魂を統べる王は、世界を統べる~農民出身の成り上がり~

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第二話 『ヒロガイム王国にて』

 知識を得るために必要なことは、
 ・本を読むこと
 ・人と話すこと
 ・実体験すること
 の三つである。

 王都にやってきてまず考えたのは、以上の三つの点が十分に満たされる働き口を探すことだった。

 ヒロガイム王国の王都は、想像以上に広かった。
 中心に高くそびえる立派な城があった。恐らく以前の世界の俺が住んでいた城より大きい。それを中心として、楕円上に多くの建物が建っている。その周辺を壁によって封鎖されている状態である。
 城門は四つ存在し、そのどれからも毎時間毎時間沢山の人間や荷物が往来している。
 ヒロガイム王国の流通の中心地なのだろう。証拠に沢山の種類の店がこの王都には立ち並んでいる。
 壁の近くは主に物の販売を営む建物が多かった。そして、中心に行けば行くほど、次は宿屋や酒場などの娯楽施設が多くなっていった。この王都に立ち寄った人々の行き帰りに、必ず二度は商業施設を通過するような設計をしている。これを考案した人は、俺は少し敬意を表したい。
 そのおかげもあってか、毎日活気づいている。道行く人々は皆良い表情をしている。ここを統治している者達はとても良い政策などを行っているのだろう。

 何より一番驚いたのは、人ならざる存在がこの世界にはいるということだった。
 この王都に来るのは何も人だけではない。獣のような恰好をした人間や人間の背の半分ぐらいしかない小人。時々背中に翼が生えた者もいたりした。
 この世界は、俺の世界の常識を超えた存在が生息しているようであった。
 そんな人々が同じ言語を使って、意思疎通を行っている光景は、俺にとってとても新鮮であった。別に差別主義者ではないが、俺の国ではそういったこともしばしば見受けられた。だから皆気兼ねなく平等のこの王都は、素晴らしいものだと思っている。

 そんな素晴らしくも広大な王都で働き口を探すということは、予想通りかなり困難であった。
 まずどんな店が展開されているのか、見物することから始めた。
 丸一日かけて見物が完了するころ、俺は疲弊しきって路上で倒れこんでしまった。
 幸い誰からも襲われることはなく、無事朝を迎えることが出来た。起きた時にはすでに、商業施設が立ち並ぶ方から、活気づいた声が多く聞こえてくる。
 路上で横たわって寝ていたせいか、全身が痛かった。背伸びをしながら、活気づいた方にゆっくり足を運んだ。

 昨日の見物の最中に分かったことだが、この世界の情報というのは「掲示板」というものを活用して手に入れるようだ。
 この国で美味しいご飯が食べられる。この地域で盗賊団が活動を始めた。そういった情報がまとめられた紙が貼られるのが掲示板だ。掲示板は王都の中心部分に数か所存在している。毎日情報が入れ替わっているわけではない。たまに新しい紙が張り出される程度。
 だが、情報を得られるというのはかなり重要なことだ。今この世界に何が起きているのか。それを知ることは全然損ではない。

 というわけで、俺は掲示板の方に向かうことにした。
 昨日の見物の時点で、働き口に関しては大方目星はつけてある。あとで目星をつけた場所に赴いて、雇ってくださいと言えばいいだけの話。それよりも新しい情報が入っていないかをチェックしに行く。`
 数分歩くと、数か所あるうちの一つが目に見えてくる。

「あれ? 人多くないか」

 今日は昨日よりも人だかりが多い。
 いつでも見ることのできる掲示板において、ある一定の時間に人が多く集まるというのは稀なことだ。それほど重大な情報が掲示板に張り出されたのだろう。
 人だかりをかき分けながら、掲示板が見える位置まで進んでいく。十余りの子供の大きさでは、大の男を跳ね除けて進んでいくのは難しかった。進んでいくこと、さらに数分。ようやく掲示板が見える位置まで辿り着いた。

『史上最年少の守護騎士誕生』

 新しく張り出されたであろう紙の見出しにはそう記されている。

「なんでもグラン様のご子息様らしいぞ。父親を遥かに凌ぐ実力を持っているらしい。グラン様が習得できなかった魔術も習得しているとか」
「まだ姿を見たことはないが、最年少で11歳の守護騎士か。本当に大丈夫なのか?」
「グラン様専属守護騎士の次期隊長候補という噂も聞いたぞ。生半可な実力なら、こういった噂は出回らないだろう。早くその姿を拝んでみたいところだ」

 隣の大人が二人、そういった噂をしていた。
 グラン? この王都の住民から、時々耳にした人の名前。もしかして、ここの国の王族か何かか。
 だがそんなことよりも、この最年少の守護騎士がどうやってなったのか、という疑問が先だ。
 入隊試験、でもあるのだろうか。相当な実力の持ち主だということは確かだろう。どれほどの実力を持っていれば、守護騎士として認められるのだろうか。
 そいつはグランとかいう奴の息子らしいじゃないか。それが本当なら、そういったことが込々で守護騎士になれるということが濃厚か。

 以上のことから考えれば、優れた血筋を持っていること。かなりの実力の持ち主であること。この二つが最低でも守護騎士になるのに、必要ということだろう。

 なんたる運命か。生まれ持った才能がなければ、俺の悲願を達成できないということ。
 前の世界ならば、頑張れば守護騎士になれたかもしれない。なぜなら、俺は王子様だったからだ。それならばすでに身分があるから、どうでもよいことだが。
 この世界では、農民出身である俺だ。すでに八方ふさがりである。

 掲示板に張られた情報のおかげで、俺の一筋の未来が絶たれた。
 もう一度考え直して、方法を探るしかない。俺は少し落ち込みながら、掲示板を後にした。

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