少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記
18話
18話
コキュートスを召喚してから四日が経ち、春休みの最終日になった。
課題も制服などの身支度の準備は既に整えてあるが、私にとっては学校に行くということ自体がそもそも憂鬱なので、もやもやした気持ちは晴れない。
––この四日間の間で、ゲームのイベントは物凄い進展を見せた。
まず私が仕事に行っている最中に、四天王のうちの一鬼である〈星熊童子〉と〈熊童子〉が討伐された。
私が知っている中では、アルさんやクフさん、〈フィールドクラッシャー〉のウィングさん等が参加したらしい。
聞いた話ではアルさんが初見であるはずなのにイベントボスたちの攻撃を完封し、その隙にアタッカーたちが攻めて倒したそう。
さすがはアルさん。プレイヤースキルのお化けである。
私も参加したかったな……。そんな思いが私の胸から込み上げてきた。
思わず私は(多分)苦笑してしまった。なんだ、私もあのゲームを楽しんでいるんだと。
洗面台の鏡に映る私の顔が、ほんの少しだけ明るくなっているような気がした。
そんなこんなで朝の支度を済ませた私は、《Everlasting World》にログインした。
「……おはようございます。コキュートス」
「……!」
ログインした私は自身の頭の上に居座っているコキュートスに声をかけて、とりあえずいつもの喫茶店へと向かいました。
やはり朝の時間帯にログインすると、あのお店のフレンチトーストが食べたくなってしまいます。
コーヒーによく合うんですよね、アレ。
そうして店に着いた私は、いつもと変わらぬ店員さんに注文をつけて、窓側の席へと座りました。
お行儀が悪いかもしれないですが、コキュートスはテーブルの上でフワフワと浮いています。
……座ってないですしセーフですかね。
それから数分、ボーッとして待っていると、店員さんがフレンチトーストとブレンドコーヒーを持ってきてくれました。
当然ながらコーヒーには砂糖やミルクは入れません。
コーヒーはこのカフェインの苦味がいいのですから!
それに甘味としてはフレンチトーストがありますから。
表面はカリカリで、中はプリンのような柔らかさ。そして口に入れると、卵と牛乳、バニラエッセンス、シナモン、それぞれがうまい具合に調和してなんとも言えない優しい味。
それにさらにメープルシロップや蜂蜜がかかっているのにも関わらず、それらに負けない味。
コーヒーにも途轍もなく合うのです。
……話が逸れましたね。とりあえず食べましょう。
私はまず、熱々のコーヒーを軽く飲みます。
え?熱々なのに大丈夫なのかって?
大丈夫です。魔法でコッソリ冷やしてますから。
幸せですね––なんて思いながら顔を上げると、目の前のガラスに見覚えのある女性の顔がへばりついていました。
「…………」
思わずコーヒーを吹きかけました。私はそっと顔を逸らして黙々とフレンチトーストを食べることにしました。
「あーやーちゃーんー?」
「ぶふっ」
その女性はガラスにへばりついたままにへらと笑い、こちらに声をかけてきました。
そのため私は今度は我慢できず、フレンチトーストを吹いてしまいました。
「……なんの用ですか、シルヴィアさん」
私は口を拭いて、吹いてしまったものを浄化しながらシルヴィアさんにジト目を向けました。
……コキュートス、敵ではないので威嚇をしなくてもいいですよ。
「いやー?あやちゃんが珍しく幸せそうな顔をしてたから、何を食べてるのか気になっちゃって」
「……別にそのような顔をした覚えはないのですが」
幸せだなーとは思いましたが、顔に出すような真似はしていないと思いますが……。
「んー?そうかなー?」
するとシルヴィアさんはそう言って、一枚の紙––写真を私に見せてきました。
そこにはコーヒーを嬉しそうに目を細めて飲む私の姿と、それを不思議そうに眺めているコキュートスの姿が写っていました。
……幸せそう、でしょうか?
