少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

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 ホワイトアウトした視界は、だんだんと色を取り戻し、素晴らしい情景を私に伝えてくれました。


「……すごい。これが、最先端VRゲーム会社の技術……!」


 まるで現実のように、空を漂う雲。その隙間隙間を見つけ、時々此方を照りつけてくる日差し。
 季節は春なのだろうか。心地よいそよ風が、私の頰をかすめる。


 目を少し細めて遠くの方を見ると、一本の巨大なサクラの木が見える。
 まだ花を咲かせたばかりなのか、満開には程遠いが、とても幻想的な姿を見せている。


 まるで子供のようにキョロキョロとあたりを見回していると、NPCさん方から、生暖かい視線が送られてきた。


 流石に恥ずかしくなってきたので、私は高揚する気分を抑えて


「ふぅ。いつまでも見惚れているわけにもいきませんね」


 そう呟いた。
 とりあえずリス地点にずっといては邪魔ですし、恥ずかしいですし、誰もいなさそうな、この都市一帯を見渡せる場所に行ってみましょうか。まだ、この情景を見ていたいので。


「……あのサクラのあたり…。この都市を見渡すのにちょうど良さそうです…」


 私はあの大きなサクラの木を目指して歩き出した。この都市の全体像を知るために。


 …先ほどから私を指差して驚いている方々は一体なんなんでしょう。失礼ですね。






「近くで見るとより圧巻的ですね……」


 私はサクラの木–––世界樹に、座り込んだ状態で触れながらそう呟いた。
 なんとこの木、鑑定を掛けてみたら《世**・春**》だったのだ。
 単語の文字数的におそらくだが、《世界樹・春の姿》とかそこらへんだと思う。


 現在このサクラは、満開に咲き誇っている。


 風に吹かれるたびにサクラの花びらは揺れ動いたり、宙をまったりと、今までにみたことのない素晴らしい姿を見せてくれている。


 実はこのサクラの木、私が触れた瞬間、体を倦怠感が襲い、私が地面に座り込んだと思ったら、一瞬で満開になったのだ。


〈プレイヤー:《Aya》が【始まりの都市】の《世界樹:春の姿》を、1800MPを代償にして《状態:満開》にしました〉


 などというワールドアナウンスとともに。


「この倦怠感…、成る程。MPを一度に消費しすぎるとこうなるんですね…」


 というかこれ絶対罠ですよね。なんの注告もないんですもん。引っかからない人居るんですかね…?


《条件を達成したため、プレイヤー:《Aya》に称号:【春の精霊】が付与されました》


 と、今度はウィスパーアナウンスが聞こえた。


 【春の精霊】…《世界樹:春の姿》の状態を《満開》にしたものに贈られる称号。
 NPCの好感度が上がりやすくなり、尚且つ下がりにくくなる。


 とてもありがたい称号がもらえました。他のゲームと違って称号獲得をワールドアナウンスにしないのもこのゲームのいいところですね。
 ……目立ってしまったことには変わりがありませんが。


「…とりあえず、今は、どうでもいいです…。寝ましょう……」


 抗えない眠気に襲われ、私はサクラの木の根っこのあたりで、静かに眠りについた。






 ―――さて、彼女も眠ったようなので、彼女の眠った理由をここで補足しよう。


 このゲームではプレイヤーの睡眠は必要ない。というか眠ることができない。
ただし、二つの場合を除いて。


 一つ目は《状態異常攻撃》だ。耐性がない、あるいは魔力が少ないと、かかりやすい。


 二つ目は、【獣人型種族】の特性だ。実は隠れステータスとして、【獣人型種族】には特性と呼ばれるものが存在する。


 それは獣人のベースとなった動物によってさまざまである。
 例えば女性プレイヤーが《獅子》の【獣人型種族】を選んだ場合、【男性プレイヤーとパーティーを組むと、戦闘の際レベル×1の数値分STRが上昇する。】という特性を得る。


 逆に男性プレイヤーが《獅子》の【獣人型種族】を選んだ場合、【一度の戦闘において、パーティーメンバー及びパーティーの数が増えれば増えるほど、人数×1の数値分、VITが上昇する。】という特性を得る。


 これらのような、メリット尽くしの特性も多数存在する。
 しかし、そうではない種族も当然あるわけで–––。


 主人公Ayaの種族である《天魔:羊人》は羊の【獣人型種族】である。
そして、その特性は【魔力の残り値が100以下になった場合、魔力回復速度が5倍になる代わりに、《状態:睡眠》になる。この睡眠状態は、最低でも五分は継続される。】というもの。


 安全地帯にいるならば、当然有能な特性である。しかし、例外を除いて魔力を消費するのは、当然戦闘中のみである。
 言い換えれば、【戦闘中であろうが、MPが100を切った瞬間、MP回復速度は5倍になるが、必ず五分間眠ってしまう】とい特性である。
 戦闘中ならば、足手まといになってしまう特性である。


