メイドな悪魔のロールプレイ

ガブガブ

3話

3話






 夜ご飯が食べ終わり、お風呂や家事も済ませたので再ログイン。


「リンクオン」


 ………
 …………
 ……………


 気がつくと私は、噴水の縁に腰掛けていた。ざわざわと、人々の活気溢れる声が聞こえる。
 私は立ち上がり、チラリと辺りに目を向ける。


 まず注目したのは、建物の造り。こちらから見る限り、建物は石造のものばかり。そのことから、このゲームの時代設定は中世ヨーロッパあたりであることが推測できる。
 だが、空気の淀みや道路への汚物の廃棄もない。つまり、下水管理はされているということになる。そのことからは、このゲームの時代設定が中世ヨーロッパではないことがわかる。
 つまり、チグハグなのである。


 まあそんなこといま考えても無駄か。運営さん以外答えは持ち合わせていないからね。
 私はふう、とため息を吐いて目的の場所へと歩みを進め始めた。
 道行く人々プレイヤーが、私の服を指差して驚いていることに気付かぬままに。






 というわけで私がやって来たのは【鍛治屋】である。その理由は、武器の調達である。……本来の使い方は武器ではないんだけどね。


 住人が優しい人で助かった。道に迷っていた私を、わざわざここまで連れて来てくれたのだ。


 私は木で作られたドアを、壊さないように慎重に開ける。カランカランと、ベルの鳴る音が聞こえた。


「……らっしゃい」


 無愛想で感情のこもっていない野太い男性の声が聞こえた。自然と目線が、声のした方へと向く。
 店番だろうか。そこにいたのは、身長140cmくらいしかない小さなおじさんだった。私よりも身長が10cmほど低い。よっしゃ、勝った!


「……なにやら勝ち誇った顔をしているところ悪りぃが、俺の身長が低いのは種族的な特徴だ」


 小さなおじさんは可哀想なものを見るような目で、こちらを見てきた。
 ……やめて!虚しくなってくるから! 私は小さなおじさんに向けていた目線を、商品の方へと移した。


 ──とまあ、茶番はこれくらいにして…。


 おそらく、というより確実にこの小さなおじさんは技人族ドワーフだろう。
 こびりついた「火」や金属の匂い。鍛治を長年やっている者にしかつかない匂いだ。


『スキル《嗅覚上昇》を獲得しました』


 商品は武器の他にも、防具やツルハシなどの道具、そして食器など、多種多様なものが置かれていた。
 まあ、これが普通なんですけどね。


 勘違いしている人も多いが、鍛治屋=武器防具屋ではない。……そんなことはどうでもいいか。


 私は食器の置いてあるスペースに向かう。そこには、フォークやスープン、お皿やナイフなどが置かれていた。因みにだが、全て銀製であった。


 ──現在の私の所持金は1000G。そして銀食器の値段は大体300G。つまり、安い。


 鍛治屋の腕が悪いから安いのか、別にそういうわけではない。あくまでも素人目の鑑定眼だが、どれも手は抜かれておらず、食器としては一級品である。


『スキル《鑑定》を獲得しました』


 どこか近場に銀が大量に産出される鉱山があるのか、それともこの世界ではそこまで銀に価値がないのか。疑問は出てくるばかりである。


 私は銀で出来たナイフを三本手に取り、小さなドワーフおじさんのところへ持っていった。


「……どっかの貴族様の遣いか?」


 私が銀食器を渡すと、小さなドワーフおじさんはギロリとこちらを睨みつけてきました。


 ……貴族に恨みでもあるのかな?ものすっごく殺気が篭ってるけど。


「いえ、こんななりをしていますが私は貴族の遣いではありません。この食器は私が使うものです」


 私がキッパリと告げると、小さなドワーフおじさんは軽く目を見開き、ふぅ、と息を吐いた。


「……ちょっと待ってろ」


 小さなドワーフおじさんは私にそう言って、店の奥へと入っていった。
 それから数分、私がボケーっと商品棚を眺めていると、ようやく店の奥から小さなドワーフおじさんが、手に二本の銀色っぽいテーブルナイフを持って出てきた。


