ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版

るう

スキルの欠点

(ああ…、眠い。寒い……これ、寝ちゃダメなんだろうな……)

 ほとんど無意識に身体を起こそうとして、電流が走るほどの痛みが走った。しかも、一ミリも動けてない。
 その痛みで、瞬間的に記憶が蘇った。
 うっかりすると意識が飛びそうな中、なんとか首だけ動かして怪我の度合いを確認し、落ち着いて記憶を整理していく。
 こめかみに心臓が移動したかのように、血が流れるのと同時に脈打つ感じが気持ちが悪かった。かなり深刻な状況だけは理解できた、なにしろ、やたらと寒くて眠いのだ。
 
「……、僕の、カバン取って」

 頷いたアリスだったが、エドガーが「俺が……」と言って立ち上がった。いまだアリスの膝には、リュシアンの頭が乗っているのだ。カバンを探すようにきょろきょろするエドガーに、チョビがリュシアンの頭からぴょんと地面に降りて目にもとまらぬ速さで草むらに飛び込んだ。
 やがて再び姿を現すと、肩掛けベルトを銜えて引き摺ってきたのだ。
 近くにいた他の生徒が手伝おうとしたが、がちんっと噛みつくように威嚇されて、結局カバンは、地面を散々引き摺られてリュシアンの手元へと運ばれた。

「あり、がと……チョビ」
 
 アリスに身体を起こしてもらい、カバンごとチョビを自分の膝に置く。チョビは、すぐにいそいそと頭の定位置へとおさまり、それでも心配そうに首を伸ばして上から覗き込んでいた。
(ああ……眠いな。油断すると、目が、くっつく……)

「リュシアンッ!」

(あ、……はい、寝てマセン)
 睡魔に負けそうになると、途端にアリスの悲鳴のような叱責が飛ぶ。
 血に濡れた手で、カバンに手を突っ込むのは憚られたが、この際そんなことは言ってられない。すぐに自作の傷薬と回復薬、それと治癒魔法を念写してある巻物を取り出した。
 万一の為に用意してきたものだ。まさか自分が使うとは思わなったけどね。
 苦笑しつつも上級傷薬をまず手に取り、力の入らない手で蓋を四苦八苦して開けようとしていると、エドガーがひったくるようにして取り上げた。

「…貸せ。どっちだ?」
「まず傷薬、赤いやつ。そのあと、回復薬青いやつで……」

 いずれも上級判定のものだ。ケチらずに特級を持ってくればよかったと後悔したが後の祭りだ。
 エドガーは乱暴な手つきで瓶の蓋を引っこ抜くとその辺にポイっと捨てた。
(こらっ、その瓶は使いまわすんだから蓋捨てんな!)
 しかし、今は残念ながら怒る元気がない。声も出なかった。
 
 無理矢理に口に突っ込んでくる薬を、リュシアンは何とか苦労して飲み込んだ。自分で作ったもながら、あまりのまずさに吐きだしそうにえづいたが、エドガーはお構いなしに続けて回復薬を流し込む。
(で、できればアリスにやってほしかった、エドガー乱暴すぎる)

「エドガーに発動してもらう?」

 アリスは、巻物を手渡しながら気がかりそうに声をかけた。できたら誰かにやってもらいたいけれど、自作の巻物が自分にしか発動できないことは昨日わかったばかりの事実だ。知ってるのはニーナだけである。
 リュシアンは、首を振って巻物を受け取った。
 とりあえずは、薬のおかげで大分楽になった。身体が回復してきたことで、徐々に無属性のパッシブも活性化してきたようだ。

 リュシアンには今回の事態の理由が、なんとなくわかっていた。
 おそらく念写のスキルを使っているとき、同時に他の魔法やスキルは一切使えないのだ。一時的にすべての能力が、スキル発動に切り替わるのだろう。
 普段は巻物に念写していたので、安全な場所でのスキル発動のため気が付かなったのだ。今回は、例の空中に描く魔法陣が成功したわけだが、それがかえって危険を招く結果になってしまったのである。

 よくよく考えてみれば、呪文の難点である熟練度や属性を度外視した魔法陣の、良いとこだけを取ってそのリスクのみをことごとく無視したような念写。毎回できるわけではないが、今回のように巻物不要となれば、発動のスピードさえ呪文魔法を上回ることになる。
 ――確かに、それなりのリスクでもないとチートすぎるというものだ。

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