異世界にいったったwwwww

あれ

外伝28



 神人しんじん――、神に等しき人。または神と人の境にある存在。




 それこそが、法理の果てに法具を作りこの世に産み落とした。しかし、一体何ゆえにそのようなものを人々に与えたのだろうか。余り詮議しても仕方がない。つまり、神話時代と呼ばれる時代には数多くの理不尽と殺戮があったのみである。









 ……ぼくは、生きていない。




 そう告白した少女の声は、雪原に一人孤独に耐えながら彷徨っていた彼に対して絶望の一撃と化した。




「でも、今だって、こうやって話ができてるだろ? つーことはさ、まだ生きてる証拠だよな。ハハハ……」




 乾いた笑いから、虚しさが募る。胃袋の底から悲鳴のような冷たさが溜まっていた。




 「ぼくも記憶がはっきりとはしていない……けど、殺されたのは覚えている。そして――今カイトが見ているその視覚もぼくの〈眼〉なんだ。ぼくは、恐らく殺された後に眼玉だけくり抜かれてカイトの眼と入れ替えられたんだろうね」




 淡々と、まるで他人事のように語るローアに苛立ちを覚える。


「――なァ、なんでそんなお前は他人事みたいなんだよッ! 俺は……俺は……」


この異世界で最初に自分を必要としてくれた人物。右左も分からず、差別されるだけだった自分を最後まで理解してくれようとした緑色の美しい瞳。だが、それも自分の眼窩にあるだけだ。




しかし、感傷に浸るカイトの訴えを無視するように脳内の彼女は続ける。






 「神話時代の〈法具記〉その伝説のうちの一つに、ぼくたちの法具≪緑蜂の針≫っていうのが出てくるんだ。」




 「……。」






「この法具の使用方法は、人の精神に重大な干渉を及ぼす。だけど、本質は、つまりこの緑蜂の本当の使い方は……ね、カイト。人の精神を別のモノに定着させることができるんだ。」






「なんで、そんなことをする必要があるんだ?」




喧嘩腰のような口調で思わず尋ねる。




「法具の本来の目的は、巨人族と神人に関係して作られた。巨人族は神に等しい存在としてかつて地上を跋扈していたんだって。彼らがなんで上級位を欲したかは分からない。だけど、神人って呼ばれる最高位の座を欲して「法具」の原型を作った、って言われているんだ。彼らは高度な知性も有していた――らしい。神人の中で計略のできる者が巨人族に一つの計略を与えたんだ。『神人を潰すならいい方法がある。連中の肉体と精神を離す道具を作るんだ。俺が首尾よく手配する。それを合図に神人たちにその道具で俺がなんとか混乱させるから、そのあとに侵略すべきだ』ってね。神人は正面から闘って勝てる相手ではないことは、巨人族も知っていたらしくて。それで精神と肉体を切り離す道具を作ったそれが……」




「緑蜂だな?」






「うん。」




急に黙り込んだ脳の声に、




「それで、そのあとの話は?」




「その後は……神人の計略にやられて巨人族が逆に壊滅させられた。それだけ。あとに残った法具がどういう経緯で現代まで伝わるかは色んな地方で伝承も違うみたい。だけど、分かるのはぼくたちの持っていた緑蜂は相当重要なものだったってこと。それに多分――兄さんは、自分たち人間の手で『神人』を作る野心があるんだろうね」




「なんで、そんなことがわかるんだ?」




「魔光テープがカイトの体中に貼られているし、テープの下はただ単に縫い糸で縫合しただけだと思う。……それにカイトの躰のパーツになって本能的に理解できるんだけど……『神人』に近い躰のパーツを持っている人間たちの寄せ集めを繋げることで神人を作ろうとしているんだね。だから、ぼく以外にも色んな人たちの精神が体のあちこちのパーツから聴こえてくるんだ。」




「単なる人体を繋いだだけじゃ何の意味もないだろ?」




「……人類の祖先は巨人族と神人だっていう話がある。それを色濃く引き継いでる子孫たちとか……あとは、突然変異で現れた神人に近い人体パーツを有している人たちを見つけたんだと思う。でも、生きている人体のパーツじゃないと意味がない。伝説でもそうなんだけど、その人体パーツを持っている人が死ぬと別の誰かに移る……らしい。」






「なんで、お前がそんなに詳しく知っているんだ?」




「違う、ちがう。カイト。多分これ……この知識、全部脳の方から聴こえてくる声なんだ。」




「別の誰かが俺に教えてくれてるってわけか。どおりで」




「うん……ぼくも、自分で変だと思ってた。物覚えがいいほうじゃないのにどうしてこんなにベラベラ話ができるんだろうって……だけど、そっか。」




「つまり、生きた人体パーツのまま集合させたいんだよな。それで緑蜂を使った。――でも、あの糞野郎には力は使えないだろ? ローアしか」




「そうだね。だから、ぼくの力を広く使わせるために……あの祭壇をつくった。あれには、楡の木の枝とかで、ぼくの力の媒介となる役目になったんだね。緑蜂の力が木の枝に伝わって、範囲が広がっていたんだね。」




 沈んだ調子で、ローアは頻りに頷くように「うん、うん」と何度も反応していた。恐らく、脳の「誰か」の説明を受けているのだろう。






「なんで俺なんだ?」


――簡単だ。お前がこの世の理から外れる異邦人だからだ。そして、お前を中心にして「人造神人」が完成したってわけだ。


男の声だった。


「はぁ?」






戸惑うカイトをよそに、言葉は尚紡がれる。












――お前のすべきことは、この人体たち……持ち主たちを、『成仏』させてやることだ。悔いを解消させることと言ってもいい。


全く知らない声が直接額の裏側に響く。理知的な雰囲気の言い方。まるで、全てを見透かしたかのような風格。それが言外に言い知れぬ説得力を持たせていた。












そして、カイトは最早肉体が複数の人格の意思で混線状態に陥っているのだと悟った。この肉体自体が自分個人の所有物ではなく大勢の人間に共有されているのだということ。また、誰か知らない人々の為に成仏させてやらねばならないこと。






 「あんた誰なんだ……マジで意味わかんねーよ。なんで、俺だけこんな目にあわないといけないんだ……」



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