少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

23話

23話






「……うん。あれは居合……水鷗流居合剣法の形に近いかな。近づいたら一瞬で斬り捨てられて終わり」


 酒呑童子の構え––"居合術"の構えを見たキドが、目を細めてポツリと呟いた。


 "居合術"––それは地面に座った状態で素早く刀を抜き、その動作で一撃を加えるか、相手の攻撃を受け流し二の太刀で相手を斬り殺す技だ。
 この技は斬れ味のいい刀を使わなければ真価を発揮しないものだが、酒呑童子の持つ刀ならば一切問題ないだろう。


「【多重並列詠唱:氷の弾】」


 様子見と言わんばかりに、アヤが【氷の弾】を四発放った。
 それに追随するようにアルフレッドが駆け出し、シルヴィアは地を蹴り宙を舞う。
 キドはいつのまにか姿を消していて、クーフーリンは立ったまま寝ている。


 そうして【氷の弾】が酒呑童子に着弾––せずに、その一太刀によって斬り捨てられた。
 しかしそうなるのもアヤには予想済みだったようで、【氷の弾】はただただ消滅するのではなく、まるで煙幕のような白い粉塵を残してその効力を失った。


 そういえば何で私は魔法を使えるんでしょう、とアヤはインベントリからあるものを取り出しながら思案する。
 スキル【反転】の効果は、ステータスの数値を一箇所のみ入れ替えることができる。効果時間はINT×五秒。
 デメリットは効果時間の分だけ、効果時間が切れた後魔法が使用できなくなってしまうというものだ。
 それなのにアヤはいま魔法を使うことができている。だからアヤは疑問を抱いたのだろう。


(うーん、バグではないと思いますし。……茨木童子との鬼ごっこが「ミニゲーム」という扱いだったから、もしくは酒呑童子がわざわざ回復させてくれた、のどちらかでしょうか)


 気にしても仕方ないとアヤは割り切ることにした。


「––悪いな嬢ちゃん、煙幕を張ってもわいには居場所がバレバレやで?」


 酒呑童子は一切の迷いもなく、アルフレッド–––ではなく自らの背後より迫るシルヴィアの攻撃を一の太刀で受け流し、二の太刀で槍を持つ彼女の腕を斬りつける。


「ッ––!」


 片腕を失ったことにより平衡感覚がおかしくなり、体勢を崩すシルヴィア。
 トドメと言わんばかりに追撃をしようとする酒呑童子だが、アルフレッドがそれを許すはずもなかった。


「【シールドバッシュ】」
「ちぃ!ほんまにうっとうしいんじゃワレェ!」


 酒呑童子は苛立ちを顔に浮かべて、盾を刀で受け止める。


「壁役にうざいと言うのは、ただの褒め言葉でしかないぞ?」


 アルフレッドはニヤリと笑い、手に持っていた盾を空中へと放り投げた。


「ッ!なにを–––」


 突然のアルフレッドの奇行に、酒呑童子はその行動に何か意味があるのかと勘繰り、数歩引いて投げられた盾を警戒する。
 そして–––


「喰らえっ!【はかいのやりとりしゅーら】」


 無防備なその背中を狙い、五体満足のシルヴィアがそう叫びながら槍を突き出した。
 禍々しい黒色のオーラを纏った槍は、見事酒呑童子に命中––せずに、クルリと身を翻した酒呑童子によって簡単に打ち払われてしまう。


「……まずは一人目や」


 そう言って酒呑童子は、刀を横薙ぎに振り––カチンッという、刀の鍔と鯉口がぶつかる音がした。


「––な……」


 突如としてシルヴィアの隣にあらわれた、目を閉じた状態のキド。
 スッと目を開いた瞬間、ぽとりと酒呑童子の刀を握る腕が地面に落ちた。


 【酒呑童子:794300/1000000〈状態:右腕欠損〉】


「……ごめん。外した」
「気にしない気にしない。片腕落とせただけでも御の字だよ」


 油断なく酒呑童子を見据えながら、アルフレッドよりも後ろに下がるシルヴィアとキド。


 いくら利き腕を落とされて武器を地面に落としたからとは言え、相手は「鬼」という未知の生物だ。
 金熊童子みたく傷口から新しい腕が生えてくる可能性もあるし、もしかしたら背中から腕が生えてくるかもしれないのだ。


「……油断してもうたわ。そやけど、ワイの腕は落としても意味ないで?」


 酒呑童子はニヤリと笑い、左手で落ちた右腕を拾い上げ、傷口に合わせる。
 しかし–––なにも起こらない。


「……えっ」


 想定外と言わんばかりに、素っ頓狂な声を上げる酒呑童子。
 それは、あまりにも致命的で大きな隙だった。
 後衛職であるアヤが背後から近づいて来ているのに気づいていながら、その攻撃を避けられないほどに。


