少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

19話

19話






「ふはははは!!我は酒呑様の懐刀と呼ばれている茨木童子!覚悟しろ、塵も残さず粉々に砕いてやるわ!!」
「「…………」」


 イベントエリアに入った私たちを出迎えたのは、壊れかけている家屋の屋根からそんな高圧的な態度でこちらを睨みつけてくる一人の少女でした。
 燃えるような赤色の髪をツインテールでまとめていて、彼女が身振り手振りをするごとにモッサモッサと揺れています。


 また強気そうな金色の瞳に、額からは金色のツノが二本生えています。
 服装はなんと言えばいいんでしょう……巫女服と着物が合体したようなものを着ています。


 茨木童子と言えば……たしか酒呑童子に最も重宝されていた部下で、貴族の娘を誘拐して乱暴狼藉を働いた屑でしたっけ?


 うーん、そんな存在と目の前の少女をイコールで結びつけるのはちょっと難しいですね……。
 きっと運営さんの趣味なんでしょう。酒呑童子も子供みたいな姿でしたし。


「……ねえあやちゃん。アレ本当に茨木童子なの?イベントボス出現のアナウンス流れないし」


 シルヴィアさんが茨木童子を怪訝そうな目で見つめながら聞いてきました。


 ……たしかに、そう言われるとそうですね。偽物か、それとも茨木童子はイベントボス扱いではなく、普通のモブモンスター扱いか。
 このどちらかでしょう。


「見る限りでは本物っぽいですよね。このゲームに〈人物鑑定〉なんてありませんし、確認のしようがありませんが」


 するとシルヴィアさんはニヤッと笑みを浮かべて、槍の穂先を茨木童子(仮)に向けました。
 それにつられるように、私もキドさんも各々の武器である杖と刀を構えます。


「それなら、戦ってみればわかるよね!」


 シルヴィアさんとキドさんは地を蹴り、茨木童子に肉薄します。
 私は〈氷魔法〉の〈氷弾アイスボール〉を〈多重並列詠唱〉で20個ほど作り出し、茨木童子に向かって放とうとして––視界の端に、血相を変えてこちらに向かって走ってきているアルさんとくふさんに気がつきました。


「アヤ!それは倒したらダメだ––」
「えっ」


 アルさんが手を伸ばしながらそう叫ぶも、時既に遅し。
 〈氷弾〉は〈魔力操作〉で全て消滅させましたが、シルヴィアさんとキドさんによる攻撃は流石に止められません。


 シルヴィアさんの槍は茨木童子の心臓を穿ち、キドさんの刀はその首を刎ねました。


《イベントポイントを40×1獲得。現在のポイント75104ポイント》


 ポイント少なっ!やはり、偽物か普通のモブモンスターなんでしょう。あとポイントが入るということは、分身などの類ではなさそうですし……。


 ……それにしても、なぜアルさんたちはあんなにも焦燥していたのでしょうか。


「アルちゃんどしたの?すごく焦ってるけど……」


 アルさんの言葉が聞こえていたのか、シルヴィアさんとキドさんは私の隣に戻ってきていて、未だ消えずに残っている茨木童子の死体を警戒しています。


 数秒が経ち、ようやくアルさんと息を切らしたくふさんがやって来ました。
 そして私たちに何かを伝えようと口を開いて––


《茨木童子の討伐が確認されました。これにより、『鬼ごっこ』が開始されます》


 そんなアナウンスが、私たちの耳に入ってきました。


 ……鬼ごっこ、ですか?えっと小さな子供達がよくやっている遊びの。


「おいアヤたち!逃げるぞ!!」


 そう言ってアルさんは困惑気味の私の手を取り、茨木童子のいる反対の方向へと走り出しました。
 それに追随するように、シルヴィアさんたちも駆け出します。


「アルちゃんっ、鬼ごっこってなに?!」
「名前の通りだ!茨木童子が鬼役で、私たちが逃げる役。捕まったら鬼になるぞ!」


 ふむふむ。アルさんが『鬼ごっこ』とやらの詳細を知っているということは、もう既に捕まって鬼になった人がいるということですね。
 アルさんがそのことを知っているってことは、アルさんの知り合いかなにかでしょう。


 ……あれ、アルさんの知り合いって大抵はプロゲーマーなみの実力を持っていた気がするんですが……。


「じゅーう」


 私たちが荒れ果てた道を走り、十字路に差し掛かった頃、そんな数を数える少女の声が聞こえました。
 それと同時に、視界の端に14:59という数字が現れました。
 1秒経つごとに右側の数字が1ずつ減っているので、おそらくこの数字が0になるまで逃げ切ればいいということでしょう。


