ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版

るう

ダンジョン談義

 各教科の授業や研究の他に、一年を通しての自由研修がある。これは、普段とかく交流のない教科と自由に組んで、何か一つの課題を熟すという目的から始まったものだ。もちろん参加するのもしないのも自由だが、それなりの結果を出せば自分が持っている全教科の単位が個々の成果によりに追加される。
 もともとレポート提出が主だったのだが、ここ数年の流行はダンジョン攻略だ。
 とはいえ、そこは学園の授業の一環であるためいろいろ制限はある。
 自由研修を行う最低限の条件は、自分の受け持つ全教科Ⅱ以上、一つでもⅤ以上があれば、とりあえずは申請可能というものだ。そして初めて挑戦する者は、一度でも経験のある者をリーダーに置くこと。
 ちなみに、ここで挑戦できるダンジョンは踏破済みのものである。どこにどんなモンスターがいて、地図が完成されている、いわゆるダンジョンボスがすでに倒されたものである。目新しいお宝はないが、それでもモンスターはいるし、そこで手に入るものはダンジョン産の貴重品には変わりない。

「すでに狩り尽くされたダンジョンってわけか」

 ワクワクと膨らんでいた期待が急速にしぼみ、エドガーはどこか気の抜けた声を出した。

「舐めてかかったら酷い目にあうわよ。実際、このダンジョン実習を受ける前には、きっちり念書を書かされるんだから」
「……念書?」

 ガッカリするエドガーに、ニーナが釘を刺すように人差し指を立てた。それに、リュシアンが反応する。

「そう、怪我をしたり死んでも文句は言いませんってね」

 一瞬、全員が息を飲んだ。ニーナの顔がちょっとコワい、と思ったのはリュシアンだけではないだろう。

「とはいえ、踏破済みのダンジョン実習#では・・、それほど大怪我したり死んだりってことはないけどね」
「では、ってことはそうじゃない実習もあるってこと?」

 リュシアンが伺うように聞き返すと、ニーナがにやりと笑った。

「あら、鋭いわね」

 魔法科、武術科のどちらか、どの分野でも構わないⅦ以上が一つあって、教養科を全て終了していれば、実習で用意されたものではない、未踏破の最新ダンジョンへの挑戦もできるらしい。
 ただし、条件として必ず冒険者ギルドに登録しなければならないのだ。要するに、すべての責任は自らが負うということである。
 どの教科もⅧからⅩに上がっていくのは容易ではないらしく、この自由研修は大いに役立つとのことだった。この学園でのⅩ評価の卒業メリットは、それだけのことをする価値があるということなのだろう。
 それに未踏破のダンジョンを攻略することで受け取れる恩恵は、それを抜きにしても十分に実入りがあるので、危険を冒してでも挑戦する者は後を絶たないということだった。

「いつかは挑戦したいわね、未踏破ダンジョン」

 そう話すニーナは、すでに狩人の顔になっていた。意外なことだが、お嬢様風の見かけに反してニーナの本質は、大胆で貪欲である。何にでも興味を持ち、そして吸収することに恐れがない。
 話を聞いてるうちに、アリスやエドガーはちょっと引き気味になっている。行方不明者や死傷者が数名出ているという話を聞けば、本当ならちょっとは腰が引けるものだ。
 脳筋ぎみのアリスでさえそうなのに、意外にも一番怖いもの知らずはお姫様だったようである。

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