しおんの花

琴春

紫苑の片想い②

みんなの兄のような存在の瀧澤先輩に恋をしてしまった紫苑は
その日以来から身体に違和感を覚えた。


「ゴホッ…、風邪でも引いたかな……。」


初めは単なる喉風邪だと思っていた。
市販の薬を飲んでも一向に治る気配はなかった。
だが、数週間が経ったある日に
風邪ではないことが分かったのだった。

「なに…これ。」
口を抑え、咳き込んだ後に手を見てみると
小さな紫色の花びらがあった。
それは明らかに自分から出てきたものだった。

その日から、咳き込む度に口の中から
花びらが1枚、2枚…と出てくるようになった。
初めは気にしていなかった紫苑だが、
私生活にまで影響が出てくる程
症状は激しいものになっていった。

一方、紫苑は高校生活に慣れ始めた時期でもあった。
心配していた友達も出来て、充実していた。
だが、一目惚れをした先輩には
なかなか近付くことは出来なかった。
入学式の部活動勧誘のこともあって
先輩の周りにはいつも女子がいた。
「僕はあの輪には入れない。」
そう思っていた。
声を掛けることもなく、ただ…。
遠くから見つめるだけで紫苑は満足だった。

「いいんだ、だって僕は女の子じゃないし。
付き合うことは勿論出来ないし。
今の状態だと友達にもなれない。」
どこかで紫苑は諦めていた。

その2人の距離を縮めてくれたのが
紫苑に入学式の時声を掛けてくれた唯一の友達
「黒宮奏多(くろみやかなた)」なのであった。





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