神速の騎士 ~駆け抜ける異世界浪漫譚~

休月庵

レドルンドの思惑

レドルンド・ロアはコーヒーのカップをコトリと置いた。




姪のリリーナが賊に襲われて、命からがら逃げてきたのが先日の話。
調べによると、賊の正体はあの悪名高い「騎士殺し」らしい。
高い魔法能力を持った者を数名擁しており、その力は王都の近衛騎士さえ凌駕すると噂されている。


リリーナの護衛には精鋭が用意されたはずだが、すでにこの世にはいないだろう。
リリーナを逃がしてくれただけでも、よくやってくれたものだと称賛されてしかるべきだ。


そしてリリーナにとって運が良かったのは、逃げ込んだ森であの青年、大和 光に出会ったことだ。


騎士殺しの魔法使いを倒したとなれば、その実力はかなりのものだ。
S級の冒険者として認定してもよい。


しかし、しかしだ。
あの青年には謎が多すぎる。


異世界から来たと言ったが、どうにも信じがたい話だ。
東には黒髪黒目の一族がいると聞いたことがあるが、おそらくそこの出自ではないだろうか。


だとしたらなぜ隠す。
リリーナの命を救ったことは事実だ。
リリーナに仇なすものではないのだろう。


しかし狙いが見えない。
目的はなにか。




今日、トリスに命じて光の様子を見させたが、街を見て回る姿はまるで観光客のようだったとのことだ。
見るものすべてに興味を示し、子供のように目を輝かせていたと。


中でも一際彼が興味を持ったのは、冒険者だ。
昨夜も、冒険者について知ると即座に冒険者になりたがった。


そして難しい難易度のクエストを望んでいたようだ。




強い力。東方の一族。王族に恩を売る行為。冒険者への強い憧れと、活躍を望む心。


売名目的か?賊も自ら雇ったか?いや、手が込みすぎている。第一、その強さだけで十分目立つ。


東方の一族から差し向けられた刺客か?あえて恩を売り、レギン王国の内情を得やすい立場を手に入れたか。
しかし愚策だ。出自を伏せても東方の一族との関連は見た目で疑われる。




わからん。わからんが、油断はできない。


目的のわからない、怪しい男。
だが、トリスも見た光の力は本物だ。
引き込めれば、頼もしい剣となる。




レドルンドはすっかり冷めきったコーヒーをすすり、目を閉じた。

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