少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

17.5話

17.5話






 羨ましかった。母親がいた友人が。羨ましかった。父親がいた友人が。
 妬ましかった。母親がいた友人が。妬ましかった。父親がいた友人が。


 父と母を亡くしてからたった一度だけ、まだ私が純粋な子供だった頃、そう思ったことがあった。
 その友人の名前は絵里。母と父を亡くした私を、感情が抜け落ちて周りに不気味がられていた私を、『大丈夫だよ』と言って側にいてくれた、幼い頃の友人。
 そんな彼女も──亡くなってしまった。今から何年か前の、六月十二日。私は、たすけてあげられなかった。


 ──そこでようやく私の目は覚めた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 私はベッドから身体を起こし、手で口を押さえる。額や手は汗でぐっしょりで、どれだけ汗をかいたのだろうか。シャツが少し気持ち悪い。


「……お風呂、入り直そ」


 私は毛布をベッドの端の方へとやり、ベッドから降りた。タンスからバスタオルと替えの服等を取り出し、胸の前で抱える。
 そして部屋の扉を開けて、私はバスルームへと向かった。今日の夕ご飯はどうしようか、そんなことを考えながら。






 ──最近、よく夢を見る。それも、自分が小さかった頃の悪夢ゆめを。


 原因はなんだろうか。やはり、私が最近始めたEverlasting world が原因なのだろうか。しかしいくらVRゲームだからといって、そんなこと有り得るのかと、私は心の中で否定する。


「……考えるだけ、無駄」


 私はふぅっ、とため息を吐いた。ため息を吐いたら幸せが逃げると言われているが、これ以上逃げる幸せなど持ち合わせていないので問題ない。


 そんなことを考えているうちに、結構な時間が経過していたようで、私の肌は赤くなっていた。のぼせる寸前だ。


 これは不味いと私は急いで立ち上がり、お風呂から出た。


 お風呂から出て時計を確認してみると、すでに午後8時を回っていて、私は急いで夕飯の支度を始めた。




 今日の夕ご飯は肉じゃがとお吸物と白米にしよう。
 ちょうど肉じゃがの材料が冷蔵庫の中や社長さんからの仕送りの箱に入っていたからだ。


 ……今日は社長は来ないよね。一瞬だけ二人分を作ろうかと思ったが、もしも来なかった時のことを考えてやめた。
 ……なんで社長の分まで作ろうとしたんだろう、私。なにかを吹っ切るように私は首を横に振り、一人分をちゃっちゃと作った。


 肉じゃがとお吸物を作り終える頃には、炊飯器からピーという音が鳴り、白米は炊けていた。そしてそれらを適当にお皿に盛り付けて、キッチンテーブルの上に置いた。


「……いただきます」


 私は箸を手に取り、作ったばっかりの夕食を口に入れた。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 その翌日。いつも通りの時間に目覚めた私は歯を磨き着替えて朝食をとり、家事を済ませた。
 今日は仕事があるので、Everlasting World をやるのはその後。とはいっても予定では帰りが午後8時を回るので、できるのは数時間だけだが。


 ああ、春休みが終わるまで後4日になってしまった。なんてことを思いつつも私は仕事に行く支度を整え、家を出た。




 家を出るといつも通り、迎えの車が来てくれていた。私が家から出てきたのを確認すると、運転席に座っていた人が出てきて、


「鈴泉絢香さん、お待ちしておりました。それではどうぞこちらに」


 と言った。この人の名前は佐奈川 茂さん。私のマネージャーみたいな人である。ちなみに、社長さんの腹心みたいな人でもある。


 私は車のドアを開けて助手席に座る。私がシートベルトを締めたのを確認すると、茂さんは車のエンジンを掛けて出発した。






「今日はお疲れ様でした」


 日は既に沈み、夜の張が下りている。冷たい夜風が私の頬を優しく撫でる。


「佐奈川さんもお疲れ様でした」


 私はそう言って車から出る。私は車に乗っている佐奈川さんに軽くお辞儀をしてから、家の中に入った。


 家の中に入ってから時計を確認すると、やはり9時をゆうに回っていた。


「……今日はやめとこ」


 私は歯を磨いてお風呂に入り、午後10時になるまで小説「眼球奇譚」を読むことにした。


 ──よほど集中していたのか、気がつくと午後10時になっていた。私は読んでいたページに栞を挟み、部屋の電気を消して就寝した。













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