少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

10話

10話






「うーん…、そこらへんにいる人に聞けばわかりますかね…?」


 私はベンチから立ち上がり、通行人を見張っているかのように見える、兵士さんに声をかけました。
 私が声をかけると、その人は驚いたような顔をして目を見開きました。
 …そんなに驚かれるようなことしました?私。


「…どうかしましたか?」
「いえ、道をお聞きしたくて…」


 私がそう告げると、兵士さんは「なんだ…」と呟いて、安堵の表情を浮かべました。


「ああ、それならこの大通りをまっすぐ進めばわかるよ。あんなにも目立つ建物はあれくらいしかないしね」
「…ありがとうございます。お仕事、お疲れ様です」


 私は兵士さんの言われた通りに、大通りをまっすぐと進むことにしました。


 それにしても、この都市は夜なのにも関わらず、喧騒さが損なわれていませんね…。
 普通に子供も出歩いていますし…、あ、子供じゃなくて【小人族】の可能性もありますね。


 私があれこれ考えているうちに、たくさんのプレイヤーが喋り合ったりふざけ合ったりして、屯っている場所に到着しました。
 私は顔を上げて、建物を確認しま–––––


「……うわぁ」


 思わずそう呟いてしまうほど、その建物は凄いものでした。
 まず、外壁の塗装は全て金色一色。街灯や月の光を反射しているからか、常にキラキラと輝いています。高さは他の建物よりも一回りほど大きくて、外装と際立って目立っています。
 プレイヤーさんたちが屯っているその前には、少し大きな…身長180cmの男性が二人同時に入れるくらいの扉がありました。その横には、この世界の文字で【冒険者ギルド】とかかれていました。
 中に入る用事はないので、とりあえずスルーです。
 【大熊の酒場】は、たしかその横にあるんでしたよね…。


 もしかして、あそこですかね?


 私は大きくも小さくもない、どこにでもにありそうな外装をした家––––店に目を向けました。
 私は人ごみをかき分けて、そこに向かおうとします。
 私がプレイヤーさんたちの輪を通り抜けようとすると、なぜかその店への通り道にいたプレイヤーさんたちは、面白いように避けてくれました。
 楽なので構いませんが、なんだか不気味ですね…。


 私はガチャリと扉を開けました。するとからーん、カラーンというベルの鳴る音と、「いらっしゃーい」という野太い男性の声が聞こえてきました。
 酒場と聞いていましたが、カウンターテーブル以外に人が食事をするような机はなく、代わりに宿のように個室に続くであろう部屋がたくさんありました。


 カウンターテーブルにいるのは一人の男性。とても大柄で、顔はいかつい。とても筋肉質で、私なんて簡単にへし折られてしまいそうです。


 おそらくこの店は個室制なのでしょうか。酒場にしては珍しいですが。


「大熊の酒場にようこそ!お客様は何名さまでしょうか」


 カウンターテーブルにいるおじさんがそう声をかけてきました。
 見たらわかるでしょう、と言いたいところですが形式的に言わないといけないんですよね。


「ここで『silvia』という名前で部屋を取っている一行はいらっしゃいませんか?」
「ああ、お連れさまですね。ご案内します」


 おじさんはそういうと、silviaさんたちがいるであろう部屋へと歩き出しました。
 私はそれについていきます。


 silviaさんたちのいる部屋は二階にあるのか、おじさんと私は階段を登っていきます。


「……?おじさん、この絵は……?」


 階段を登りきったその正面に、一枚の絵画が飾られていました。
 その絵は、頭には大きなツノを生やしていて体毛は真っ黒、まるで羊のような生き物、体毛は真っ白で、尾が9本ある狐––––おそらく九尾の狐––––、まるで山を背負っているかのような亀、赤色の大きな鳥––––これは鳳凰でしょうか––––、頭に二本のツノを生やして、背毛は五色ほどある、鹿のような生き物、鷹のような翼を生やした竜みたいな生き物、体毛は白く、胴体の両側に三つずつ、顔に三つの目を持った、まるで獅子のような生き物、そしてその中心に一人の人間が描かれています。
 その生き物たちは、まるでその人間を護るかのように、その人間の周りを囲っているように見えます。