 彼女が眠くなった理由は、世界樹の罠によりMP1800を一瞬にして奪われ、特性が効力を発揮したためだ。


 そろそろ彼女が眼を覚ますだろう。視点を彼女に戻そうか。






 私がサクラの木の根っこのあたりで眠りについてから、おおよそ十分ほどが経過した。


 そこでようやく私は、目を覚ました。


 目を開くと、私の顔を覗き込む、三人の顔が目に入った。


「……どうかしましたか?サナさん、アルさん、アスさん」


 私の顔を覗き込んでいたのは、知り合いである《サナ–蛹–》さんと、《アルフレッド》さんと、《as》さんであった。
 ちなみに知り合いと判断した理由は、容姿とプレイヤーネームである。


 《サナ–蛹–》さんは身長170センチほどで、男性だが灰色の長い髪をポニーテルにしてまとめている。瞳は髪の色に合わせてか、同じ灰色である。種族は見た目から判断して、おそらくエルフだろう。
 灰色のローブを身にまとっており、きっと灰色が好きなんだろうなぁ、と思わされます。


 《アルフレッド》さんは、身長180センチほどある大柄な女性である。髪は黒色で、ショートヘアーをしている。そこに赤色のメッシュが入っているのが特徴的だ。
 種族は外見から判断して、おそらく人族だろう。
 職業を《騎士》にでもしたのか、身には鉄色の鎧をまとっていて、背には大剣を背負っている。


 《as》さんは、身長160センチほどの女性だ。……どのゲームでも容姿は必ずネタであろうものを作り、それで遊んでいる。
 私の視界に入った《as》さんは、そう、まるでナ○ック星人を赤色に染めたような姿をしていた。
 当然ながら髪の毛は生えておらず、ハゲである。
 種族は全くをもってわからない。無念。
 服装は、まあピッ○ロさんとでも言えばわかるだろうか。




「–––チュートリアルもせずにここで寝ていたAyaさんを観察していただけですよ」


「右に同じだ。別にワールドアナウンスを聞いて心配になってきた訳ではない」


「私はAyaさんの可愛い寝顔を観察してましたっ!」


 はじめから順に、サナさん、アルさん、アスさんが、そう言ってきた。


 私は軽くあくびをしてから、そっと立ち上がった。そして伸びをする。


「…んぅ、成る程。…とりあえず、ワールドアナウンスについては心配しなくても大丈夫ですよ」


 他のゲームでそういうのは慣れてますので。私がそう言うと、アルさんはホッとした表情を浮かべた。




「サナさん、いつも一緒にいるギルマスさんはどうしました?あの人を揶揄うのが好きなあなたがあの人から離れるわけがないと思うんですが」


「…ずいぶんと酷い言い草ですね。まあ、全部正解なんですが。–––シルヴィアさんなら今チュートリアルを受けてますよ。これはちょっとした暇つぶしです」


 サナさんは私のその物言いに慣れているからか、ふっと笑みを浮かべてそう返してきた。




「アスさん、カバンさんはどうしました?いつもなら二人で奇行に走ってると思うんですが……」


 カバンさん–––アスさんの弟で、アスさんと似たような姿で、大半のゲームをプレイしている。


 どのゲームでも必ずと言っていいほど、姉弟の二人で奇行に走っていた。


 例をあげると、肩車をして街中を駆け巡ったり、急に特撮ヒーロー劇を街中で始めたりなどがある。
 ちなみにだが、特撮ヒーロー劇はNPCさんたちに意外とうけていた。


「カバンくんならこの都市の裏路地を探検しに行ってますよ!なにやら手招きする黒猫を見たとかで!」


 ふむふむ、種族特有のイベントか何かですかね?






「–––さて、では私はチュートリアルを受けに行ってきます。また今度、皆で遊びましょうね?」


「ええ。次はシルヴィアさんやキドさん、くふさんも連れてきますよ」


「う、うむ。次はシズクも連れてこよう」


「わーい!今度はカバンも連れてくるね!楽しみにしとくからっ!」


 そして私は、チュートリアルを受けるために、サクラの木を後にした。


 …なにか忘れている気がしますが、気のせいですよね。




「……それにしても、さすがはAyaさんですね…。初っ端から隠しイベントを見つけるなんて」


 既にアルフレッドもアスも、この場から立ち去っていた頃、何者かが、《世界樹:春の姿》に触れながら、そう呟いていた。


「…まあ、データに異常は見られませんでしたし、ただの偶然でしょうが」


 何者かは、ため息を吐いて、空を見上げた。


 舞い降りてくるサクラの花びらはまるで雪のようで、陽に当たることでキラキラと光っている。


「…僕はただの監視役ですし。それに今、皆んなでほのぼのと過ごすことができるこの状況を気に入ってますからね」


 チラリと、視線をAyaたちが立ち去っていった道へと向ける。


「ふふ、そろそろシルヴィアさんのチュートリアルも終わる頃合いでしょうし、僕も戻りましょうか」


 何者かはそう呟いてから、この場を後にした。



















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