ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版
入国審査
旅は順調に進み、最後の宿場町になるオアシスの街へと着いた。
驚いたことに、特産品は塩なのだという。もちろん海から取れる塩ではなく、塩湖である。
困ったことに肉も魚もとにかく塩辛い。
もともと内陸で魚は塩漬けで運ばれてくるし、無駄に塩があるものだから保存のために肉もすぐに塩漬けにされてしまう。
塩辛いものをあまり好まないリュシアンは、干し肉や干し魚などを塩抜きして食べて、皆に奇異の目で見られた。高血圧になると警告したいが、そういう病気が認知されているのかわからない。
「心なしか水も塩辛い……」
こんな水を飲んで大丈夫なのかと心配になってしまう。
朝は泊まった宿でそのまま食事をとったので、調理された物を塩抜きして食べるわけにもいかず、もうとにかく口の中が塩辛い。
「あら? お食事お口にあわないかしら」
「いえ、お水が少し……」
飲み水が塩辛いこと訴えると、なんでも今年の乾季はひどいらしく、町の水場の水位もかなり減って遠くの井戸まで汲みにいっているのだと教えてくれた。そこはもともと井戸に塩湖の塩が滲みてくるということで、使わなくなった井戸らしい。オアシスの水量が戻るまでは辛抱するしかないといって宿屋の娘は笑っていた。
オアシスの町を出て一日、日が暮れる寸前に王都の門が見えてきた。
商隊の馬車や徒歩の旅人風の集団、いろいろな人たちが門の前に並んでいた。入国審査である。
すると、リュシアンたちの馬車はその人込みを避けるようにして少し小さな門の前に進んだ。不思議そうに行列の方を眺めていると、父が説明してくれた。
貴族専用の門というものがあるというのだ。ちょっとズルをするような後ろめたさもあったが、おかげですぐに順番が回って来た。
案の定というか、想像していた通り、チョビは入国審査に引っかかった。
ベヒーモスはこの世界においても伝説級モンスター。それ故に、あまり姿かたちを知るものは少ない。
むろん、この門番も例外ではない。
「ええと、これは岩鼠、かな?」
「えっ?!」
思わずびっくりして、リュシアンの声がひっくり返った。
「……え? なにか」
「あ、いえ! そ、そう……かな?」
(ロックマウスってなに?)
と、条件反射で聞き返しそうになったが、それを何とか呑みこんだ。
なにしろベヒーモスだと知られるのも、説明するのも面倒なことになりそうだからだ。どちらにしても信じてもらえそうもない。
街中に魔獣は入れないと警告を受けるんじゃないかとドキドキしたが、どうやらそれ自体は大丈夫のようだ。もっとも、岩鼠だと思ってくれているからかもしれないけれど。
貴族専用の門だからなのか、あまり根掘り葉掘り聞かれないのが救いだった。それでも、やはり従魔はいろいろあるようだ。主人を特定するものを身に着けないとならないというのだ。
「ではこの首輪を……、首、どこかな」
革のような素材で出来た首輪を手に、門番の青年は途方に暮れた。
警戒しているのか、チョビはぎゅっと身を縮ませ首の窪みがすっかり隠れていた。
「この胴体のところでいいですか?」
リュシアンが指定すると、青年は頷いて首輪を巻き付けようと近づいた。するとチョビはがちん、と顎を鳴らして思いっきり威嚇した。門番の兵士は、ギョッとして手を引っ込めた。
「あ、角に触られるとおもったのかな? すみません、僕がやります」
「……岩鼠って角あったかな?」
兵士の不思議そうな呟きは、リュシアンは聞こえなかったことにした。
岩のお化けのようなベヒーモスに、ピンクの首輪、この場合は胴巻き、が装着された姿はなんだか滑稽だった。体に変なものを付けられて不機嫌なのか、チョビはお気に入りのリュシアンの頭に登ってモゾモゾ動き続けてる。可哀想だけど、慣れてもらうしかない。
「ずっと気になっていたんだが、それは岩鼠だったのか?」
エヴァリストはこの旅の間中、すこしリュシアンとは距離を取っているようだった。実際は通常よりかなり気にしている様子だったのだが、無理して放っておいたという感じだろう。
なので、旅の序盤からずうっと息子の頭にへばりついているソレについて、聞きたくても聞きそびれていたのである。
「たまたま機会があって、従魔になりました。チョビです」
岩鼠についてはあえて肯定はせず、リュシアンはそう答えた。
この岩鼠は砂漠地帯のどこにでもいる雑魚モンスターだったらしく、そんなことを知らなかったリュシアンは、門番の苦笑に気が付かなかった。おそらく、低レベルモンスターを従魔にして得意げにしている貴族のボンボン、くらいに見えたのかもしれない。
もっともリュシアンにしてみれば、別に岩鼠だろうがベヒーモスだろうが結果はあまり変わらない。テイマーを目指していないリュシアンは、チョビを戦わせる気など毛頭ないのだから。
じょりじょりと頭上のチョビを撫でると、お返しと言わんばかりにゴリゴリと頭を擦りつけた。
リュシアンのつやつやの髪の上が気に入ったのか、頭の上がすっかりと定位置になっていた。重さは一切感じないので乗っていいるのを忘れそうだが、時々ずり落ちそうになるのか爪を立てるので思い出す。
(……君、爪も痛いからね。手加減してね)
それにしても従魔というのは、もっぱらモフモフとかぷにぷにとかそういうのだと思っていたが、チョビの場合は甘え方もすりすりじゃなくてゴリゴリである。
それも、下手をすると怪我をするレベルで。
