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少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

14話 虎熊童子-4

14話 虎熊童子-4






「さてと、死にそうになってたからあーちゃんに助けさせたけど、あの般若なんであんなに怒ってたの?」
「わたしにもわからない。…カバンさんとあやちゃんが何かしたのはわかるんだけど…」


 あやちゃんのことだからなぁ…、なにをするか想像がつかない。でも怒っていた、ていうのから推測するなら…、なにか大事なものを壊されたりとか、馬鹿にされたとかかな?


「––––今はそれはおいておきましょう。とりあえず、シズクお嬢様」
「?」
「そこ、危ないですぞ」


 わたしは急いで床を蹴って前に跳んだ。次の瞬間、わたしが先程まで居た場所に人型の何かが飛んできた。


「けほっ、こほっ。随分と飛ばされましたね…、ん?」


 人型の何かは、ボロボロになったあやちゃんだった。
 …物凄い勢いでここに飛んできたけど、もしかしてあの般若に投げ飛ばされたのかな?なんで生きてるんだろ…。


「皆さんこんにちは。なんでそんな唖然としているんですか」
「いやいやいや、突然人が飛んできたら誰でも驚くでしょ!」


 相変わらずあやちゃんは鈍感なところがあらなあ…。
というか、あやちゃんがここに吹っ飛ばされてきたってことは、あの般若もここに来るってこと?


「シネェェェェェェ!!!」


 迫り来る般若の拳。あやちゃんを狙うと思いきやまたもや私を狙ってきた。
なんで私を狙ってくるの?!


「フォッフォッフォッ。【転移】」


 アモーレさんがそう呟いた次の瞬間、私の視界は真っ白に染まった。




………
…………
……………




 気がつくと私は、見知らぬ建物の中にいました。
 …まあ当たり前なんですけどね。逆に知ってたら怖いです。


 ––––やはりアモーレさんは【転移】系統の能力を持っているみたいですね。とても助かりました。
 まさか吹っ飛ばされた先にアモーレさんたちがいるとは思いませんでした。


「もー!あやちゃん急に飛んでこないでよ!危ないじゃない」
「メリーさんすみません。まさか吹っ飛ばされた先に皆さんがいるとは思いませんでした」
「フォッフォッフォッ。メリーお嬢様、アヤお嬢様に他意はございませんぞ」


 さて、このメンツなら【虎熊童子】にも勝てるでしょうね。
 いつも通りならメリーさんは【両手槌使い】、アモーレさんは【武闘家】、シズクさんは…【魔法鍛治師】でしたっけ。あとはカバンさんの【暗殺者】ですか。
 そして私は【回復術師】兼魔法使いモドキ。


「カバンさん、出てきてください」
「了解」


 するとカバンさんは、アモーレさんの影からニュッと飛び出てきました。


 冗談のつもりで言ったのですが……。本当に出てくるとは思いませんでした。
 この人【虎熊童子】の分体を倒しに向かったはずなのですが…。
 とりあえずそれについては置いておきましょうか。


「さて皆さん、ここに来たということはイベントボス、【虎熊童子】を討伐しに来たという解釈をしてよろしいですよね?」


 私の言葉に、みんなは首を縦に振った。
 【魔力感知】による情報だと【虎熊童子】はあと10秒でここに到着するみたいです。手短に済ませましょう。


「役割はアモーレさんが【タンク】。メリーさんは【前衛】。シズクさんは【前衛兼後衛】。カバンさんは【遊撃】。そして私は【支援兼後衛】です」
「了解しましたぞ」
「ほいほーい」
「了解です」
「はーい」


 私は後ろに二歩後退しました。


「来ますよ」


 突然建物の壁が破砕音を立ててぶち破れ、そこから【虎熊童子】が現れました。
 はじめ見たときは美人だなーと思いましたが、いまはその見る影もありません。まさに般若としか言えない形相をしています。


「フォッフォッフォッ。女性の顔を殴るのは少し忍びないのですが…、失礼しますぞ!【ソニックスマッシュ】」


 初手の一発、アモーレさんの【ソニックスマッシュ】が【虎熊童子】の顔面に叩き込まれました。


「後衛は後退。前衛は前に。カバンさんは適当にどうぞ。【ハイリジェネ】【ハイリジェネ】【HP変換】【ハイリジェネ】【ハイリジェネ】【HP変換】【自己修復】」


 これでHPに関しては問題ないでしょう。
 さて…、頑張りますか。






「アアアアアアアアアアアア!!!」


 アモーレさんの【ソニックスマッシュ】が直撃した【虎熊童子】は、顔を抑えて絶叫を上げました。


「フォッフォッフォッ!【ダイナマイトキック】」


 アモーレさんは容赦なく【虎熊童子】に【武闘家】のアーツをどんどん食らわせていきます。さて…、私も見てばかりではダメですね。


「【多重並列詠唱:耐寒付与】【多重並列詠唱:耐冷付与】」


 ……そういえば、なぜカバンさんはここにいるのでしょうか。狙撃型の分体を倒しに向かったはずなのですが…。
 とりあえずそれは置いておきましょうか。どうせ分体には分体を。とかいう謎理論で分身を向かわせたのでしょう。


 ––––私はチラリと、アモーレさんに視線を送りました。


 アモーレさんはコクリと頷き、あるスキルを発動させました。


「【騎士道精神】」


 さて…、いきますか。


「【銀世界スノウワールド】」


 私の体から、まるで波のようにものすごく膨大な量の魔力が溢れ出しました。…見えてるのは私くらいなんですけどね。


 溢れ出した膨大な量の魔力は形を成して雲を作り、このフィールド一帯に雪を降らし始めました。
 雪は現実では考えられないような速さで積もり、あたりを銀世界へと変貌させました。


「が、あ?なんだこれは…。雨か…?いや、雨にしては質が……」


 暴走(?)状態だった【虎熊童子】が突然大人しくなり、その手のひらについた雪をまじまじと見つめ始めました。
 先ほどとは違い、好奇心によるものか目はキラキラと光り輝いています。


「私の国にはこんなもの降ってきた覚えはないぞ…!って寒い!寒すぎ!あばばばばば」


 私たちは目を点にして、【虎熊童子】を見つめます。…なにかの策略なのでしょうか。私たちを油断させて一気に仕留める的な…?


