異世界にいったったwwwww
外伝14
「ここに祀られているのはね……実はぼくたち神職しか知らなんだよ」
彼女は短いライトブラウンの髪を揉むように掻きながら囁く。赤くなった鼻を啜り、ランタンに光を灯す。洞窟内部は案外広く、深部に進むにつれて広くなっていった。二人は進みながら、一切会話をしなかった。
「しかし、どうして俺なんかを……」
思い出したかのように、背中を向ける少女に問う。
――だが、少女は憚りがあるように口をパクパクと開き、やがて唇を固く緘する。
「……多分、兄さんには、ぼくなんかじゃ考えつかない位色々考えているんだと思う。だけど、一つわかるのは――」振り返り、闇から微かに浮き彫りとなる少女の顔が現れた。
ローアはカイトの瞳を指さした。
「多分ね、その黒い髪と瞳。それがここに連れてこなければならない理由。もっと詳しく言うと……ね。〝悪魔の化身〟としての君」
「はぁ? ま、待てよ。いや、だって俺みたいなのって日本には大勢いるはずだろ? 意味わかんねーよ。ただ単に俺が黒い髪で瞳だからって」
寂しそうな表情のローアが、更に言葉を続ける。
「うん。何となく分かるよカイトの言いたいこと。だけど……その残念だけどここはニホンって国じゃないし、まして黒髪で黒い瞳は悪魔の証明になっちゃうんだよ。髪を染めて瞳の色を変えたり隠しても――その因果からは逃れられないとぼく達は思っている」
「っ、はぁ~。マジか。……意味が分かんねぇ」
苛立ったように舌打ちをして洞窟の岩襞を叩く。この世界の人々との認識の違い、差別の感覚、宗教性……。このように親近感の湧く少女ですらこんなにも違う。改めてそれをカイトは思い知らされた。
「じゃあ、俺はどうすればどうすりゃいいんだ?」
「……うん、だからここに連れてきたの」
ローアが再び歩を始める。硬い足音を反響させ、ランタンの灯りが光の輪で洞窟内部を照らす。
1
「ここ」とローアが云う。
居心地悪くカイトは俯き加減の顎を上げる。
「なんだここ?」
カイトの目前には、原始的な顔料によって描かれた絵があった。抽象画のような赤、黄、緑で描かれた人間。その上には龍。燃え盛る焔。魔族……。全て嘗ての戦争を記しているようだった。
更に、洞窟の岩襞全体は闇の中に沈んでいるだけで膨大な量があるのだろう。しかし、それだけではない。巨大な氷柱が一本、洞窟の中心部を貫いていた。
「……前にも話したのは魔族が人間の親だって話しなんだよね。それで、今は神々を信仰しているのが現状。その……難しい事情を色々説明できる場所だよ。他にもこういう洞窟はあるって言われているし、神話時代の内容も解釈も別々だって聞いてるよ。でも、実際に別の所を見た訳じゃないからね」
ローアはそう言いながら踵を軸に一回転する。巨大な氷柱が反射して、様々な角度から絵を映し出す。
神秘的とも違う……いうなれば、原始的な恐怖と人間種の残虐さ。剥き出しの本能。そもそも、魔族と悪魔の違いとは?
カイトの胸には疑問が浮かび、それに輪をかけて、異世界人の常識の基盤を知った。
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