少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

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12話 虎熊童子-2

12話 虎熊童子-2




(三人称)


 カバンは影空間を経由してなにかを掴み、それを思いっきり引っ張った。


「見つけましたよ」
「ッ?!」


 カバンの影空間より引っ張り出されたのは、【虎熊童子】であった。その顔は焦燥しきっていて、カタカタと体は震えている。
 しかし自分を掴んでいるのがカバンだと気づくと、怯えの色を消してニヤリと笑みを浮かべた。
 【虎熊童子】は自分の腕を掴んでいるカバンの腕を払うと、カバンと距離を取るために後方へと跳んだ。


「……態度変えすぎでわろた」
「ははははは!!お前だけなら怖くないぞ…!私の剣のさ……さ…?「錆では?」…錆になるといい!」


 【虎熊童子】は剣を大振りに構えてカバンに飛びかかった。
 カバンはそれを後方へと跳ぶことで回避して、さらなる追撃をまた後方へと跳ぶことで回避する。


「………あ」


 本来ならあるはずの、地面となる屋根がカバンの足元には存在していなかった。


「ははははは!気づかなかったのか!お前の方が私よりばかだ!ばーかばーか!」


 カバンは確信した。コイツは脳みそまで筋肉になっている「脳筋」馬鹿だと。カバンは法則に従って、下方へと落下していく。


(……まあ、俺の能力を先ほど見たはずなのにこんなことをしている時点で馬鹿なのはわかるんですけどね)


 カバンは地面に叩きつけられる直前に、建物の影から影空間に侵入した。


「……む、反応が消えたか。死んだか」


 ここまでになると、この馬鹿もフリなのではないかとカバンは疑ってしまう。もしくは…、知能を割いていない分身体か。


「【アサシネイト:一撃死】」


 カバンは【虎熊童子】の影から飛び出して、【虎熊童子】の首を刎ねた。


 【虎熊童子:150000/250000】


 【一撃死】…カバンの獲得した【限定スキル】。一日一回だけ使用できる。アーツ及び魔法に付与する。ただしそのアーツ及び魔法が目標に当たらなかったとしても、このスキルは使用済み扱いになる。


(一撃死で死ななかったということは、やはり…、分身体のようですね。分身体を倒すごとにHPが五万ずつ減っていますし、あと分身体は二体ですかね。……【一撃死】は使い切りましたし…)


「………ふ、わぁぁぁ…。あれ、【虎熊童子】は……?」


 アヤが目を覚ましたようである。カバンは内心でガッツポーズをした。


(先ほどの察知能力に…、あとはあの魔法。俺が遊撃、アヤさんが回復兼魔法使い…後衛ですね。あとは前衛…壁が欲しいですね)


「【虎熊童子】ならどこかに隠れているみたいです。どうやら先ほどの【虎熊童子】は分身体だったようで」
「なるほど…。––––増援はあとどれくらいでここに来ますか?今回は30人の制限があるみたいですし、そこまで時間はかからないと思うのですが…」
「残念ながら、アルさんにシルヴィアさん、くふさんやうちの姉は今ログインしていないみたいなんですよね」


 そう、いつものアヤのパーティメンバーのその殆どが、現在ログインしていないのである。まあ、ゲームはリアル優先なので仕方がないのだが。


「……サナさんはログインしているみたいですね。あ、カバンさん左に二歩」
「ほいほい」


 カバンが移動し終えたその直後、先ほどまでカバンがいた場所に、鋭利な石でできた矢が突き刺さっていた。


「…ふむ、今度は狙撃タイプですか」
「……アヤさん場所把握しているんですか?」
「ええ。あっちにいますよ。…あ、移動し始めましたね。気づいたことに気づかれたようです」


 あやの指差した方向には、この家屋よりも大きな建物が密集していた。当然どこに人がいるかはわからない。


(……アヤさんは【気配察知】の上位互換スキルでも持っているのでしょうか。…味方であるときは本当に心強いですね)