 私たちの視線に気づいた【虎熊童子】は顔をハッと上げてこほん、と咳払いをしました。


「し、シネェェェェェェ!!!」


 一瞬にして般若の顔となり、剣を振り上げ私たちに飛びかかってきました。


「いやさせないですよ。【アサシネイト】」


 飛びかかってきたため前傾姿勢となった【虎熊童子】の背中に、いつのまにかカバンさんが座っていました。
 手に持っていた短剣を首筋に突き刺し、そのまま首をズバッと裂きました。


 …【金熊童子】然り、【虎熊童子】然り。先ほどの様子を見る限り、どうにも凶暴な鬼には見えなくなってきたのですが…。


 うんまあ、関係ないですね。やっちゃいましょう。


 私は氷の柱ツララを15本ほど創り、【虎熊童子】に向かって撃ち出しました。


 カバンさんの【アサシネイト】により首筋を斬られた【虎熊童子】はそれに反応出来るはずもなく––––


「ッ!!!アアアアアアアアアアアア!!」


 ツララが突き刺さった痛みからか、【虎熊童子】は大声を上げました。


「………なんていうか、めっちゃ心が痛むんだけど」
「ねー…」


 ジズクさんとメリーさんが、両手槌と金床…、金床?!––––で【虎熊童子】の頭を殴りながら言いました。


 【虎熊童子】からはベキッ、やらバキッという音が聞こえてきます。


 口から出ている言葉と行動が合致していませんよ?お二人さん。


 【虎熊童子:33200/250000】


「ウ、グゥゥゥ!!」


 【虎熊童子】は大きく飛び跳ね、私たちと距離をとりました。
 引きちぎれた首や穴の空いた体を再生させながら、ぎろりと私たちを睨みつけてきます。


 …HPを見る限り、どうやら分体はすでにカバンさんに倒されていたようです。随分と早いですね…。


「【ポイズンナイフ】」


 再びカバンさんは【虎熊童子】の陰から飛び出て、短剣をまたもや首筋に突き刺しました。
 しかし先ほどまでとは違い、短剣を突き刺した状態でそれを回収せずに影空間に飛び込みました。


 …なんというかこの鬼、はじめの気迫はどこにいったのでしょうか。
 あんなにも怒り心頭の様子でしたのに、今はまるであれが嘘のように……。


「そんなに「雪」が珍しいのですか?」
「ッ!そうか、これが雪なのか……!なんて、なんて幻想的で美しいんだっ……!」


 目を輝かせながら【虎熊童子】はしゃがみこみ、積もった雪を手ですくい上げました。隙だらけですね…。


「隙ありぃっ♪」


 メリーさんは赤く染まり、見るからに発熱している両手槌を、【虎熊童子】に横薙ぎにぶつけました。


「うぐっ?!」


 【虎熊童子】は苦悶の声を上げて、先ほどまでとは違いその衝撃によって簡単に吹き飛ばされました。


 【虎熊童子:13000/250000】


 うわあ。やっぱり容赦がないですね、このお嬢様。
 メリーさんによって吹き飛ばされた【虎熊童子】はまるでダンゴムシのように丸まり、必死に痛みに耐えているように見えました。


 その様子にメリーさんは表情を不愉快だと言わんばかりに歪ませました。


「…あんたね、任されたからやっているのかなんだか知らないけど、魔物の役やってるなら最後までちゃんと役を全うしなさいよ!」


 持っていた両手槌をドスンッと地面に叩きつけ、【虎熊童子】を睨みつけました。
 めちゃくちゃ怒ってますね、メリーさん。


 アモーレさんは困ったような表情を浮かべていますが、メリーさんを止める様子は見受けられません。
 しずくさんはえ?え?と先ほどから呟いており、混乱しているみたいです。
 カバンさんは顔を青くさせ、まずいまずいまずい、と呟いています。


 一体なにがまずいのでしょうか?あれですかね、【虎熊童子】のネームプレートが、敵対モンスターの表示から、【世界の住人】の表示に変わっていることに関係があるのでしょうか。


 うーん、ここにサナさんがいてくれればもっと面白い展開になったでしょうに……。なんで死んじゃったんですか。


 ––––メリーさんの言葉を受けた【虎熊童子】は顔をハッとさせました。


「……すまない。初めてみた雪だったのでな。つい興奮してしまった」


 腕を押さえ、脚を震わさせながら【虎熊童子】は立ち上がりました。


「危うく約束を破ってしまうところだった。––––すまない、ここからは真面目に相手をしよう」


 【装備変更ドレスチェンジ】。【虎熊童子】はそう呟きました。


 その次瞬間、私の真横にいたカバンさんの身体が、パリンと音を立てて砕け散りました。







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