少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記
15話
15話
《フィールドボスを討伐しました。【第1都市】に帰還しますか?YES/NO》
「皆さんはどうしますか?」
「うーん…、やることは終わったし、帰ろっか?」
「わかりました」
「了解です」
「はーい」
では帰りましょうか。私はYESを指でタップしようとして––––
「……………お前らァ」
【氷結地獄】によって凍らされた場所のあたりから、怒りの篭ったドス黒い声が聞こえて来ました。
ピキリと氷が割れて、そこから黒いシャツと黒いズボンを履いた痴女––––失礼、アルさんが現れました。
……あ、アルさんのことすっかり忘れてましたね。さて、どうやって誤魔化しましょうか。
「アルさん、私はあなたが耐えてくれると信じていましたよ!」
私は笑顔で、白々しくアルさんにそう言いました。
くふさんとsilviaさんは、私の言葉にハッとして、「そうそう!私も信じてたよ!」「右に同じです」と、引き攣った笑みを浮かべてアルさんに言いました。
……サナさんが居ないんですけど。まさか、逃げました?
「む、そうなのか。…よし、Ayaのことは信じよう」
この人私に対する信頼度高すぎませんか?…ずっと一緒に行動していた以外私何もしていないのですが……。
「え、ちょちょちょ、ね?私のことも信じてよ。ね?」
silviaさんが慌てた様子で手をぶんぶんぶんと振りながらアルさんを見つめています。
……あれ、くふさんも居なくなりましたね。silviaさん、見捨てられたんですね…。ドンマイです。
さて、私も帰りましょうか。silviaさん、頑張ってくださいね!
私はポチッとYESを指でタップしました。
「えっ、あやちゃ、待っ––––」
聞こえなーい、聞こえなーい。私は両耳を手で押さえて、この場を去りました。
あ、《パーティーモード》から《ノーマルモード》に変えておかなければなりませんね。
そして、この場に残された二人は––––
「……シルヴィア、お前サナの正体に気が付いているんだろう?」
アルフレッドは先ほどのような怒気のこもったものではなく、至って真面目な顔でシルヴィアに問いかけた。
「…んー、まあ、ね。でもさ、あの子も私たちと一緒にいることを、楽しんでるみたいなんだよね」
シルヴィアは手に持って居る無骨な槍をインベントリにしまい、そう答えた。
「私はね、この雰囲気––––私、アルちゃん、サナちゃん、あやちゃん、くふちゃんたちとと一緒に冒険して、みんなで笑って、揶揄いあって、時には失敗して、そんな雰囲気が好きなんだ」
そう言うと、シルヴィアはどかっと地面に座り込んだ。
「……まあ私も、この雰囲気は好きだ。みんな、楽しんでいる」
アルフレッドもそう言って、地面に座り込んだ。
「ところでアルさんや」
「なんだ?」
「私をおぶって【第1都市】まで連れて帰ってくれない?」
「…ふむ、なぜだ?」
「いやー…、さっきのアナウンスについておそらく運営からなにか説明があると思うから」
「いや、そうじゃなくて…、自分で歩けないのか?」
アルフレッドがそう聞くと、シルヴィアは苦笑いを浮かべて、
「んーとね、私の【破壊の槍】には副作用があってね…、使用してから一日…現実世界でいう12時間、脚が動かなくなるのよー…」
そうアルフレッドに告げた。するとアルフレッドはジトッとした目でシルヴィアを見つめた。
「…シルヴィア、お前私の今の格好を理解しているのか?」
「え、うん。別に出歩いても痴女って思われるだけで問題ないと思うよ?」
ド直球である。アルフレッドは思わず死ねと言いたくなるのを抑えて、
「……無理だ。人前にこんな姿で出られるか!それに痴女だなんて思われたら私が社会的に死ぬ!」
シルヴィアにそう告げた。
「えー…、じゃあサナちゃん呼んで助けてもらう?」
「アホか!サナは男だろう!男にこんな姿を見せられるか!」
アルフレッドがシルヴィアをそう怒鳴りつけると、シルヴィアはポカンとした顔を浮かべて、
「……….え?サナちゃんは女だよ?」
アルフレッドにそう告げた。
「…………え?」
「気づいてるのは多分私だけだね。あやちゃんも気づいてないっぽいし」
「え、いや…、このゲームネカマとかネナベ出来ないはずだろう?」
「だね。だから私はサナちゃんが運営の人なんだろうなーって気づいたんだー」
「…どうやって女だって気づいたんだ?」
