異世界にいったったwwwww

あれ

外伝21



 神韻にも等しい無音が周囲に谺する――閉ざされた木々の騒ぎが今、始まろうとしていた。一斉に野鳥が梢を離れ黒い大気を突き破り蒼い月に飛び立った。月光によりナニカが照らされた。羽音と共に梟や烏などの羽が夥しく地上に降り注ぐ。季節柄、粉雪のようにも見間違われた。
 「武器をやろう。取れ」
 カーリスがカイトに言い放つ。
 「……意味わかんねぇよ」
 「意味? 一々異邦人の貴様に教える訳がないだろう。無論、そこの愚妹にも教えるつもりはないがな」と、嘲笑を漏らす。
 チラ、と彼は切れ長の眦で妹を見やる。けれども、ローアは目を逸らしたまま耐え難い恥辱にでも会っているかのように脣を噛み締め苦悶の表情を浮かべた。
 カイトはすかさずローアの前に進み出、カーリスからの視線を切断するように立ちふさがった。
 「アンタの魔術か何かでそこの連中は動いているのか?」
 寒さで固まった地表も既に騒乱の為に緩んでおり、場所によっては粘土を踏んでいるような気分になってくる。カイトは足裏で位置を確認しながら、優位な地点で戦おうと決めた。
 「先程いった通りだ。もう説明はいいだろう? 君なぞ、殺すことはなかったがこの場に留まったのも運命だ。妹と共に死ね」
 〝死ね〟という言葉を聞いた瞬間、ローアは兄の顔を咄嗟にみた。三秒、兄を網膜に灼きつけるように凝視する目線を固定した。彼女の顔は無表情だったが、その内心は近くにいれば痛い程伝わる。
 「もう一度いう。最後の慈悲だ――カイト。そこの武器をとれ」
 カイトはカーリスが中間の地面に投げた剣に意識を向けた。鞘はなく、抜き身の刀身が鈍く輝きを反射する。
 カーリスは自らも腰の祭事剣の聖柄を抜き放つ。長い剣尖から理解できるように、装飾の施されたモノではなく、実用性に重点を置かれたデザイン。なるほど、試し切りの相手に珍しい「俺」を選んだ訳か。一人、妙に合点がいくカイト。だが、それについて怒りは湧かない。寧ろ納得すらしていた。
 カーリスは理知的な様子に戻ると、カイトに先端を向け静かに笑う。褐色の肌に、今は狂ったように赤味を帯びた瞳。ブラウンの短く刈った髪から所々銀色の髪が混じっていた。別人だろうか? 最早、正体が分からない。人間という生き物の不思議を改めてカイトは痛感する。
 チッ、と舌打ちを何度もやる。頭をガシガシと乱雑に掻いた。
「ああ、分かった」
 ブーツのつま先からすくい上げるように、剣を宙に浮かせ右手で乱暴に掴み取る。左手にフォークを持ち替え、左脇に挟む。
  人を殺したことがない。けれども、だからなんだ。
  誰だって最初は素人。
 グッ、と重量が掌に広がる。鉄の棒を振り回すのだから当然だ。しかし、腕の重心がブレてしまい補正するのに時間がかかるだろう。
 「カイト……」
 背後のローアが呟く。感情が欠落した声音――彼女の精神は崩壊している。それが余計に心苦しさをカイトに与えた。
 (すまんが、どうすることもできん)
 心で詫びながらも、姿勢は臨戦態勢に移行し眼光は鋭くなる。
 瞬間、カーリスが後ろを振り返る素振りをみせた……ここが最大の機会だ! 罠でもいい。カーリスがわざとらしい隙を作ったこと自体を好機チャンスに換える!
 「うぉおおおおおお」
 雄叫びを上げることは自分を鼓舞すること。本能に従い、カイトはガラガラになりそうな位叫び、地面を蹴った。
 一刀の斬撃が扇状に開いた。
 黒い甲冑連中が持つ松明や、村の家屋などに燃え広がる炎が四方八方からカイトを照射する。カーリスは悠然と構え、カイトの一撃をしなやかな回避運動で躱した。
 「まだだぁああ」
 左から繰り出される二撃目は狙ったかのように下半身の脛へ殺到した。
 「ハッ!」
 長い刀身がカイトの渾身の連撃をいとも容易く防いだ。



「異世界にいったったwwwww」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く