何もしてないのに異世界魔王になれて、勇者に討伐されたので日本に帰ってきました
2話 異世界召喚されて、帰ってきた後にハーレム()するんですか、何なんですか。
緑丘望桜と、ベルフェゴールこと西原的李が兵庫県神戸市で暮らし始めてから、約半月が経った。今までこっちの世界で生きていくのに必要なものを揃えたり、職を探したりと忙しい日々を過ごしていた人間(悪魔)は─────
                              ───────非常に安定した日々を過ごしていた。
...と、いうのも2人がこちらに事故で帰ってきて、戸籍を作って家を借りて、バイト先を探して...としている間に、換金用に持ってきておいた宝石が無くなったり、1度空き巣に入られかけたりとかなり危うい状況になりはした。が、それに並行してバイト先が決まり、安定した収入が入るようになりそれに伴う生活基盤の安定。何1つ困ることが起きなくなった。いい状態が続く...いわゆるマンネリ化。
望桜的にはまあ理想的な日々だった。別に悪いことも起きないし、毎日普通に楽しいし。
それはある日、望桜がいつも通りバイトに行こうとした時だった。いつも通りの道を通るつもりで原付バイクに手をかけた時、ふと、微かながらも魔力感知スキルが作動した。方向はまっすぐ望桜の自宅の方で、来訪者だろうか?扉の前に人が立っていた。
バイトか、来訪者かを天秤にかけた結果、とりあえず遅刻は厳禁なのでバイトに向かった。
なにせ悪魔体になれば食事·睡眠いらずの的李と違い、悪魔体ver.がそもそも存在しない人間:悪魔=1:1である望桜にとっては、金欠になることはすなわち死活問題。家賃が払えなくなってマンションを追い出されても、食事が満足に手に入らなくなっても、なら仕方ないからホームレスだとか、すぐに妥協して生きていける訳ではない。だからバイトがだ。来訪者には悪いけど。
それに何より、今現在バイト先にて、推しが尊い問題が起きているのだ。と、いうのも何せ望桜自身は、中性的な子コンである。望桜曰く、"中性的な子は可愛い。性別がどっちか分かりにくい子は可愛い。尊い"らしい。
...と、あれやこれやと考えているうちに、相生町にあるバイト先の猫カフェ、Melty♕HoneyCatsに着いた。ふわふわのパウンドケーキと、猫と気軽に触れ合えることが自慢のカフェだ。
「あ、緑丘〜」
「おー!丞!」
裏口から入ってすぐ声をかけられた。彼は雅 丞(みやび たすく)。大学に行きながら店員としてこのカフェで働いている、文武両道ならぬ文稼両道の人だ。スラリとしていて、顔立ちも整っているイケメンだ。そして...
「おっ、望桜君じゃないか!今日は遅刻しなかったんだねぇ!いい事だ!」
「あっ、オーナー...その節に関しては何も言えないです、すみません...」
「気にするこたぁないよ!あん時は丞と私で上手く回せたから!今後は気をつけてくれよ!」
「ハイ...スミマセン...今後はしっかり定時前には出てきます...」
この元気で威勢のいい人が、このカフェ Melty♕HoneyCats のオーナー、烏崎 零央  (うざき れお)、みんなの頼りになるリーダーだ。そしてここMelty♕HoneyCatsでは望桜を含めて5人の店員が働いている。公式Tnitter(つにったー)のフォロワーが約1万人いるなかなかに人気の店だ。
「さあてみんな!そろそろ開店だ、気合い入れていくよ!」
「「はい!!」」
「あ、ところで丞。今日は瑠凪来てないんだな」
「シフト入ってないから、休み」
「休みかぁ...会いたかった」
「週5くらいで会ってないっけ?ww」
「それでも会いたい...」
「あははwでも今日は来ないと思うよ?性格的に応援にはこなさそうだし、確か同居人となんかするって言ってたww」
そう、俺のバイト先の推しが尊い問題の"推し"は、ここの店員の1人、桃塚 瑠凪(ももつか るな)という子のことだ。このカフェで主に料理の仕上げ(飾り付け)とラテアート、接客をしていて、公式つにったーの写真のモデルとしても一役買っている。望桜曰く"見た目は夜空の1部をそのまま持ってきたような藍色の髪に、明るく光る一等星の瞳。長めの襟足と前髪が風に踊らされているのもいい景色。そして何より19歳なのに見た目が少年なところがいい"とのこと。
そして何より...