「うーん……、直感!」
その言葉に、アルフレッドは訝しむような視線をシルヴィアに向ける。
しかしすぐにそれを引っ込め、そういえば…。とアルフレッドは顎に手を当てて
「そういえばシルヴィアの勘はよく当たるとあやが言ってたな。よし、信じよう」
と言った。するとシルヴィアは苦笑いを浮かべた。
「ほんとにアルちゃんってあやちゃんにゾッコンだよねー」
「……そうか?」
そういえば、と何かを思い出したかのようにアルフレッドがシルヴィアに聞いた。
「お前翼を持っているみたいだが…、飛べないのか?」
「うん。なぜか飛べない」
シルヴィアはそう答えた。
「あ、翼には触らないでね」
「ふむ?」
「意外と敏感だから」
「ほほう」
「したらアルちゃんでもハラスメントコールするからね」
「残念だ」
シルヴィアは確信した。あ、アルちゃんって残念なお姉さんだ、と。
「さて、どうしよっか」
「うむ、とりあえずこのデメリットバフが切れるまでここで待っておくとしよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リス地点に転移した私がまず目にしたのは、プレイヤーの人混みでした。耳をずして聞いてみると、なにやら運営が告知を行うらしいとのことです。
あ、くふさんみっけ。
私は人混みをかき分けて、そぉーっとくふさんに近づいていきます。
そして、
「わっ」
とくふさんの耳に息を吹きかけました。
「うひゃぅっ?!な、なんですかっ!あ、あやさんでしたか…」
くふさんは顔を真っ赤にして、キッと私を睨みつけてきました。
……可愛いですね…。あ、いえ。そういうのではなく頭撫でたいなー的なあれです。
「運営からの告知と聞きましたが、やはり先ほどの件ですかね?」
「多分そうですね…。まさかフィールドボスの配置をミスるなんて普通ありえま––––」
『どうもこんにちは。いえ、こんばんはでしょうか?皆さんお集まりいただきありがとうございます』
突然空を覆い尽くしていた雲が真っ二つに裂かれ、そこから男性が現れました。しかし驚いたのはほんの数人のようで、大半の人が白けた様子でその男性を見つめています。
『……あれ?なんか白けてるね…。雲を割って空から現れるのってカッコ良くない?』
『格好よくないですよ。格好よく見せたいのならそれらしい服を着てきてください』
その男性の横に、秘書風な格好をした女性が現れました。
そう、その男性の姿は『厚揚げ』と描かれたジャージに、短めのジーパンのズボンという、なんともまあしまらない格好なのです。
『まあいいや。––––では気を取り直して、プレイヤーのみなさーん、こーんにーちは〜!』
男性はまるでおか○さんと一緒風に、そう言ってきました。
すると先ほどとは違い、大半のプレイヤーが、ほおを引攣らせてその男性を見つめています。
『……はあ。本田さんはお帰りください』
『え、ちょっ––––』
女性の方が指をパチンと鳴らすと、男性の姿が一瞬にして消え去りました。
『––––さて、煩い人もいなくなりましたし、まずは自己紹介から––––』
先ほどの男性––––本田さんという人と違って真面目な人みたいですね。
『私の名前は有栖川麗奈と申します。どうぞお見知り置きを』
そう言うと、有栖川さんは空中からプレイヤーたちのちょうど中心にある台のようなところに降りてきました。
『まずは、【始まりの平原】のボスについての修正とお詫びです』
有栖川さんがそう言うと、プレイヤーさんたちがいきなりオオオオオオーーー!!と叫び出しました。
…うるさいですね。
『お気付きの方もいらっしゃると思いますが、本来ならば【始まりの平原】のフィールドボスは《グラスウルフ》という狼型のボスモンスターだったはずなのです。しかしながらゲーム開発本部の馬鹿なとある人物がボスが雑魚すぎてつまらないと言い出して許可なしにボスを変えやがりまして…』
有栖川さん、素の口調らしきものが漏れてますよー。
『変更されて配属されたボスは【スライム王】というモンスターで、現状では普通ならば絶対に勝てなかったはずのモンスターです』
………勝っちゃいましたけど、つまり私たちは普通ではないということですか。
『まあ、倒されたみたいなのですが…』
するとプレイヤーたちが一斉に私とくふさんの方に視線を向けてきました。
……名前が出たのはsilviaさんだけのはずですが……、もしかしてバレてますかね?