「きゅーはちななろくごよんさんにーいちゼロォ!!」
「子どもですかっ!」


 なにその小さい子どもがよくやる「10秒数えたからいいよね!」は……。


 思わずツッコミを入れてしまった私にお構いなく、茨木童子はニタリと笑みを浮かべながらこちらに向かって駆け出して来ました。


「固まっていたら鬼に捕まりやすいだけだ。全員バラバラで行動するぞ」
「いえっさー」
「わかった」
「ほいほい」
「わかりました」


 シルヴィアさんは屋根の上へと跳んで、キドさんは十字路を左に、くふさんは十字路を右に。
 そしてアルさんは十字路を真っ直ぐに行きました。……私の手を握ったままで。


 あのーアルさん。私の手を握ったままですよー……。


 そう言おうとした私でしたが、物凄い速度で走っているのか舌を噛んでしまい握られていない手で咄嗟に口を押さえてしまいました。


 そのせいかバランスを大きく崩してしまい、私は顔面からズザザーと派手に転んでしまいました。


「ッ〜〜!!」


 うう、全身がヒリヒリします。しかも目に砂が入ったのか、視界が少しボヤけていますね。
 ……というか物凄い勢いでなおかつ派手に転んだのに、全身が少しヒリヒリするだけで済むなんて、この身体のスペックが高いのか、それともゲームだからなのか……。
 判断に困りますね。


 立ち上がろうと私が顔を上げると、そこには口を押さえて顔を背けているアルさんの姿がありました。
 笑いをこらえているのか、身体はプルプルと震えています。


 怒りからか恥ずかしさからか、自身の顔に熱が集まってくるのを、自分でも理解することができました。
 しかしすぐさま熱は引き、私は冷静さを取り戻しました。


「……アヤ、大丈夫か?」


 いつも通りのキリッとした顔に戻ったアルさんは、そう言って手を差し出して来ました。


 私はその手を掴み、立ち上がろうとして––自分の50メートルほど後ろに、何かがいることに気がつきました。


 アルさんが気づいていないということは、つまり姿が見えていないということでしょう。
 それにアルさんは奇襲されたなら防げばいいスタンスなので気配感知系統のスキルはとってないでしょうし……。


「……敵か?」
「それかどうかは不明ですが、50メートルくらい後ろに透明化した何者かがいます。立ち止まっているみたいですが、警戒ないし逃げるに越したことはないでしょう」


 アルさんの手を借りて立ち上がり、今度は逆に私がアルさんの手を引いて走り出しました。
 すると透明な何かは私たちと同様走り出しました。


 走る速度は拮抗しているのか、私たちと透明ななにかとの距離は先程と同じ50メートルくらいで、あちらの真意が伺えません。
 ……ストーカーみたいですね。


「アルさん、二手に別れましょう。『鬼ごっこ』の勝利条件が時間制限以内に一人でも生き残っていれば勝ちなら、固まっているのはやはり悪手です」
「それもそうか。というかそれさっき私が言わなかったか?」
「アルさんが私の手を離さなかったんでしょう!天然ですか貴女は……」


 私は繋いでいた手を離して身体の向きを透明な何者かの方へと向けて、〈加速装置〉を50度くらいの向きで設置し、それを使い宙へと飛び上がりました。


 私は透明な何かの遥か上を通り、再び宙で〈加速装置〉を使い距離を離します。


 〈加速装置〉は三つまでしか同時展開できず、さらに十秒経たないと消えないため最後の一つはもしものとき用に残しておきます。


 ––〈魔力感知〉によるとあの透明ななにかは私を追わずに、アルさんか別の標的を追っていったみたいです。


 もう大丈夫かと思い、地面に降りるため〈空歩〉を発動させてゆっくりと地上へと降ります。


「……?」


 私がギリギリ視認できる家屋の屋根の上から、見知らぬ黒髪の男性が笑みを浮かべて、こちらに向かって手を振っていました。


 うーん、プレイヤーネームが見えないので知り合いかどうかの判別が難しいですね。


 地面に向かって降下する私の視線と、笑みを浮かべて手を振る彼の視線が交差しました。
 その瞬間、男性の口元が頬のあたりまで裂けて、その額から鬼のような黄色っぽいツノが生えました。


 そしてその男性は、私を標的と定めたのかこちらに向かって走って来ました。


 ……これって大ピンチです?











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