 敵に回ったときは本当に地獄だったなぁ…。カバンは内心で苦笑いを浮かべた。
 カバンがそんなことを思っていたときに、アヤはぽちぽちとメニューを操作していた。
 カバンがアヤに視線を向けたときにはすでにメニューは閉じられていて、カバンはそのことに気づかなかったが。


「サナさんを呼びました。お昼寝・・・をしていたみたいで、アナウンスに気づかなかったそうです」
「おお、それなら安心です。……俺たちはサナさんが来るまで何をすれば?」


 そこでアヤはニッコリと笑みを浮かべた。


「––––煽りましょう。それはもう、相手が激昂してしまうくらいに」






(アヤ視点)


 私は使い捨て投げナイフをインベントリから取り出しました。それにとある言葉を書いた紙を巻きつけました。……む。


「カバンさん後ろに一歩、あと右に三歩。あとあっかんべーでもしてください」
「ほいほい」


 カバンさんは私の言った通りに後ろに一歩、右に三歩移動してあっかんべーをしました。
 そして先ほどまでカバンさんがいた場所に、矢が突き刺さりました。
 …側からみている私でも少しイラっとしてしまうようなあっかんべーですね。…普段からしているのでしょうか。


 さてと。こちらに矢が届くということは、こちらからの射撃も届くということですね。【魔力感知】からの反応を見るに、狙撃タイプの【虎熊童子】は先ほどの射撃ポイントから移動していません。おそらく地団駄を踏んでいるんでしょうね。


 私は使い捨て投げナイフを構えました。……矢の位置的に射線の通るところは…、ありましたね。
 私は使い捨て投げナイフを投擲しました。私の後ろに設置した、【グラスホッパー】に向かって。グラスホッパーにぶつかった使い捨て投げナイフは反射して、私の思い描いたとおりの放射線を描いて、対象に向かって…いえ、対象のほんの少し左にむかって飛んでいきます。当てたらマズイですからね。舐めプですよ舐めプ。






(三人称)


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!あのネコもどきに魔物モドキ…!この屈辱、はらさでおくべきか…!」


 【虎熊童子】は怒り心頭の様子で、数十メートル以上先にいるであろうアヤとカバンを睨みつけた。


「1度目のあっかんべーならまだしも…、なんだこの記述は!!『矢を射るの下手くそすぎワロタ』とはなんだ!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!別に私は下手くそではない…!お前らがなぜか避けてしまうからだ!」


 【虎熊童子】は怒りのせいか無意識のうちに、その怪力で手に持っていた弓を拉げさせてしまっていた。


「ゼッタイ殺すゥゥゥゥゥゥ!!」


 【虎熊童子】はその怪力で、拉げさせた弓を球状に丸めて、アヤたちのいる場所へと思いっきり投げつけた。






(アヤ視点)


「……あ、これは無理ですね」
「……え?」


 私はとんでもない速さで飛んでくる塊をみて思わずそう呟いてしまいました。


「カバンさん、防御の構えをとってくださいな」
「ほいほい」


 たとえ私たちが避けれたとしても、この家屋自体が持ちません。…おそらく崩壊するでしょうね、あれに耐えきれずに。
 そして––––その塊が家屋に衝突しました。
 それは音速を超えていたようで、音は後からやってきました。…どんな馬鹿力なんですか。【金熊童子】よりもやばいですね。


 衝突の衝撃によるダメージを受けながら、私とカバンさんは地面へと落下していきます。まあ減ったHPは回復させたんですけどね。


「【空歩】」


 私はそっと地面に降り立ちました。カバンさんはベータ版のときからのお得意の影魔法…なのでしょうか。それで地面からニョキッと出てきました。


「サナさんから連絡が来ました。私の指定した位置についてくれたようです」
「わかりました。では…【虎熊童子】をポイント地点まで移動させましょう」









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