少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

3話

3話






 というわけで私は【第1都市】に戻ってきました。
 帰り道で考えたのですが、知り合いの前でなら【回復魔法】を使ってもいいのではないか?という結論に至りました。


 ですので私は知り合いを探すことにしました。
 まだほかの都市が解放された、というワールドアナウンスは流れていませんし、この都市にいるはずなんですよね。


 私はまずは大通りを歩いて、知り合いを探してみることにしました。


 大通りには食べ物や飲み物の露店がたくさん並んでいて、ときどきプレイヤーが営業している露店も見かけました。


 しかし、プレイヤーが作っている料理よりも、この世界の住人が作った料理の方が美味しそうに見えるのはなぜでしょうか…。
 やっぱり、レベルの差なんですかね…?


 どこからか、美味しそうな匂いがしてきました。これは…、焼き鳥のタレの香ばしい匂い…、ですね。


 獣人族型種族の性なのか、鼻がすんすんと、匂いにつられてなってしまいます。


 ふらりと、匂いのする方向にどんどんと足が向いてしまいます。


 そんな私の様子を、大通りにいたたくさんのプレイヤーさんたちや、この世界の住人さんたちが見つめていることに、私は気づけませんでした。




「……いい匂い……♪」


 私はいつのまにか路地裏にある、一つの小さな屋台の前にいました。


 どうやら、あの美味しそうな匂いの発生源は、ここのようです。


 しかし屋台にはどこにも人がおらず、ただ美味しそうな焼き鳥が、いくつかセットになって置かれているだけでした。
 値段の表示はどこにもなく、まるでお預けを食らっているみたいです。


 私は焼き鳥をじっと見つめます。




 【美味しそうな焼き鳥】…品質が最高ランクの焼き鳥。【料理王ガゼル】の弟子である【kufurinn】が作ったもの。




「くふさぁぁぁぁん!!!どこですかぁぁぁぁ!!」


 私は思いっきりお腹の底から叫びます。


 kufurinnさん––––くふさんは、私が前の前にやっていたVRゲーム【遊戯世界ロキのイタズラ】からの知り合いで、何度か一緒に遊んだことのある一応信用できる方です。
 ……少し、性格にアレなところがあるのですが。


「……お呼びですか?あやさん」


 突然私の目の前に、メイド服を着た、黒い毛の色をした女性の狐の獣人さんが現れました。
 ネームタグには、kufurinnと、表示されていました。


「くふさん、この焼き鳥、いくらですか?!」


 私はくふさんに掴みかかってしまいました。
 私の尻尾が、ピーンと立ってしまっているのが、自分でもわかりました。
 私につかみかかられたらくふさんは、ふふ、と軽く笑って、


「ああこれ、売りものじゃないんですよね」


 何をあろうことか、瞳に悦の感情を浮かべさせながら、そう言ってきたのです。
 そして私の拘束を払いのけて、焼き鳥をまるで私に見せつけるかのように、食べ始めたのです。


「っ! ……!」


 私は目で彼女に訴えます。
 先ほどから何故か、よだれが止まりません。…そもそもなぜ、食についてあんまり興味のない私がこんな状態になっているんでしょうか。
 …もしかして、くふさんがなにか焼き鳥に細工を……?


「…くふさん、その焼き鳥になにかしました…?!」


「ふふふふ、いい表情かおしてるじゃないですか…!–––ええ、実はお師匠さまに【羊人系統族】にのみ嗅ぎとることのできる、秘伝のたれとやらを頂きまして…!」


 この確信犯……!性根腐ってやがりますね、この人!


「……!このドS……!」


「ふふ、ドSで結構です。––––ところであやさん、【回復魔法】って知ってますか?」


「……知って、ます」


 あ、あああああ。やばいです、理性が吹き飛びそう…。


「あやさんは【回復魔法】を使えますか?」


「……使え、ます…!」


 あ、ああああああああ!も、もう無理……、もがっ?!


「はむ、はむはむはむはむ、ごくん」


 私は口に入れられたものを急いで噛んで、飲み込みました。


「お、美味しいぃ……!」


 まるで口の中で焼き鳥が溶けてしまったような、そんな感触。味は、美味しい、そう表現するしかないほどの美味しさ。


 吹き飛びかけていた理性が、一瞬にして戻りました。


「ふむ、あやさんは【回復魔法】が使えるのですか…」


 ……なぜそのことを知っているのでしょう。まさか、私なにか口走っちゃいましたか?