「こんにちは〜」
「あら?今日は瑠凪君は休みじゃなかったかい?」
「客としてきました〜」
「おおっ!まあたまにはそっち側も体験するのはいい事だね!決まったら呼んどくれよ〜」
「は〜い!って、望桜いるじゃん...」
「瑠凪ぁ〜...その反応は悲しいんだが...」
「え〜、だって会いたくないし」
「酷いな!?さすがの俺でもグサッとくるぞ!?」
...望桜に対してはこのツンツン具合。何だ、可愛い。けどきらわれてるのかと思うとちょっと悲しい。
「いや、PCのスピーカー新調しに行って、そういえば職場ここら辺だったな〜と思って、昼飯食いに来ただけなんだけど。望桜居るなら帰ろうかな...」
「おおいそれは酷すぎる!!」
「冗談だよ。なに本気にしてんの、馬鹿なの?」
「うっわぁ...」
スマホに目を向けながら、まるでこちらを見ることすら嫌というふうに、憎まれ口をつく。初会時になにかやらかしたりした訳でもないのに、顔を合わせれば微妙な空気が流れるのも事実。こちらとしてはツンツンされるのも、憎まれ口たたかれるのも、可愛いのだが、こちらとしては如何せん仲良くなりたいので残念だ。
(ここ20日、会話は仕事中の会話含めても数えられるほどしかしてない..何とかして関わりたい、好かれたいんだけどな〜)
「...ウィンナーコーヒー」
「...えと」
「注文」
「う...ウィンナーコーヒー1つ入りました〜」
この態度はさすがに可愛くない。嫌われてる訳でもないのに、好かれてる訳でもない。ただ、普通の領域の中で限りなく嫌いに近いのかもしれない。こちらとしてはほんとに仲良くなりたい。けど、今は仲良くなれるビジョンがほとんど見えない。
「ところでさ」
「どした?」
「じゅうさんd...やっぱいいや」
「ちょ、めっっちゃ気になるんですけど!教えろよ〜」
「はあ!?やだよ気持ち悪いな!」
「教えろって〜」
「わ、ちょ、しつこいっ!!離れろっ!!」
なにかを言いかけて止めた瑠凪に問いただすも、疎まれながら怒られる。手も出しそうな勢いだったし、こんな調子で大丈夫かな...
「ってか、お前ん家確か本町のマンションだったよね?」
「ああ、うん...」
「向こうにも用事があって行ったんだけど、黒髪の子に、緑丘望桜と西原的李って人知りませんかって聞かれたんだけど」
「俺と的李?なんでだ?」
 ..
俺達を訪ねる人物には心当たりがない。それぞれ仕事等で会う人は違うし...もしかしたら魔王時の関係者だったりして。まあ冗談だけど。
「さあ、知らないけど」
「だよな」
「まあ...その...気をつけてね」
「え...」
(今...ちょっとデレたよな?デレたよな!?)
さっきまでの態度と打って変わってこちらを横目で見やった瑠凪。途端、右下がりだった望桜のテンションは急上昇しはじめた。その瞬間に仲良くなるビジョンが頭の中でぽんぽんと浮かび始める。
「いや、だってほらお前、もう勤務時間終わるだろ!多分聞いてきた子はまだ本町にいるから!あの調子だと見つかるまで探してそうだし!」
「え、なんでお前が俺のシフト時間知って「いいから行けよ!」 
「あ、オーナー俺今日帰りますね〜!!」
「あいよー!お疲れさんっ!!」
「お疲れ様でしたー!!」
これからどうなんのかな、もっと話せるかなと考えている頭の隅で、家に帰ることが先決だと心に決め、カフェの裏口から飛び出した。
───────────────Now Loading────────────────
「...あ」
「あっ...」
俺と的李について尋ねてきたという"黒髪の子"を探して本町を歩いていた時、ふと聞いていた特徴通りの見た目の少年を見つけた。目が合って、互いに声を上げる。そして双方の頭に瞬間的に、よぎったこと...