「いやもうね、可愛いんだけど……」
驚いたことに、特産品は塩なのだという。もちろん海から取れる塩ではなく、塩湖である。
困ったことに肉も魚もとにかく塩辛い。
もともと内陸で魚は塩漬けで運ばれてくるし、無駄に塩があるものだから保存のために肉もすぐに塩漬けにされてしまう。
塩辛いものをあまり好まないリュシアンは、干し肉や干し魚などを塩抜きして食べて、皆に奇異の目で見られた。高血圧になると警告したいが、そういう病気が認知されているのかわからない。
「心なしか水も塩辛い……」
こんな水を飲んで大丈夫なのかと心配になってしまう。
朝は泊まった宿でそのまま食事をとったので、調理された物を塩抜きして食べるわけにもいかず、もうとにかく口の中が塩辛い。
「あら? お食事お口にあわないかしら」
「いえ、お水が少し……」
飲み水が塩辛いこと訴えると、なんでも今年の乾季はひどいらしく、町の水場の水位もかなり減って遠くの井戸まで汲みにいっているのだと教えてくれた。そこはもともと井戸に塩湖の塩が滲みてくるということで、使わなくなった井戸らしい。オアシスの水量が戻るまでは辛抱するしかないといって宿屋の娘は笑っていた。
オアシスの町を出て一日、日が暮れる寸前に王都の門が見えてきた。
商隊の馬車や徒歩の旅人風の集団、いろいろな人たちが門の前に並んでいた。入国審査である。
すると、リュシアンたちの馬車はその人込みを避けるようにして少し小さな門の前に進んだ。不思議そうに行列の方を眺めていると、父が説明してくれた。
貴族専用の門というものがあるというのだ。ちょっとズルをするような後ろめたさもあったが、おかげですぐに順番が回って来た。
案の定というか、想像していた通り、チョビは入国審査に引っかかった。
ベヒーモスはこの世界においても伝説級モンスター。それ故に、あまり姿かたちを知るものは少ない。
むろん、この門番も例外ではない。
「ええと、これは岩鼠、かな?」
「えっ?!」
思わずびっくりして、リュシアンの声がひっくり返った。
「……え? なにか」
「あ、いえ! そ、そう……かな?」
(ロックマウスってなに?)
と、条件反射で聞き返しそうになったが、それを何とか呑みこんだ。
なにしろベヒーモスだと知られるのも、説明するのも面倒なことになりそうだからだ。どちらにしても信じてもらえそうもない。
街中に魔獣は入れないと警告を受けるんじゃないかとドキドキしたが、どうやらそれ自体は大丈夫のようだ。もっとも、岩鼠だと思ってくれているからかもしれないけれど。
貴族専用の門だからなのか、あまり根掘り葉掘り聞かれないのが救いだった。それでも、やはり従魔はいろいろあるようだ。主人を特定するものを身に着けないとならないというのだ。
「ではこの首輪を……、首、どこかな」
革のような素材で出来た首輪を手に、門番の青年は途方に暮れた。
警戒しているのか、チョビはぎゅっと身を縮ませ首の窪みがすっかり隠れていた。
「この胴体のところでいいですか?」
リュシアンが指定すると、青年は頷いて首輪を巻き付けようと近づいた。するとチョビはがちん、と顎を鳴らして思いっきり威嚇した。門番の兵士は、ギョッとして手を引っ込めた。
「あ、角に触られるとおもったのかな? すみません、僕がやります」
「……岩鼠って角あったかな?」
兵士の不思議そうな呟きは、リュシアンは聞こえなかったことにした。
岩のお化けのようなベヒーモスに、ピンクの首輪、この場合は胴巻き、が装着された姿はなんだか滑稽だった。体に変なものを付けられて不機嫌なのか、チョビはお気に入りのリュシアンの頭に登ってモゾモゾ動き続けてる。可哀想だけど、慣れてもらうしかない。
「ずっと気になっていたんだが、それは岩鼠だったのか?」
エヴァリストはこの旅の間中、すこしリュシアンとは距離を取っているようだった。実際は通常よりかなり気にしている様子だったのだが、無理して放っておいたという感じだろう。
なので、旅の序盤からずうっと息子の頭にへばりついているソレについて、聞きたくても聞きそびれていたのである。
「たまたま機会があって、従魔になりました。チョビです」
岩鼠についてはあえて肯定はせず、リュシアンはそう答えた。
この岩鼠は砂漠地帯のどこにでもいる雑魚モンスターだったらしく、そんなことを知らなかったリュシアンは、門番の苦笑に気が付かなかった。おそらく、低レベルモンスターを従魔にして得意げにしている貴族のボンボン、くらいに見えたのかもしれない。
もっともリュシアンにしてみれば、別に岩鼠だろうがベヒーモスだろうが結果はあまり変わらない。テイマーを目指していないリュシアンは、チョビを戦わせる気など毛頭ないのだから。
じょりじょりと頭上のチョビを撫でると、お返しと言わんばかりにゴリゴリと頭を擦りつけた。
リュシアンのつやつやの髪の上が気に入ったのか、頭の上がすっかりと定位置になっていた。重さは一切感じないので乗っていいるのを忘れそうだが、時々ずり落ちそうになるのか爪を立てるので思い出す。
(……君、爪も痛いからね。手加減してね)
それにしても従魔というのは、もっぱらモフモフとかぷにぷにとかそういうのだと思っていたが、チョビの場合は甘え方もすりすりじゃなくてゴリゴリである。
それも、下手をすると怪我をするレベルで。
「いやもうね、可愛いんだけど……」
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