異世界にいったったwwwww
外伝30
王国の街道沿いに位置する街、カンタペローネ。ここは昔から貿易が盛んであったが、とりわけ奴隷売買によって街の利殖を行った。
かつては自由民による部分的隷属奴隷がほとんどであったが、時代の推移と共に文字通り人を「使役」する意味での奴隷が大半を占めるようになった。
このカンタペローネは大小様々な宿場が軒を連ね大層繁盛していた。
(前きたときと同じだね……)
少女の声が囁く。
ああ、と無言で頷きながらカイトは街の大通りの人垣を縫うようにして進む。異国の風情が漂う衣装に身を包む商人、御者、下男、従僕、街の住民、兵士などが坩堝のように混ざり合っている。
一際目立つ石膏の仮面と全身を漆黒の天鵞絨に包む姿。人目をひかない訳がない。
黄土色の石畳舗道のすれ違いざまに、人々はカイトの後ろ姿をちょっとみて、再び歩みを始める。荷馬車の往来が多く、内積物の揺れが隣りを横切る。
「その前に一度、ウィーネ様のもとにいかないとなぁ」
ぼそり、とカイトが呟く。
すると忽ち苛立ちの声音で、
(――は? あんな奴に会わなくていいじゃん。性格悪そうだし――)
不機嫌そうにローアがいう。
(確かに、カイトの言うとおり一度顔を出した方が得策だ。それに、《巨蟲》を征伐した話しもせねばな)
頭の中から直接渋い口調で返事がする。
カイトは苦笑いして、その意見に従い、街の中心圏にある王侯貴族の別邸区域に足を向けた。
石壁とアーチの付近に常時数人の兵士が常駐している。
彼らは一目でファントム(カイト)だと理解すると、一応の礼儀として証明書代わりの鉄製プレートの提出を要求した。それに従いカイトは首にかけた紐を手繰り寄せて、プレートを差し出す。
一瞥した兵士が、
「よし、いけ」
と命令口調で指示する。
カイトは一礼して開かれた門を抜ける。
2
森閑とした雰囲気の緑豊な町並みは、外郭圏の人々の生活と異なり余裕に満ち溢れていた。午前の時刻……人影は少ない。
広い庭先を有する別邸、すなわち別荘群の中でも殊更目立つ大きさの館が、道の先に鎮座している。
王か、あるいはそれに準ずる位の人間でなければ住めぬ場所。
すなわち、「王の別邸」というわけである。
しかし、便宜上は王の叔父の所有物であるため王、或は親類であれば簡単に宿泊ができる。
その「王の別邸」の重いニス塗りの扉を叩く。恐らく、樫の木だろう。硬い音が数個弾いた音が返ってくるだけである。
はい、と内側から初老の男の気配がする。
敏感になりすぎた神経がカイトにそう告げているのだ。超人的な五感は、最早超能力にさえ思えていた。
案の定、家令の男が戸を引いた。
一瞬、ファントム(カイト)の姿を認めた家令の男は恐懼にも似た表情で扉を閉めようと手元が動いたが、しかし冷静になって表情を引き締める。
「……ああ、ファントムさまでしたか。姫様であれば現在は……まだ」
と、同時だった。
「ちょっと? ――だれ? じぃ?」
涼やかな音がカイトの耳朶を満たす。
仮面の奥の眼窩から、扉の深部を眺める。
階段の踊場から見下す華奢な少女。
――プラチナシルバーの髪、新雪のように白い膚。ひどく碧く澄んだ虹彩。血の気の通っていない風な、青の唇。一見、病的な雰囲気を想像させるが、しかしまだ、十代で若い彼女の纏う無機質な雰囲気と気品が、病弱さを感じさせない。寧ろ、不気味なまでの畏怖の印象を与える。
社交界などでは、彼女の事を『氷の女王』と裏で呼ばれていた。
「あら? 幽霊仮面……ふふっ」
玄関先に佇むカイトを見つけ、新たな玩具でも与えられた子供のように無邪気な笑を零す。
「中へ、入っていらっしゃい」