...こいつ、だいぶ見た目変わるんだなあ。
「緑丘望桜!!」
「ベルゼブブ!?」
「ちょ、その名前で呼ばないで!」
そう...俺と的李を探してまわっていた黒髪の子とは─
──魔王軍元幹部、世界7代悪魔"7罪"の一角、"暴食"のベルゼブブ。高い火力と防御力を誇る、能力(パラメータ)がバランス型の大悪魔だ。11代目の時から魔王軍に属していたなかなか新参の方の悪魔だ。ちなみに余談だが、魔王軍最古参の悪魔は7罪の"憤怒"、"傲慢"、"強欲"、"色欲"、そして"嫉妬"の肩書きを持つ者たちらしい。魔王城書斎でちょっとかじっただけの知識だ。あそこの書籍の多くは、名前まで明記されてないのがちょっと不便極まりなかった。
...とりあえず、この状況をどうにかしよう。
「っと、とりあえずうち来いよ、道路上でなにかするのもあれだしな」
「そうだね...」
「ここからうちは1分くらいで着く、その間にお前がわざわざこっちにでてきた理由を教えてくれよ。」
「...わかった」
2人で並んで歩きながら、聞きたいことを一つ一つ消化していく。そもそも、どうして向こうの世界とこちらの世界に文化の差があるのか。こちらの方がかなり進んでいるのに、人間が知能を持ち、活動し始めた時期は向こうの方がかなり前...役17900年前と明記してあった。...でもそれは、なんとなくだけどこいつに聞くべき事じゃない気がする。
「まず、お前ってたしか悪魔と人のハーフになったんだよね?」
「ああ、まあな」
「だから、こっちの世界の人間とは寿命が違う。」
「...お、おお...?」
マンションに着き、階段を上る。目指すは自宅である331号室、そろそろだ。
「...つまり、迎えに来た」
「うん...って、は?」
「だから、迎えに来た」
「はあ?なんでだよ」
 
オートロック式の鍵を解錠し、ドアを開けてベルゼブブを招き入れる。普通の人間に化けているベルゼブブの頭に角は無いし、背中に翼も生えていない、ほんとにただの人間に見える。それなのに威圧感だけは大悪魔であることをひしひしと伝えてくる。その隠しきれない威圧感を自覚しているのかいないのか、望桜の立場としては断りたいであろう事例を、あくまで断ることは悪事である事のように思わせる術を巧みに活用する悪魔なりの交渉術。
「こっちの人間とは寿命も身体能力も何もかも違う悪魔が、こっちの世界で生きていけるわけないよね...!」
「...そうとは限らないだろ!!第一、魔界の悪魔にもこっちの世界で生きていく術を知っている者はいたんだぞ!?つまりこっちの世界は向こうの人にとって既知の世界で、頑張れば生きていけるってことだろ!?」
「だって、こっちの世界の人間は、ほんの100年で死んでしまう!!でも、魔界の悪魔、ひいては元魔王が、10000年は余裕で生きるといわれている大悪魔が、こっちの世界で生きてるわけない!!」
つまりは、悪魔がこっちの世界で生きていけるわけがないと言いたいらしい。でも、
「それでも、俺はこっちの世界で生きたい!!丞も、零央さんも、瑠凪だってこっちの人間だ。俺はあの人たちと仲良くしてたいし、この世界が好きだ!!」
「っ...!」
「だから、俺は帰らな「緑丘望桜!!」
「っ、なんだよ!!」
「いい加減、旧魔王として、魔界に帰ってきて!!」
「はあ!?お前いい加減にしろよ!?」
「何が??」
「魔界に帰ってこいもなにも、もともと俺はこっちの世界の人間だったんだぞ!?それをいきなり魔界に連れて行って13代目魔王にしたのはお前らだろ!」