特になんの反応もしない私に対し、シルヴィアさんは頬を膨らませてなぜかプリプリと怒り出しました。
「もー、あやちゃん反応薄いなー。そこは『なっ、そ、その写真消してください!』とか言うところじゃなーい?」
「別に撮られても困るものでもありませんし、無いですね」
一刀両断。シルヴィアさんはがくりと地面に手をつき項垂れました。
……相変わらずテンション高い人ですね。シルヴィアさんは。
流石にこれ以上はお店に迷惑になると思った私は、さっさと食事を済ませ代金を払い、外に出ました。
「……シルヴィアさん、いつまでそこで項垂れているのですか」
私は手を差し伸べて、彼女を立たせました。
……幸いにも周りにはあまり人はおらず、彼女の奇行や私の醜態を見たものはそんなにいませんでした。よかったよかった。
「くっ、あやちゃんに普通の反応を求めた私がバカだった!」
「そんなことはどうでもいいです。いつも一緒にいるはずのお二方はどうしました?」
サナさんはともかく、あの人は仕事でもない限りシルヴィアさんにベッタリですし。
「サナちゃんは仕事だねー。今日はインできないみたい。きっちゃんはそろそろくると思うよ?」
きっちゃん––キドさんはシルヴィアさんの旦那さんで、いつも見てて砂糖を吐いてしまいそうなほどシルヴィアといちゃついています。
因みにそんな人がキングスライムを狩る時にいなかったのかと言うと、単に仕事の都合でログイン出来なかったらしいです。
「……いちゃつくのはほどほどにしてくださいね?」
見てたら暗殺したくなるので。
「おっけー。きっちゃんも流石に抑えてくれると思うよ?私も恥ずかしいからやめてって言っておいたし」
シルヴィアさんは頬を赤く染めて目を逸らしました。
このバカップル夫婦は……。そう内心でため息を吐きました。
「––で、キドさんのことは置いておいて、用件はなんです?だいたい予想は付きますが」
「あ、うん。あやちゃんが暇なら一緒にイベント行かないかなって誘いに来た」
「……あれはソロでも出来るイベントですよね?」
「そうだけどさ、人数は多い方が楽しいでしょ?それに––」
シルヴィアさんはニヤリと笑みを浮かべて私の手を取りました。
「あやちゃんといたら絶対に何か面白いことが起こると私の直感が告げてるから!」
その言葉に私は目をパチクリとさせ、シルヴィアさんの顔を二度凝視しました。
シルヴィアさんはどうしたの?と言わんばかりに不思議そうな顔をして、私を見つめ返してきました。
「……ふふ、わかりました。よろしくお願いします。シルヴィアさん」
「……!うん、よろしくね!あやちゃん」
一瞬だけシルヴィアさんの顔が驚愕に染まり、しかしすぐいつも通りの笑顔に変わりました。
……なにか驚くようなことでもあったのでしょうか。
「パーティメンバーはどなたです?」
「んーとね、まず私にあやちゃん。あとはアルちゃんにきっちゃん。あとくーちゃんかな」
……随分と過激戦力ですね。ボスとでも戦うのでしょうか。
「いやー、うん。備えあれば憂いなしっていうじゃない?念のためよ念のため」
「……なるほど?」
よくわからないですが、とりあえず私は納得するフリをしました。
その様子を見たシルヴィアさんはウンウンと満足そうに頷きました。
「それじゃあ、行こっか。あ、アルちゃんとくーちゃんはもう向かっ––」
「……ヴィー。見つけた」
シルヴィアさんがイベント会場へ向かおうと振り返ったその瞬間、黒髪の男性––シルヴィアさんと同じくらいの身長––が彼女にそっと抱きつきました。
それといった特徴はないため、多分普人族でしょう。
この男性の名前は先程から話題に上がっていたキドさん。
抜刀の扱いがとても上手く、色々な人からよく《師範》と呼ばれていました。
冷静沈着。恐れるものなし。
別のVRゲームでキドさんはよくそう言われていましたが、シルヴィアさんが関わるとダメになってしまいます。
人目があってもイチャイチャイチャイチャ。戦闘中でもいちゃいちゃいちゃいちゃ。食事中でもいちゃいちゃいちゃいちゃ。
サナさんが砂糖を吐くスキルを手に入れてしまうほど、甘々していました。
「……おはようございます。キドさん」
「……おはよう、アヤさん。ところで君はなんでヴィーの手を握っているのかな?」
「……シルヴィアさんから握ってきたんですよ?」
「……本当に?」
……そして、キドさんはシルヴィアさんのことになると途轍もなく面倒くさくなります。いまみたいに。
