少しおかしな聖女さまのVRMMO日常記

ガブガブ

4話 チュートリアル-2

4話 チュートリアル-2






「さて、突然ですがAyaさんに質問です」


「はい?」


「【魔力】とはなにか、わかりますか?」


 ソニアさんの言葉に、私は無言で首を横に振る。
 そもそも私たちにとって魔力とは、空想の産物なのですし。逆に知っている方がおかしいとおもいます。


「…わかりました。とりあえず、簡単に説明しますね」


 そう言うと、ソニアさんはどこからか一枚の紙を取り出した。そしてそれを、私に渡してきた。


「魔力に反応する紙です。とりあえず持っておいてください」


 私は縦に頷いた。そして、その紙をインベントリにしまった。


「–––さて、【魔力】とは簡単に言えば、【対価】です。【魔力】という【対価】を支払うことで、【魔術】や【魔法】と呼ばれる【現象】を起こすことが出来ます」


 つまり、【魔力】という【お金】で【商品】である【魔術】や【魔法】と呼ばれる【現象】を買う、ということですね。


「当然ですが、使う【現象】によって【対価】である【魔力】の支払う量は違います」


 ふむふむ。確か大半のゲームでは【魔法】の階級が上がれば上がるほど、支払う【魔力】の量は増えるはずですよね。


「威力が強くなればなるほど、範囲が広くなればなるほど、持続時間が長くなればなるほど、支払う【魔力】の量は多くなります」


 ふむふ、む?つまり、このゲームでは【魔法】や【魔術】の階級は存在しないのでしょうか。
 公式ホームページに書かれていた情報と違いますね…。


「すみません、【魔法】は階級によって【魔力】の支払う量が違うのではないのですか?」


 疑問は口に出して聞いた方がいいだろう、そう思って私はソニアさんに聞いた。


「………。今のは聞かなかったことにして下さい」


「……え?」


「き・か・な・か・っ・た・こ・と・に・し・て・く・だ・さ・い」


「は、はい…」


 ソニアさんの笑顔の重圧に、私は首を縦に振ってしまう。
 …はい、これは私の心の中のポケットにしまっておきましょう。


「–––ええ。貴女の見解で間違いありません。【魔力】の支払う量は、【魔法】の階位によって異なります。階位が上がれば上がるほど、【魔力】の消費は激しくなります」


 例えば–––。そう言ってソニアさんは、右手を何かにかざすようにして、ブツブツと何かを唱えた。
 すると突然、火柱が私の目の前に上がった。


「これは、【火魔法】第十階位【火の玉ファイアボール】というものです」


 …ファイアボール、ですか?どう見てもこれ、火の玉には見えないんですが…。


 不思議そうに【火の玉ファイアボール】を見つめる私にソニアさんは、


「ああ、これは【魔力操作】の応用ですよ」


 と告げてきた。
 ふむふむ。【魔力操作】は、【魔法】を発動をするためのものだけでなく、【魔法】自体を変質させるのにも役に立つんですね…。


「……あれ。それならば階位を定める必要なんてないのでは…?」


 そんな私の疑問に対し、ソニアさんは


「実は【魔法】というものは、この世界にはもともと存在していなかったんですよ。存在していたのは【魔術】と呼ばれるものだけです」


 突然、なにかを語りだした。
 …このゲームの裏設定、でしょうか。もしかして、ソニアさんって結構重要人物なのでしょうか…。


「ついこの前のことです。突然【神】を自称する人間が現れましてね、【魔術】を制限し、【魔法】となるものにする。と言い出したんですよ」


 神……、ゲームマスターのことでしょうか。


「そしてその【自称神】は–––あ、これは言ってはいけないんでしたっけ」


 ソニアさんはテヘペロ、そう効果音がつきそうな顔をして、


「貴女に限ってそれはないと思うけど、今の話もし他人にバラしたら君のことを殺しに行かないといけないから気をつけてね?」


 殺気を込めて、優しく微笑みながら、ソニアさんはそう私に告げてきた。
 私はまるで壊れたロボットのように、ただただ首を縦に振り続けた。


「–––さて、話を戻しましょうか」


「は、はい」


「階位とは、この世界で【大賢者】と呼ばれている人物が、古来から存在している【すていたす】と呼ばれるものの、【スキル】である【魔法】に干渉したため、生まれたものです」


 ふむふむ…。なぜ、階位を定めたのかの理由が抜けていますが、おそらく人々のため、でしょうね。


「–––さて、少しどうでもいいことをつい喋ってしまいましたが、【魔力】についての説明は終わりです。さっそく【魔力操作】の練習に入りましょうか。あ、あと杖はしまってください」


「わかりましたっ!」


 私は言われた通りに、杖をインベントリにしまった。
 他のゲームでは、【魔力操作】なんて、スキルでチョチョイのチョイでしたが、これだけリアリティのあるゲームです。ちゃんとした方法があるかもしれません…!