胸ぐらを掴まれて揺さぶられる、頭が痛くなってきた...可愛らしい見た目に反して力が強いベルゼブブは、俺より頭一つ低い身長ながら必死に手を伸ばし俺の足が浮くように上へ上へと揺らしながら高さをあげる。
元はと言えば、くだらない選考理由(魔王と望桜ってなんか似てるから)で向こうに連れていかれて、半強制的に魔王として推薦したのはお前らの方だ。まあ、呼び出し係が可愛かったから調子に乗った俺も悪いけど。
「っつ、それは...」
「てかお前、確かゲートもポータルも使えなかったよな!?ひょっとして...」
「え、あっ...!」
「もしかして、誰かゲート開ける、もしくはポータル使えるやつに俺を連れ戻すまで魔界には帰さないとか言われてるんじゃねえのか!?見たところ何も持ってないみたいだし!!すぐ帰ってくる予定だったんじゃねえの!?」
「うっ...そーだよ!!そう言われてる!だから帰ってきて!じゃないと僕が帰れないからっ...!!」
「俺は帰るつもりないから、お前は帰れないな」
「えっ...」
あ、ちょっと今悲しそうな顔した...
とりあえずこのまま放置は可哀想だし、ベルゼブブも的李同様、こっちの世界で悪魔体になる訳にはいかないだろう。となると、食事+睡眠=住処が必要だ。
「俺が戻らないとお前は帰れないんだな?」
「うん...だったら力ずくでも...!」
「お前魔力今微塵も残ってないだろ。んで俺は帰るつもりは無い。となるとお前がこっちで生きていくしかなくなるが、悪魔体はこっちでは基本厳禁だし、そもそも悪魔体になるのに必要な魔力はここにないから無理だ。ということで食事と睡眠が必要になる」
「...え」
「だから、俺がお前をここで匿ってやろうと思う。異論は認めません」
「...え、ええええええ!?」
「だって帰れないんだろ?お前何も持ってないみたいだし、こっちで暮らすには金がいるから」
「...うん」
「今のとこ金に余裕があって、且つ事情を知ってる俺が匿ってやるよ、それでいいな?まあ、向こうの奴らには俺に帰るつもりがなくて、力ずくでも無理で俺が断固拒否したから帰れないとでも言っておけ」
「えっ...いいの?」
いつの間にか赤くなりはじめた空。それと並行して部屋にも夕日がさしてきた、そろそろ的李も帰ってくる。この場を丸く収めておいて、とりあえず夕食の支度でもしといてやるか。
「ああ」
「...まあ、帰ってきてもらうことを諦めたわけじゃないけど、魔力が溜まるか帰るあてができるまで、匿って貰えるならありがたいかな..どうせ僕帰るとこないし」
「ってことで、よろしくな!」
「うん、よろしく」
また調子にのって厄介事をとりこんでしまったっ...けどベルゼブブ可愛いからいいよね!
こうして望桜にとって2人目の同居人が出来たのであった。
(ってか、これ中性男子コンの俺にとってハーレム的な現象が起こり始めてるんじゃね!?これからが楽しみだな!)
───────────その頃、どこかの歩道にて...
「ベルゼブブ、上手く望桜と接触出来てるといいけど...まあ、俺には関係ないかあ...あー!!焼肉食べたい!!ねえどっかいこーよー!!」
「とりあえず俺もそろそろ接触はしとくべきですかね...まだ顔見た事ないですし。あと焼肉はとりあえず明日まで無理ですね」
「まあそう焦らずとも、ボクはまた近いうちに会える気がするんだよね〜!」
金髪のJKと、紫髪の青年と...そして夜空色の髪をした少年が3人、歩道を歩きながらある1人の青年について話していた。その中でとある大悪魔の名前が出てきて、まるでその大悪魔を知っているような雰囲気で...
