少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

22話

22話






アルフレッドは飛んでくる斬撃を、流れるような動作でひたすらに躱す。剣を使いひたすらに逸らす。盾を使いひたすらに受け流す。


「なんやその盾に剣は……。わしの刀を受けて斬れへんとかどんな業物やねん」
「ああ、これは初期武器だぞ」
「……なんやて?」
「いやだから、私たちがこの世界に来た時に配布された初期装備だ」


馬鹿にしているのか?とでも言いたげな酒呑童子を見て、アルフレッドは斬撃を捌きながら苦笑する。


初期装備––––どんなゲームでもおそらくは配布されるであろう雑魚装備と言っても過言ではないものだ。


攻撃力は他の装備に比べて低い。見た目も悪い。
武器屋にでも行けばもっといい装備が買えるため、配布されたとしても使う人はまずいない。
だがアルフレッドはどんなゲームでも剣と盾は絶対に初期装備を使っていた。
その理由は、こういったvrmmo系のゲームの初期装備には〈破壊不能〉効果が付与されているからだ。
当然のごとくこの盾と剣にも、〈破壊不能〉効果が付与されていた。


彼女にとっては防御力なんてなにそれ美味しいの?みたいなものだ。
なぜならば攻撃が必ず当たってしまうPSなんて必要ないゲームでもない限り、敵からの攻撃は全部躱したり、受け流したりすればいいものと考えているからだ。
言うだけならば簡単。実行するのはほぼ不可能。しかしアルフレッドには出来てしまう。
だから彼女は、絶対に何をしても壊れることのない初期装備を使っているのだ。


「初期装備……ああ、〈破壊不能〉効果が付いとるあれか。そないなもんをこんなところでつこてるやつ初めて見たぞ」
「ああ。私も初期装備で強ボスに挑む奴なんて自分以外に知らない」


アルフレッドの剣と酒呑童子の刀が鍔迫り合い、ギャリギャリギャリ!というけたたましい音が響き渡る。
それによって初めて出来た隙。それをアヤたちが見逃すはずもなく––––


「【耐寒付与】【耐冷付与】【魔法合成:氷獄】【HP変換】【自己修復】」


荒れ狂う氷の暴威が、この場にいる全ての者を襲う。
しかし耐冷付与、耐寒付与に加え騎士道精神によってフレンドリーファイアを無効化しているため、アヤ自身とそのパーティメンバーには効果はない。
その暴威に晒されたのは、酒呑童子のみ。


「ッ?!ぐ、な、それ、は!」


全方位から襲いくる氷の暴威を、いくら業物の刀で酒呑童子自身の技術が高くとも、防げるはずがなかった。


【酒呑童子:959800/1000000】


やはりイベントボスと言うべきか、【氷獄】が直撃したのにもかかわらず、大したダメージは入っていない。
しかし【氷獄】の本懐はダメージを与えることではなく、標的を凍りつかせその動きを奪うところにある。


ピシピシピシと音を立てて、酒呑童子の身体が段々と凍てついていく。
身体が凍てついたからか、はたまた別の理由か。酒呑童子は刀を床に落とし、手をだらんと下ろした。
それを隙と見たシルヴィアにキド、それにくーふーりんにウィングは攻撃に打って出る。


「【特価交換:鬼特攻10%】」
「そーれ!【乱れ突き】」
「……【斬釘截鉄】」
「【妖術:煉獄】」


槍による刺突。刀による斬撃。黒く染まった焰が、無防備な【酒呑童子】を襲う。


【酒呑童子:893500/1000000】


【氷獄】による凍傷の持続ダメージに加えて、シルヴィアたちの攻撃。
それらによってHPが段々と削られていっているのにもかかわらず、酒呑童子は動かない。いや、極限まで見開かれた目でアヤを見つめて動かない。


