少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

17話

17話






 というわけで私は氷の精霊を召喚するために、再びイベントエリアの超級にやってきました。ログアウトする前にこれだけはやっておきたかったのです。


 虎熊童子と私たちの戦闘によって壊された地形や建物はまるでそんなものは無かったかのように修復されていました。


 キョロキョロと辺りを見回してみると、鬼と戦闘しているプレイヤーがちらほらと見られます。時間帯が時間帯だからか、やはり人が多いですね。
 うーん、一応人目のないところで召喚しましょうか。


 私は建物によって作られた、入り組んだ路地に入っていった。






「ここら辺でいいですかね」


 入り組んだ路地をてきとーに進み、行き止まりに辿り着いてしまった私は、ここで精霊を召喚することにしました。


 さて……、〈氷精霊〉を召喚するための条件は、周囲の気温が0度以下であること。雪が降っていること。そう〈氷精霊召喚〉の説明欄に書かれていました。
 というわけで、私は自身に〈耐寒付与〉と〈耐冷付与〉をしました。人は近くにいないっぽいですし、問題ないですよね。


「〈銀世界スノウワールド〉」


 すると突然空に暗雲が立ち込めて、しとしとと雪が降り出しました。虎熊童子との戦闘とは違い、魔力の消費を削減して凍傷の付与効果を消しています。
 ──よし、始めますか。


 私は地面に手をついて、私は白い息を吐きながら固定化されている呪文を唱えました。


「〈氷精霊召喚〉」


 ピシリと、私の目の前の建物の壁──いえ、その空間に、亀裂が走りました。亀裂が大きくなると、それにつられるように降り止まない雪の勢いが強くなっていきます。


 ……おや、この吹雪、私の制御下から離れてますね。どうしましょうか。


 私の制御下から離れるということはつまり、私の手によって抑えられていた雲が再び膨張し始めるということです。
 私は耐冷付与と耐寒付与のおかげでやむなきを得ていますが、果たしてそうでない人はどうなるのか。
 まあ、私の制御下から離れたということは、もしプレイヤーがこれによって死んだとしてもPK扱いにはならないでしょうし、別に問題ないですよね。


 私はそう結論づけてそれについて考えるのを一旦やめました。うん、諦めるのも大事なのです。


 改めて視線を目の前の亀裂に向けます。ほんの少しだけ目を離したすきに、亀裂は人が一人通れそうなほどにまで大きくなっていました。
 そして──パキンッ!という音を立てて亀裂が裂け、大きな黒い穴が開きました。


 何が出てくるのかと唾を飲み込み、ジッと大きな黒い穴を見つめていると–––


「……幽霊?」


 その黒い穴から出てきたのは、体長大凡60cmくらいの、幽霊さんでした。
 黒色の外套を身に纏い、本来顔が出るであろう場所にはそのようなものはなく、ただ真っ黒。……いえ、爛々と妖しく輝く金色の瞳が二つだけありました。
 人ならば手があるであろう部分ら辺には、ふわふわとランタンのようなものが浮いています。


 幽霊さん(仮)は瞳をパチパチとさせ、私の方をジッと見つめてきています。私も、幽霊さんを見つめ返します。


「…………」
『…………』


 ……何も言いませんね、この子。どうしましょうか。すると突然、幽霊さんが目をまるで笑うかのように細めて、宙でクルリと一回転しました。


《氷精霊:生者を羨む者ウィル・オ・ウィスプ種が契約を求めてきています。契約しますか?YES/NO》


 どうやらさっきの行動は、私と契約してもいいよ!というサインだったみたいです。……因みにですがこれ断ったらどうなります?あと、精霊と契約することのデメリットはありますか?


《解答します。もし断った場合、今後氷精霊との契約が不可能となります。その他の精霊とは可能です。そしてデメリットに関してですが、氷の場合相対属性である炎精霊との契約が不可能となります》


 ……ふむ。つまりたいしたデメリットはないということですね。当然ながら私はYESを選択しました。


《プレイヤー名:Ayaと氷精霊:生者を羨む者との契約が成立しました。これにより、契約者と被契約者は様々な恩恵を受けることが出来ます》


 その言葉が私の耳に入った次の瞬間、私の右手の甲に、まるで細い針にチクっと刺されたような痛みが走りました。まあ大した痛みではないですね。
 チラリと手の甲を確認すると、そこにはよくわからない紋様が刻まれていました。


《生者を羨む者と契約したため、契約者:Ayaにスキル【嫉妬者】が付与されました。【氷精霊の加護】が付与されました。》


《Ayaと契約したため、被契約者:生者を羨む者にスキル【反転(偽)】が付与されました。【聖属性】が付与されました。》




〈嫉妬者〉……【その感情は、いまは押さえ込まれている】
 MPの5割を効果発生中消費し、肉体の一部分を改変することができる。ただし、改変した肉体は一時間の経過もしくは発動者の任意で元に戻る。




〈氷精霊の加護〉……氷精霊の加護。氷関連魔法の消費魔力が2割減少させることができる。




 ……何ですか【嫉妬者】って。ウィル・オ・ウィスプによるものだとわかってもなんだか釈然としませんね。まあ効果は有能なので気にしませんが。うん、気にしてませんよ?
 あともう一つの、【氷精霊の加護】とかいうのもとてもありがたいですね。