──────────────to be continued────────────────
                              ───────非常に安定した日々を過ごしていた。
...と、いうのも2人がこちらに事故で帰ってきて、戸籍を作って家を借りて、バイト先を探して...としている間に、換金用に持ってきておいた宝石が無くなったり、1度空き巣に入られかけたりとかなり危うい状況になりはした。が、それに並行してバイト先が決まり、安定した収入が入るようになりそれに伴う生活基盤の安定。何1つ困ることが起きなくなった。いい状態が続く...いわゆるマンネリ化。
望桜的にはまあ理想的な日々だった。別に悪いことも起きないし、毎日普通に楽しいし。
それはある日、望桜がいつも通りバイトに行こうとした時だった。いつも通りの道を通るつもりで原付バイクに手をかけた時、ふと、微かながらも魔力感知スキルが作動した。方向はまっすぐ望桜の自宅の方で、来訪者だろうか?扉の前に人が立っていた。
バイトか、来訪者かを天秤にかけた結果、とりあえず遅刻は厳禁なのでバイトに向かった。
なにせ悪魔体になれば食事·睡眠いらずの的李と違い、悪魔体ver.がそもそも存在しない人間:悪魔=1:1である望桜にとっては、金欠になることはすなわち死活問題。家賃が払えなくなってマンションを追い出されても、食事が満足に手に入らなくなっても、なら仕方ないからホームレスだとか、すぐに妥協して生きていける訳ではない。だからバイトがだ。来訪者には悪いけど。
それに何より、今現在バイト先にて、推しが尊い問題が起きているのだ。と、いうのも何せ望桜自身は、中性的な子コンである。望桜曰く、"中性的な子は可愛い。性別がどっちか分かりにくい子は可愛い。尊い"らしい。
...と、あれやこれやと考えているうちに、相生町にあるバイト先の猫カフェ、Melty♕HoneyCatsに着いた。ふわふわのパウンドケーキと、猫と気軽に触れ合えることが自慢のカフェだ。
「あ、緑丘〜」
「おー!丞!」
裏口から入ってすぐ声をかけられた。彼は雅 丞(みやび たすく)。大学に行きながら店員としてこのカフェで働いている、文武両道ならぬ文稼両道の人だ。スラリとしていて、顔立ちも整っているイケメンだ。そして...
「おっ、望桜君じゃないか!今日は遅刻しなかったんだねぇ!いい事だ!」
「あっ、オーナー...その節に関しては何も言えないです、すみません...」
「気にするこたぁないよ!あん時は丞と私で上手く回せたから!今後は気をつけてくれよ!」
「ハイ...スミマセン...今後はしっかり定時前には出てきます...」
この元気で威勢のいい人が、このカフェ Melty♕HoneyCats のオーナー、烏崎 零央  (うざき れお)、みんなの頼りになるリーダーだ。そしてここMelty♕HoneyCatsでは望桜を含めて5人の店員が働いている。公式Tnitter(つにったー)のフォロワーが約1万人いるなかなかに人気の店だ。
「さあてみんな!そろそろ開店だ、気合い入れていくよ!」
「「はい!!」」
「あ、ところで丞。今日は瑠凪来てないんだな」
「シフト入ってないから、休み」
「休みかぁ...会いたかった」
「週5くらいで会ってないっけ?ww」
「それでも会いたい...」
「あははwでも今日は来ないと思うよ?性格的に応援にはこなさそうだし、確か同居人となんかするって言ってたww」
そう、俺のバイト先の推しが尊い問題の"推し"は、ここの店員の1人、桃塚 瑠凪(ももつか るな)という子のことだ。このカフェで主に料理の仕上げ(飾り付け)とラテアート、接客をしていて、公式つにったーの写真のモデルとしても一役買っている。望桜曰く"見た目は夜空の1部をそのまま持ってきたような藍色の髪に、明るく光る一等星の瞳。長めの襟足と前髪が風に踊らされているのもいい景色。そして何より19歳なのに見た目が少年なところがいい"とのこと。
そして何より...