「––えいっ!」


その掛け声と同時に、ポコっという軽快な音が辺りに響き渡る。
アヤが酒呑童子を叩いたのだ。手に持っている木の棒––「ひのきの棒」で。


「っは––」


 酒呑童子はその場でビクンと一瞬痙攣すると、どさっと地面に倒れこんだ。
 この場にいるアヤ以外の全員が呆然とする最中、アヤは魔法の詠唱を開始する。


「みなさん、今のうちです!袋叩きにしますよ!」
「「「お、おう!」」」


 ひのきの棒の効果は、現実時間の1日に1回だけ使うことができ、どんな「もの」でも一分間気絶させることが出来るというものだ。
 そう、いまならばどんな攻撃でも絶対に避けられないし、防がれもしないのだ。
 名前からは想像できないほどのぶっ壊れ性能である。


「今度はちゃんとしないとね!【破壊の槍トリシューラ】」


 赤黒いオーラを纏ったシルヴィアの槍が、今度こそ倒れ伏した酒呑童子の背中を正確に突く。


「づッ!ああ"あ"あ"あ"あ"!!」


【酒呑童子:698900/1000000〈状態:右腕欠損〉〈崩壊の呪い〉】


 酒呑童子がまるで獣の如き絶叫を上げる。
 金熊童子たちと同様に、痛みに対し強い耐性があるはずの酒呑童子がなぜ絶叫を上げたのか。
 その理由は至極簡単で、【破壊の槍トリシューラ】によるものだ。
 【破壊の槍】は隠し効果として、【痛覚貫通】と【防御無視】を持ち合わしている。
 それに加えめちゃすらの時とは違い、槍の刺さった場所を起点としてジワジワと肉体が崩壊していっているため、痛みは余計酷いものとなっている。


 当然、いままでそれをめちゃすらにしか使ったことのないシルヴィアは、そんなこと知るはずもなかった。
 突然上がったリアリティのある悲痛な叫び声に、シルヴィアは思わず顔を歪ませてしまう。


「っ!(これはゲームこれはゲームこれはゲーム……!)」


 そう思うことで、シルヴィアは事なきを得る。


「……いままで以上にリアリティがあるけど、やっぱりデメリットはあるんだね……」


 キドはそんなシルヴィアの様子を見て、あとで慰めないとなぁと思いながら、刀を振るう。


「【天破】」


 無心に刀を振るう、振るう、振るう。その度に、酒呑童子のHPが減っていく。


【酒呑童子:665800/1000000〈状態:右腕欠損〉〈崩壊の呪い〉】


 武技〈天破〉は、40秒間の間刀で敵を斬り続ければ斬りつけるほど、ダメージが上昇していく。
 そのダメージ倍率は固定値である10000を基準とし、一回敵を斬るごとにダメージが1.1倍されていく。
 一度運営が修正を検討した武技だが、そもそも相手は動くし攻撃もしてくるので、そんな当てられないだろうと修正が見送られたものなのだ。
 もし四十秒まるまる当て続けられたならば––キドの刀を振る速度は毎秒二発なので––最大ダメージは10000×1.1^79、約18,621,820ダメージを与えることができる。そして合計ダメージは200,000,000を越える。
 つまり、ぶっ壊れ性能なのである。しかも〈刀術〉のレベルをある程度まで上げれば誰でも獲得できる武技でもある。


「……うわ。これメンテで絶対修正はいるなぁ……」


 どんどんと増えていくダメージを見て、キドは苦笑をこぼした。


 アルフレッドは味方から飛んでくる攻撃をひたすらにかわし続け、ウィングは現在お金も素材も大したものを持っていないので、ひたすらに【鬼特攻】を自分以外の皆に付与し続ける。
 アヤはひたすらにコキュートスと協力して【魔力合成】で【氷獄】を作り出し、出来る限り圧縮して酒呑童子に投げつけるという作業をしていた。
 そしてクーフーリンは––こんな状況であるにもかかわらず、立ったまますぅすぅと寝息を立てて寝ていた。


 そんな彼女に、アヤが「おっと手が滑りましたー!」と言って【氷獄】を投げつけられたのは当然の帰結といえるだろう。


 それはともかく、こうして酒呑童子は悪辣で残虐で無慈悲なプレイヤーたちによって、最終形態を見せる事なく倒されてしまったのだった。


 【酒呑童子:0/1000000】









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