ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版
噂の魔方陣
教室に入ると、にわかに騒めいて視線が集中した。
リュシアンは、途端に気が重くなった。キャンプでの戦闘の際に、幾度か披露した魔法陣魔法が噂になっていることは、事前に聞いて知っていた。
見ていた人数は少ないが、派手にやらかした自覚はある。
目が覚めた時、ニーナ達はすぐに面会に来てくれたのだが、その後が大変だった。結果的に先行させてしまったニーナに、現場に居合わせられなかった恨み言をくどくどと聞かされ、アリスやエドガーは再会するやいなや泣いているんだか怒っているんだか競い合うように文句を言われた。
「リュシアンの能力のこと、もっと聞かせて貰うわよ。じゃないと、危なくて」
ニーナにそう釘を刺され、エドガーもアリスもぶんぶん頭を縦に振っている。
確かに今回の事でわかったこともあるし、この三人とはこれから先一緒に行動することも多いだろうから、知っていて貰った方がいいのかもしれない。
そしてこの時、リュシアンの魔法陣のことが学園内で噂されていることを聞いたのだった。
それがこの結果である。
「もう出てきて平気なの?昨日まで、医務室にいたでしょう」
席に着いた途端、ニーナがさっそく駆け寄って来た。
すでにエドガーやアリスを含め幾人かの友人たちによってさんざん同じ質問をされていたリュシアンは、流石にいささか辟易としてため息をついた。
「昨日の夜には寮に戻ったよ。もうぜんぜん平気だしね。というか、僕はこんなに休むつもりなかったんだよ」
リュシアンは不満そうに唇を尖らせる。
目覚めた当日、すぐにでも寮に戻ろうとしたら、保険医のユアンに目くじらを立てて叱られた。傷はもともと治っていたし、こうして意識も戻ったんだからいいのではないかと思ったのだが、曲りなりにも専門家の言う事だから従うしかなかった。
(寝過ぎで身体痛いけど)
「ちょっと目立っただけで時の人かよ。いいご身分だな、魔法陣も書けないゴミのくせに」
そしてお馴染み、いつもの挨拶をしながらダリルの登場である。憎まれ口もちょっと久々で、戻って来たと実感できるから不思議だ。
あの時は、武術科の合宿だったからいなかったので絡まれることはなかったというわけだ。
それにしても魔法陣を一瞬で書いちゃうから噂になってるのに、噂の内容は知らないようである。
(そっか、教えてくれる友達いないんだね……)
リュシアンは、うんうんと優しい目をしてダリルを見た。
「……てめぇ、なにかわいそうなものでも見るような目してやがんだ」
無駄に察しの良いダリルが、例のごとく掴みかかろうと身を乗り出したが、ニーナが止めるまでもなくタイミングよく教師が教室に入って来た。
魔法陣の授業はまだ始まったばかりで、提出したテーマでの研究などはもう少し先になる。まずは新入生の実力テストともいえる魔法陣の書き方、発動という基礎力の測定。また、課題研究とは別に写生の熟練度上げなどの、普通の魔法陣に関する授業が行われるのである。
リュシアンが休んでいる間に、新入生の能力値の確認、順位付けなどのテストはあらかた終わっていた。本来ダリルはクラスが違うため、通常授業の時はリュシアンのⅠクラスの教室ではないのだが、本日は同じ課題をこなす班員、指導下級生のリュシアンが実力テストを受けるため、こうして出席しているのだ。なにしろ、立場上は一応ダリルもニーナと同じ指導上級生なのだから。
「てめぇがグズのせいで俺の手間が増えるじゃねーか、ったく」
ブツブツ文句を言いながらも、ダリルはいつものようにリュシアンのすぐ近くに着席した。
気に入らないならそもそも同じ班にならなければいいのだが、合同研究は昇級に有利だと言うし、理由はそんなところだろう。
というわけで、授業の前に少し時間を取ってリュシアンのテストを行うこととなった。実のところ、噂の真偽を確認するという意味合いもあったのだろう。同じ班ということで、リュシアンと、ニーナ、ダリルの三人は教室の隣にある準備室に呼ばれた。
固有スキルの可能性も考慮され、別室でのテストとなった。リュシアンの場合、知られたからといって不利になるタイプのスキルでもないけれど、要は一般的な配慮なのだろう。
もちろんスキル発動時の無属性解除の件は、ニーナやエドガー、アリスにしか話してないし、公にするつもりはない。もっとも巻物を使う限り、あまりこの点も心配はないのだけれど。
斯くして念写については、確かに道具もいらず一瞬で描かれた魔法陣に教師は大いに驚いたが、本人しか発動できないとわかると途端に微妙な顔になった。
そして発動。
今回は室内だったので、例のエルフの生活魔法の一つ、水を出す魔法を披露した。巻物が一瞬で燃え尽き、そこから魔法陣が展開される派手な演出に、教師はもちろん初見ではないニーナも度肝を抜かれた。
「相変わらず、ど派手な演出よね。どうやって燃やしてるの?」
(あ……うん、別に巻物を燃やしたかったわけじゃないんだけどね)
もちろん、これは綺麗に燃え尽きるように加工はしてるわけだけど。どうやっても燃えてしまうので、それならいっそ、というヤケクソな結果である。
「うわ……、すげぇ、なんだこれ!」
ダリルは一転して、スゲーの連発。どこかのいじめっ子のように、お前の物は俺の物とばかりにリュシアンの巻物をあっと言う間に取り上げた。
資料として置いてあった上級攻撃魔法の巻物だったのだが、嬉々として魔法陣に触れてどやぁと期待を込めて空中を見上げるダリルを、その場にいた全員がやれやれという顔でため息をついた。
「なんだこれ、発動しないじゃねーか!」
