異世界にいったったwwwww

あれ

外伝25



 解剖専用の小刀がカーリスの懐から取り出された。メスのように鋭利で、容易に肉を切断するだろう刀身の青白い光がカイトの頬に落ちた。赤黒い背中の傷跡から夥しい血が流れ、背中に凍って張り付いた。甲冑を纏った死霊たちが、徐に動き出し、既に行動できないカイトの四肢を抑えつけた。




 カーリスの太い腕に握られた小刀がカイトの胸郭に向かう。衣服を切断すると、胸肋骨の間にある溝に刃先を滑らせる。薄く針のような傷口ができると、直後に球形の血が夥しい量に漏れて、流れとなる。純粋な医療器具のメスと異なり切れ味はそれでも悪い。再び、元の道を戻るように小刀がカイトの胸を抉る。バスケットボールのように勢いよくカイトの肢体は上下に跳ねた。傷口は粘着質な音をたてて裂けた。新鮮なピンクの肉の襞が咲くように、胸の溝から溢れた。




 カイトはしかし、悲鳴ひとつあげない。……いいや、正確に言えば「あげれない」のだ。


 死霊の一体が、カイトの喉仏を潰すように握った。事実、数秒後にカイトの喉の骨は砕けた。声帯はそれによって、傷つけられ「声」が失われた。ただ、嗚咽に混じった、涙と鼻水、大量の血が唾液に混交となり顔面に塗りたくられる。手首足首も、およそ人間の力とは違った圧力で身動き一つできない。




 カーリスは、恍惚とした笑みを浮かべながら、人体の内部独特の悪臭に酔っていた。




 ふと、彼は解剖する手を停め、死霊に抑えられている妹を一瞥する。






 「そうだな、せっかくだ。……わがローアにも手伝ってもらおうか?」やさしい声音でいった。




 打ちひしがれ、項垂れていたローアが驚愕の表情で兄を見る。どこまでも、優しく嘗て思い出の中にいた兄の笑顔。だが、根本的に異なる……快楽殺人鬼の顔。




 「うそ……でしょ? 兄さん?」




 「あははっは。妹、か。――〈隷属セヨ、当主ノ名ニオイテメイズ〉」




 カーリスが口早に呪文を唱える。次第にローアの躰がマリオネットのように、肩から腕が空中に引っ張られるようだ。抑えた死霊たちはタイミングよく退いた。そのまま、操り人形の要領でローアは自由意志を奪われ、素足で馬乗りになったカーリスの下まで歩み寄る。




 「いや、いや……いや、やや……」ローアは眼から涙をこぼした。






 白目を時々剥きながら、首を無意識に振るカイトをみながら、頬は酷く濡れた。




 面白そうな余興でも見るように、カーリスは笑みを浮かべ、




「そうだなァ……この小僧の口に、窯で熱した火石がある……」




説明を途中で止めたカーリスは、鋼鉄の棒を一本、傍の地面に突き刺すと先端に取り付けられた火石を眺める。……この火石は、熱せられた温度分をある一定の時間までは保温して放熱し続けられる日用品である。特に、山民には生活の必需品として用いられる。




 150度を軽く超す石が、湯気を揺らめかせながら天空につき立つ。




 ローアの右手が自然と動き、鋼鉄の棒を握ると地面から引き抜く。カーリスは胸の裂け、弓なりに上半身を曲げたカイトから離れると人差し指をカイトの口内を指さす。




 「そこにぶち込め」




 「兄さんッ! 止めて……っ、どうして…………どうして、血族の契約を使って、こんな……」




 嗚咽が激しくなるローアの頭をよそに、手足は兄の命令を忠実に守る。




 ローアの膝頭が勢いよく屈すると、カイトの襟を掴み棒を反転させ大きく開かれた口内めがけて火石の先端を押し込む。と、同時に人肉の灼ける厭な匂いが充満した。ベロの粘膜から口内の頬や軟口蓋、喉の奥を次々と焼いていく音。




 「……イヤっ、なんで……やめて………ぅヴおぉえっ」


 腹の底からローアは嘔吐した。




 けれども、腕が尚もカイトの口に火石を押し込もうと動く。これでは、彼の顎を外し、そのまま窒息死させる算段だろう。カイトの顔から逸らそうと目線が自然と切り開かれた胸郭に行きそうになったが、必死でとどめた。




 2






 「カーリス君。完璧だね。あの異邦人の肉体の準備が終わったね」




 初老のやさし気な老人が笑う。




 カーリスがその背後の声に振り向く。




 「ええ、そうですね……〈村長〉、これで安心していじる事ができます」




 ローアは放心状態になりながら聞いた、最後の会話だった。

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