「お前……アレの使い手だろ?」


 小さなドワーフおじさんがニヤリと笑い、私に問いかけてきました。
 ……アレってなんだろう。この状況から察するならば、《食器戦闘技術》のことだろうけど…。


「ええ。アレの使い手です。まだ素人ですがね」
「ふん、どうだかな。──さっきの詫びも込めてだ。この二本をテメエに900Gで売ってやる。どうだ?」


 コトリと、小さなドワーフおじさんはカウンターの上にそのテーブルナイフを置いた。


 先ほどのテーブルナイフは3本で900G、そしてこのテーブルナイフは2本で900G。つまりこのテーブルナイフの方が何かしらのメリットがあるってことだけど……。


 私は先ほど《鑑定》スキルを獲得したのを思い出した。というわけで私は《鑑定》を発動させる。


〈銀製のテーブルナイフ〉
製作者:ギール
名工ギールによって作られたテーブルナイフ。切れ味は抜群で、銀で作られているため軽い。戦闘には向かない。
装備条件:特になし


魔銀ミスリルのテーブルナイフ〉
製作者:ギール
名工ギールによって作られ、そして強化されたテーブルナイフ。切れ味は銀製の比ではなく、魔銀で作られているためとても軽い。
付加能力:《切れ味上昇》《魔法微強化》
装備条件:《食器戦闘技術》を獲得している。


 前者が3本で900Gのものであり、後者が2本で900Gのものである。……うん。後者を買う以外の選択肢はないよね。


「買います」
「おぉう……、即答だな。──毎度あり」


 私は900Gを小さなドワーフおじさんに払い、2本の魔銀のテーブルナイフを受けとった。
 ……残金残り100G。これじゃあなにも買えないかな?稼がないと……。


「それじゃあまた来ますね。小さなドワーフおじさん」
「……なんだその呼び名は。俺の名前はギールだ。断じてそんな変な名前じゃねえ」


 ……この人店番じゃなくてここの鍛治師だったんだ。薄々は感じてたけど…、うん。気づいてたことにしよう。


「──金が貯まったらまたこいや。悪魔のお嬢ちゃん」
「……気付いてたんですか」
「安心しろ。俺は別に悪魔排斥者じゃねえ。そいつらにも突き出したりはしねえよ」
「……そうですか」


 私は魔銀のテーブルナイフを装備して、インベントリにしまった。さて、ストーリーを有利に進めるためには…レベル上げかな。
 私は鍛治屋を後にして、フィールドへと向かうことにした。


『スキル《交渉術》を獲得しました』




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 トコトコトコと、入り組んだ道を歩いて凡そ5分。私はようやく大通りに出た。


「今ならリプルが一個70G!さぁ、買った買ったー!」
「キクコの串焼きが一本200G!うちはそこらの店とわけが違うよ!」


 街の住人たちの賑やかな声が聞こえる。みんな笑顔で仕事に励んでいる。みんな仕事中毒者ワーカーホリックなのだろうか。
 馬車がガタガタと音を立てて大通りを走り抜けていく。だが誰も轢かれていない。しっかりと交通の整備がされているのだろう。
 私は大通りの人の流れにスッと入り込んだ。誰にも違和感を持たれずに。


『スキル《隠密術》を獲得しました』


 どうやら《隠密術》は街の中でも発動できるようだ。…常時発動させておこう。


 ──そのまま人の流れに沿って歩いていくと、ようやくフィールドとこの街の境である門に着いた。


 門番は2人いるようだが、特に出入りの検査はしていないようだ。仁王像のようにドンッと突っ立っている。


 私が門からフィールドに出ようとした、次の瞬間–––目の前に厳つい顔が現れた。


「お嬢さん、身分証はお持ちですか?」


 めちゃくちゃビックリした。いや、無表情は保ったけどめちゃくちゃビックリした。


「いえ。持ってないです」
「では仮の身分証を発行致しますので、50Gのお支払いをお願いします」


 私は言われた通りに、門番さんに50Gを払った。門番さんは50Gを受け取り、うむ、と頷き半透明のプレートを渡して来た。


「これが仮の身分証だ。無くすなよ?これを冒険者ギルドに持っていけば冒険者証明証と交換できる」


 ご丁寧にも仮の身分証の説明もしてくれた。顔に似合わず良い人なのだろう。


「魔物にはお気をつけて」


 強面の門番さんは私にそう告げて、もとの立ち位置へと戻っていった。


 さて、レベル上げ頑張りますか。


 私は門を抜けて、所謂初心者の草原に出た。


『《隠密術》のレベルが1→2に上昇しました』





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