そう説明したはずなのだが、話しを聞いてないダリルに全員が「やれやれ」と肩を竦めた。
リュシアンは、途端に気が重くなった。キャンプでの戦闘の際に、幾度か披露した魔法陣魔法が噂になっていることは、事前に聞いて知っていた。
見ていた人数は少ないが、派手にやらかした自覚はある。
目が覚めた時、ニーナ達はすぐに面会に来てくれたのだが、その後が大変だった。結果的に先行させてしまったニーナに、現場に居合わせられなかった恨み言をくどくどと聞かされ、アリスやエドガーは再会するやいなや泣いているんだか怒っているんだか競い合うように文句を言われた。
「リュシアンの能力のこと、もっと聞かせて貰うわよ。じゃないと、危なくて」
ニーナにそう釘を刺され、エドガーもアリスもぶんぶん頭を縦に振っている。
確かに今回の事でわかったこともあるし、この三人とはこれから先一緒に行動することも多いだろうから、知っていて貰った方がいいのかもしれない。
そしてこの時、リュシアンの魔法陣のことが学園内で噂されていることを聞いたのだった。
それがこの結果である。
「もう出てきて平気なの?昨日まで、医務室にいたでしょう」
席に着いた途端、ニーナがさっそく駆け寄って来た。
すでにエドガーやアリスを含め幾人かの友人たちによってさんざん同じ質問をされていたリュシアンは、流石にいささか辟易としてため息をついた。
「昨日の夜には寮に戻ったよ。もうぜんぜん平気だしね。というか、僕はこんなに休むつもりなかったんだよ」
リュシアンは不満そうに唇を尖らせる。
目覚めた当日、すぐにでも寮に戻ろうとしたら、保険医のユアンに目くじらを立てて叱られた。傷はもともと治っていたし、こうして意識も戻ったんだからいいのではないかと思ったのだが、曲りなりにも専門家の言う事だから従うしかなかった。
(寝過ぎで身体痛いけど)
「ちょっと目立っただけで時の人かよ。いいご身分だな、魔法陣も書けないゴミのくせに」
そしてお馴染み、いつもの挨拶をしながらダリルの登場である。憎まれ口もちょっと久々で、戻って来たと実感できるから不思議だ。
あの時は、武術科の合宿だったからいなかったので絡まれることはなかったというわけだ。
それにしても魔法陣を一瞬で書いちゃうから噂になってるのに、噂の内容は知らないようである。
(そっか、教えてくれる友達いないんだね……)
リュシアンは、うんうんと優しい目をしてダリルを見た。
「……てめぇ、なにかわいそうなものでも見るような目してやがんだ」
無駄に察しの良いダリルが、例のごとく掴みかかろうと身を乗り出したが、ニーナが止めるまでもなくタイミングよく教師が教室に入って来た。
魔法陣の授業はまだ始まったばかりで、提出したテーマでの研究などはもう少し先になる。まずは新入生の実力テストともいえる魔法陣の書き方、発動という基礎力の測定。また、課題研究とは別に写生の熟練度上げなどの、普通の魔法陣に関する授業が行われるのである。
リュシアンが休んでいる間に、新入生の能力値の確認、順位付けなどのテストはあらかた終わっていた。本来ダリルはクラスが違うため、通常授業の時はリュシアンのⅠクラスの教室ではないのだが、本日は同じ課題をこなす班員、指導下級生のリュシアンが実力テストを受けるため、こうして出席しているのだ。なにしろ、立場上は一応ダリルもニーナと同じ指導上級生なのだから。
「てめぇがグズのせいで俺の手間が増えるじゃねーか、ったく」
ブツブツ文句を言いながらも、ダリルはいつものようにリュシアンのすぐ近くに着席した。
気に入らないならそもそも同じ班にならなければいいのだが、合同研究は昇級に有利だと言うし、理由はそんなところだろう。
というわけで、授業の前に少し時間を取ってリュシアンのテストを行うこととなった。実のところ、噂の真偽を確認するという意味合いもあったのだろう。同じ班ということで、リュシアンと、ニーナ、ダリルの三人は教室の隣にある準備室に呼ばれた。
固有スキルの可能性も考慮され、別室でのテストとなった。リュシアンの場合、知られたからといって不利になるタイプのスキルでもないけれど、要は一般的な配慮なのだろう。
もちろんスキル発動時の無属性解除の件は、ニーナやエドガー、アリスにしか話してないし、公にするつもりはない。もっとも巻物を使う限り、あまりこの点も心配はないのだけれど。
斯くして念写については、確かに道具もいらず一瞬で描かれた魔法陣に教師は大いに驚いたが、本人しか発動できないとわかると途端に微妙な顔になった。
そして発動。
今回は室内だったので、例のエルフの生活魔法の一つ、水を出す魔法を披露した。巻物が一瞬で燃え尽き、そこから魔法陣が展開される派手な演出に、教師はもちろん初見ではないニーナも度肝を抜かれた。
「相変わらず、ど派手な演出よね。どうやって燃やしてるの?」
(あ……うん、別に巻物を燃やしたかったわけじゃないんだけどね)
もちろん、これは綺麗に燃え尽きるように加工はしてるわけだけど。どうやっても燃えてしまうので、それならいっそ、というヤケクソな結果である。
「うわ……、すげぇ、なんだこれ!」
ダリルは一転して、スゲーの連発。どこかのいじめっ子のように、お前の物は俺の物とばかりにリュシアンの巻物をあっと言う間に取り上げた。
資料として置いてあった上級攻撃魔法の巻物だったのだが、嬉々として魔法陣に触れてどやぁと期待を込めて空中を見上げるダリルを、その場にいた全員がやれやれという顔でため息をついた。
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