「きっちゃん本当だからそんなにピリピリしなくても大丈夫よ?」
「……ならいいや」
すると次の瞬間、キドさんの身体がピカリと光を発して––キドさんの身長が、100センチメートル位にまで縮んでしまいました。
「……それじゃあ、行こうか」
「ええ」
というわけでイベント会場にレッツゴー。
私はイベント会場へと向かいました。
「……いや突っ込まないの?!」
そんなシルヴィアさんの声が聞こえた気がしましたけど、きっと気のせいですね。
コキュートスを召喚してから四日が経ち、春休みの最終日になった。
課題も制服などの身支度の準備は既に整えてあるが、私にとっては学校に行くということ自体がそもそも憂鬱なので、もやもやした気持ちは晴れない。
––この四日間の間で、ゲームのイベントは物凄い進展を見せた。
まず私が仕事に行っている最中に、四天王のうちの一鬼である〈星熊童子〉と〈熊童子〉が討伐された。
私が知っている中では、アルさんやクフさん、〈フィールドクラッシャー〉のウィングさん等が参加したらしい。
聞いた話ではアルさんが初見であるはずなのにイベントボスたちの攻撃を完封し、その隙にアタッカーたちが攻めて倒したそう。
さすがはアルさん。プレイヤースキルのお化けである。
私も参加したかったな……。そんな思いが私の胸から込み上げてきた。
思わず私は(多分)苦笑してしまった。なんだ、私もあのゲームを楽しんでいるんだと。
洗面台の鏡に映る私の顔が、ほんの少しだけ明るくなっているような気がした。
そんなこんなで朝の支度を済ませた私は、《Everlasting World》にログインした。
「……おはようございます。コキュートス」
「……!」
ログインした私は自身の頭の上に居座っているコキュートスに声をかけて、とりあえずいつもの喫茶店へと向かいました。
やはり朝の時間帯にログインすると、あのお店のフレンチトーストが食べたくなってしまいます。
コーヒーによく合うんですよね、アレ。
そうして店に着いた私は、いつもと変わらぬ店員さんに注文をつけて、窓側の席へと座りました。
お行儀が悪いかもしれないですが、コキュートスはテーブルの上でフワフワと浮いています。
……座ってないですしセーフですかね。
それから数分、ボーッとして待っていると、店員さんがフレンチトーストとブレンドコーヒーを持ってきてくれました。
当然ながらコーヒーには砂糖やミルクは入れません。
コーヒーはこのカフェインの苦味がいいのですから!
それに甘味としてはフレンチトーストがありますから。
表面はカリカリで、中はプリンのような柔らかさ。そして口に入れると、卵と牛乳、バニラエッセンス、シナモン、それぞれがうまい具合に調和してなんとも言えない優しい味。
それにさらにメープルシロップや蜂蜜がかかっているのにも関わらず、それらに負けない味。
コーヒーにも途轍もなく合うのです。
……話が逸れましたね。とりあえず食べましょう。
私はまず、熱々のコーヒーを軽く飲みます。
え?熱々なのに大丈夫なのかって?
大丈夫です。魔法でコッソリ冷やしてますから。
幸せですね––なんて思いながら顔を上げると、目の前のガラスに見覚えのある女性の顔がへばりついていました。
「…………」
思わずコーヒーを吹きかけました。私はそっと顔を逸らして黙々とフレンチトーストを食べることにしました。
「あーやーちゃーんー?」
「ぶふっ」
その女性はガラスにへばりついたままにへらと笑い、こちらに声をかけてきました。
そのため私は今度は我慢できず、フレンチトーストを吹いてしまいました。
「……なんの用ですか、シルヴィアさん」
私は口を拭いて、吹いてしまったものを浄化しながらシルヴィアさんにジト目を向けました。
……コキュートス、敵ではないので威嚇をしなくてもいいですよ。
「いやー?あやちゃんが珍しく幸せそうな顔をしてたから、何を食べてるのか気になっちゃって」
「……別にそのような顔をした覚えはないのですが」
幸せだなーとは思いましたが、顔に出すような真似はしていないと思いますが……。
「んー?そうかなー?」
するとシルヴィアさんはそう言って、一枚の紙––写真を私に見せてきました。
そこにはコーヒーを嬉しそうに目を細めて飲む私の姿と、それを不思議そうに眺めているコキュートスの姿が写っていました。
……幸せそう、でしょうか?
