ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版

るう

エンカウント

 さっそくリュシアンは、ホワイトツリーの皮を採集することにした。
 難しいことはなにもない、とにかく皮を剥がせばいいのだ。ナイフで切り込みを入れ、間に刃を差し込み梃子の原理で一気に剥がす。今回は試しで作る分だけなので、持ってきたリュックに入る分のみ取った。

「そういえば、ここまでモンスターとは出会わなかったな」

 錬金術で作った魔物避けの香り袋が、思った以上の働きを見せているようだ。
 もともとこの辺まではモンスターはあまり出ないとも聞いた。ここから先が、いわゆる魔境につながる奥地になるのだ。
 私有地に危険地帯があるなど驚きだが、この森を含め魔境と呼ばれる森林地帯のほとんどがうちの領地なので、そこまで全部が私有地といえなくもない。
 オービニュ家の敷地という意味では、薬草園も含めこの森半分までが我が家、ということになるのだろうけれど。それでも、野球ドーム何個入るんだろうという広さであるが。
 
 ちなみに、この山のモンスターレベルはDクラスまで。けれど、山向こうの魔境からごくたまに渡ってくるBクラスの魔物が出没することがあり、冒険者を使って山狩りをすることもあるらしい。
 
 どちらにしても、あとはオークモドキの背脂だ。
 オークモドキは、Fクラスモンスターである。見た目は人型のオークと違って、そのまま豚や猪といった姿だ。ちょっと巨大な豚という感じなのだが、どうやら時々二足歩行するらしい。

(……それも怖い)

 食欲旺盛で、雑食。集団で行動することがあるので厄介だが、基本的には新米冒険者が雑魚の虫型モンスターの次に狙う獲物だというからその程度ではある。
 雑魚の虫型モンスターは、よくよく考えてみれば見たことがあった。
 先日、クリフがまるで畑に出没するナメクジのような感覚であっという間に退治してたから、リュシアンの中でモンスターのカテゴリーに入っていなかったのだ。

(……うん、とりあえずはオークモドキだね)

 考えるのを放棄して、もう一つの素材収集に向け準備を始めた。
 少し危険は伴うけど香り袋を土に埋め、さらに奥に入っていった。虎穴にいらずんばなんとやらだ。実はこの時、リュシアンは少し焦っていた。そろそろ帰らないと、夕方までに屋敷に着けないからだ。

(とにかくモンスターが出ないことには始まらない)

 モンスター除けを手放し、どのくらい歩いただろうか。リュシアンが、そろそろ引き返した方がいいかなと考えた頃だった。
 かさり、と大きく葉っぱが揺れて、肌色の生き物がいきなり獣道の真ん中に現れた。

「…っ!?」

 オークモドキである。
 突然のエンカウントにこちらも驚いたが、向こうはもっと驚いたのだろう。ガバッとすごい勢いで立ち上がった。
 本当に二本足で立つんだ、とリュシアンがのんきなことを再確認している間に、モンスターはこちらに向かってきた。オークモドキは基本、人を見かけると逃げるらしいのだが、なにしろリュシアンはまだ子供。相手は完全に舐めきっている。
 戸惑って武器を取ることも忘れたリュシアンは、ごろりと横に転がることで豚の猛攻をよけた。

(び、びっくりした)

 一度距離を取って、体勢を立て直して向かい合う。
 オークモドキも避けられたことで、様子を見ていた。
 ドキドキと踊りまわる心臓をなんとか落ち着かせて、リュシアンは腰に下げた木刀を抜いた。けれどココは森の中、あまり振り回すことができない。豚から目を離さず、なんとかカバンにしまったナイフを取り出して、そちらを利き腕に持った。
 オークは武器を持っているが、オークモドキは武器を持たない。なぜなら前足が蹄だからだ。
 立ち上がるのは相手を威嚇するためで、攻撃する時は四足で突進してくる。武器は、牙と硬い頭蓋骨だ。
 リュシアンの武器は、盾代わりの木刀と小さなナイフ。
 見事なまでの、へっぴり腰である。
 負け惜しみではないが、前世は戦闘とは無縁の人生を送ってきた日本人だ。剣の稽古はしてはいるものの、実戦ともなれば腰が引けるのは無理もない。

 まるで牛のように、オークモドキは前足で土を蹴りつけている。
 やる気満々だけど、もしイノシシのように猪突猛進ならやりようはある。
 案の定、突進してきた豚モドキを盾代わりの木刀でいなし、リュシアンは素早く体を翻した。
 そして、背中を取ったと思った瞬間、丸々とした体形に似合わぬ素早さで反転したオークモドキが、無防備なリュシアンの脇腹に頭突きをしてきた。

「ぐっ…、い、てっ、…痛い!」

 思いっきり吹っ飛び、木にぶつかったリュシアンは、勢いが止まらずころころと転がった。
 最後は逆さまになって、ようやく止まった。とっさに木刀で防御したものの、幼い身体は小さい上に軽いので吹っ飛んだらどうにもならない。
 身体強化の恩恵もあり、痛いことは痛いが打撲などのひどい怪我などはしていない。被害といえばひっくり返った時に思わず自分で噛んだ舌くらいである。
 おかげでリュシアンは確信した。しっかり踏ん張れば、これくらいの攻撃なら耐えられると思った。今回は、慣れてなかったので受け身が間に合わなかったのだ。

「とにかく、ぜんぜん修業が足りないなあ」

 もう一度、オークモドキと向かい合う。向こうはおそらくこちらを雑魚と認定したのだろう。逃げる気はぜんぜんなさそうだ。

「くそう、ぎゃふんと言わせたい」

 むやみに逃げ腰になるより、この相手ならしっかり正面から受けたほうがいいかもしれない。不本意ながら、防御力はさっきの攻撃を受けたことで試せたのだから。
 今度は、突進してきたオークモドキを剣でしっかり受け止めた。
 足に意識を集中すれば、ちゃんと踏みしめる力も増強できている。もとより魔力操作は、先生にも褒められるほど器用なリュシアンだ。
 モンスターの足を止めてしまえばこちらのもの、リュシアンはすでに手に届くところにあるモンスターの脳天に向かってナイフの柄を思いっきり落とした。
 刃で突き刺すのを一瞬ためらったのは、元日本人としては致し方がない。これからもモンスターを狩るなら、おいおい慣れていくしかない。

「…あれ?」

 そしてリュシアンは、地面に転がったオークモドキを見下ろして、重大なことを見落としていたとようやく気が付いた。

「……これ誰が解体するの?」

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