 私がそう心を躍らせていると、


「さて、まずは【魔力】を感じ取るところから始めましょう」


 という、期待通りの展開になった。未知です!【魔力】です!それを感じ取れるんですよ!


 それがデータだとわかっていたとしても、私は興奮を抑えきれなかった。


「ふふ、嬉しそうですね」


「当たり前じゃないですか!未知ですよ!未知、未知です!私の知らないことなんですよ!嬉しいに決まってるじゃないですか!」


 私は声を荒げて彼女に告げた。


 そんな私の姿を見たソニアさんは、苦笑いを浮かべて、私の両手を握ってきた。


「今から貴女に、私の【魔力】を流します。はじめはわからないかもしれませんが、あなたならできると思います。頑張ってくださいね?」


 するとソニアさんは目を瞑り、額を私の額にくっつけてきた。
 突然の行動に一瞬驚いてしまうが、私もソニアさんと同様に、目を閉じた。


 閉じられた瞳。真っ暗な視界。私は全神経を集中させた。


(……?何にも感じませんぃっ?!)


 体に、なにかが流れ込んできた。瞳は閉じられているはずなのに、視界は黒ではなく白一色に染め上げられている。


 体がまるで、高熱を出したときのように熱い。
 私はソニアさんに手を握られた状態で、へなへなと床に座り込んでしまった。


「っう……。く、あ」


 ただただ熱くて苦しい。まるで血管の中を、虫が這いずり回っているかのにように感じる。
 まるで誰かが、私の首を絞めているかのように感じる。


「…いま、貴女が感じているもの、それが私の【魔力】です。…余裕があるならば、貴女自身の【魔力】を探してみてください。【魔力】は、個人によって濃さや強さが異なりますが、性質は同じです–––」


(そんな余裕、あると、思い、ますか?!)


 私はいま、失いそうになる意識を保つのに必死であった。


《スキル:〈魔力認識Lv1〉を獲得しました》


 今度は頭痛がしてきました。めちゃくちゃ痛いです…!


《スキル:〈魔力認識〉のレベ、レベベベベベベベベベベベ……》


 今度は目眩がして…、あれ、なんかウィスパーボイスバグってます?!


《ス:魔L3化の認キ力0識ル進…》


 今度は眠気がしてきました……、……眠気、ですか?…もしかしてこれ、MP(【魔力】)を消費しているんですか?


(ではこの倦怠感や不調は、MP不足のせいなんでしょうか…)


 そんなことを考えているうちにも、私の意識はどんどんと微睡みへと沈んでいく。


 私が頑張ってそれに抗っていると、なぜか急に、誰かが私の頭を優しく包み込むように、撫でてきた。


 ……もう、無理、です………。


(ね、むい……。おや、すみ…………)


 そこで完全に、私は意識を失ってしまった。




「…気絶……、いや、眠っちゃったみたいだね。もしかして、これが【羊人】の【特性】なのかな?」


 深い眠りについてしまったAyaに、ソニアはまるで面白いおもちゃを見つけた子供のような視線を向けた。


「ふふっ。未知、未知ねえ。ワタシも、未知は大好きだ」


 ソニアはそう呟きながら、なにやらノートのようなものになにかを書き込んでいる。


「ふむ、なにやら【羊人】の他にもなにかが混じっているようにも感じるんだけど……。流石に解剖とかはダメだしなぁ」


 ソニアは手に持っていたノートを祭壇に置いて、唇をとがらせながら


「ほんっと、あの【自称神】消えてくれないかな。アイツのせいで【人物鑑定】だけ使えなくなってるし……」


 とドスの利いた声で呟いた。
 そしてソニアは、再びAyaに顔を向ける。


 その顔には何の感情もうつっておらず、先程とは違い、まるでゴミを見つめるかのような視線でAyaを見つめていた。


「……んー…、未知への知的欲求心、才能、容姿、素行、そして運」


 そして突然、なにかを閃いたかのように、ポンっと手を叩いた。


「そうだ、この子ワタシの弟子にしよう!」


 するとソニアは、Ayaの顔の近くにしゃがみこんだ。


「ふっふーん。【師弟契約の口づけ】」


 そう言葉を唱えてから、そっとAyaの頰に口づけをした。


 【師弟契約の口付け】…師弟の関係を示すために用いられる契約。
かつての神代の時代、魔女が自分のものである、という意思表示として弟子に行ったとされている【師弟契約の刻印】の劣化版。
しかし、【大賢者】による改良、いや改悪により、その効果は【師弟契約の刻印】を上回っている。
その詳細は世界さえも認識することができない。
付与:【大賢者の庇護】




「ふふ、これで君はワタシの弟子モノだ。ワタシの納得いく領域になるまで、絶対に逃がさないよ」




 ソニアは、そっと妖しく微笑んだ。









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