「こんにちは〜」
「あら?今日は瑠凪君は休みじゃなかったかい?」
「客としてきました〜」
「おおっ!まあたまにはそっち側も体験するのはいい事だね!決まったら呼んどくれよ〜」
「は〜い!って、望桜いるじゃん...」
「瑠凪ぁ〜...その反応は悲しいんだが...」
「え〜、だって会いたくないし」
「酷いな!?さすがの俺でもグサッとくるぞ!?」
...望桜に対してはこのツンツン具合。何だ、可愛い。けどきらわれてるのかと思うとちょっと悲しい。
「いや、PCのスピーカー新調しに行って、そういえば職場ここら辺だったな〜と思って、昼飯食いに来ただけなんだけど。望桜居るなら帰ろうかな...」
「おおいそれは酷すぎる!!」
「冗談だよ。なに本気にしてんの、馬鹿なの?」
「うっわぁ...」
スマホに目を向けながら、まるでこちらを見ることすら嫌というふうに、憎まれ口をつく。初会時になにかやらかしたりした訳でもないのに、顔を合わせれば微妙な空気が流れるのも事実。こちらとしてはツンツンされるのも、憎まれ口たたかれるのも、可愛いのだが、こちらとしては如何せん仲良くなりたいので残念だ。
(ここ20日、会話は仕事中の会話含めても数えられるほどしかしてない..何とかして関わりたい、好かれたいんだけどな〜)
「...ウィンナーコーヒー」
「...えと」
「注文」
「う...ウィンナーコーヒー1つ入りました〜」
この態度はさすがに可愛くない。嫌われてる訳でもないのに、好かれてる訳でもない。ただ、普通の領域の中で限りなく嫌いに近いのかもしれない。こちらとしてはほんとに仲良くなりたい。けど、今は仲良くなれるビジョンがほとんど見えない。
「ところでさ」
「どした?」
「じゅうさんd...やっぱいいや」
「ちょ、めっっちゃ気になるんですけど!教えろよ〜」
「はあ!?やだよ気持ち悪いな!」
「教えろって〜」
「わ、ちょ、しつこいっ!!離れろっ!!」
なにかを言いかけて止めた瑠凪に問いただすも、疎まれながら怒られる。手も出しそうな勢いだったし、こんな調子で大丈夫かな...
「ってか、お前ん家確か本町のマンションだったよね?」
「ああ、うん...」
「向こうにも用事があって行ったんだけど、黒髪の子に、緑丘望桜と西原的李って人知りませんかって聞かれたんだけど」
「俺と的李?なんでだ?」
 ..
俺達を訪ねる人物には心当たりがない。それぞれ仕事等で会う人は違うし...もしかしたら魔王時の関係者だったりして。まあ冗談だけど。
「さあ、知らないけど」
「だよな」
「まあ...その...気をつけてね」
「え...」
(今...ちょっとデレたよな?デレたよな!?)
さっきまでの態度と打って変わってこちらを横目で見やった瑠凪。途端、右下がりだった望桜のテンションは急上昇しはじめた。その瞬間に仲良くなるビジョンが頭の中でぽんぽんと浮かび始める。
「いや、だってほらお前、もう勤務時間終わるだろ!多分聞いてきた子はまだ本町にいるから!あの調子だと見つかるまで探してそうだし!」
「え、なんでお前が俺のシフト時間知って「いいから行けよ!」 
「あ、オーナー俺今日帰りますね〜!!」
「あいよー!お疲れさんっ!!」
「お疲れ様でしたー!!」
これからどうなんのかな、もっと話せるかなと考えている頭の隅で、家に帰ることが先決だと心に決め、カフェの裏口から飛び出した。
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「...あ」
「あっ...」
俺と的李について尋ねてきたという"黒髪の子"を探して本町を歩いていた時、ふと聞いていた特徴通りの見た目の少年を見つけた。目が合って、互いに声を上げる。そして双方の頭に瞬間的に、よぎったこと...