家令は驚き、
「ま、まさか! ですが」瞬きを大きく「ウィーネ様」と叫んだ。
昔からの癖で名を呼んで制止しようと思ったようだ。
するとその呼びかけに酷く冷淡な視線を投げ、形の良い眉を顰め、
「無礼者。客人の前で真名を呼ぶ家令があるか!」
と、一喝した。それ以上は何も言わず、カイトを館へと招き入れた。
3
ウィーネは応接室にカイトを通した。二人きりになって早々に、
「ふふっ……久しぶりね」
伏せ目がちに、長い睫毛が影を落とす。
「はい」
「いつぶりかしら?」
そう言いながら、右手でカイトの石膏仮面の頬を背伸びをして愛撫する。
「奴隷市場から……丁度、5ヶ月ほどです」
ああ、そうね。と、言いながら、彼女は手を離し馬具の置かれた部屋の一角に向かった。
「それで、《巨蟲》を退治したのは本当?」
馬具の中からなにかを漁っている様子だった。
「――はい。近隣の村の要請により、一介の賞金稼ぎとして退治して参りました」
なるべく重々しく語る。しかし、ウィーネには内容自体には興味が惹かれるものではないらしく、「あっ」と何かを発見したらしく歓喜の声をあげた。
「それで? 報告を続けて?」
彼女に促されながらカイトは訥々と語る。
ウィーネは踵の高い靴で踵を返し、カイトの元まで戻ってくる。
「……蟲は、もっぱら鋼鉄に似た強靭な糸を吐き出し」
説明するカイトの胸板の前までくると、
「そうですか……よく頑張りましたね」慈母のような響きでカイトに労いの言葉をかけると、ゆっくりと抱きしめる。細い腕に抱きしめられる。カイトの鼻に、冴えた香水に混ざって、ウィーネの生気だつ甘い香りが嗅がれた。
「そうですか……そうですか」
まるで、繰り言のようにカイト抱きしめた彼女は、唐突に左手で突き放した。柔和な抱擁は終わりを告げ、そして、右手に握った鞭を思い切りしならせ、横に薙ぎ払う。バチィン、と鋭い響が四壁から木霊する。
仮面を被っているとはいえ、左の頬に直接鞭が打たれた。
「……妾の命令は出ておらぬぞ?」
肚から搾りだした詰問。
「ふふっ……」
その直後に喜悦に混じった、艶やかな声で嗤った。潤んだ瞳と頬は快楽に緩んでいる。
もう一度、二度、と鞭を左右に打ち付ける。カイトはなされるがまま、直立で打たれ続けていた。衝撃は、鼻と口の内部を傷つけた。血の味が満ちてくる。
一瞬、仮面の目が苦悶に歪んだ。
それを見逃さず、ウィーネは強烈な一撃を浴びせた。
予期せぬ打撃にカイトは膝を屈し、真紅の絨毯にバランスを崩した。
「あぁ……」
汗に滲んだ頬に繊細なプラチナシルバーの髪が散して貼りつく。鞭を持ちながら自らの胸部を抱きしめ、微熱を歓に曲がった口元から洩らす。
「……王命ですので」
と、苦い口調で告げる。
まあ、いいでしょう。そう冷淡に言い放つと眼下のカイトを睨めつける。
俯いた為に表情が見えない、そう判断したウィーネは鞭の先で顎を無理やり持ち上げさせた。
見上げる形となったカイトは、その加虐嗜好のある『氷の女王』をみつめた。
自分より年下の筈だが、発育のよい肉体に母性に似通った厳しい包容力。生まれながら、他者を隷属させる『何か』を感じさせた。
その彼女は普段では見せない、紅潮した頬に荒い昂った呼吸。切れ長の眦も、蕩けている様子だった。
「もういい……でも忘れないで。妾に、貴方は一生奉仕しなくてはいけないの? 分かる?」子供に言い含めるような語調でカイトに尋ねる。
「――はい」
「そう、そう。そう」
つぶやきながら、ウィーネは鞭を絨毯に放り投げて跪いたカイトの頭部を抱きしめる。
「いい子、本当にいい子ね」
カイトの耳元に吹きつけられた息は、淵に似た深さを持っていた。
