカかも知れん。しかし、お前ら盗賊など幾らでも駆逐出来るだけの力を持った強者だとしたらどうだ?」

「へ、へへっ。そ、そんなの間違っても襲うわけねぇだろ!」

コイツは只者ではないかもしれない。盗賊達にやや焦りの色が出はじめた。

「ふぁ ははは。だろう?残念ながら俺は後者なのだよ!」

『『『    うっ!!    』』』

「手始めに、この中の一人を血祭りにあげてやるか! 先ずはお前だ!死ねぇ〜!!『デス!』」

「………。」

僕はそう言ってマリーナに向かって両手を広げ魔法を掛けた振りをした。

「………。」

(マ、マリーナ…「デス!」デスだよ!!)

「……え!? あ、わ、私か!  う、うわぁ〜〜ソ、ソータ様〜!! 何故、私なんですか〜苦しい〜死ぬ〜!」

〝バタリッ……〟

急に自分に振られて焦ったマリーナだったが、何とか死んだ振りをこなしてくれた。

「ふわぁ ははは!お前は毎夜雌ブタのように俺の寝所に潜り込んで来るからな!いい加減うんざりしていたのだ〜!!」

ここでマリーナの眉が〝ピクリッ〟と動いたのだが、盗賊達には気付かれていないようだ。

( あ〜ビックリした〜頼むよマリーナ…)

「「あ、アイツ、連れの女を殺しやがった!!本当にヤバい奴なんじゃないか!!」」

「お前ら静かにしろ!!ど、どうせ奴等の演技に決まってる!」

狼狽える盗賊達だったが、親玉の男が一喝して、皆の動揺を抑え込もうとする。

(クソッ!これだけじゃ足りないか。ならば…)

まだ脅しが不十分だと判断した僕は、予め用意していた次の一手を実行に移した。

「ふんっ!まだ分からないのであれば、お前らを殺すしかないようだな!『はあぁ!』」

僕は気合を入れて叫び、先程眼鏡を投げ捨てた茂みに向かって右手を大きく広げながら突き出した!

すると、何もないはずの茂みから炎が燃え上がり、盗賊達の周囲一体が火の海と化す!

僕の眼鏡は牛乳瓶の蓋のように度がキツイ、それこそ、虫眼鏡にも匹敵するほどだ。
太陽の日射しが燦々(サンサン)と降り注ぐ枯れ草や枯れ木の上に虫眼鏡を置いておくと一体どうなるのか? そう!僕の眼鏡で集束された日の光が高熱になり、枯れ草などを燃やしてしまうのだ!あとは風向きを考えて眼鏡を投げ捨てるだけの簡単な作業なのである。

最初のハッタリではごく僅かであった動揺が、次に用意していた作戦では、より大きな動揺へと変わり、盗賊達に襲いかかっていた!

「「 う、うわぁー!!殺されるー!」」

そして最後まで疑っていた親玉迄もが、僕の出した炎の魔法だと信じ込み盗賊達は慌てふためきながら蜘蛛の子を散らすように僕の前から逃げ出していった。

「ふぅ〜っ。これで良いの、マリーナ?」

僕の問い掛けで、盗賊達を撃退したと判断した彼女は静かに起き上がり、裾についた砂埃を片手で払い、辺りを確認していた。

「…ふむ。70点といったところだな。このままでは、この森がソータの起こした火事で焼け野原に成りかねない。」

「うっ!そこまでは気が回らなかったよ…ゴメンなさい…」

マリーナは、水の魔法を使い森全体に広がる火を消しながら僕に対する評価を付け加える。

「しかしながら、思っていたよりソータは良くやってくれたぞ!さすが私の見込んだ男だ!」

「えへへ。褒め過ぎだよマリーナ。」

彼女に褒められ照れ臭くなった僕は、マリーナに背を向けて恥ずかしがっていたが、何やら背後から凄まじい怒りのオーラを感じ〝ハッ〟と我に返る。

「さて、ソ〜タ〜!!先程の『雌ブタ』とは誰のこ〜と〜な〜ん〜だ〜!!」

自分の事を雌ブタ扱いした僕に業を煮やしていたマリーナが恐ろしい顔をしながら襲い掛かろうとしているのに気付き僕は慌てて逃げ出した。

「うわぁーー!調子に乗ってゴメンよ〜!!」

「ソータ待て〜〜!!お仕置きとして君の顔にキスしてやる〜!!」



「おい見ろ!!こんな街道をガキが走ってやがるぜ!捕まえて奴隷商人にでも売り飛ばすか!?」

この時、僕がマリーナから必死で逃げていた街道の茂みの中に、先程とは別の盗賊が現れ、僕のことを狙っていたのだが……

「待てコラ〜!!  逃げるなソータ〜!!」

「…いや、やめておこう…あのガキの後ろに魔物がいやがる!あんなの俺らが束になったって敵いっこねぇ…」

「…だな。あれはヤベェ…。」

物凄い形相のマリーナを見て、盗賊達は身の危険を感じ諦めて立ち去って行ったのだった。

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