...こいつ、だいぶ見た目変わるんだなあ。
「緑丘望桜!!」
「ベルゼブブ!?」
「ちょ、その名前で呼ばないで!」
そう...俺と的李を探してまわっていた黒髪の子とは─
──魔王軍元幹部、世界7代悪魔"7罪"の一角、"暴食"のベルゼブブ。高い火力と防御力を誇る、能力(パラメータ)がバランス型の大悪魔だ。11代目の時から魔王軍に属していたなかなか新参の方の悪魔だ。ちなみに余談だが、魔王軍最古参の悪魔は7罪の"憤怒"、"傲慢"、"強欲"、"色欲"、そして"嫉妬"の肩書きを持つ者たちらしい。魔王城書斎でちょっとかじっただけの知識だ。あそこの書籍の多くは、名前まで明記されてないのがちょっと不便極まりなかった。
...とりあえず、この状況をどうにかしよう。
「っと、とりあえずうち来いよ、道路上でなにかするのもあれだしな」
「そうだね...」
「ここからうちは1分くらいで着く、その間にお前がわざわざこっちにでてきた理由を教えてくれよ。」
「...わかった」
2人で並んで歩きながら、聞きたいことを一つ一つ消化していく。そもそも、どうして向こうの世界とこちらの世界に文化の差があるのか。こちらの方がかなり進んでいるのに、人間が知能を持ち、活動し始めた時期は向こうの方がかなり前...役17900年前と明記してあった。...でもそれは、なんとなくだけどこいつに聞くべき事じゃない気がする。
「まず、お前ってたしか悪魔と人のハーフになったんだよね?」
「ああ、まあな」
「だから、こっちの世界の人間とは寿命が違う。」
「...お、おお...?」
マンションに着き、階段を上る。目指すは自宅である331号室、そろそろだ。
「...つまり、迎えに来た」
「うん...って、は?」
「だから、迎えに来た」
「はあ?なんでだよ」
 
オートロック式の鍵を解錠し、ドアを開けてベルゼブブを招き入れる。普通の人間に化けているベルゼブブの頭に角は無いし、背中に翼も生えていない、ほんとにただの人間に見える。それなのに威圧感だけは大悪魔であることをひしひしと伝えてくる。その隠しきれない威圧感を自覚しているのかいないのか、望桜の立場としては断りたいであろう事例を、あくまで断ることは悪事である事のように思わせる術を巧みに活用する悪魔なりの交渉術。
「こっちの人間とは寿命も身体能力も何もかも違う悪魔が、こっちの世界で生きていけるわけないよね...!」
「...そうとは限らないだろ!!第一、魔界の悪魔にもこっちの世界で生きていく術を知っている者はいたんだぞ!?つまりこっちの世界は向こうの人にとって既知の世界で、頑張れば生きていけるってことだろ!?」
「だって、こっちの世界の人間は、ほんの100年で死んでしまう!!でも、魔界の悪魔、ひいては元魔王が、10000年は余裕で生きるといわれている大悪魔が、こっちの世界で生きてるわけない!!」
つまりは、悪魔がこっちの世界で生きていけるわけがないと言いたいらしい。でも、
「それでも、俺はこっちの世界で生きたい!!丞も、零央さんも、瑠凪だってこっちの人間だ。俺はあの人たちと仲良くしてたいし、この世界が好きだ!!」
「っ...!」
「だから、俺は帰らな「緑丘望桜!!」
「っ、なんだよ!!」
「いい加減、旧魔王として、魔界に帰ってきて!!」
「はあ!?お前いい加減にしろよ!?」
「何が??」
「魔界に帰ってこいもなにも、もともと俺はこっちの世界の人間だったんだぞ!?それをいきなり魔界に連れて行って13代目魔王にしたのはお前らだろ!」
胸ぐらを掴まれて揺さぶられる、頭が痛くなってきた...可愛らしい見た目に反して力が強いベルゼブブは、俺より頭一つ低い身長ながら必死に手を伸ばし俺の足が浮くように上へ上へと揺らしながら高さをあげる。
元はと言えば、くだらない選考理由(魔王と望桜ってなんか似てるから)で向こうに連れていかれて、半強制的に魔王として推薦したのはお前らの方だ。まあ、呼び出し係が可愛かったから調子に乗った俺も悪いけど。
「っつ、それは...」
「てかお前、確かゲートもポータルも使えなかったよな!?ひょっとして...」
「え、あっ...!」
「もしかして、誰かゲート開ける、もしくはポータル使えるやつに俺を連れ戻すまで魔界には帰さないとか言われてるんじゃねえのか!?見たところ何も持ってないみたいだし!!すぐ帰ってくる予定だったんじゃねえの!?」
「うっ...そーだよ!!そう言われてる!だから帰ってきて!じゃないと僕が帰れないからっ...!!」
「俺は帰るつもりないから、お前は帰れないな」
「えっ...」
あ、ちょっと今悲しそうな顔した...