「俺はおじさんではない。シャードという名前がある––––それは、『瑞獣』さまたちの絵です。かつて神々とともに、この世界の安寧を守っていたと伝えられています。」


 おじさん––––シャードさんは、歩きながら私の疑問に答えてくれました。


「瑞獣、ですか…」


 そこからは無言で、部屋まで歩き続けました。


「––––ここの部屋です。では、どうぞごゆっくり…」


 シャードさんはそう私に告げると、きた道を戻っていきました。


 …209号室ですか。扉の横には、silviaさま御一行と書かれています。私は扉をノックします。


「入りますよ」


 私はそう告げて、中に入りました。中は和室のようになっていて、そのやや中央には6人くらいが同時にご飯を食べられるほどのローテーブルが置かれています。
 そしてそれを囲うように、六つのお座敷が置かれています。
 そこには、全員私の知り合いで、silviaさん、サナ-蛹-さん、アルフレッドさん、くふさんの、計4名がいました。
silviaさんは、髪の毛は赤色、瞳も赤色です。天使族か、それに似た種族なのか背のあたりから真っ赤な一対の翼を生やしています。
 他の皆さんは前と同じです。


 私が部屋に入ると、皆さんはこちらを向いて軽く手を振ってきました。


「Ayaちゃん、久しぶりー」
「silviaさん、お久しぶりです」


 私は空いているニ席のうちの一席に座りました。するとサナさんがフードを脱いで、話し始めました。


「––––さて、Ayaさんも来ましたので早速本題に入りましょうか」


 本題…、フィールドボスの話でしょうか。


「Ayaさんもくふさんから聞いていると思いますが、今回僕たちのパーティーが狩るのは、【始まりの平原】のフィールドボス、《滅茶苦茶やばいスライム》です」
「なんですかその適当な名前」
「鑑定が効かないらしいので適当に命名しました」


 ネーミングセンスが壊滅的ですね。


「まずその能力ですが、【物理無効】【魔法ダメージ軽減】【装備破壊】などを有している可能性があります」
「うん、まあ初心者向けのボスじゃないよね」


 silviaさんに同意です。なんでそんなボスが【初心者・・・の平原】に配置されているんですか!


「まあ、それを倒せて初心者卒業ということでしょうね。––––攻撃方法は単純で、《突進》《溶解液》《水の球》などがあります」
「…聞いただけなら簡単に倒すことが出来そうですが…、難しいんですか?」
「ええ、まず【魔法ダメージ軽減】を上回ることの出来る魔法使いが全然いないんですよ」
「ちなみに私は槍使いね」
「私は両手剣使いだ」
「私は弓兼妖術使いです」
「僕は弓使いですよ」


 ……物理ばっかじゃないですか!


「…物理まみれですね」
「ふふーん。いやあ、大抵のゲームってさ、物理のゴリ押しでなんとかなったからさ、これもそうなのかと思ってね」
「……脳筋(ボソッ)」


 くふさんがそう呟いたのを私は見逃しませんでした。まあべつにどうでもいいんですが。


「私は【回復術師】です。ついでに魔法も使えますよ」


 期待を込めた視線を送ってくる四人に対し、私はそう答えました。
 するとsilviaさんはふふんと鼻を鳴らして


「ほらー!私の言った通りだったでしょ?私の勘は当たるのですよ」


 とビシッとサナさんを指で指して言いました。


「…その通りのようですね。すみませんでした(棒)」
「棒読みとかわろた」


 わろたって…。silviaさん…、ネット用語を現実で…、あ、これゲーム内ですね。


「––––話を戻しますが、【回復術師】を続けているということは、【回復魔法】を使えるという解釈でよろしいですか?」
「ええ、勿論使えます。回復については全て任せてください」


 【リジェネ】に【範囲回復】があればもう最強ですよ。…語彙力がないですね。


「…ふむ、それならいけますね。とりあえずフォーメーションは、アルさんが壁、くふさん、silviaさん、そして僕は攻撃役、Ayaさんは回復兼、暇があれば魔アタ役で」
「……物理攻撃は通じないのでは?」
「いえ、高難易度なのですが、実は物理攻撃をしながら魔法攻撃を行うと、魔法スキルにだったら【火纏】や【水纏】という物理攻撃を魔法攻撃に変えられる魔法が派生するんですよ」


 ……そうなのでしたら余裕で攻略可能では?
 私が訝しむような瞳でサナさんを見つめていると、


「…当然ながら、威力は低いんですよ。僕の通常物理ダメージを500、そして僕の【火魔法】の【火の球】で与えられる魔法ダメージを100と仮定しましょうか。その場合、【火纏】を使うとですね、物理ダメージ÷2+魔法ダメージ÷2、計300ダメージ、【魔法ダメージ】よりは多いのですが、それだけしか与えられないんですよ」
「…なるほど。INTにステポを振っていない物理のかたでは魔法ダメージは低いので、大したダメージにはならないんですね。」
「そういうことです。そこに奴の【魔法ダメージ軽減】が加わると、1ダメージしか与えられなくなるんですよ」
「……そしたら【滅茶苦茶やばいスライム】にまともなダメージを与えられるのはINTにステポを振っている私だけになってしまうのですが」