『さすがはベータテスターと言ったところでしょうか。––––前置きはこれくらいにしましょうか。我々は【始まりの平原】のボスを【グラスウルフ】に修正しました。おそらくこれで簡単に倒せるようになると思います』
ウオオオオオ!!!プレイヤーたちの咆哮が、この広間一斉に響きます。
ふむ、あれより弱くなるということは…、ソロ討伐可能ですね。今度行ってみましょうか。
『それについてのお詫びですが、全プレイヤーを対象に、次回のアプデで追加される、『武具・防具ガチャ』の10連無料券がポストに投函されます』
……なんかここまで聞いてみると運営がプレイヤーにそのチケットとやらを与えるために仕組んだものに見えてくるのですが…、気のせいですかね。
するとこの広間に集まったうちの1人のプレイヤーが、有栖川さんにこんな質問をしました。
「つまり、次回のアプデで『課金ガチャ』が追加されるということでしょうか?」
『その通りです。詳しくは後のアプデについてのお知らせに記載しますが、『課金ガチャ』『チケットガチャ』『特殊ガチャ』が追加される予定です』
ウオオオオオオオオオオオーーー!!
プレイヤーさんたちの咆哮が、またこの広間に響き渡りました。
割とマジで耳が割れそうなんですが…。うーむ……、やはりこういうノリにはついていけませんね。
くふさんも私と同じらしく、耳を押さえて目を回しています。
『さて、最後にですが––––【始まりの平原】のフィールドボスが倒されたので、運営主催のイベントが催されることが決定されましたぁぁぁぁぁぁ!!!』
ウオオオオオオオオオオオオオオアアアアアア!!!!!!!
おおー!イベントですか!それはとても楽しみですね!
というかプレイヤーさんたちよくこんな大きな声出せますね…、この世界の住人さんたちに迷惑では……、あれ、なんか固まってますね。時間でも止められているのでしょうか?
『詳細は後に《お知らせ》でお知らせします!』
そう言うと、有栖川さんは「ではまたどこかでお会いしましょう〜」と言ってこの場から消え去りました。
「イベント」が開催されると聞いてプレイヤーさんたちは興奮が抑えられないのか、叫んだり奇声を上げている人たちが沢山います。
「……あやさん、ちょっと声と視線がウザいので他の場所に行きましょう?」
くふさんが耳を押さえながら苦しそうな顔でそう言いました。
そういえばくふさんのメイド服って、どこで手に入れたんでしょうか?
「わかりました。…そうですね、【世界樹】のところに行きましょうか。あそこ目立つはずなのに人が全然来ないんですよね」
私は敵意をむき出しにしてこちらを見つめてくる人の魔力を覚えて、くふさんとともにその場を後にしました。
《フィールドボスを討伐しました。【第1都市】に帰還しますか?YES/NO》
「皆さんはどうしますか?」
「うーん…、やることは終わったし、帰ろっか?」
「わかりました」
「了解です」
「はーい」
では帰りましょうか。私はYESを指でタップしようとして––––
「……………お前らァ」
【氷結地獄】によって凍らされた場所のあたりから、怒りの篭ったドス黒い声が聞こえて来ました。
ピキリと氷が割れて、そこから黒いシャツと黒いズボンを履いた痴女––––失礼、アルさんが現れました。
……あ、アルさんのことすっかり忘れてましたね。さて、どうやって誤魔化しましょうか。
「アルさん、私はあなたが耐えてくれると信じていましたよ!」
私は笑顔で、白々しくアルさんにそう言いました。
くふさんとsilviaさんは、私の言葉にハッとして、「そうそう!私も信じてたよ!」「右に同じです」と、引き攣った笑みを浮かべてアルさんに言いました。
……サナさんが居ないんですけど。まさか、逃げました?
「む、そうなのか。…よし、Ayaのことは信じよう」
この人私に対する信頼度高すぎませんか?…ずっと一緒に行動していた以外私何もしていないのですが……。
「え、ちょちょちょ、ね?私のことも信じてよ。ね?」
silviaさんが慌てた様子で手をぶんぶんぶんと振りながらアルさんを見つめています。
……あれ、くふさんも居なくなりましたね。silviaさん、見捨てられたんですね…。ドンマイです。
さて、私も帰りましょうか。silviaさん、頑張ってくださいね!
