少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

11話 約束

11話 約束






 私はチュートリアルが終わった後、現実の時間を確認すると既に6時をまわっていた。


 なので私は、夕食を食べるために、ログアウトをすることにした。


 ログアウトは、大通りのあたりでしましょうか。


「ではソニアさん、なるべく早く【聖女】になれるように頑張ります。待っていてくださいね?」


「ああ、いくらでも待つさ。ただし絶対に–––帰ってきてくれよ?」


「……?ええ。絶対に、戻ってきますよ。【聖女】になって。では–––」


 私はソニアさんにそう告げて、教会を後にした。


《条件を達成しました。《スペシャルジョブクエスト》【聖女への道】を開始します》


 私を見送ったソニアさんは、なぜあんなにも悲しそうな顔をしていたのだろうか。


 もしかして、過去になにかあったのでしょうか?


 …まあ、あったとしても今の私にはなにも出来ないでしょうね…。


 だって私は、ソニアさんのことを全然知らないから。


 私はカリス大佐さんに案内してもらったときに覚えた教会から大通りに向かう道を歩きながら、そう思い耽っていた。




 ドンッ!




「ふあっ?!」


 私は何かにぶつかり、地面にしりもちをついてしまった。
 いけない、考えることに夢中でしっかりと前を確認していませんでした…。


 私は恐る恐る顔を上げて、ぶつかったものに目を向ける。


 そこには…


「あ"あ"?んだよてめえは!」


 頭をスキンヘッドにして、世紀末風の格好をした、曲型的なチンピラさんがいました。


 「俺様最強」というネームタグがついているのでプレイヤーとわかりますが、随分と荒れている人ですね。
 もしかして格好と口調はロールプレイでしょうか?


「…すみません、前をあまり見ておらず、ぶつかってしまいました」


 とりあえず私は、ぺこりと頭を下げた。
 しかし、なぜか返答が返ってこない。


 私は顔を上げて、チンピラさんを見つめた。


 なぜか、チンピラさんは口をぽかんと開けて、頰を赤らめこちらを見つめていました。


「えっと……?どうしました?」


 私はチンピラさんに声をかける。


 すると、チンピラさんは我に返ったのか「あ、あぁ」と言ってニヤリと笑いました。
 そしてまるで私の体を舐め回すかのような下卑た視線を私に送ってきました。


 ………あぁ、この人、ロールプレイでチンピラをやっているのではなくて、本当にどうしようもないおかしな人なんですね。


 現実でも、何度も向けられた視線ですので、まあ顔には出しませんが…、慣れませんね、気持ち悪すぎて。


 どうしましょう、教会に戻るにしても距離がありますし……。


 街での戦闘はたしか……、可能でしたっけ。


 私はチンピラにバレないように、左手を背に隠して、【氷魔法】を発動させてみる。


 魔力の減った感触があった。どうやら発動出来るようだ。


 けれど–––私はこのゲームの【都市】での禁止事項を思い出す。


 たしか、戦闘は出来るが、それを行なった場合、警邏隊が来るんでしたっけ…。


 しかし、この状況…、そして場所。いくら警邏隊が有能だったとしても来られませんよね…。




「そうだなあ、許して欲しけりゃ誠意を見せてみろよ。誠意、をな」




 本当に救いようのない人ですね。




「誠意、ですか?」




 そして私は、目の前のチンピラに向かって【氷魔法】を放とうとして–––。




「お嬢さん、警邏隊以外が【都市】での戦闘を行うのはご法度ですよ」




 突然チンピラの真後ろに、剣を手に持ち、外套を身につけ、腰に小型の鳥籠のようなものを携帯し、顔に仮面を付けた謎の人物が現れ、チンピラの首をポーンと跳ね飛ばした。


 うわ……、グロ設定しないとこんなエグいことになるんですね……。


 私は首が落ちて鮮血に染まるチンピラを、ただ無感情に見つめていた。


 そして一瞬光ったかと思うと、チンピラはその身から出た血液とともに、ポリゴンと化して、チンピラの首を刎ねた人の持つ、小型の鳥かごのようなものに吸い込まれていった。


「こちら警邏隊、婦女に暴行を加えようとした【旅人】を確保」


 仮面をつけた謎の人物は、トランシーバーのようなもので、誰かと連絡を取っていた。


 私は【氷魔法】の【氷の球アイスボール】を【魔力操作】を使って消滅させた。


 ……それにしても、この人の声…、どっかで聞いたような……。


「–––さて、お嬢さん。大丈夫でしたか?」


「え、ええ。とくになにもされていませんし…」


 あ…、もしかしてこの人


「えっと、もしかして伍長さん、いえ、カリス大佐さんですか?」


 私がそう仮面の人物に告げると、仮面の人物ははぁ、とため息を吐き、


「そういうのは気づいても言わないのが通ってものでしょう?」


 そう言ってから、仮面を外した。
 そこから出てきたのは、金色の髪、金色の瞳をした、誰が見ても良い印象を抱きそうな、好青年だった。


「……あれ。なんか昼間と髪と瞳の色が違いません?」


「…私の種族の特性です。詳細は話しませんが、まあ、そんなことはどうでもいいでしょう」


 そう言ってカリスさんは、鋭い視線と、鋭い剣先を私に向けてきた。


 ちょっと待ってください。それ、警邏隊としてやっても大丈夫なんですかっ?!


「どこで、私の身分と名前を知ったのかな?この都市ではそのようなヘマをした覚えはないのだが……」


 ごめんなさい、ウィスパーボイス神の声で知りました。
 なんて言ってもこの世界の住人からすればただの狂言でしかないでしょうし…。


「えっと……、ソフィアさんが教えてくれました」


 とりあえずそう答えることにした。ソフィアさんは【大賢者】ですし、知っていてもおかしくありません。


 私がそういうと、カリスさんは


「……あー、あのサイコ大賢者か…。それなら仕方ないな…」


 またため息を吐いて、そう呟いた。そしてカリスさんは私から視線を外し、私に向けていた剣先をゆっくりと下ろした。


「すまないね。私の勘違いだったようだ」


 カリスさんはそう言って、腰に差していた短剣を、なぜかこちらに寄越してきた。


「……これは…?」


「それは剣を向けた詫びだ。銘を【紅桜】という」


「……え。ただ剣先を向けられただけなのにこんな凄そうなもの受け取れませんよ!」


 私はそう言って、短剣を彼に手渡そうとした。
 しかし彼は、私の頰をチラチラと見ながら


「いや、頼む。受け取ってくれ。私はまだ死にたくないのでな」


 と言ってきた。
 …私の頰になにかついてるんでしょうか?


 …ここまで言われて貰わないのは失礼になりますかね…。


「…わかりました。ありがたく頂戴します」


「ああ、そうしてくれ。–––この道を真っ直ぐに進めば大通りに出られる。では、私はこれで」


 カリスさんはそう私に告げて、まるではじめから居なかったかのように、消えてしまった。


「…行きましょうか」


 私は言われた通りに真っ直ぐ進み、何事もなく大通りに出られた。


 なぜか多くのプレイヤーさんが私の姿を見て、驚きの声を上げて居たが、私は気にせずログアウトをした。























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