「……くふさん、そのことは広めないでくださいよ?一応、あなたのことを信用して言ったんですからね?」


 そういうことにしておきましょう。ええ、はい。


「……信用………仕方ないですね。このことは誰にも言いません」


 ふう、よかったです…。もしくふさんが【回復魔法】を広めてしまったら…、あのソニアさんのことです、絶対に殺しに向かいますよね…。


「…くふさん、なんで【回復魔法】が使えるかどうかを、私に聞いたんですか?」


「……実は、今度シルヴィアさんたちと【始まりの平原】のフィールドボスの討伐に行くことが決まりまして」


 【始まりの平原】のフィールドボスですか。それは…、気になりますね。


「パーティメンバーはどなたですか?」


「いつもの面子ですよ。支援役が一枠だけ空いていまして、シルヴィアさんが、『あやちゃんならきっと【回復魔法】を使える!』と言い出しまして…。まあ、その通りだったみたいですがね」


 あの人、勘が鋭いですからね。


「…私を誘いにきた、というわけですね?」


「ええ。その通りです」


 ……いいことを思いつきました。


「わかりました、私も参加させて下さい––––と言いたいところですが、ひとつ条件があります」


「…条件ですか?無理難題は––––」


「いえ、【回復魔法】のレベル上げを手伝って欲しいのです」


 私は込み上げてくる笑いを、必死に抑えながら、くふさんにそう言いました。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「……【始まりの平原】の奥地ですか」


 くふさんはそう言って、困惑気味の表情でこちらを見つめてきます。
 こんな雑魚しかいない場所で、どう【回復魔法】の練習をするのか、そう言いたいんでしょうね。


「ええ。––––くふさん、本当に、【回復魔法】のレベル上げを手伝ってくれるんですよね?」


「………?ええ。手伝いますよ」


 ふふ、では始めましょうか。


「【空間固定:対象:kufurinnさん】」


 私はそう唱えます。


「……?え、なぜ私を動けな–––」


 私は腰に差してあった【紅桜】を抜いて、剣先をくふさんの左腕に向けます。


「では、お願いしますね?」


 私は笑顔でくふさんにそう告げます。


「ひっ?!え、ちょ、ま」


「大丈夫です、くふさんのことです。痛覚は全遮断しているでしょう?」


「そ、そういう問題じゃ……!」


「【回復魔法】のレベル上げを手伝ってくれるんでしょう?」


「う、うぅぅぅぅぅ!!」


 キッと、くふさんはこちらを睨みつけてきます。睨みつけるだけで、罵倒してこないということは…、おーけーということですよね。


 私は【紅桜】を振り下ろしました。


 くふさんの、左腕が宙を飛びました。ぼてっという音を立てて、左腕が地に落ちます。
 地に落ちたくふさんの左腕は、ビクンビクンと痙攣してから、ポリゴンと化して消滅しました。


「さて、始めましょうか」


 私は腕の切断面に、ひたすら【回復ヒール】を掛け続けます。


 当然、【回復ヒール】ごときでは【部位欠損】は治せません。しかし––––


《【回復魔法】のレベルが1→2に上昇しました。【魔力操作】のレベルが7→8に上昇しました。【空間魔法】のレベルが1→2に上昇しました》


 効率が、滅茶苦茶いいのです。なにやらくふさんが怯えた顔をしているのが気になりますが、まあ大丈夫でしょう。プレイヤーは、生き返ることができますしね。








 20分ほどが経過しました。


《【回復魔法】のレベルが2→12に上昇しました。【魔力操作】のレベルが8→15に上昇しました。【空間魔法】が2→12に上昇しました》


《【職業レベル】が1→5に上昇しました》


《【回復魔法】がレベル5に到達したことにより、【回復ヒール:強】を獲得しました。【回復魔法】がレベル10に到達したことにより、【回復ヒール:超】を獲得しました》


《【空間魔法】がレベル10に到達したことにより、【探知】を獲得しました》


《––––》


 魔力をおおよそ100まで使いきりましたが、結果は上々です。
 くふさんは始めはビクビクと怯えていましたが、10分ほど経過すると慣れたのか、ふつうに話しかけてくるようになりました。


「…くふさん、魔力がつきたので一旦休憩しましょうか」


 私は【空間固定】を一旦解除します。
 くふさんは「魔力がつきた」のあたりまではホッとした表情を浮かべていましたが、「一旦」という単語を聞いた瞬間、顔を青くさせました。


「……お、終わりではないんですか?」


 なにを馬鹿なことをおっしゃっているのでしょうか?


「当たり前でしょう?まだまだ続けますよ。あ、報酬はちゃんと払いますよ」


「そういう問題じゃないですぅぅぅぅ!!!」


 私は逃げ出そうとしたくふさんを、再び【空間固定】で縛り付けます。


「それに、くふさんの【部位欠損】を治さないといけないでしょう?」


「……え、えっと……。はい、そうですね…」


 自分の左腕の現状を思い出したのか、すっかり大人しくなりました。


「では、早速再開しましょうか」


「……?!もう回復したのですか?流石に、早すぎますよ…?!」


「実は、先ほどスキルのレベルが上がったことによって、とっても素敵な効果をもつマジックアーツを手に入れたんですよね」


 私は顔を引攣らせる彼女にそう笑いかけます。




《【回復魔法】のレベルが10に到達したことにより、【慈悲者ザドキエル】のレベルが1→2に上昇しました。これにより、マジックアーツ【HP変換】が解放されました》




 【HP変換】…最大HPの十分の一を消費して、MPを回復させる。(消費したHP×10)


 【回復ヒール:強】…消費MP200。HPを100回復させる。


 【回復ヒール:超】…消費MP400。HPを200回復させる。


 【探知】…最大MP×1mの範囲の全てを知覚することができる。(制限可)















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