 契約によってもたらされた恩恵について確認し終えた私は、その説明欄を閉じて顔を上げた。するとウィル・オ・ウィスプがタイミングを見計らっていたのか、飛びかかってきました。
 そしてぽすっという音を立てて、私の頭の上に乗っかりました。結構な大きさがあるのに、全く重量は感じませんでした。


 ……さて、この子の試運転がてら、鬼を倒しに行きますか。


 帰り道はわからないので、というかわざわざ道を使って戻るのも面倒なので、私は【壁歩き】を発動させて建物の屋根に登りました。


「鬼さんどーちら」


 私は屋根の上を駆け出しました。






 それからほんの数分だけ屋根の上を駆けていると、ようやく鬼の集団を見つけることが出来ました。ちょうど、私が佇んでいる屋根の斜め下くらいにいます。感知能力が鈍いのか、こちらには気づいていないよう。


「ウィル・オ・ウィスプ。あの鬼の集団になにかやってみてください」


 私はウィル・オ・ウィスプを頭から下ろして、鬼の集団を指差してそう聞きました。


『…………』


 返事がありません。……いったいどうしたんでしょうか。
 そんなことを思っていると、私の目の前に《氷精霊:生者を羨む者が名付けを求めています。名付けを行いますか?》というメッセージが表示されました。


 なるほど。契約はしたけど名前を付けてもらえないから拗ねてるんでしょうかね。


「……名前、ですか」


 私は鬼の集団が近くにいることを忘れて、考え込みました。うーん、動物は飼ったことありますが、遠い昔のことですし、そもそも私が名前をつけた訳ではありませんし、名前と言われましてもね……。適当な神話とかから持ってきますか。


 氷に関しての神話や伝説としては、霜の巨人のヨトゥンに嘆きの川のコキュートス、あとはヘルヘイムとかですかね。


 うーん、本人……本霊?に聞きましょうか。


「候補として三つの名前があるのですが、この中で希望はありますか?」


 私は宙に魔力で文字を描く。するとウィル・オ・ウィスプはうーんと悩んだような素振りを見せて、ヨトゥン、コキュートス、ヘルヘイムの内、コキュートスと文字が浮かんでいる場所に行きました。


「決まりですね。これからあなたの名前は【コキュートス】です」


 よろしくお願いしますね、コキュートス。私はそう言って、コキュートスの頭を撫でました。


『………!』


 コキュートスは嬉しそうに、目を細めてくれました。……反応が昔飼っていた猫にそっくりです。私は思わず笑みを零してしまいました。
 その瞬間、私はバッと手を自らの頰に手を当てた。


「……笑えた?」


 私はありえないと、心の中でそう否定しようとしましたが、けれど私は今–––笑っていた。


『……?』


 コキュートスが不思議そうに私のことを見つめてきました。……まあ、気にしても仕方がありませんね。


「なんでもありませんよ。──気を取り直して、コキュートス。あの鬼の集団に何かしてみてくださいますか?」


 私の言葉にコキュートスはコクリと頷いて、ふわふわと鬼の集団の方へと向かって行きました。


 さて、どのようなことをしてくれるのでしょうか?楽しみですね。私は屋根の上に座り、コキュートスのことをジッと見つめます。


 コキュートスは鬼に気付かれないように近づき、集団の一番端っこにいた鬼にそっと触れていました。流石に触れられると気付いたようで、鬼はがおーと唸り声を上げて–––その直後、糸の切れた人形のように崩れ落ちました。
 倒れた鬼をよく見てみると、目が凍りついていたり、肌色が青っぽく変色しています。


 おそらく、血液でも凍らせたのでしょう。なかなかえげつないことしますね。うちの精霊。


 他にもコキュートスは、氷刃を放ったり、氷壁を築いて身を守ったり、氷弾を放ったりと、様々な攻撃を繰り出しました。
 氷魔法全般は使えるようです。


 あ、そういえば精霊も召喚しましたし、氷魔法は進化できるんでしょうかね?あとで確かめてみましょう。


 そんなことを思っているうちに、鬼の集団は数を減らし、当初のおおよそ半数まで減っていました。


 さて、もう十分ですね。私は鬼の集団に向かって〈氷刃乱舞〉を発動させます。


 すると鬼たちががいる空間に凍てつく吹雪が巻き起こり、雪のかわりに吹き荒れる氷の刃が、鬼を切り刻みました。
 わずか数秒で、鬼たちは死亡時のエフェクトを出して消えていきました。コキュートスがむくれたような、悲しそうな顔でこちらを見てきていますが、無視です無視。


《イベントポイントを16×24獲得。現在のポイント75064ポイント》


《【種族レベル】が24→25に上昇しました。HP、MP、SPが20上昇しました。スキルポイントを2獲得しました。ステータスポイントを2獲得しました》


 これでコキュートスの能力は把握できましたし、一旦落ちますか。


 私はコキュートスに一旦落ちることを告げて──理解しているかどうかはわからないが──ログアウトしました。



















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