 流石にそれはきつい…、多分きついですよ。


「今言ったのは、通常攻撃の場合です。僕たちには【スキル】や【アーツ】があるでしょう?そうすれば、おそらくまともなダメージを与えられると思います。…Ayaさんの【魔法】には劣るかもしれませんが」
「…なるほど」


 それに、そう言ってサナさんはくふさんに目を向けました。


「くふさんは【妖術】という【火纏】とは違いマイナスの無しで【物理攻撃】なのですが、【魔法ダメージ】を与えることのできるいわば【物理兼魔法スキル】を持っているんですよ」


 …ああ、あのとき使っていた【魔力】を使わない【魔法モドキ】のことですね。


「つまり、くふさんの【妖術】と僕たちの【属性纏系統魔法】、アルさんのやばい【壁】、そしてAyaさんの【魔法】や【支援】があれば、あの【滅茶苦茶やばいスライム】に勝てるということなんですよ!」
「おい、やばい壁とはなんだ、やばい壁とは」
「そんなうまくいきますかねぇ」


 アルさん、ごめんなさい。否定できません。


「くふちん、弱気になったらダメ。サナさんがこう言ってるし、私の勘も絶対勝てるって言ってるから!」
「…ま、頑張りますよ」


 ……なんかくふさんの雰囲気が変わったような気がするのですが、気のせいでしょうか。他の皆さんは気にしていないみたいですし、気のせいでしょう。


「––––フィールドボスを狩るのは、現実時間の明日、午後一時からでよろしいでしょうか?」
「わかりました」
「もっちろーん。そのために有給取ったしね!」
「私も特に異論はありません」
「私も大丈夫だ」
「––––いつものメンツですし、練習は不要ですね。ではまた明日、解散としましょう」


 サナさんはそう締めくくると、座敷から立ち上がりました。しかし、サナさん以外の人は立ち上がらずに、机に置いてあったメニューを開いて、さまざまな料理を見ています。
 私も、皆さんと同じようにメニューを見ます。
サナさんはそれに気づかずに、扉を開けようとして––––


「お客様、ご注文はお決まりになりましたでしょうか?」


 凄い顔––––例えるならば、般若のような顔をしたおっさん、ではなくシャードさんが、扉の前に突っ立っていました。


 ピタリと、サナさんの動きが静止しました。そしてニッコリと笑みを浮かべると


「ええ。今から頼もうとしていたところなんですよ」


 そうシャードさんに告げました。


「ぶふっ」
「くっ、くくく」
「ふ、ふふふ」


 笑いを堪えきれなかったのか、silviaさんとアルさんとくふさんが口を押さえて噴き出していました。


 私ですか?もちろん、笑っていませんよ?


 チラリとサナさんを見ると、額に青筋を浮かべて頰をヒクヒクとさせていました。


 うまく誤魔化し終えたのか、サナさんがこちらに戻ってきて、座敷に座りました。


「あっはっは!サナさん、ここご飯食べる所なのにご飯食べずに帰ろうとしたの?ぶ、あはひははは!!」
「…っ、……っ!っっ!……っっ!!」
「ふ、ふひっ、ふ……っ!」


 silviaさんはサナさんを指差して馬鹿にするように笑い、アルさんは声にならない声を上げて、目に涙を溜めて大爆笑しています。
 くふさんは必死に声を抑えようとしているのか、口に手を当てて静かに大爆笑しています。
 それを見たサナさんは無表情になって


「…皆さん、あとで覚えておきなさい」


 と私たちに告げてきました。
 ……いや、私笑ってませんよ?!誤解です!
 私がそういう感情を込めてサナさんを見つめると、ニッコリとした笑みを返されました。
 …ふむ、きっと許してくれたということでしょうね。誤解が解けてよかったです。


 ちなみにですがアルフレッドさんは未だに爆笑していて、くふさんとsilviaさんはびくん、びくんと、お腹を押さえて痙攣しています。


「……はあ。Ayaさん、とりあえずこの人たちは置いておいて、頼むもの決めて頼んじゃいましょう」
「…わかりました」


 silviaさんたちの笑いが収まったのは、それから10分くらい後のことでした。





















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