異世界にいったったwwwww

あれ

外伝19

 「……っ、はぁ、はぁ」
 大粒の汗が全身から流れ、冷たい夜気の中に湯気がたつ。悲鳴や殺気立った雰囲気が大きな騒ぎの波紋を広げた。
 俺はピッチフォークを握りながら、周囲へ目を配る。黒い甲冑を着込んだ人群が時間と共に増えた。祭壇の設えられた中央広場は盛んに巨大な火炎が渦巻いていた。先程まで酒を飲んでいた仮装の人々の亡骸が泥濘んだ地面に倒れている。走り回っていた子供たちも見つけられ次第、次々に惨殺され、談笑していた婦人たちも黒い集団に同様の死を齎された。
 既に、白い仮装や色とりどりの祭りも、紅の一色に染め上げられた。
 いやになまぐさい匂いが嗅がれた。胃の腑にまでくる、気持ちの悪い匂いが否応なく鼻腔を刺激された。
 「なんなんだよォ、テメーらは!」
 俺は叫んだ。一体、何があったというのだろう? 理解も追いつかない。黒い甲冑の集団のやり口はプロ集団のそれだった。近隣の民兵上がりというわけでもなさそうだ。
 腰だめにして、フォークを思いっきり振り回し、力点を定め黒い連中に向かい乱れ突く。運良く一人の黒甲冑の男の首部分を削いだ。「ギァ」と短い苦悶の鳴き声をあげる。
 だが、流石にプロ相手に幸運は続かない。連中は五人ほどで俺を包囲し、間合いをつくって消耗戦に持ち込むつもりだ。






 ――それは、突然のことだった。
 俺は中央広場の松明を眺めながら、配られた白湯を口にした。マスクだから飲みにくいのだが、それでも身体が温まる。民族音楽に耳を傾けながら、一層高まれる人々の興奮に感化され俺も理由なくワクワクしていた。
 ローアはどういう役割が与えられるのだろう。この世界の宗教は文化であり興味深かった。カーリスは中央祭壇で所作をしっかり守りながら慌ただしく働いている。頭に月桂樹の冠をかぶり、時々拝礼をした。
 それから、中央広場に集まった人々に向かい何か呪文のような言葉を唱える。仮装した村民も口々に呪文を唱和し、一種雰囲気の異変に俺はたじろいだ。しかし、それでも俺も見よう見まねでベンチから立ち上がると呪文を口にする。俺は目をすがめて、一歩群集から身を引いた。夜空を見上げると、燦然と輝く星々が殊更に美しかった――


 しかし、巨大な異変が到来したのは、本当にその瞬間を狙っていたかのようだった。


 広場の西側の端の一群がいやに騒がしく、最初はただ祭りの喧騒だと思っていた。けれども、それが悲鳴、助けを求める声、「殺人だ、殺人だ!」という不気味に重なり合った悲痛な訴えによって認識を改めた。
 ……外部から、この祭りの日を狙い襲ってきたのだ!
  俺はここが日本でないことを、まだ十二分に理解できていなかった。そうだ、殺人も略奪もなんでもござれの世界なのだ!
 けれども、身体が恐怖で竦んでしまっていた。「なぜ、どうして?」という当たり前の疑念疑問なぞ何の役にも立たないことを思い知らされた。
 村を囲った白樺の木々の陰から夜の輪郭とは別の黒い姿が続々と波のように此方にやってきた。松明の光が不気味に数を増し、火のついた矢が仮装した人々へ殺到した。わけもわからず斃れる白い骸たち。
 (ローア、そうだあいつは無事か?)
 早鐘のように高鳴る心臓の鼓動を無理やりに無視しながら、俺はマスクを脱ぎ捨て白いマントを翻して動き出す。しかし、混乱に陥った村民の人垣が無秩序に乱れ、容易に行動することはできない。
 「チッ、邪魔だ!」
 思わずそう言い捨てる。この連中に俺は恩義なんて感じない。そもそも、排他的なのは知っている。俺が心配なのはローアやカーリスだけだ。
 しかし、俺の言葉なぞ効力はない。皆逃げ場を探して彷徨う道化師だった。俺と同じくマスクを脱ぎ視界を確保する連中が増えていた。
 (チッこのままじゃ、普通に行動なんてできない)
 俺は不意に人気のない方角、つまり家々が軒を連ねる辻に目をつけた。俺は人を押しのけて、薄闇の辻へ駆け出した。


 「……っ、はぁ。はぁ。んだよ、ボケ」
 肩で大きく息をつきながら、足元に転がった、ピッチフォークを武器代わりに掴んだ。枯れ草などをかき集め持ち上げる三股の道具。その木の柄の感触が俺に一種の勇猛さを憑依させた。
 人を殺すのは、経験もなければ覚悟もない。だが自衛の手段として何か手にしなければ俺が即座に殺される。
 「それよりも、ローアだ」
 言葉にして俺は俺自身を励ます。頭だけは妙に冷静になり、反比例するように身体が熱を帯びた。
 「あああ、クソクソクソ。なんで俺だけこの世界に……」
 苛立って民家の壁を思い切り蹴り飛ばす。



「異世界にいったったwwwww」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く