ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版
ニーナとアリス3
結局あの後、みっちり二人分のウオッシャーを披露する羽目になった。もちろんリュシアン特製石鹸のオプション付きの特別バージョンだ。作り置きしてあった固形石鹸も、彼女たちの羨望のまなざしに負けてオマケしてしまった。
(まあ、巻物と言ってもオリジナルの安価バージョンだからいいんだけどね)
さらに、ニーナがこの石鹸がいかにすごいかをアリスに話している最中に、髪も洗っていると知ったリュシアンが、ついうっかりシャンプーなるものがあることを話してしまったものだから、さらに面倒くさいことになった。
「じゃあリュシアンは、そのしゃんぷー? というのを使っているってことね」
「どおりで……、そのサラサラヘアーはおかしいと思っていたのよ!」
ニーナとアリスは、リュシアンは髪の感触を散々確かめるように遠慮なくもみくちゃにして、それでもサラリと元の状態に戻るのを確認した。さすがのチョビもそそくさと肩の方へ避難してしまっている。
(だからって実践するのは止めて欲しい……)
これは髪質もあるから、一概にシャンプーのせいばかりではない。けれど、らんらんとした眼差しでリュシアンを見つめる彼女たちに、そのような戯言はもはや通用しそうもない。シャンプーとリンスはまだ試作段階だから、あえて教えてなかっただけだったが、もう出さないわけにはいかない空気になっていた。
飾り気のない薬用の大びんに入れただけのシャンプーとリンスを、仕方がなくテーブルに並べた。正直、それほど泡立ちもなく、まだまだ人前に出すには程遠いものだと説明をした。
「いい香りね。リンス? の方は、ちょっと柑橘系の匂いかしら」
「ホント、いい香り……」
「シャンプーは洗い流して使うんだ。リンスは水で溶いてから毛先から浸すだけ、流す必要はないよ。柑橘系の匂いはするけど、光毒性はないから大丈夫だよ」
でも、まだ人に渡せるほどでは……と、あくまで渋るリュシアンに、ニーナは「実験台になってあげるわよ」などと調子のいいことを言って、まんまと懐へ収めた。本当に、アロマセラピー程度の効果しかないと思うが、二人がそれほど喜んでくれるなら、作った甲斐もあるというものだ。
その後も、日用品などの開発に興味をもった二人に、それらを作る錬金術や調合などの作業を一通りやってみせたり、一緒に作ったりとなぜか物作り体験教室のような日々を送ることになった。
そしてもう一つ、教室といえばニーナ達の強い希望でお菓子を作ったりもした。もちろん、菓子職人でもなんでもないリュシアンが教えられるのは、せいぜいクッキーとかマフィンくらいだが、それでも彼女たちには新鮮で楽しんでもらえたらしく、あっという間に日にちは過ぎていくのだった。
ニーナ達が滞在して数日が経った、ある日の夜。
リュシアンが寝室に入ると、そこには暗がりの中でひっそりとゾラが片膝をついた格好で控えていた。
「……っ!?」
月明かりにぼんやり浮かび上がる黒装束の隠密に、リュシアンは思わず声を上げるところだった。
(気配もなく、いきなり現れるのやめてほしい。というか、危うく蹴っ飛ばすところだったよ……)
「……イザベラ妃のこと?」
「はい、それと……エドガー殿下のことです」
ベットに腰かけると、リュシアンはランプの明かりをつけながら、何気なくゾラの報告を聞いて、ふと首を傾げた。
「エドガーが、どうかしたの?」
ゾラはすぐには答えず、順を追って話し始めた。
「……陛下は、イザベラ妃に永蟄居を命じられました」
(まあ、巻物と言ってもオリジナルの安価バージョンだからいいんだけどね)
さらに、ニーナがこの石鹸がいかにすごいかをアリスに話している最中に、髪も洗っていると知ったリュシアンが、ついうっかりシャンプーなるものがあることを話してしまったものだから、さらに面倒くさいことになった。
「じゃあリュシアンは、そのしゃんぷー? というのを使っているってことね」
「どおりで……、そのサラサラヘアーはおかしいと思っていたのよ!」
ニーナとアリスは、リュシアンは髪の感触を散々確かめるように遠慮なくもみくちゃにして、それでもサラリと元の状態に戻るのを確認した。さすがのチョビもそそくさと肩の方へ避難してしまっている。
(だからって実践するのは止めて欲しい……)
これは髪質もあるから、一概にシャンプーのせいばかりではない。けれど、らんらんとした眼差しでリュシアンを見つめる彼女たちに、そのような戯言はもはや通用しそうもない。シャンプーとリンスはまだ試作段階だから、あえて教えてなかっただけだったが、もう出さないわけにはいかない空気になっていた。
飾り気のない薬用の大びんに入れただけのシャンプーとリンスを、仕方がなくテーブルに並べた。正直、それほど泡立ちもなく、まだまだ人前に出すには程遠いものだと説明をした。
「いい香りね。リンス? の方は、ちょっと柑橘系の匂いかしら」
「ホント、いい香り……」
「シャンプーは洗い流して使うんだ。リンスは水で溶いてから毛先から浸すだけ、流す必要はないよ。柑橘系の匂いはするけど、光毒性はないから大丈夫だよ」
でも、まだ人に渡せるほどでは……と、あくまで渋るリュシアンに、ニーナは「実験台になってあげるわよ」などと調子のいいことを言って、まんまと懐へ収めた。本当に、アロマセラピー程度の効果しかないと思うが、二人がそれほど喜んでくれるなら、作った甲斐もあるというものだ。
その後も、日用品などの開発に興味をもった二人に、それらを作る錬金術や調合などの作業を一通りやってみせたり、一緒に作ったりとなぜか物作り体験教室のような日々を送ることになった。
そしてもう一つ、教室といえばニーナ達の強い希望でお菓子を作ったりもした。もちろん、菓子職人でもなんでもないリュシアンが教えられるのは、せいぜいクッキーとかマフィンくらいだが、それでも彼女たちには新鮮で楽しんでもらえたらしく、あっという間に日にちは過ぎていくのだった。
ニーナ達が滞在して数日が経った、ある日の夜。
リュシアンが寝室に入ると、そこには暗がりの中でひっそりとゾラが片膝をついた格好で控えていた。
「……っ!?」
月明かりにぼんやり浮かび上がる黒装束の隠密に、リュシアンは思わず声を上げるところだった。
(気配もなく、いきなり現れるのやめてほしい。というか、危うく蹴っ飛ばすところだったよ……)
「……イザベラ妃のこと?」
「はい、それと……エドガー殿下のことです」
ベットに腰かけると、リュシアンはランプの明かりをつけながら、何気なくゾラの報告を聞いて、ふと首を傾げた。
「エドガーが、どうかしたの?」
ゾラはすぐには答えず、順を追って話し始めた。
「……陛下は、イザベラ妃に永蟄居を命じられました」
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