「てめえが、なんでその魔法を扱える……!」


まるで親の仇を見るかのような目で自身を見つめてくる酒呑童子に、アヤは不思議に思い首をかしげる。
凄まじい殺気を感じ取ったアルフレッドは、すぐさまアヤの前へと移動し、盾を構える。


「……おいアヤ。あいつに何かしたのか?」
「うーん。【氷獄】は撃ちましたが、それだけですよ?」


そうなると酒呑童子がこんなにも怒り狂っている原因は【氷獄】しかないと両者ともに見当をつける。


「おい、答えろ。なぜお前がそれを扱える?」


怒り心頭といった様子で聞いてくる酒呑童子に、アヤは微妙に困惑したような表情でこう返事をする。


「なぜって……強いて言えば私が【大賢者】の弟子だからですかね?」


【魔法合成】は【魔力操作】から派生したマジックアーツだ。
そしてその【魔力操作】は、【大賢者】ソフィーの弟子にならない限り、習得することはできない。
アヤは【魔力合成】を使い【氷刃乱舞】と【氷刃乱舞】を合成し【氷獄】を作ったため、そのような返事をしたのだ。


「……【大賢者】だと?吐くならもっとまともな嘘を吐け。あの女が弟子なんぞ取るはずがないだろう」


いや事実なんですが……。と言おうとしたアヤだったが、【酒呑童子】のあまりの気迫に声を出すことができなかった。


なにか自分が【大賢者】の弟子であることを証明するものはないか––––と考えたところで、アヤはあることを思い出した。


––––たしかソフィアさんは、私のほおに【師弟契約の口づけ】をしていたはず、と。


「……これなら証拠になりますか?」


アヤは自身のほおに手を当てて魔力を流す。するとアヤのほおに、黒色の唇マークが現れた。


「……おいおい、マジか。あの女が本当に弟子を取りやがったのか」


呆然とした表情でアヤのほおを見つめる【酒呑童子】。
そして動かぬ【酒呑童子】を攻撃していたはずのシルヴィアたちも、攻撃の手を止めてアヤを見つめていた。


「え、アヤちゃんなにそのキスマーク。まさか彼氏でもできちゃった系?」


きゃー!と囃し立てるシルヴィア。そんなシルヴィアを見て苦笑するキド。
Kufurinnクーフーリンはピシリと表情を固まらせていて、ウィングは顎に手を当てて神妙な顔つきで何かを考えているようだ。


「え、おい、アヤ。それは何だ?そのキスマークみたいなものは何だ?誰にされたんだ?」


一番慌てていたのは意外にもアルフレッドだった。アルフレッドはアヤの肩を掴みガクガクと揺すっている。


なぜシルヴィアたちがこんなにも騒いでいるのかがわからないのか、アヤは困惑しきった表情をしている。


「……?彼氏なんて出来ていませんし、これは【師弟契約の口づけ】っていう魔法で付いたものです。何をそんなに慌てているんですか?」


そのアヤの言葉にシルヴィアは「冗談だよー」と言って苦笑し、アルフレッドは安堵したような表情を浮かべた。


「……そうか。アレの弟子なら【氷獄】が使えてもおかしくはないか。––––ならええんや。ああ、せやけど一つ聞かせてくれへんか」
「なんです?」
「氷獄の主人––––コキュートスの名に聞き覚えはあるか?」


それなら、とアヤは自身の契約精霊であるコキュートスを指差した。


「【氷獄の主人】が誰かは知りませんが、この子の名前はコキュートスですよ」
「……さよか。知れへんならいいんや」


【酒呑童子】はふぅっと息を吐くと、地面に落ちている刀を拾い上げた。
そして鞘に納刀すると、アヤたちにニッコリと笑いかけた。


「すまんな。わしの私情に付き合わせてもうて。––––ほな、続きといこか」


【酒呑童子】は地面を蹴りアヤたちからある程度の距離を取ると、腰を落とし右手で刀の柄を、左手で刀の鞘を握った。



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