かつては自由民による部分的隷属奴隷がほとんどであったが、時代の推移と共に文字通り人を「使役」する意味での奴隷が大半を占めるようになった。
このカンタペローネは大小様々な宿場が軒を連ね大層繁盛していた。
(前きたときと同じだね……)
少女の声が囁く。
ああ、と無言で頷きながらカイトは街の大通りの人垣を縫うようにして進む。異国の風情が漂う衣装に身を包む商人、御者、下男、従僕、街の住民、兵士などが坩堝のように混ざり合っている。
一際目立つ石膏の仮面と全身を漆黒の天鵞絨に包む姿。人目をひかない訳がない。
黄土色の石畳舗道のすれ違いざまに、人々はカイトの後ろ姿をちょっとみて、再び歩みを始める。荷馬車の往来が多く、内積物の揺れが隣りを横切る。
「その前に一度、ウィーネ様のもとにいかないとなぁ」
ぼそり、とカイトが呟く。
すると忽ち苛立ちの声音で、
(――は? あんな奴に会わなくていいじゃん。性格悪そうだし――)
不機嫌そうにローアがいう。
(確かに、カイトの言うとおり一度顔を出した方が得策だ。それに、《巨蟲》を征伐した話しもせねばな)
頭の中から直接渋い口調で返事がする。
カイトは苦笑いして、その意見に従い、街の中心圏にある王侯貴族の別邸区域に足を向けた。
石壁とアーチの付近に常時数人の兵士が常駐している。
彼らは一目でファントム(カイト)だと理解すると、一応の礼儀として証明書代わりの鉄製プレートの提出を要求した。それに従いカイトは首にかけた紐を手繰り寄せて、プレートを差し出す。
一瞥した兵士が、
「よし、いけ」
と命令口調で指示する。
カイトは一礼して開かれた門を抜ける。
2
森閑とした雰囲気の緑豊な町並みは、外郭圏の人々の生活と異なり余裕に満ち溢れていた。午前の時刻……人影は少ない。
広い庭先を有する別邸、すなわち別荘群の中でも殊更目立つ大きさの館が、道の先に鎮座している。
王か、あるいはそれに準ずる位の人間でなければ住めぬ場所。
すなわち、「王の別邸」というわけである。
しかし、便宜上は王の叔父の所有物であるため王、或は親類であれば簡単に宿泊ができる。
その「王の別邸」の重いニス塗りの扉を叩く。恐らく、樫の木だろう。硬い音が数個弾いた音が返ってくるだけである。
はい、と内側から初老の男の気配がする。
敏感になりすぎた神経がカイトにそう告げているのだ。超人的な五感は、最早超能力にさえ思えていた。
案の定、家令の男が戸を引いた。
一瞬、ファントム(カイト)の姿を認めた家令の男は恐懼にも似た表情で扉を閉めようと手元が動いたが、しかし冷静になって表情を引き締める。
「……ああ、ファントムさまでしたか。姫様であれば現在は……まだ」
と、同時だった。
「ちょっと? ――だれ? じぃ?」
涼やかな音がカイトの耳朶を満たす。
仮面の奥の眼窩から、扉の深部を眺める。
階段の踊場から見下す華奢な少女。
――プラチナシルバーの髪、新雪のように白い膚。ひどく碧く澄んだ虹彩。血の気の通っていない風な、青の唇。一見、病的な雰囲気を想像させるが、しかしまだ、十代で若い彼女の纏う無機質な雰囲気と気品が、病弱さを感じさせない。寧ろ、不気味なまでの畏怖の印象を与える。
社交界などでは、彼女の事を『氷の女王』と裏で呼ばれていた。
「あら? 幽霊仮面……ふふっ」
玄関先に佇むカイトを見つけ、新たな玩具でも与えられた子供のように無邪気な笑を零す。
「中へ、入っていらっしゃい」
家令は驚き、
「ま、まさか! ですが」瞬きを大きく「ウィーネ様」と叫んだ。
昔からの癖で名を呼んで制止しようと思ったようだ。