特になんの反応もしない私に対し、シルヴィアさんは頬を膨らませてなぜかプリプリと怒り出しました。
「もー、あやちゃん反応薄いなー。そこは『なっ、そ、その写真消してください!』とか言うところじゃなーい?」
「別に撮られても困るものでもありませんし、無いですね」
一刀両断。シルヴィアさんはがくりと地面に手をつき項垂れました。
……相変わらずテンション高い人ですね。シルヴィアさんは。
流石にこれ以上はお店に迷惑になると思った私は、さっさと食事を済ませ代金を払い、外に出ました。
「……シルヴィアさん、いつまでそこで項垂れているのですか」
私は手を差し伸べて、彼女を立たせました。
……幸いにも周りにはあまり人はおらず、彼女の奇行や私の醜態を見たものはそんなにいませんでした。よかったよかった。
「くっ、あやちゃんに普通の反応を求めた私がバカだった!」
「そんなことはどうでもいいです。いつも一緒にいるはずのお二方はどうしました?」
サナさんはともかく、あの人は仕事でもない限りシルヴィアさんにベッタリですし。
「サナちゃんは仕事だねー。今日はインできないみたい。きっちゃんはそろそろくると思うよ?」
きっちゃん––キドさんはシルヴィアさんの旦那さんで、いつも見てて砂糖を吐いてしまいそうなほどシルヴィアといちゃついています。
因みにそんな人がキングスライムを狩る時にいなかったのかと言うと、単に仕事の都合でログイン出来なかったらしいです。
「……いちゃつくのはほどほどにしてくださいね?」
見てたら暗殺したくなるので。
「おっけー。きっちゃんも流石に抑えてくれると思うよ?私も恥ずかしいからやめてって言っておいたし」
シルヴィアさんは頬を赤く染めて目を逸らしました。
このバカップル夫婦は……。そう内心でため息を吐きました。
「––で、キドさんのことは置いておいて、用件はなんです?だいたい予想は付きますが」
「あ、うん。あやちゃんが暇なら一緒にイベント行かないかなって誘いに来た」
「……あれはソロでも出来るイベントですよね?」
「そうだけどさ、人数は多い方が楽しいでしょ?それに––」
シルヴィアさんはニヤリと笑みを浮かべて私の手を取りました。
「あやちゃんといたら絶対に何か面白いことが起こると私の直感が告げてるから!」
その言葉に私は目をパチクリとさせ、シルヴィアさんの顔を二度凝視しました。
シルヴィアさんはどうしたの?と言わんばかりに不思議そうな顔をして、私を見つめ返してきました。
「……ふふ、わかりました。よろしくお願いします。シルヴィアさん」
「……!うん、よろしくね!あやちゃん」
一瞬だけシルヴィアさんの顔が驚愕に染まり、しかしすぐいつも通りの笑顔に変わりました。
……なにか驚くようなことでもあったのでしょうか。
「パーティメンバーはどなたです?」
「んーとね、まず私にあやちゃん。あとはアルちゃんにきっちゃん。あとくーちゃんかな」
……随分と過激戦力ですね。ボスとでも戦うのでしょうか。
「いやー、うん。備えあれば憂いなしっていうじゃない?念のためよ念のため」
「……なるほど?」
よくわからないですが、とりあえず私は納得するフリをしました。
その様子を見たシルヴィアさんはウンウンと満足そうに頷きました。
「それじゃあ、行こっか。あ、アルちゃんとくーちゃんはもう向かっ––」
「……ヴィー。見つけた」
シルヴィアさんがイベント会場へ向かおうと振り返ったその瞬間、黒髪の男性––シルヴィアさんと同じくらいの身長––が彼女にそっと抱きつきました。
それといった特徴はないため、多分普人族でしょう。
この男性の名前は先程から話題に上がっていたキドさん。
抜刀の扱いがとても上手く、色々な人からよく《師範》と呼ばれていました。
冷静沈着。恐れるものなし。
別のVRゲームでキドさんはよくそう言われていましたが、シルヴィアさんが関わるとダメになってしまいます。
人目があってもイチャイチャイチャイチャ。戦闘中でもいちゃいちゃいちゃいちゃ。食事中でもいちゃいちゃいちゃいちゃ。
サナさんが砂糖を吐くスキルを手に入れてしまうほど、甘々していました。
「……おはようございます。キドさん」
「……おはよう、アヤさん。ところで君はなんでヴィーの手を握っているのかな?」
「……シルヴィアさんから握ってきたんですよ?」
「……本当に?」
……そして、キドさんはシルヴィアさんのことになると途轍もなく面倒くさくなります。いまみたいに。
「きっちゃん本当だからそんなにピリピリしなくても大丈夫よ?」
「……ならいいや」
すると次の瞬間、キドさんの身体がピカリと光を発して––キドさんの身長が、100センチメートル位にまで縮んでしまいました。
「……それじゃあ、行こうか」
「ええ」
というわけでイベント会場にレッツゴー。
私はイベント会場へと向かいました。
「……いや突っ込まないの?!」
そんなシルヴィアさんの声が聞こえた気がしましたけど、きっと気のせいですね。
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