とりあえずこのまま放置は可哀想だし、ベルゼブブも的李同様、こっちの世界で悪魔体になる訳にはいかないだろう。となると、食事+睡眠=住処が必要だ。
「俺が戻らないとお前は帰れないんだな?」
「うん...だったら力ずくでも...!」
「お前魔力今微塵も残ってないだろ。んで俺は帰るつもりは無い。となるとお前がこっちで生きていくしかなくなるが、悪魔体はこっちでは基本厳禁だし、そもそも悪魔体になるのに必要な魔力はここにないから無理だ。ということで食事と睡眠が必要になる」
「...え」
「だから、俺がお前をここで匿ってやろうと思う。異論は認めません」
「...え、ええええええ!?」
「だって帰れないんだろ?お前何も持ってないみたいだし、こっちで暮らすには金がいるから」
「...うん」
「今のとこ金に余裕があって、且つ事情を知ってる俺が匿ってやるよ、それでいいな?まあ、向こうの奴らには俺に帰るつもりがなくて、力ずくでも無理で俺が断固拒否したから帰れないとでも言っておけ」
「えっ...いいの?」
いつの間にか赤くなりはじめた空。それと並行して部屋にも夕日がさしてきた、そろそろ的李も帰ってくる。この場を丸く収めておいて、とりあえず夕食の支度でもしといてやるか。
「ああ」
「...まあ、帰ってきてもらうことを諦めたわけじゃないけど、魔力が溜まるか帰るあてができるまで、匿って貰えるならありがたいかな..どうせ僕帰るとこないし」
「ってことで、よろしくな!」
「うん、よろしく」
また調子にのって厄介事をとりこんでしまったっ...けどベルゼブブ可愛いからいいよね!
こうして望桜にとって2人目の同居人が出来たのであった。
(ってか、これ中性男子コンの俺にとってハーレム的な現象が起こり始めてるんじゃね!?これからが楽しみだな!)
───────────その頃、どこかの歩道にて...
「ベルゼブブ、上手く望桜と接触出来てるといいけど...まあ、俺には関係ないかあ...あー!!焼肉食べたい!!ねえどっかいこーよー!!」
「とりあえず俺もそろそろ接触はしとくべきですかね...まだ顔見た事ないですし。あと焼肉はとりあえず明日まで無理ですね」
「まあそう焦らずとも、ボクはまた近いうちに会える気がするんだよね〜!」
金髪のJKと、紫髪の青年と...そして夜空色の髪をした少年が3人、歩道を歩きながらある1人の青年について話していた。その中でとある大悪魔の名前が出てきて、まるでその大悪魔を知っているような雰囲気で...
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407
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439
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1,389
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1,152
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103
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158
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62
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89
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42
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52
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7,474
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1.5万
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1,658
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2,771
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183
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