するとその呼びかけに酷く冷淡な視線を投げ、形の良い眉を顰め、
「無礼者。客人の前で真名を呼ぶ家令があるか!」
と、一喝した。それ以上は何も言わず、カイトを館へと招き入れた。
3
ウィーネは応接室にカイトを通した。二人きりになって早々に、
「ふふっ……久しぶりね」
伏せ目がちに、長い睫毛が影を落とす。
「はい」
「いつぶりかしら?」
そう言いながら、右手でカイトの石膏仮面の頬を背伸びをして愛撫する。
「奴隷市場から……丁度、5ヶ月ほどです」
ああ、そうね。と、言いながら、彼女は手を離し馬具の置かれた部屋の一角に向かった。
「それで、《巨蟲》を退治したのは本当?」
馬具の中からなにかを漁っている様子だった。
「――はい。近隣の村の要請により、一介の賞金稼ぎとして退治して参りました」
なるべく重々しく語る。しかし、ウィーネには内容自体には興味が惹かれるものではないらしく、「あっ」と何かを発見したらしく歓喜の声をあげた。
「それで? 報告を続けて?」
彼女に促されながらカイトは訥々と語る。
ウィーネは踵の高い靴で踵を返し、カイトの元まで戻ってくる。
「……蟲は、もっぱら鋼鉄に似た強靭な糸を吐き出し」
説明するカイトの胸板の前までくると、
「そうですか……よく頑張りましたね」慈母のような響きでカイトに労いの言葉をかけると、ゆっくりと抱きしめる。細い腕に抱きしめられる。カイトの鼻に、冴えた香水に混ざって、ウィーネの生気だつ甘い香りが嗅がれた。
「そうですか……そうですか」
まるで、繰り言のようにカイト抱きしめた彼女は、唐突に左手で突き放した。柔和な抱擁は終わりを告げ、そして、右手に握った鞭を思い切りしならせ、横に薙ぎ払う。バチィン、と鋭い響が四壁から木霊する。
仮面を被っているとはいえ、左の頬に直接鞭が打たれた。
「……妾の命令は出ておらぬぞ?」
肚から搾りだした詰問。
「ふふっ……」
その直後に喜悦に混じった、艶やかな声で嗤った。潤んだ瞳と頬は快楽に緩んでいる。
もう一度、二度、と鞭を左右に打ち付ける。カイトはなされるがまま、直立で打たれ続けていた。衝撃は、鼻と口の内部を傷つけた。血の味が満ちてくる。
一瞬、仮面の目が苦悶に歪んだ。
それを見逃さず、ウィーネは強烈な一撃を浴びせた。
予期せぬ打撃にカイトは膝を屈し、真紅の絨毯にバランスを崩した。
「あぁ……」
汗に滲んだ頬に繊細なプラチナシルバーの髪が散して貼りつく。鞭を持ちながら自らの胸部を抱きしめ、微熱を歓に曲がった口元から洩らす。
「……王命ですので」
と、苦い口調で告げる。
まあ、いいでしょう。そう冷淡に言い放つと眼下のカイトを睨めつける。
俯いた為に表情が見えない、そう判断したウィーネは鞭の先で顎を無理やり持ち上げさせた。
見上げる形となったカイトは、その加虐嗜好のある『氷の女王』をみつめた。
自分より年下の筈だが、発育のよい肉体に母性に似通った厳しい包容力。生まれながら、他者を隷属させる『何か』を感じさせた。
その彼女は普段では見せない、紅潮した頬に荒い昂った呼吸。切れ長の眦も、蕩けている様子だった。
「もういい……でも忘れないで。妾に、貴方は一生奉仕しなくてはいけないの? 分かる?」子供に言い含めるような語調でカイトに尋ねる。
「――はい」
「そう、そう。そう」
つぶやきながら、ウィーネは鞭を絨毯に放り投げて跪いたカイトの頭部を抱きしめる。
「いい子、本当にいい子ね」
カイトの耳元に吹きつけられた息は、淵に似た深さを持っていた。
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