神速の騎士 ~駆け抜ける異世界浪漫譚~
母親
大和 光は今日も冒険者ギルドに来ていた。
昨夜、本格的に冒険者として生計を立てたいとレドルンドに伝えると、快活な笑いとともに応援してくれた。
丸腰では格好がつかないだろうと、屋敷にあった余りの武具をくれたのでありがたく頂戴する。
レドルンドには本当に世話になりっぱなしである。
「ちょうど良さそうなクエスト、ないですねー。」
トリスがクエストボードをにらんで言う。
トリスは光がクエストを受けに行くと知ると、「クエストを受けるなら、私が選んであげますね。」と言って、楽しそうについてきた。
今日のお昼はどこにしましょうか、と幸せそうに話す彼女を見ると、無下にはできない。
あのダイアウルフの討伐依頼とか、オレじゃ受けられないのかな、なんて思いながらクエストボードを見ていると、受付の辺りが騒がしいことに気づいた。
なんだろうとトリスに聞くと、受付に来ている女の人の娘さんが昨日から帰ってこないこと。
娘さんは冒険者で、昨日は森に薬の原料を取りに行ったこと。
どうか娘を探してほしいと頼む母親だが、冒険者はみなダイアウルフの討伐で出払っているため、すぐに捜索ができないらしいことを話してくれた。
オレのクエストを選んでいたはずなのに、よく受付の話が聞こえてたなと、光は驚いたが、母親と聞いて表情を曇らせた。
(母親か……)
光は自分の母親のことを思い出していた。
自分がいなくなったあと、母もああして探し歩いているのだろうか。
そう思うと、胸が苦しくなった。
自然と足が受付へと動くのを、トリスが制した。
「ダメですよ。」
光は信じられないようなものを見る目でトリスを見た。
そして、絞り出すように言う。
「どうして?」
「森は危険だからです。その娘さんが採りに行った薬草が生えている辺りは特に。」
「なにがあるんですか?」
「魔物です。そこを辺りを拠点にして活動している魔物の群れがいるんです。」
「昨日、僕の力をお見せしましたよね。自分で言うのもなんですが、僕は強いと思います。魔物なんて蹴散らして見せますよ。」
「光様のお力は、確かにすごいです。でも、戦いに絶対はない。特に森の中は隠れる場所が多い。奇襲されては力を発揮する前にやられてしまいます。それを防ぐためにパーティーを組んで周囲を警戒しつつ進みますが、光様はお一人です。森の魔物の群れに挑むのは、リスクが高いです。」
光は押し黙り、じっとトリスを見つめる。
トリスもまた、光から目を離さない。
トリスの目は、強い、しかし優しい光が宿っていた。
見つめあって数瞬、光はゆっくりと口を開いた。
「トリスさん、心配してくれてありがとうございます。でも、おれはいきます。」
トリスは静かに問いかける。
「どうしてですか?」
「トリスさん、オレはね。訳もわからずここにいるんです。家族になにも言わずにここに来て、連絡もとれない。きっと心配している。オレはそれを思うととても苦しくなるんです。そして今、目の前に同じ境遇の母親がいる。重ね合わせているだけですが、オレは力になってあげたい。」
光は少し間をあけて、力強く言う。
「だから、オレは行きます。」
レドルンド様にお世話になりましたとお礼をいっておいてください、そう伝えて、光は受付へと足を向けた。
「光様。」
トリスが呼び掛けるが、光は無視した。
が、次の一言で足を止める。
「場所、わかるんですか?」
振り向くと、トリスが可愛らしく微笑んでいた。
昨夜、本格的に冒険者として生計を立てたいとレドルンドに伝えると、快活な笑いとともに応援してくれた。
丸腰では格好がつかないだろうと、屋敷にあった余りの武具をくれたのでありがたく頂戴する。
レドルンドには本当に世話になりっぱなしである。
「ちょうど良さそうなクエスト、ないですねー。」
トリスがクエストボードをにらんで言う。
トリスは光がクエストを受けに行くと知ると、「クエストを受けるなら、私が選んであげますね。」と言って、楽しそうについてきた。
今日のお昼はどこにしましょうか、と幸せそうに話す彼女を見ると、無下にはできない。
あのダイアウルフの討伐依頼とか、オレじゃ受けられないのかな、なんて思いながらクエストボードを見ていると、受付の辺りが騒がしいことに気づいた。
なんだろうとトリスに聞くと、受付に来ている女の人の娘さんが昨日から帰ってこないこと。
娘さんは冒険者で、昨日は森に薬の原料を取りに行ったこと。
どうか娘を探してほしいと頼む母親だが、冒険者はみなダイアウルフの討伐で出払っているため、すぐに捜索ができないらしいことを話してくれた。
オレのクエストを選んでいたはずなのに、よく受付の話が聞こえてたなと、光は驚いたが、母親と聞いて表情を曇らせた。
(母親か……)
光は自分の母親のことを思い出していた。
自分がいなくなったあと、母もああして探し歩いているのだろうか。
そう思うと、胸が苦しくなった。
自然と足が受付へと動くのを、トリスが制した。
「ダメですよ。」
光は信じられないようなものを見る目でトリスを見た。
そして、絞り出すように言う。
「どうして?」
「森は危険だからです。その娘さんが採りに行った薬草が生えている辺りは特に。」
「なにがあるんですか?」
「魔物です。そこを辺りを拠点にして活動している魔物の群れがいるんです。」
「昨日、僕の力をお見せしましたよね。自分で言うのもなんですが、僕は強いと思います。魔物なんて蹴散らして見せますよ。」
「光様のお力は、確かにすごいです。でも、戦いに絶対はない。特に森の中は隠れる場所が多い。奇襲されては力を発揮する前にやられてしまいます。それを防ぐためにパーティーを組んで周囲を警戒しつつ進みますが、光様はお一人です。森の魔物の群れに挑むのは、リスクが高いです。」
光は押し黙り、じっとトリスを見つめる。
トリスもまた、光から目を離さない。
トリスの目は、強い、しかし優しい光が宿っていた。
見つめあって数瞬、光はゆっくりと口を開いた。
「トリスさん、心配してくれてありがとうございます。でも、おれはいきます。」
トリスは静かに問いかける。
「どうしてですか?」
「トリスさん、オレはね。訳もわからずここにいるんです。家族になにも言わずにここに来て、連絡もとれない。きっと心配している。オレはそれを思うととても苦しくなるんです。そして今、目の前に同じ境遇の母親がいる。重ね合わせているだけですが、オレは力になってあげたい。」
光は少し間をあけて、力強く言う。
「だから、オレは行きます。」
レドルンド様にお世話になりましたとお礼をいっておいてください、そう伝えて、光は受付へと足を向けた。
「光様。」
トリスが呼び掛けるが、光は無視した。
が、次の一言で足を止める。
「場所、わかるんですか?」
振り向くと、トリスが可愛らしく微笑んでいた。
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