私はポチッとYESを指でタップしました。
「えっ、あやちゃ、待っ––––」
聞こえなーい、聞こえなーい。私は両耳を手で押さえて、この場を去りました。
あ、《パーティーモード》から《ノーマルモード》に変えておかなければなりませんね。
そして、この場に残された二人は––––
「……シルヴィア、お前サナの正体に気が付いているんだろう?」
アルフレッドは先ほどのような怒気のこもったものではなく、至って真面目な顔でシルヴィアに問いかけた。
「…んー、まあ、ね。でもさ、あの子も私たちと一緒にいることを、楽しんでるみたいなんだよね」
シルヴィアは手に持って居る無骨な槍をインベントリにしまい、そう答えた。
「私はね、この雰囲気––––私、アルちゃん、サナちゃん、あやちゃん、くふちゃんたちとと一緒に冒険して、みんなで笑って、揶揄いあって、時には失敗して、そんな雰囲気が好きなんだ」
そう言うと、シルヴィアはどかっと地面に座り込んだ。
「……まあ私も、この雰囲気は好きだ。みんな、楽しんでいる」
アルフレッドもそう言って、地面に座り込んだ。
「ところでアルさんや」
「なんだ?」
「私をおぶって【第1都市】まで連れて帰ってくれない?」
「…ふむ、なぜだ?」
「いやー…、さっきのアナウンスについておそらく運営からなにか説明があると思うから」
「いや、そうじゃなくて…、自分で歩けないのか?」
アルフレッドがそう聞くと、シルヴィアは苦笑いを浮かべて、
「んーとね、私の【破壊の槍】には副作用があってね…、使用してから一日…現実世界でいう12時間、脚が動かなくなるのよー…」
そうアルフレッドに告げた。するとアルフレッドはジトッとした目でシルヴィアを見つめた。
「…シルヴィア、お前私の今の格好を理解しているのか?」
「え、うん。別に出歩いても痴女って思われるだけで問題ないと思うよ?」
ド直球である。アルフレッドは思わず死ねと言いたくなるのを抑えて、
「……無理だ。人前にこんな姿で出られるか!それに痴女だなんて思われたら私が社会的に死ぬ!」
シルヴィアにそう告げた。
「えー…、じゃあサナちゃん呼んで助けてもらう?」
「アホか!サナは男だろう!男にこんな姿を見せられるか!」
アルフレッドがシルヴィアをそう怒鳴りつけると、シルヴィアはポカンとした顔を浮かべて、
「……….え?サナちゃんは女だよ?」
アルフレッドにそう告げた。
「…………え?」
「気づいてるのは多分私だけだね。あやちゃんも気づいてないっぽいし」
「え、いや…、このゲームネカマとかネナベ出来ないはずだろう?」
「だね。だから私はサナちゃんが運営の人なんだろうなーって気づいたんだー」
「…どうやって女だって気づいたんだ?」
「うーん……、直感!」
その言葉に、アルフレッドは訝しむような視線をシルヴィアに向ける。
しかしすぐにそれを引っ込め、そういえば…。とアルフレッドは顎に手を当てて
「そういえばシルヴィアの勘はよく当たるとあやが言ってたな。よし、信じよう」
と言った。するとシルヴィアは苦笑いを浮かべた。
「ほんとにアルちゃんってあやちゃんにゾッコンだよねー」
「……そうか?」
そういえば、と何かを思い出したかのようにアルフレッドがシルヴィアに聞いた。
「お前翼を持っているみたいだが…、飛べないのか?」
「うん。なぜか飛べない」
シルヴィアはそう答えた。
「あ、翼には触らないでね」
「ふむ?」
「意外と敏感だから」
「ほほう」
「したらアルちゃんでもハラスメントコールするからね」
「残念だ」
シルヴィアは確信した。あ、アルちゃんって残念なお姉さんだ、と。
「さて、どうしよっか」
「うむ、とりあえずこのデメリットバフが切れるまでここで待っておくとしよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リス地点に転移した私がまず目にしたのは、プレイヤーの人混みでした。耳をずして聞いてみると、なにやら運営が告知を行うらしいとのことです。
あ、くふさんみっけ。
私は人混みをかき分けて、そぉーっとくふさんに近づいていきます。
そして、
「わっ」
とくふさんの耳に息を吹きかけました。
「うひゃぅっ?!な、なんですかっ!あ、あやさんでしたか…」
くふさんは顔を真っ赤にして、キッと私を睨みつけてきました。
……可愛いですね…。あ、いえ。そういうのではなく頭撫でたいなー的なあれです。
「運営からの告知と聞きましたが、やはり先ほどの件ですかね?」
「多分そうですね…。まさかフィールドボスの配置をミスるなんて普通ありえま––––」
『どうもこんにちは。いえ、こんばんはでしょうか?皆さんお集まりいただきありがとうございます』
突然空を覆い尽くしていた雲が真っ二つに裂かれ、そこから男性が現れました。しかし驚いたのはほんの数人のようで、大半の人が白けた様子でその男性を見つめています。
『……あれ?なんか白けてるね…。雲を割って空から現れるのってカッコ良くない?』
『格好よくないですよ。格好よく見せたいのならそれらしい服を着てきてください』
その男性の横に、秘書風な格好をした女性が現れました。
そう、その男性の姿は『厚揚げ』と描かれたジャージに、短めのジーパンのズボンという、なんともまあしまらない格好なのです。
『まあいいや。––––では気を取り直して、プレイヤーのみなさーん、こーんにーちは〜!』
男性はまるでおか○さんと一緒風に、そう言ってきました。
すると先ほどとは違い、大半のプレイヤーが、ほおを引攣らせてその男性を見つめています。
『……はあ。本田さんはお帰りください』
『え、ちょっ––––』
女性の方が指をパチンと鳴らすと、男性の姿が一瞬にして消え去りました。
『––––さて、煩い人もいなくなりましたし、まずは自己紹介から––––』
先ほどの男性––––本田さんという人と違って真面目な人みたいですね。
『私の名前は有栖川麗奈と申します。どうぞお見知り置きを』
そう言うと、有栖川さんは空中からプレイヤーたちのちょうど中心にある台のようなところに降りてきました。
『まずは、【始まりの平原】のボスについての修正とお詫びです』
有栖川さんがそう言うと、プレイヤーさんたちがいきなりオオオオオオーーー!!と叫び出しました。
…うるさいですね。
『お気付きの方もいらっしゃると思いますが、本来ならば【始まりの平原】のフィールドボスは《グラスウルフ》という狼型のボスモンスターだったはずなのです。しかしながらゲーム開発本部の馬鹿なとある人物がボスが雑魚すぎてつまらないと言い出して許可なしにボスを変えやがりまして…』
有栖川さん、素の口調らしきものが漏れてますよー。
『変更されて配属されたボスは【スライム王】というモンスターで、現状では普通ならば絶対に勝てなかったはずのモンスターです』
………勝っちゃいましたけど、つまり私たちは普通ではないということですか。
『まあ、倒されたみたいなのですが…』
するとプレイヤーたちが一斉に私とくふさんの方に視線を向けてきました。
……名前が出たのはsilviaさんだけのはずですが……、もしかしてバレてますかね?
『さすがはベータテスターと言ったところでしょうか。––––前置きはこれくらいにしましょうか。我々は【始まりの平原】のボスを【グラスウルフ】に修正しました。おそらくこれで簡単に倒せるようになると思います』
ウオオオオオ!!!プレイヤーたちの咆哮が、この広間一斉に響きます。
ふむ、あれより弱くなるということは…、ソロ討伐可能ですね。今度行ってみましょうか。
『それについてのお詫びですが、全プレイヤーを対象に、次回のアプデで追加される、『武具・防具ガチャ』の10連無料券がポストに投函されます』
……なんかここまで聞いてみると運営がプレイヤーにそのチケットとやらを与えるために仕組んだものに見えてくるのですが…、気のせいですかね。
するとこの広間に集まったうちの1人のプレイヤーが、有栖川さんにこんな質問をしました。
「つまり、次回のアプデで『課金ガチャ』が追加されるということでしょうか?」
『その通りです。詳しくは後のアプデについてのお知らせに記載しますが、『課金ガチャ』『チケットガチャ』『特殊ガチャ』が追加される予定です』
ウオオオオオオオオオオオーーー!!
プレイヤーさんたちの咆哮が、またこの広間に響き渡りました。
割とマジで耳が割れそうなんですが…。うーむ……、やはりこういうノリにはついていけませんね。
くふさんも私と同じらしく、耳を押さえて目を回しています。
『さて、最後にですが––––【始まりの平原】のフィールドボスが倒されたので、運営主催のイベントが催されることが決定されましたぁぁぁぁぁぁ!!!』
ウオオオオオオオオオオオオオオアアアアアア!!!!!!!
おおー!イベントですか!それはとても楽しみですね!
というかプレイヤーさんたちよくこんな大きな声出せますね…、この世界の住人さんたちに迷惑では……、あれ、なんか固まってますね。時間でも止められているのでしょうか?
『詳細は後に《お知らせ》でお知らせします!』
そう言うと、有栖川さんは「ではまたどこかでお会いしましょう〜」と言ってこの場から消え去りました。
「イベント」が開催されると聞いてプレイヤーさんたちは興奮が抑えられないのか、叫んだり奇声を上げている人たちが沢山います。
「……あやさん、ちょっと声と視線がウザいので他の場所に行きましょう?」
くふさんが耳を押さえながら苦しそうな顔でそう言いました。
そういえばくふさんのメイド服って、どこで手に入れたんでしょうか?
「わかりました。…そうですね、【世界樹】のところに行きましょうか。あそこ目立つはずなのに人が全然来ないんですよね」
私は敵意をむき出しにしてこちらを見つめてくる人の魔力を覚えて、くふさんとともにその場を後にしました。
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